#17
息が上がって苦しい。でもこれでもう大丈夫だ。
「所長、大丈夫ですか……?」
「…………」
傍へ駆け寄って彼を抱き起こす。痛々しい跡が白い肌に散らばっていて心苦しかった。見る度に何かが軋む。
「立って、早く行きましょう」
「行くって、どこに? ……それより救急車を呼ばないと」
所長はふらふらしながら立ち上がり、雲井に近付いた。何をするのかと思ったら、脈を確かめている。そして生きてると呟いた。
「行木さん、これからどうする?」
「え?」
「特定疾病を持っていても君みたいに普段から問題行動のない患者は情状酌量されない。退所になって、そのまま警察に引き渡すことになる」
雲井の腕を掴んだまま、彼はこちらを見上げている。これからのことより、彼の瞳に光がなさ過ぎて怖かった。自分はただ彼を助けたくて……その一心で動いたのに。
「逆の立場だったら良かったね。君が雲井さんに襲われたら……雲井さんをここから追い出せて、君をここに残すことができた。それかお互いにやり合ったのなら、どちらか一方を庇うことはできたかもしれない」
言葉を失った。
彼は何を言ってるんだろう。
理解はできても納得できる場所に落とせない。手からすり抜け、ボタボタと落ちていく。醜く、どす黒い何かが。
彼は落ちているモップを拾い、自分に向かって翳した。
「そうだ。それか、俺がやったことにしようか。正当防衛です、って言って……可哀想だけど、もう少しだけ痛めつけて」
所長は笑っている。
「ねぇ、行木さん。どうする」




