第三話
次の日の正午になり、クレイツ公園にトオルは到着した。
元会長は既に着いており、余裕すら見えるようだった。
決闘の見請け人として、各々一人ずつ用意した。
トオルはカイ。あちらはロワイス家の使用人ケルというらしい。
ケルは見たところ初老の執事といったような姿をしていた。
「ではいいかしら。決闘といっても命の取り合いではさすがにないのでライフセーバーを用いての勝負よ。」
ライフセーバー。それは文字通り使用者の命を守るものであり、赤い石を埋めこまれた腕輪を装着しての決闘がこの国の主流らしい。
「異存はありません。よろしくお願いします。」
トオルははっきりと応えた。
「そうこなくては。ではお手並み拝見と行くわよ。」
トオルvsグリス。
両者はまず互いの間合いを確かめるようにお見合いしながら、円を描くように歩く。
そして、先手必勝と動いたのはグリスだ。
「サンシャイン!!」
焼けこげるのではないかというほどの濃縮された火球が飛んでくる。
対して、トオルはそれをスタンプした自分の愛刀カダチで縦に真っ二つにして見せた。
「そのギフテッド流石ね。ファイアボルトの二段階上位のサンシャインをものともしないなんて。」
「いいえ。今のは喰らうと不味い一撃ですね。流石名誉魔導士に名を連ねた人だ。」
そう。サンシャインは上級魔法であり、炎熱系の得意なグリスのそれはかなりの威力である。
だが、トオルは表情一つ崩していない。
何あの余裕は。
そうグリスは思った。
しかし、グリスは歴戦のそれも現役最強クラスの魔導士。
次の手を考えるのも早かった。
「サンフラワーズガーデン!!」
これは現在の魔法推定クラスでいうと超級の魔法だった。
瞬く間にヒマワリの園が周囲に出来上がり、それが突如現れた第二の太陽によって一瞬で灼熱地獄に変わった。
「ク!!何て暑さだ!」
グリスも本気を出してきたということだ。
ここで、トオルは自身に紋章を宿すだろうと彼女は考えた。
だが。
「水の精霊ウンディーネよ。その麗しき姿見を今ここに顕現せよ!!」
「何ですって!!あなた召喚術が使えたの!?」
これには訳がある。
事前にアニに決闘のことを話すと簡単な話チート女神から最強の精霊を見事レンタル出来たのである。
そして、勿論。
「オーダー!!」
ウンディーネの精霊界での力と同等なものを引き出すことになる。
そう。召喚術が使えるとトオルの戦いの幅が広がるだろうと自分のことを熟知している彼はそう考えていた。
そして、今実際にそれをやってみせたのだ。
これにはグリスも唖然として、
「ウンディーネを操るなんて芸当が出来るのは神話上の三大女神くらい。何てことなの?ついこの前までFクラスのしがない男の一人に過ぎなかったのに!」
美しいヒマワリの園は消え、尋常ではない高さの濁流が全てを台無しにした。
そして、ついにグリスは。
「どうやら、手加減は無用ってわけね。いいわ。私の全てをあなたにぶつけましょう!!」
「ライジングサン!!」
これはグリスにとって最後の切り札であり、神級に限りなく近くしかし、わずかに及ばない魔法。
その反動で2、3日は動けないことを覚悟した。
天から降り注ぐ、超巨大熱球がトオルを襲う。
しかし、ウンディーネは無慈悲にもそれを喰らうようにかき消した。
ついに、グリスは膝をつき、トオルは奥の手を使わずにグリスという大魔導士を完封することに成功したのである。
「完敗ですわ。まさかあなたがこれほどまでに腕の立つ方だったなんて。」
「いいえ、こちらのほうもあなたの自身の誇りをかけて戦う姿に返す言葉もないですよ。」
そして、グリスの目が人を値踏みするような今までの態度から打って変わる。
目がハートマークになったのだ。
「トオルさん!私あなたにどうやら惚れてしまったようですわ。」
「へ?」
トオルはまた素っ頓狂な声を出した。
さっきまでいがみ合っていたのにあまりの球速ストレートに度肝を抜かれてしまう。
「私、あなたに求婚します。」
「へ?」
カイとケルの声も揃う。
「いけませんお嬢様。このような得体のしれない男にすぐさま求婚!?」
ケルは眩暈がしているようだった。
「いや、得体がしれないは言い過ぎでしょ。」
トオルは優しく突っ込んだ。
しかし、止まることを知らない恋の暴走機関車になってしまったグリスは
「好きなタイプはどのような方でして?まさか私のような美しく長い黒髪がタイプとか!?キャー!!」
トオルは返答に困っていると見透かしたようにグリスは
「お返事は急ぎません。魔王の存在があることで私も忙しい身。ですが、魔王が倒れた暁には...」
「考えておきます。」
「まあ。本当ですか!?これは何が何でも魔王を倒さなくてはいけませんね!」
グリスはケルをひきづりながら、意気揚々と帰っていった。
見請け人になったカイは思った。
予想を斜めに超えるトオルの手腕。そして、強さ。
これは大物になるかもな。とカイは思うのであった。
時は経ち、トオルとカイは一年生の二学期をもう一度迎えようとしていた。
クラスメートももうつるむ人間を確立しているころだ。
そんな中、とある噂を耳にすることになる。
転校生が来る。といったものだった。
しかし、その転校生は色々な部分で謎が多い人物であるそうだった。
一つは出自。
隣国のバルステラ王国の出身だそうが、母が病弱で父は他界。
魔導士として幼い頃から冒険者をやっていたが、仲間内にしか能力を知らせていない。
そして、闇系統の魔法が得意という話もあった。
そんなリーバ・ロットという人物がついにAクラスにやって来た。
「リーバ・ロットです。母とバルステラから引っ越して来ました。これからどうぞよろしくお願いします。」
そして、トオルと目が合った気がした。
リーバはその端正な顔立ちと高い能力ですぐさまAクラスでも一目置かれるようになる。
実技試験のグリフォン討伐もトオルやカイを差し置いて最速で倒してしまう。
そんなある日リーバはトオルに話しかける。
「君、金のギフテッドの継承者みたいだね。僕と一度手合わせをしてほしいのだけど。」
「手合わせか。まあ良いよ。」
「本当かい?ではその代わりと言っては何だけど今度、闇系統魔法のコツを教えるよ。」
「それは、願ったり叶ったりだ。」
トオルは闇系統魔法には疎い。
特に目眩しに使えるシャドウが欲しかった。
それをAクラスの現エース格の彼から教わることができるなら対価としては十分だろう。
しかし、トオルはこの男に一目を置くと同時に終生のライバルと言ってもいいほど熾烈な戦いをすることになるのだった。
約束の三日後、学園の闘技場を借り、二人は相対する。
ライフセーバーを着用し、両者不備はないといったところだ。
トオルはチート女神のお陰で召喚術を使えるに等しい。
そして、自身のギフテッドであるオーダースタンプがある。
なかなかに強大な力を持っていると言えるだろう。
もちろん、まだ伸び代はあるが。
しかし、相手の力は全くの未知数。
そんな最中トオルはリーバの繰り出すものに目を剥いた。
それは。
トオルと同じ紋章を自身の下に敷いたからであった。
トオルは驚くと、同時にリーバは不敵な笑みを浮かべるのであった。