閑話 大衆食堂フォンテーヌ①
大衆食堂フォンテーヌ。ここは王政時代からある旧王都、現在のスタリーングラードで一番にぎやかな大衆食堂で、人々は毎日酔っ払いながら世間話で盛り上がっていた。革命後はお酒を規制しようとする運動や言論統制で一時期は閉店にまで追い込まれたが、常連たちの働きかけによって現在も店は保たれ続けている・・・
今日は謎の集団がブローニャ宮殿で強盗を働いたという一大ニュースで街中が大いに盛り上がっていた。むろんこの店も例外ではない。
「なあなあおめえら聞いたか?誰かがブローニャ宮殿に侵入して財宝を盗んだらしいぞ」
「ああ聞いたよ。噂だと女4人組の強盗なんだってな。女が強盗をせざるを得ないと嘆くべきか、よくやったと言うべきか。とりあえず言えることは、強盗に成功するなんて宮殿の警備はどうなってんだよってことだな」
「確かに、警備のやつらは給料泥棒だな。今頃処罰されてるんじゃないか?」
「それだけじゃないぞ。宮殿のてっぺんに国旗が掲げられてるだろ?あれを燃やした挙げ句、勝手に王国時代の奴にしたって噂らしいぞ」
国旗の話を聞いて、遠くで一人飲んでいた男が話に参加してきた。
「俺近くにいたから直接その様子を見てたんだけどさ、なんかでっかい花火を打ち上げて国旗を燃やしてたわ。そのあと国旗を変えてさ、あれには驚いたよ。遠すぎて顔はよく見えなかったけどな。そういやそいつなにか言ってたような・・・」
おつまみを一口食べると、なにかを思い出したようだった。
「そうだ、そいつはアリシアって名乗ってたな。誰だかしらんけどそいつ王党派なんだろ。本拠地に堂々と侵入するとか勇気あるよな」
「アリシア」という名前が出てくると、店内は一気に静まり返った。
「おいおいおい。今アリシアって言ったか?それが本当だったらやべえぞ」
「何だよ、そいつ有名人なのか?」
「お前本当に知らないのか?教えてやるが、アリシアは10年前に国から追放された第二王女だぞ」
男は飲んでいたお酒を噴き出した。
「ま、まじかよ!?あれが王女だって信じられねえ。でも何しに帰ってきたんだ?王女が生きてるって知られたら殺されかねないのに」
「お前本当に馬鹿だな。アリシア姫は王政復古をするために国に帰ってきたんだよ!再革命ってところだな」
「王女様は可愛そうだな。国に帰ってこれたと思ったらこれだもんな。俺もこの体制になってから給料上がらないのに仕事だけ増えて毎日大変だよ。これなら昔のほうが良かったよ」
「昔のほうが良かったって、馬鹿なこと言ってんじゃねえよ。確かにここに住んでる俺達は食に困ることはなかったけどよ、他の街ではどうなってたか忘れたのか?」
「忘れてたよ。確かに食糧事情は改善されたな。まあ今は静観するしかねえな」
「そうだな」
男たちが昨夜の事件を話していると、全身黒の服を着た男が来店してきた。この店を潰そうとした張本人、悪の権化こと国家保安委員会だ。
「クソ、チェキストが来やがった。この話題は終わりだ。あんなやつと同じ空間に居たくねえし俺は先に帰らせてもらうよ」