#9
「でももう、本当に限界なんです。いつも皆が自分の悪口を言ってる気がして……仕事も辛くて、行きたくない。家を出ようとしたら吐き気が込み上げてきて、トイレに駆け込む生活なんです。もう辞めたい」
「ネガティブな時は何もかも悪く考えがちなんですよ。貴方を否定する人なんてこの世界にどこにもいません。そんなに心配なら今度直接職場の方に訊いてみてください! そこで役立たずだって言われたらもうしょうがない。貴方に合ってない環境ということで、スパッと辞めましょう」
応接室で聞こえた会話。これは聴き取り調査でもカウンセリングでも何でもない。ただの最低な励ましだ。
「影山、ちょっと来い」
「品場さん! おはようございます。ただノックはするべきかと……今相談中なので……」
「いいからちょっと来い!!」
確かに相談者の手前あまり強い語調にはなれないが、見えないように手招きした。無人の廊下へ呼び出し、彼を壁際に立たせる。
「お前いつもあんな適当なこと言ってんのか?」
「え……? あ、いや……」
影山は真顔で首を横に振る。でも絶対嘘だ。こいつ、いざという時は平気で嘘がつける人間だったか。
ポジティブ=善人なんて数式はない。悪意に満ち満ちたポジティブ人間も大いに存在する。
こいつは性根から叩き治さないといけないタイプかもしれない。
「ちょっと、品場さん?」
とりあえず今は来訪者と相談中ということもあり、その場を後にした。そして上司から、自分が不在だった間の影山の様子を聞き出した。
影山は事務仕事はそつなくこなしているものの、少々ワンマンな面が目立つらしい。もっと困るのは相談者を相手にしているときだ。無責任な励ましは、下手したら状態を悪化させる。何気ないコミュニケーションが死に直結することだってある。彼もそれぐらい嫌というほど分かっているはずだ。なのにさっきのふざけた回答はどういう了見だろう。




