#7
受付も覗いているが、カーテンがかかって人がいる気配はない。他の施設でも凶暴な入所者のアクシデントがあったらしく、厳重な体制がとられるようになった。今は面会も予約制で、ぱっと来ても入れない仕組みになっている。
いつの時代も秩序を乱す奴が必ず現れる。そしてそいつひとりの為に、それまでの方針を一変して、改革することになる。
異分子だ。それこそ本当に邪魔な、有害な存在じゃないか。状態が悪化してるから……病気だから……で本当に済ませていいのか。何だかモヤモヤする。いつもは美味しく感じる果物のコンポートが酷く甘ったるくて、初めて残した。
「行木さん、どうしたの。先生から聞いたけど、最近数値が悪化しているみたいじゃない」
ある日のこと、所長に呼び出されて面談室に向かった。ある程度、話の内容は想像がついていた。先週病院へ行った時に、主治医に精神状態を表すグラフを見せられた。オレンジの線はがたつき、著しく行木の暗い底を指し示していた。
「定時薬も前より1mg増えてる。病院から送られてきた処方箋で確認したから良かったけど、こんな大事なこと、どうして教えてくれなかったの。薬が強くなったらその分身体に負荷をかけるから、気をつけないといけないことがたくさん出てくるんだよ」
おかしい。いつもならすんなり聞き入れられるはずの所長の言葉が、今日はやけにイライラする。うるさい。何も知らないくせに……自分を苛立たせる原因にも気付かないくせに、専門家だなんて笑わせる。
所詮こんな若い人に、恵まれて育った人に、自分のことなんて分からない。
「行木さん?」
無言で部屋を飛び出し、自室に入って鍵をかけた。所長は追いかけてきて、何度もノックしてきたけど、絶対に応答しなかった。いざとなればスペアキーで解錠できるだろうに、そんな気配はない。ただ謝罪の言葉が何度も聞こえた。
「ごめん。君が苦しんでることに気付かなくて……俺も無意識に、君なら大丈夫だと思ってたんだ。本音を言い出せない環境にしたのは俺だ。本当に、ごめんなさい」
そうだ。
……違う。
反する思いがひしめき合っている。
勝手に期待して、それでさっさと自分を施設から追い出して、自立に成功させた業績が欲しいんだろう。
違う。彼はそんな人じゃない。勝手に期待していたのは自分の方だ。わざわざ言わなくても何でも分かってくれると思い込んでいた。




