#5
きっといつの時代も同じだ。こんな正体不明の病が広まる前から奇異な者は冷遇されて、虐げられてきた。人口の八割が差別根絶と叫んでも、残りの二割は絶対に響かない。そんな時代が何百年と続いてる。
誰もが生きやすい、思いやりを持った世界なんて夢物語だ。国民全員が社会的弱者に優しかったら、そもそも犯罪なんて起きない。いじめも差別も生まれない。比較、されない。
やっと自分らしく生きていけると思った矢先に、ストレスに負けるなんて……。
ベッドに倒れ、貰ってきた処方箋をもう一度読み返す。備考の副作用も全て覚えた。行木は知能レベルに問題はない。この施設では一番と言ってもいいほど自立度が高いので、施設内では自由行動を許されていた。深夜は用事があるとき以外うろつかないよう言われているが、個室にはトイレもシャワーもテレビもポットもあるし、普通に快適だ。冷暖房もない刑務所のような、もっと酷い施設を知っているため文句は言わない。
子ども向けのアニメ、お昼のワイドショー、バラエティを観る。所長が時々、映画のDVDを差し入れしてくれる。
「テレビなんて観るの、行木さんぐらいだからさ」
大方ほかの入所者は、伏せているか天井を見上げているかのどちらかなんだろう。行木は施設内の行事や庭の手入れ、それからたまに事務用品の買い物などにも連れ出された。
所長の運転で、夕焼け空に染まった住宅街の中を進む。
「俺正直、行木さんはもう大丈夫だと思ってるんだよ」
所長は前を向いたまま、一定の速度を保ってアクセルを踏んでいた。彼の言葉の意味は何となく分かっていたが、あえて聞き返す。
「大丈夫……と言うと?」
「病院から紹介された時も不思議だったんだ。元々症状も軽くて、充分通院でいいレベルなんじゃないかって。実際会ってみたら何の問題もないし、激しい浮き沈みもない。まあここは手のかかる人しかいないから、行木さんがいなくなったらかなり悲しいけど。ウチの患者のレベルに合わせて、行木さんが落ちていくことの方が心配なんだよ」
広い二車線に出た為、彼はパッシングして右へ移った。一秒ごとに車のライトが鮮やかになっていく。気がする。
「行木さんがまだ不安だと思うなら無理はしないで。これはひとつの提案だから。遅くてもいけないし、早まってもいけない。慎重に、色んな人と話し合って考えていこう」
「はい……」
「無理だと思ったら逃げていい。その為に俺がいるんだから」




