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カテゴリー  作者: 七賀ごふん


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41/52

#16



──────逆に自分が行きたい場所は。

幼少期に少しだけ過ごした、懐かしい田舎町だ。お店も少なく、遊ぶと言ったら大きな公園か森の中。でもそれが本当に楽しかった。釣りもしたし木登りもした。夏は地元のほとんどの人が参加して、お祭りを開いた。あれも淡い思い出だ。

引っ越した先はご近所付き合いが希薄で、遊ぶと言ったらゲーセンばかりだった。それが嫌なわけじゃないけど、時々あの山の稜線が見たくなった。

友人は野生のリスも蛇も見たことがなかった。自分がもぐらを見たことがあると言うと大層驚いていた。


今行ってもそんなに変わらないのだろうけど、またあの景色を見たいな。そうだ。施設から出ることができたら、一番に見に行こう。密かな決意と高揚を抱いて、部屋を後にした。薄暗い廊下を忍び足で渡る。

「……、……っ」

そのとき、人の声が聞こえた気がして立ち止まった。

近くに入所者の部屋はない。テレビもないはず。声のする方を探すと、そこはトイレだった。

また、以前と同じ嫌な予感がする。よせばいいのに、足は自然と先へ進んだ。壁に隠れるように、そっと中を覗う。

そして目の前にいる人物に息を飲んだ。ひとりは予想通り、雲井だった。だが彼は誰かを押し倒している。

「あっ……や、だ……っ」

それは苦しげに呻く所長だった。


思考の停止ボタンが押されたような。


「いっ、あ、あぁっ!」


震えと動悸が同時にやってきて、正常な思考に墨汁をぶちまいていった。

─────何が起きてるんだ。口元を手で覆い、中を窺う。

雲井は嫌がる所長の服を脱がせ、さらに奥まった部分に手を差し込もうとしている。

何とかしなきゃ。近くにある掃除用具入れのロッカーに手をかける。中からモップを取り出し、足音を殺して近付いた。

彼らは気付かない。

助けなきゃ。お世話になった彼を。大切な彼を……。

本当は、ずっと彼に触れてみたかった。なのに何で、よりによってこんな奴に。


「……行木さん?」


所長がはっとして顔を上げた瞬間、渾身の力で雲井の胸に叩きつけた。


モップの端で突かれた雲井は苦しそうに床に倒れる。暗いトイレの中で、激しくむせ込む音だけが響く。

その頭に何度も、何度もモップを叩き落とした。白い替え糸が赤く染まるまで続けた。次第に腕が痛くなって、指先が痺れてから、手を離した。モップが倒れる。雲井はぴくりとも動かなくなった。




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