#7
「その通り。よく知ってるね」
淡白な返事とは裏腹に、感心していた。今は皆鬱気味の人間と関わることを恐れ、“知り過ぎる”ことも避けている。その中で彼のように溌剌と説明できる者は極少数だろう。
「もちろん。だって俺も品場さんと同じ職業ですもん。でも新しい職場では新人なので、これから宜しくお願いします、先輩」
「はっ?」
彼はにこやかに言うと、やはりケースから一枚の名刺を取り出した。それは所属は違うものの、同系列の事業所名だった。特定精神病の専門支援員、影山一伊と記されている。
「俺来週から品場さんの部署に配属されるんです。まさかこんな偶然があるとは思わなくてびっくりしてますけど、お世話になります」
「あぁ……こちらこそ」
なんて恐ろしい偶然だ。これから後輩となる人物に借りを作ってしまった。ため息を飲み込み、力なく握手する。
「一緒に働くのが楽しみだよ。宜しく」
「宜しくお願いします!」
影山は子どものような笑顔を浮かべて軽く肩を竦めた。第一印象は頑固、次はやんちゃ、そしてその次は……ううん。今までの印象が全てひっくり返って、でもそれが何なのか分からない。自分はまだ彼という人間を理解できていない。それはきっと、この先も。
他人を完璧に理解するなんて死ぬまで不可能なのだろう。この仕事はそれをとても易しく教えてくれる。分かった気になるな。救った気になるな。常に理不尽な神が戒めにくる。どんな隙も逃さず、自分の影に潜んでいる。




