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第17話 制御可能!?信頼できる仲間たち

河川敷の風は、相変わらず強かった。

草が伏せて、空が高い。


でも――ひよりの手は、前みたいに震えていなかった。


右手の奥で、白い熱が“溜まる”のが分かる。

溜まったら、抜く。

抜く場所を、選ぶ。


左手の黒い光は、薄くも、厚くもできた。

衝撃を受けて、逃がす。

逃がす方向を、決める。


派手な必殺技じゃない。

“事故を起こさない”ための積み重ねだ。


げんえんさんが、いつも通り淡々と言った。


「今日は模擬戦。二対一。時間は三分」

「止める合図が出たら、すぐやめる。それだけ守って」


セイバーが剣を構え、静かに頷く。


「承知しました」

「ハート。無理はしないでくださいね。ですが――遠慮もしません」


スパークが笑う。

最初から両手に、風車ブレードがある。

回転する刃が、光を拾ってきらりと鳴った。


「よーし。今日も全力で“邪魔”する!」

「……当たりに行かないのは、守る!」


言い方が、スパークらしい。


ひよりは一度、息を吸った。

胸の奥に残ってる怖さを、押し込めるんじゃなく――並べて置く。


(怖い)

(でも、やる)


右手を下ろし、左手を開く。


「……うん。お願い」


その声は小さい。

でも、逃げていなかった。


「――始めるよ」


げんえんさんの声が落ちる。


次の瞬間、スパークが消える。

視界の端で黄色い残光が跳ねた。


セイバーは一歩だけ位置を変えて、地面に“線”を引く。

逃げ道が、静かに削れていく。


(来る)


ひよりは、焦らない。


まず左。アイギスを薄く張る。

“面”じゃなく“膜”。呼吸のぶんだけ。


キュン、と風を切る音。

スパークの風車ブレードが、弧を描いて飛んできた。


刃が回転しながら軌道を変える。

避けたつもりの場所に、もう一枚――みたいな嫌らしさ。


ひよりは左手をわずかに傾けた。

アイギスの膜が“滑る”ように受けて、風車ブレードを流す。


刃が地面を掠め、砂利を散らしながら戻っていく。


「お、流した! いまの上手い!」


スパークの声が遠い。

つまり、もう次が来る。


セイバーが、ひよりの右側へ“線”を引く。

その線は攻撃じゃない。動ける場所を狭めるための線。


(追い込まれる)


ひよりは一歩下がる。

でも、逃げない。下がるのは“手順”の中だ。


右手の熱が少し溜まっている。

けれど、まだ撃たない。


スパークのブレードが戻る。

受け取った瞬間、スパークが近距離へ踏み込んだ。


「今度は近いの!」


スポーツのタックルみたいに、身体ごと来る。


ひよりは左手を“厚く”する。

壁じゃない。押し返す膜。


スパークの体勢がふわっと浮いて、勢いだけが抜ける。


「うえっ!? それ嫌い! でも好き!」


どっちだよ、と言い返す余裕はない。

次はセイバーだ。


セイバーの剣先が、ひよりの肩を狙う。

迷いのない直線。


ひよりは半歩だけ踏み込む。

下がると“線”に飲まれる。だから、前。


左手のアイギスで剣を受けた。

衝撃が腕に伝わる。重い。でも、逃がせる。


膜を少しだけ“斜め”にして、衝撃を横へ逃がす。


セイバーの剣先がわずかに逸れる。

その一拍で、ひよりは右手を上げた。


ノヴァ。


――撃たない。


スパークが見ている。

当てたくない怖さが、喉に絡む。


(当てない)

(でも、当てに行く)


矛盾みたいな感覚。

けれど、今日はそれを抱えたまま前へ出る。


ひよりは狙いを“セイバーの足元の横”に置いた。


ノヴァが走る。

白い線が地面を裂き、砂が爆ぜる。


セイバーは一歩で避ける。

避けた場所にスパークが回り込む。


「ほら、隙!」


風車ブレードが横から来る。

ひよりはアイギスで受ける。


受けた衝撃が残る。

その残りを、左手の中で整理する。


(溜めない)

(溜めたら、戻れなくなる)


セイバーが、さらに線を引く。

ひよりの背中側に、逃げ道が消える。


(追い詰められたら――)


ひよりは呼吸を整える。

目線を上げる。セイバーの動き、スパークの軌道、風車ブレードの戻り。


見える。

怖いけど、見える。


スパークが二枚目を投げた。

一枚目が戻る角度と、二枚目が来る角度が違う。


挟み撃ち。


ひよりはアイギスを“薄く広く”した。

膜を広げて、二枚とも受ける。


「うわ、面で受けた!?」


スパークが驚く。

その驚きは、ひよりにとって小さな“余裕”になる。


セイバーが、その瞬間を逃さない。

剣先が、膜の薄い部分を狙ってくる。


(薄いところを見てる)


ひよりは左手を絞る。

広げた膜を、必要な場所だけ厚くする。


受ける。

逃がす。


セイバーの剣が弾かれた。


「……上達しましたね」


セイバーの声は落ち着いている。

でも、わずかに呼吸が変わった。


ひよりは、右手の熱を確かめる。

十分溜まってる。


(撃てる)

(当てられる)


怖い。

当てたくない。

でも、撃たないと“次”が来ない。


ひよりは一歩、前に出た。

線の内側に入る。


セイバーが目を細める。


「……前に出ますか」


ひよりは頷いた。


「……うん」


スパークが笑う。


「いいね。じゃ、もっとやろ!」


風車ブレードが、今度は“低く”滑ってくる。

足元を切る軌道。跳べば上の刃が来る。


ひよりは跳ばない。

左手を下げ、アイギスで足元の刃だけを受ける。


受けた反動で、膜が一瞬だけ揺れる。


――そこへ、セイバー。


剣先が揺れに刺さる。


(間に合わない)


ひよりは右手を上げた。

ノヴァを撃つ。


狙いは、セイバーの胸――じゃない。

セイバーの“踏み込み線”そのもの。


ノヴァが走る。

一直線。逃げ道のない軌道。


セイバーの目がわずかに見開かれる。


ひよりの喉から声が出た。

叫びじゃない。合図。


「防いで!!」


スパークの動きが、ぴたりと止まる。

意味を理解したからだ。


セイバーは迷わなかった。

一歩、前へ出る。


左手にアイギス。

黒い膜を“厚く”、一点に。


ノヴァの白い線が、そこに直撃する。


ドン、と空気が鳴った。

爆ぜる光。砂が舞う。


でも、誰も吹き飛ばない。


セイバーの足が地面に沈む。

衝撃を受け止めて、逃がしている。


(止まった)


ひよりは息を吐く。

胸が痛いくらい熱い。


(できた)


スパークが、息を呑んだまま言った。


「……いまの、やば……」

「“当てにいって”、防がせた……?」


セイバーが剣を戻す。

肩が、ほんの少し上下している。


「……今のは、危険でした」

でも、責める声じゃない。

「ですが――正しいです」


ひよりは頷く。

怖さが、まだ胸にある。

それでも、声が出る。


「……一人でやらない」

「……頼る」


その言葉が、自分の口から出たことに、ひより自身が少し驚いた。


セイバーは一度だけ目を閉じて、頷いた。


「ええ」


スパークが、すぐに明るく戻る。


「じゃあ次! もう一回! いまの、もう一回やろ!」

「ぼく、邪魔するけど!」


げんえんさんが、淡々と止める。


「時間。三分」


その一言で、ふっと現実が戻る。


三分。

短いはずなのに、セイバーとスパークの呼吸は乱れていた。


ひよりは――乱れていない。

乱れていないように“整えている”。


スパークが両手を上げる。


「はいはい負け! いや、負けっていうか……え、なに今の」

「当てるの、怖いのに、当てにいけるの……いちばん強いじゃん」


セイバーが剣を下ろす。

そして、静かに言った。


「……良かった」

「制御できています。……以前のような“事故”は起こりませんね」


“事故”の言葉に、ひよりの胸が一瞬だけ固くなる。

でも、逃げない。


「……うん」

「……怖いけど……できた」


視線を上げて、セイバーとスパークを見る。


「……ありがとう。二人とも」

「信じてくれて……防いでくれて」


セイバーが、静かに頷く。


「……こちらこそ」

「信頼してくれて、ありがとうございます」


スパークが、にっと笑う。


「当然じゃん! 次も頼むね、ハート!」

「……あ、でも次はもっと邪魔するから覚悟して!」


げんえんさんが淡々と頷く。


「うん。今のは良い」

「怖がりながらも、撃つタイミングを選べた。それが一番すごいよ」


それから、事務的に整理するみたいに続ける。


「ハートは“撃つ”判断ができた。セイバーは“受ける”判断ができた」

「スパークも、軌道を変えながら距離を詰めてた。実戦なら厄介だね」


スパークが胸を張る。


「でしょ!」


褒められても、ひよりは笑わない。

でも、視線は落ちない。


スパークがにやりとする。


「ねえねえ、次は“合成”――」


「だめ」


ひよりの返事は即答だった。


スパークが目を丸くして、すぐ笑う。


「うん、だよね! いまの“だめ”早すぎて笑った!」


ひよりは小さく息を吐いた。

その時、胸の奥がほんの少しだけ熱くなる。


一瞬。

すぐ消える。


ひよりは、その熱を見なかったことにしない。

ただ、手順を思い出す。


(溜まったら、抜く)

(抜く場所を、選ぶ)

(怖いなら、止まる)

(止まれないなら、頼る)


「……次も、同じようにやる」


自分に言い聞かせるみたいに、ひよりは呟いた。


げんえんさんが、静かに言う。


「うん。それでいいよ」


風が吹く。

草が揺れる。

ひよりの足は、もう止まらなかった。


胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなった。

セイバーの背中。スパークの笑顔。ひかりの声。げんえんさんの淡々とした言葉。

みんなが、ここにいる。


怖いままでも、一人じゃない。

その事実が、今日の戦いを、少しだけ軽くした。


今は、まだわからない。

でも、その熱さだけは、確かにそこにあった。

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