#18
「いや、別に恋愛感情とかじゃない……と思う。ちょっと気になるだけだ。忘れて」
慌てて話題を変えようとしたけど、さっきよりも強い口調で馬鹿! と怒鳴られた。
『気になるって? それはもう恋してるってことだよ!』
息を飲む。
恋。恋……なんて、久しぶりに聞いたな。
何かすごく懐かしくて、恥ずかしくて、甘い響きだ。
『恋してることにも気付かないとか。やだやだ、これだから恋愛初心者は困るんだよ!』
「そ、そんな決めつけるなよ。諸事情でちょっと関わっただけで、危なっかしいから面倒見ただけなんだ。単純に心配なだけだと思う」
ちなみにその相手が男、とはちょっと言えなかった。もっとも自分が男女問わず恋愛経験がないことを彼は知っているし、このご時世、同性愛ということも驚かないかもしれない。性自認が極端に遅い人間もたくさんいる。ただ影山への想いが確かじゃないこともあり、そこは触れずにおいた。
少し気にかけるようになっただけで、それを“好き”と断定するのは乱暴だ。けど彼は言う。
『俺だって、今の彼女をいつ好きになったかなんて覚えてないよ。本人に言ったら殺されるけど、ぶっちゃけ何で好きになったのかも覚えてない。でも気付いたら離れたくないって想ってた。恋愛ってそういうもんじゃね? それまでの過程って、結果が出てから見えてくるんだよ』
そう……いうものなのか。
とても適当なことを言ってるようにも思えたし、名言を言ってるようにも思えた。
ただ間違いなく、今の自分ではどれだけ考えたところで答えは出ないのだと悟った。
何も行動しないのでは、影山に対する気持ちなど絶対に分からない。知りたければ動くしかない。いや、動かなきゃいけないんだ。
「……サンキュー。ちょっと、頑張るだけ頑張ってみるよ」
『おう。健闘を祈る』
ちょっと面白がってると思ったけど、自分自身面白く感じる。別れの挨拶をして通話を切った。
まるで学生……いや、もっと小さい頃に戻ったような感覚だ。同じものが並んでいる中で絶対これ、と選ぶような、理由のないこだわり。根拠のない“好き”を思い出している。
影山は不特定多数の同僚の一人。でも彼だけに対し、特別な感情を抱いている。
一度走り出したこれは、もう止まれる気がしなかった。




