#11
自慰は当然。セックスは……風俗に通ってた頃に数回。
うち一回は、男とした。別に珍しくもなかったし、その時一緒に居た同僚が酔ってて、流れ的に体験してみよう、ということになった。
思ったより抵抗がなくて驚いていた。男同士でも結構平気でできるもんなんだと……。
だが、嫌いな奴の裸なんて死んでも見たくない。おぞましいし吐き気がする。
行木はあれからずっと、精神を安定させる為に色々な課題に取り組んでいた。
雲井のことは未だに気になる。やはり昼夜問わず公共の場で性的な問題を起こすし、日に日に悪化している気もする。だが所長がなるべく近付かないようにと言うので、それに従った。視界に入れない。それは少し特技になった気がする。
「すごーい行木さん、全問正解ですよ」
久しぶりにやった社会人の能力テストは満点だった。まだ大丈夫だと分かってほっとする。どんなに得意なことも、ずっとやらないと忘れてしまう。やはり時々は頭を働かせて、勤め人だったことを思い出さないと。
「最近顔色も良いし。所長と心配していたので良かった」
若い女性の職員は嬉しそうに微笑み、筆記用具を片付けた。
「でも肝心の所長が最近お疲れみたいで……色々なところに引っ張りだされてるから当然なんですけど。もうちょっとお休みがとれたらいいのにねぇ」
「疲れ……」
所長ほど、感情を顔に出さない人も珍しい。下手したら自分達のような精神患者よりよっぽど乏しい。
そんな彼が疲れを見せるとは、よほど今が忙しいのだろう。何とかしてあげたいけど、自分にできることは何もない。
「せめて……相談とか聞いてやれたらな」
独り言を吐き、部屋の中から曇天の空を見上げた。
所長のプロフィールなんて絶対知らない。法人の中で最も若い管理者で、大人しくて、独身。恋愛系の話は聞いたこともない。言っちゃ悪いが縁がなさそうだ。第一に本人が興味がなさそう。
「あぁでも、所長も昔はやんちゃだったそうですよ。今でこそあんな冷めてるけど、前の職場でも役職だったらしいし」
他の職員にも聞いてみると、また印象が変わった。昔は明るかった、らしい。らしいって、誰が誰から聞いたのか……こんなにもアバウトな情報はない。
出過ぎだも思ったものの、所長に会った際お付き合いしてる人はいるんですか? と訊いてみた。彼は驚いた様子で首を傾げた。




