#20
練習?
「それは……な、何ですか?」
「いわゆる精神修行と言うか……お恥ずかしいんですけど、私の方から影山さんにお願いしたんです。職場できついことを言われてもだいぶ耐えられるようになってきたので、もっと強いトレーニングがしたい、と。荒療治だからか病院ではそういうことやってくれなくて。最初はやはり断られたんですけど、後で引き受けてくださったんです」
過激なことを返す練習。
呆気に取られて言葉を失う。だってあの時、影山はしどろもどろで何も言わなかったじゃないか。
何も……いや、違う。それ以上訊こうとしなかったのは俺の方だった。
「あの、品場さん?」
突然黙り込んだ品場に青年は恐々様子を窺う。品場もそれに気付いて我に返り、礼を言ってから元のオフィスルームに駆け足で戻った。そして一番近くにいた同僚に尋ねる。
「影山って今日はずっと外ですか?」
「え、多分訪問に回ってると思うよ。そろそろ戻ってくる頃だと思うけど……あ、確か机の上にリスト作ってるんじゃないかな」
今日回る相談者の自宅リストか。
「ありがとうございます」
影山のデスクへ向かう。言われた通りメモ書きが置いてあった。そう多くはないからそろそろ帰ってくるはず……そう思ったところで、一番最後にあった名前に息を飲んだ。
「しまった……!」
メモを投げ捨て、社用車のキーを取りに行く。
「あれっ、品場さん!?」
同僚が驚いて呼び止めるのも構わず、部屋から飛び出して階段を駆け下りた。こんなに全力疾走したのはいつぶりだろう。息が切れるのも構わず駐車場まで行き、車に乗り込んだ。目指す場所は決まっていたので、信号が少ないルートを選び、ぎりぎりのスピードでアクセルを踏んだ。
まだ息が上がっている。昔ほど体力がなくなったせいか、それとも……。
ここまで心臓に痛みを感じたことはなかった。後悔と罪悪感、自身に対する苛立ちに奥歯を噛み締める。しかし今は安全運転を心掛け、早く目的地に到着することを考えた。
話し合う姿勢の前に、相手の話を聴く姿勢ができていたのか。かつて相談に失敗し、上司から注意を受けていた同僚のことを思い出した。
彼はやはり今の自分と同じで余裕がなかった。相手を説得することに頭がいっぱいで、相手の主張を聞き入れることができなかった。
まったく嫌だ。余裕がなくなると人はああなるんだ。そう思っていた自分が、今は同じ存在になっている。




