#9
快楽にも似た色が狂気に傾きかけた時。
品場は自分のスマホを影山の鼻先に翳し、至近距離でフラッシュを焚いた。
「っ!」
一回ではなく、彼が嫌がるまで何度も連写した。影山は眩しそうに目を細めた後、憤然としながら品場を睨み上げた。
「この……っ!」
「落ち着いたか?」
品場の淡々とした問いを受けても、影山は唇を噛んだまま黙っていた。
風が黒い雲が運んで、空を覆い始めた。いよいよ夜がくる。
彼を……世界中の人々をおかしくする時間が、動き出す。
展望台から一番近いビジネスホテルに向かった。チェックインして部屋に入った直後、品場は影山を抱いた。
これをすれば落ち着かせることはできる。しかし所詮一時的なものに過ぎず、少しすればまた零れ落ちる。
影山一伊という人間の、病原体を。
初めて会った時の明るく正義感に溢れた青年も、悪意を振りかざして快感に酔う青年も、まったく同じ人物。
変わったわけじゃない。昔からこういう人間だった。ただ昔と比べて、暗い一面が色濃く出てきてしまう……時間が伸びた、だけ。
それは病的なまでに、彼の理性を、脳を、容赦なく蝕んでいく。
この精神病はステージがある。そう国が発表したのは四年前のこと。
心が病み、意欲や生命力が低下することが問題だと思われていた……だが実際は知能や記憶力が低下し、凶暴で快楽的な性格に豹変する。
人格障害。即ち、人格の破壊。それがこの病の最終ステージだ。
それが判明しても、未だに効果的な治療法や薬は見つかっていない。ごく稀に重症化してしまった者は、壊れていくのを待つしかなかった。




