#7
「お久しぶりです。どうしてここに?」
夕影が反射し、目に映る世界を真っ赤に染め上げている。彼は扉に向けていた視線を雲井に戻し、ベッドの脇に手をついた。
「品場さん」
その名前は、湿っぽい声と共に吐き出された。
こうして相対しても、彼の様子は変わらない。揺れ動いているのは自分の方だと悟られないよう、口を閉ざした。
「施設に行ったら外出したまま帰って来てないって聞いて……可能性があるのは、何となくこっちかと思ってな」
彼が、自分の服や鞄に視線を寄越したのが分かった。わざわざ見なくても仕草や表情がはっきり分かってしまうことが憎らしい。
「とにかく、馬鹿な真似はよせ」
「…………」
品場に向かって折り畳んだままのナイフを投げる。彼は難なくキャッチし、首を横に振った。
「大変なことが起きてたみたいだけど、今回のことはニュースでしか知らない。詳しく話してくれないか?」
「貴方に説明する義務はありません」
「自分が悪いから言えないだけじゃないのか? お前はいつだって加害者だもんな」
再び、沈んだ沈黙が生まれる。膠着状態に陥るかと思ったが、影山はジャケットを羽織って扉の方へ歩いた。
「俺を加害者にさせる世の中がいけないんですよ」
廊下に出て振り返る。誰もいないことを確認し、品場に笑いかけた。
「なんてね。冗談ですよ、冗談」
影山が運転するクラウンで首都高に入った。助手席には品場を乗せている。道中、影山はハンドルを指で叩きながら鼻歌を歌った。
「品場さん、この後本当にお暇なんですか?」
「まぁ……それよりお前は? 仕事中だろ?」
「今日は早退ってことにして、このまま直帰すると連絡しました。それで良いんです。どうせもう」
「辞めるのか」
「もう誰も困りませんもん」
巨大な斜張橋を渡り、港湾を目指す。道が空いていた為、一時間程で自然公園に到着した。大体は家族連れが、散歩やピクニック目的で訪れる。夜はシンボルになっている展望台で、港の夜景を眺望できる。長年地元で愛されている行楽の場だ。
「……潮風だ」
車から降り、海の前を横切って展望台へ向かう。エレベーターで三階まで上がり、それから階段を少し。高さは大したことないが、丘の上の為見晴らしはそれなりに良い。
日が落ちる。海はオレンジ色に染まっていた。
ラウンジは人が疎らで、他の客の話し声はまったく届かない。
「品場さん、ここに来たことあります?」
「いいや、初めて」
「じゃあ良かった。俺は十数年……いや違うな、二十年ぶりです。もう来ないと思ってたのに……」
影山は不思議そうに、人差し指を唇にあてた。




