#1
「処方箋を……はい、ありがとうございます。それではお呼びするまでお待ちください」
町の小さなクリニックで診察を受け、トラベレーターにでも乗ってるかのような流れで薬局へ向かう。
処方された薬は前回と変わらなかった。定時の精神安定剤と強い不安を感じた時用の頓服、それと睡眠導入剤。良くはなってないが、悪くもなってない。それにひとまずホッとし、施設に向かって歩く。
鬱に似た謎の精神病の患者がこの数年でまた激増した為、彼らを隔離し、自立を促す施設が一斉に展開されるようになった。ただ同じ施設でも軽度から重度の者まで様々で、入ることができても次にいつ出られるのか分からない。受け入れ体制が不十分なのは、国の施策が追いついていないからだ。その日雇いの職員がやっつけ仕事をしているような状態で、入所者に対する粗略な対応が目立つ。
そんな中、唯一の希望と言えるのは所長だけだ。
薬が入ったビニール袋をぶら下げ、行木靖二は建物の正面玄関を抜けた。ここでの生活ももう一年目になる。過労や精神的ストレスが重なり、二年前に政府が問題視している精神病に罹ってしまった。今は社会復帰の為にメンタルケアを受け、専門員のプラン通りに過ごしている。現状、退所の予定はない。
外出時のリストにチェックを入れ、帰設した時間を記入する。後はそのまま自室に戻り、夕食まで時間を潰せばいいだけ、だけど。
「あっ! 所長、絵を描いてるんですか?」
「行木さん。うん、もうすぐ春になるからロビーの絵を変えようかと思って」
もしやと思って多目的室を覗くと、所長が油絵の具を使って絵を描いていた。趣味らしいけど、昔は小さな展覧会で展示していたらしい。上手いのはもちろんだけど、所長は空想的な世界しか描かない。たまに何を描いてるのか分からないけど、そこはあえて訊ねず、色々想像を巡らせるのが楽しい。使う色は青ばかりだけど、瑞々しくてガラスのような艶やかさがあるマチエールが好きだ。
この部屋には入所者が趣味に没頭できるよう道具が色々揃っているけど、端には所長がこれまで描いた絵が置かれている。
「俺、特にこの絵が好きなんです。青一色で塗られた展望台の絵。何か心が洗われるんですよね」
「……珍しいね。展覧会にも出したけど、その絵一番評判悪かったんだよ。主催者は勿論、誰も足を止めないから俺の中で伝説になってる」
「え、そうなんですか」




