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カテゴリー  作者: 七賀ごふん


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47/52

#5



あの夜、床に倒れた雲井を挟んで行木と話した。

雲井は流血以上に顔面がぼこぼこに腫れ上がり、とても正視できない姿だった。原形が分からなくて、ぶっちゃけ以前の顔が思い出せず焦った。それも行木が馬乗りになって殴り続けたせいだ。


そうは言っても止めなかった自分が一番悪い。こんな時ばかり普通ぶって動揺して。


……悪質、且つ卑怯極まりない。

俺はきっと、その拳が自分に向くのが怖かったんだ。


暗いトイレで、行木は冷たい床に座り込んだ。俺はわりと冷静に、乱れた服を直した。雲井は可哀想だが、格好はそのままにしておいた。


『ごめんなさい、所長』

『何で謝るんだ? 君は俺を助けようとしただけで、何も悪くない。ちょっと、やり過ぎちゃっただけで』


雲井の、数人からリンチに合ったような顔貌では、正当防衛と訴えて行木を守るのは難しい。

どうする。

行木さんを守る為には……。

『俺がやったことにするしかない。あ、でもモップの指紋とかまずいかな。……まぁ何とかしておくから、行木さんは早く自分の部屋に戻って。何を訊かれても知りませんで済ましてね』

『それは駄目です!』

外まで聞こえそうな声で彼は叫んだ。

『所長だって何も悪くないじゃないですか。元はと言えば彼が……雲井が悪いんでしょう。俺は彼を傷つけた罰を受けます。だから彼も、所長を傷つけた罰を受けてほしい。それが叶ったのなら、後はどんな目に合っても構いません』


本当に不思議な人だ。

どうしてそこまで強い意志を……いや、正義を信じられるのだろう。

正義ほど不確かなものはない。自分を守ってくれる保証なんて何一つないのに。


『行木さんは俺のこと好きなの?』

『は、はいっ!?』

『だって、自分を犠牲にしてまで他人を庇う必要ないだろ』


静かに見下ろすと、彼は困ったように頬をかいた。

『……そうですね。好きです。でも恋愛とか、そういう意味ではなくて……人として好きです』

人として……。

『そんなこと言われたの生まれて初めてかも』

『えぇ、まさか』

『ううん、本当。……俺も行木さんのこと、人として好きだな。だから君には嘘をつきたくない。本当のことを言うね』


そうだ。本当のことを……。


黒。


小学生の時についた嘘。中学生の時に犯した罪。高校生の時に越えた一線。大学生の時に自覚した悪意。見たくない、醜いもの。全て黒い油性ペンで塗り潰した。




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