告白放送
その放送を耳にしたのは1学期の最後の期末テストが終わった日の昼の放送であった。その日の予定は、残り2科目の試験であったため、昼食を食べたら後は帰宅してから一人でゆっくり休む予定だった。
蝉の鳴く声がこだましている。最近はクマゼミが多くなったせいか、やたら大きな鳴き声が試験後の疲労を抱えた頭にはつらい。
仁美は凍らせておいたペットボトルのジュースから飲める分だけいっきに飲み干すと一緒に入れておいた板チョコを口で割った。ペットボトルが保冷財代わりになったためか、良い音と感触が歯を通して伝わってくる。
疲れた後はチョコに限る。糖分が取れるとか、カカオの成分が疲労回復に良いとかいう一般的な意見に限らず、彼女は他の女子生徒と変わらず、ただ単に甘いものがすきだったからだ。
2、3度ぼりぼりと硬い音を響かせていたがやがて解けてチョコの甘みが口の中に広がった。
仁美は教室の中を見回した。彼女の周りには寄ってくる生徒はいない。それは例の事件の影響であることはなにより彼女自身が分かっている。
弁当の箱を開ける。弁当箱の中身は雑穀米のご飯に玉子焼きが入っている程度の簡素なもので女子高生の弁当箱の中身としては面白みに欠ける。
しかし、友達もいない、ましてや彼氏などといったものに程遠い自分が期末テストの途中に弁当の内容に気をとめる必要などなくてもよいはずだ。
仁美はただ黙々と弁当を口に運んだ。
その放送が流れたのは、12時50分頃だとはっきり分かる。なぜならテストやなんらかの行事がある時以外、放送部が必ず昼の放送を流す。別に気に留めることはなにもない。行事やらなんやらの放送ならともかく、昼の放送ぐらいでは、放送室か、部員が自分で持っている限られたCDやらテープやらを流すのが関の山であるから。
しかし、その日は違っていた。
「あ、みなさん。この放送は聞こえていますか。」
それは確かに聞き覚えのある声だった。彼女にとって忘れられない人。
あの事件の後、ただ一人自分に支持した後輩。そう。名前は・・・
「僕は日野誠といいます。2年A組の相川仁美さん。僕にとっては先輩に当たりますから本当は相川先輩と言うべきかもしれません。でも、ここで伝える気持ちを対等に受け取ってほしいからあえてそう呼ばせてもらいます。あのときからずっと好きでした。今日この場を使って伝えます。僕と付き合ってください。」
全校で大きなざわめきが起こった。
私は手に持っていた箸をそのまま落とした。
これが、全校を巻き込む2人の恋愛の始まりだった。