#15
性行動が問題になっている雲井は、以前より少し落ち着いていた。薬の調整が上手かったのだろう。
時々薬効が弱過ぎたり強過ぎたりで職員が頭を悩ませているけど、雲井につきっきりだった頃に比べて、職員達も余裕があるように見える。
「行木さん、先月よりずっと状態が良くなってるよ。今回から薬少し減らしてみようか」
「本当ですか? 良かった……ありがとうございます!」
弾みながら病院から帰った。早く所長に報告したい。行木は施設へ着いてすぐ事務室へ向かった。その途中、雲井の姿を見かける。挙動不審で周りを窺っているのは相変わらずだが、何だろう……行木が行こうとしている、事務室を気にしている。
しかし目が合うのも嫌なので、無視して通り過ぎた。予想通り事務室の奥には所長がいて、書類をコピーしているところだった。
すぐさま受診の結果を伝えると、柔和な笑みを見せてくれた。話を聞いた他の職員達も喜んでくれた。上手くいっている。やはり、喜びも伝染する。喜びは、悲しみ以上に分かち合える。
その夜は妙に冴えて眠れなかった。多分久しぶりに興奮している。でもせっかく良くなっているのに頓服薬は飲みたくない。薬に頼らない生活を目指そうと、お茶をいれてしばらくテレビを眺めた。
駄目だ。全然眠くない。
こんなに眠くならないなんて珍しい……。
行木はスリッパを履き、そっと部屋を出た。もう遅い為、日中の職員は誰もいない。いるとしたら当直だけだ。
月明かりに照らされた渡り廊下を進む。朝はラジオ体操、昼間は何故か賛美歌が流れる広間を抜ける。
急に所長の絵が見たくなって、多目的室に寄った。青い展望台の絵と、描きかけの赤い塔の絵。完成したそれらを並べた時、自分がここを出ていける状態になってるよう手を合わせる。
この展望台は存在していて……何となく、こちらの塔も存在している気がする。所長は実際に見たもの、存在するものの方が、あえてぼかして描く傾向がある。展望台も塔もどこか頼りない印象で、抽象的なイメージだ。本当はどちらとも、いつか行きたいと思ってるんじゃないだろうか。




