#2
「行木さんが精神病院に入院したって本当ですか?」
まだ寝ぼけた事務室で、女性の職員が出勤早々血相を変えて尋ねてきた。
この場にいる他の職員達にも当然聞こえているが、反応しない。ペンが擦れる音、キーボードを打つ音、大して頼りにもならない音が響き続ける。
「面会はできないんですか、所長」
しかし我慢ならなかったのか、彼女はこちらを睨んだ。一秒だけ目を合わせて、また俯く。
「僕達が会いに行ける状態じゃないから緊急入院したんだろうね。連絡してきた刑事さんもご立腹だったよ。行木さん、留置所でよっぽど大暴れしたんじゃないかな」
誰かが物を乱暴に置いた。再び静寂が広がる。女性職員は事務室を出て行ってしまった。今度はパソコンの画面に向かっていた男性職員が顔を上げる。
「ドクターから連絡あって、雲井さんは精密検査の結果で異常がなければ一ヶ月ほどで退院できるそうです。彼はお姉さんが第一連絡先のキーパーソンになってるんですけど、全然繋がらないんですよ。どうします?」
「じゃあ住所に送る。それで反応がなければ切られたってことにしよう。ケースワーカーには今すぐ連絡して」
「行木さんは? 退所……というか、今回のこと、お伝えします? 向こうの所長さんじゃなくて、その、お母様に」
「……」
机の足を軽く蹴る。タイヤのついた椅子は簡単に後ろへ動いた。
「今から直接会いに行く」
ひとりの影が消えた事務室で、残った職員二人は声を潜めた。
「こんなことになるなんて……警察が来なくなって良かったけど、近隣の人に会う時は頭下げなきゃいけないし、気が重いねぇ。俺らは真面目にやってきたのに、あの事件で一躍有名だもんな。悪評で」
「それはそうだけど、私は所長が怖いわ。もちろん、……雲井さんに襲われたことは気の毒だと思ってるわよ? でも次の日にはいつも通り出勤して、淡々と作業してる姿が何か……怖い。無理して普通に振舞ってるようにも見えない。襲われたことも、行木さんが助けに入ったことも、他人事みたい」
「でも、そういう人だったろ。元々ぶっ飛んでるんだよ」
「じゃあ行木さんは? 私、あの日も彼と話してるのよ。その時はすごく安定していた。なのに夜、所長を守る為に雲井さんを殴って、警察署に送致されてからおかしくなった、って……なにかあるとしか思えなくて」
「うん……。でも雲井さんが意識を取り戻したら本当のことが分かるさ」




