#8
品場は手すりに寄りかかり港湾を眺める。埠頭には大量のコンテナが、子どもが遊ぶブロックのようにぎっしりと置かれていた。
「あれ、言いましたっけ。ここが家庭崩壊する前、家族と遊びに行った最後の場所なんです。品場さんが気に入ってくれた展望台の絵もここがモデルなんですよ」
「それは初めて聞いた。でも、……似てると思った」
話が途切れる。何もない、何も起きないこの時間がいつまでも続いたら……そんな望みを抱いてしまう。
影山は何度も空を見上げ、時間が過ぎ去るのを待っていた。風を深くまで吸い込み、ポケットに両手をつっこむ。
「このまま夜になったら、全部終わってくれる気がするんです」
品場はため息をついた。
「お前のそういうところが時々すごく羨ましいよ」
「そうですか? 逃避的なところですかね? 品場さんこそ偉くなっちゃって、羨ましい限りですよ。俺なんて六年前に専門員を退職してから小さな施設を監督してるだけ。それも誰でもできる内容だから、会社にとってはただの使い捨ての人材」
影山は再びピルケースを取り出し、薬を一気に飲み込み、噛み砕いた。
「飲み過ぎだ」
「疲れちゃって……薬で抑えないと仕事ができないんです。でもほら、もう終わった」
空になったピルケースを自販機の横のゴミ箱に投げ入れ、乾いた笑い声をもらした。
「来月会社のメンタルテストがあるので、そこで俺の精神状態が悪化してることがバレます。そしたら今の役職も降ろされる。なのでもう辞めようと思います」
「辞めて、その後はどうする? それこそ六年前と一緒じゃないか。何も言わずに逃げたあの時みたいに、同じことを繰り返すのか」
「ふふっ……」
影山はずっと震えている。初めは恐怖からくるものかと考えていたが、どうやら可笑しくて仕方ないらしい。脇腹を抱えてずっと笑いを堪えていた。
「ふふ、ふはははっ! あはははははっ」
抱腹絶倒と言うのが相応しい姿。あまりに大声で笑っている為、通り過がりの人に訝しげな視線を送られた。
「何がそんなおかしい?」
「はは……えー……何でだろ。……ふふっ」
彼はまだ肩を震わせながら、自分のスマホを地面に落とした。そして思いきり踏みつける。劈くような音の後、液晶画面に亀裂が入った。
「はは。品場さんって昔から説教ばかり……ああしろこうしろって有り難いアドバイスをしてくれますけど、一体いつまで先輩気分なんです? 俺専用のカウンセラーですか? いい加減うざいんですよ。俺に命令するな」




