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第13列車魔獣襲来事件

今から8年前、ヴィンセンヌ連邦軍参謀総長のレノー元帥は時代遅れの冒険者を廃止し、軍により魔物を駆逐すると。それから8年が経過した現在、当初の目論である貴族を排除し、冒険者を軍に入れようとした計画は失敗した。結果まともに訓練されてない農民が大半を占める軍が駆除に成功できるはずがなく、各地で魔物による被害が後を絶たなかった。


「魔物に襲われてるってどういうことだ!線路沿いは安全って言ってたじゃないか!」


「そうだそうだ!」


車掌の胸ぐらをつかみ問い詰める乗客たち。それをなだめようとするウェイターと車内は大混乱に陥った。


「みなさん、ここで騒いでも魔物の脅威はなくならないのでは?紳士淑女ならこんな時でも慌てないわ。それとも労働者はマナーを知らないのかしら?」


「なんだてめえ。貴族のつもりか?女は引っ込んでろ!」


胸ぐらを掴まされそうになったとき、一人の紳士が立ち上がった。


「彼女の言う通りです。みなさん少し落ち着きましょう。車掌さんをせめても問題は解決しませんよ」


彼の言葉でさっきまで騒いでいた人たちはおとなしく席に座った。


「お嬢さん、大丈夫ですか?」


「ええ私は大丈夫よ。ありがとう。私たちは一足先に戻させていただくわ」


食堂車を離れ、個室に向けて通路を進んだ。無論休むためではない。


「みんなやることはわかってるわね」


「冒険者の仕事、ですね。魔物狩りは久しぶりだから楽しみです」


個室に戻りヴィンセンヌに上陸したとき装着していたフル装備に着替え、袋の奥底にしまった剣を取り出した。こいつを使うのは1か月ぶりだ。


「アリシア、準備できたわよ」


「わたしもー」


「ぼ、僕もです」


「準備完了ね。みんな乗客を救うわよ!」


まず魔物がどこにいるか、前か後か。列車の編成は前から機関車、車掌車、客車8両だ。今いるのが2号車だから最後尾までは6両もある。ちょうどカーブに停車しているため後方が見えやすくなっていると思ったが、木々のせいで隠れていた。


「こうなったら一両ずつ見てみるしかないわね。そうだベルニス、透視できる魔法とかない?」


「そんな便利な魔法あったらとっくの前に使ってるよー。魔王討伐のときどれだけ苦労したかもう忘れたのー?」


「忘れてないわよ。ただ気になっただけだから・・・」


雑談をしながら3号車、4号車、5号車と順番に最後尾まで車内と窓の外を確認したが、魔物の様子は見当たらなかった。


「こっち側に魔物はいないわね。残るとすれば・・・」


突然、先頭車両のほうから狼の遠吠えが聞こえた。


「機関車だ!」


扉から列車から飛び降り、機関車に向けて一直線に駆け出した。カーブになっているため、線路沿いを走るより森を抜けたほうが断然早いのだ。


森を駆け抜けていると、白い獣の姿が見えた。普通の狼よりも二回りも大きい・・・あれはフェロースウルフだ!


「エルマはベルニスと一緒に横から攻撃、シャルロッテは後方支援を。私は正面から行くわ」


「わ、わかりました」


「わかったわ、アリシア!」


一匹の狼と目が合った。一歩ずつ近づくと狼どもはガルルルルと唸り後退していく。そして剣を向けた瞬間、飛び掛かってきた。


「かかったわね!」


左腕にかみつかれそうになった瞬間、体をひねった。飛び掛かった勢いのまま首が剣に刺さり、狼は自らその首を落とすことになった。


群れの1匹が殺られたぐらいで怯むはずがなく、仲間が殺された怒りで次々に飛び掛かってきた。耳を切り落とし聴力を奪い、鼻を折り嗅覚を狂わせる。最後に目を切り裂き視力を奪う。獲物を狩るのに必要な能力を全て失い、恐怖か怒りか暴れ回るが、でたらめな攻撃があたるはずがない。


エルマが大剣を振り下ろし、狼を一刀両断にした。こうして狼どもは自分たちは狩る側ではなく狩られる側だと理解し、徐々におびえ始めた。


「まだやられたいの?おとなしく消えれば見逃してやるわ。言葉はわからなくても意図ぐらいわかるわよね」


剣を構えながらゆっくりと近づいていくと、犬のようにキャンキャンと吠え、じりじりと後退していった。逃げたがっていたが、それでも尻尾を巻いて逃げることは長が許さないようだ。


「魔物のくせに誇りだけは高いのね。ならば死んでもらうわ!」


長に飛び掛かろうとしたとき、線路沿いから悲鳴が聞こえた。


「あ、あれはまさか。まずいわ!」


見ていると機関車が襲われていた。棒を使って追い払おうとしているようだが、あのままでは運転手が喰われてしまう。


「エルマ、こっちは私たちで対処するから早く助けに行ってあげて!」


「りょ、了解です!」


エルマが機関車に向かったのを確認し、再び攻撃を始めた。早く長を始末したがったが、周りにいるそれを阻止しようとする。何度斬り裂いても一匹、また一匹と立ち塞がる。


「何なんのよこいつら。ビビってるくせに攻撃してくるなんて。そんなに長を護るのが大事なわけ?」


数が多くて処理しきれない、と思っているとベルニスの下に魔法陣が現れた。この魔法はまさか・・・


「アリシア、ちょっと離れてねー!エクスプロジオン・ド・ヴァプール!」


「え、ちょっとま」


ピカッと光ったと思うと、群れの中心でドーンと大爆発が起こった。あれだけいた狼はすべて消し飛び、あたり一面に肉片が飛び散った。


「ちょっとエクスプロジオン・ド・ヴァプールを撃つときはもっと事前に言ってよ。時間停止に失敗したら私まで爆散するところだったわ。でもこれで片付いた・・・え、まだ生きてるの?」


全身の毛は焼き焦げ、皮膚がただれ落ちた。片目が潰れ、まともに立てないはずだ。しかし決して敵に屈することなく、立ち向かおうとする。その命が尽きるまで。


剣を構え、勢いよく胴体を斬りつけると、長は声を上げることもなく地面に倒れた。私が目の前に立つと、意志を見せつけるように睨みつけてきた。


「哀れね。大人しく逃げればよかったものを。今仲間のところに送ってあげるわ」


心臓に剣を突き刺し楽にしてやった。フェロースウルフの群れもこれで終わり・・・ではない。エルマの様子を見て見ると、石炭車の上に運転手が逃げ、エルマは必死で狼を追い払おうとしていた。何匹かすでに処理したようだが、数匹残っていた。大剣じゃ処理しにくいのだろう。


はあ、これで終わってくれたらいいわね。えい!


長の体から引き抜き、機関車にいた最後の狼の頭めがけ剣を投げた。狙い通り頭に突き刺さり、これでようやくフェロースウルフの群れを討伐できたのだ。


「エルマ、大丈夫?」


「はぁ、はぁ。ぼ、僕は大丈夫です」


エルマは大丈夫だと言っているが、シャルロッテはそれを信じず、エルマの腕を掴んだ。


「ほら怪我をしているじゃない。我慢強いからって放置したらだめよ。せっかく聖女がいるんだからもっとあたしを頼りなさい、エルマ」


「ご、ごめんなさい」


治療をしている間に魔物の死骸をすべて線路から投げ飛ばし、森の中へ遺棄した。その後運転手を下ろしてあげた。


「君たちはもしかして冒険者か!?」


「それは言えないわ。運転手さん、このことは誰にも伝えないでくださいね」


「わかりました。このことは忘れることにします。皆さんあ、ありがとうございました!」


「当然のことをしたまでよ。みんな撤収するわよ!」


魔獣を駆除してからしばらく個室でくつろいでいると、ようやく軍が到着した。私たちがいなかったら乗客はどうなっていたのか・・・


「同志機関士、誰がこれを片付けたんだ?」


「わ、わかりません!森の中から突然現れて魔獣を殺したかと思うと、また森の中に消えていったんです」


「本当か?・・・まあいい。駆除する手間が省けた」


事情聴取が終わると軍は撤収し


「出発進行!」


列車は再びラビーニュに向けて走り出した―――

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