#22
影山は僅かにびくっとしたが、口端を結んで小さく頷いた。
「……大丈夫です」
声は思いのほか力があったが、目を合わそうとしない。
これで大丈夫なら、会ったばかりの頃の彼はどうなる。以前も何度も思ったことを思い出し、大きなため息をついた。これは自分に対して。
「えっと……その前に品場さん、どうしてここに」
「いいから。行くぞ」
彼の腕を掴み、この場を離れようとする。しかし彼は動くことを拒んだ。
「俺は大丈夫なので、先に帰ってください」
「はっ!? お前、この状況で何言ってんだ」
驚きのあまり、つい強い言葉で返してしまう。しかし彼の意思は揺るがず、手を振り払おうとしてきた。
「何でだよ。ここに居るわけにいかないだろう?」
「それは、そうなんですけど……とにかく離してくださ……あっ」
綱引きのように引っ張り、踏ん張りの攻防戦。我ながら何やってんだと思ったものの、影山の方がバランスを崩して倒れそうになった。慌てて手を伸ばし、彼の身体を支える。
「あぶな……おい、大丈夫か?」
「大……だから、は、離し……っ」
腕の中で、影山は息を荒くしている。見れば頬が紅潮して、明らかに様子がおかしかった。
具合が悪い、というよりこれは……。
「影山、お前もしかして」
「違います!」
悲痛な叫びが吹き抜けの廊下に響く。彼の状態は分かりかけていたが、今また里川が出てきたら面倒だ。今度は本気の力で影山の腕を掴み、そして引いた。
「ちょっとだけ頑張って歩いて」
確かすぐ裏に小さな公園がある。一回行ったことがあるので知っていた。
そこには公衆トイレがある。
「あ……し、なばさ……っ」
幸い男性トイレの個室は空いていた。そこに狼狽える影山を押し込み、鍵をかけた。電灯がついているにも関わらず、トイレの中は酷く暗い。夜はあまり使いたくないな、なんてどうでもいいことを考えながら……影山のベルトに手を掛けた。
「ちょっと! 何してんですか!」
「お前、勃ってるんだろ?」
どストレートに訊くと、彼は哀れなほど顔を真っ赤にした。
「そ……うですけど。分かってるなら尚さらほっといてくださいよ。前から思ってたけど品場さんってデリカシーないです!」
「そりゃ悪かったな。今回のは全部、デリカシーを意識しての行動なんだけど。……柄にもないことするとやっぱり空回りしちゃうな」
苦笑して言うと、影山も困ったように目を逸らした。声を潜め、少しでも距離をとろうと後ずさる。




