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赤旗はためく都

街中至る所に警察がいた。私たちが脱走したのがバレたのか、それとも最初から住民を監視する目的でいたのか。不気味な集団だ。


警察に見つかる前に近くにあった小さな服屋に寄り、地味で目立たない服を買い揃えた。服を着替えると私たちは一言も発することなく駅に向かった。騎士やここで言う警察は私たち冒険者にとって厄介な存在だが、真に恐ろしいのは住民の目だ。


「まずは相場を調べる必要があるわね。王都とここの位置関係、地図があるといいんだけど」


駅の待合室で地図を探したらすぐに見つかった。壁にデカデカと貼ってあるからだ。


えっとこの街道を上に行くと確か王都がここに・・・え?何この名前。す、スタリーングラード!?自分の名前を都市につけるってスタリーンはナルシストなのかしら。


他の都市も名前がちょくちょく変わってるようね。貴族も名前が残ってるのは嫌なのかしら。それにしてもこの地図の精巧さはすごいわね。城にあった地図ですらここまで正確ではなかったわよ。


地図を眺めてると運賃を聞き回ってたエルマが帰ってきた。


「あ、アリシア、相場調べてきました。首都のスタリーングラードまで1人銀貨15枚だそうです」


「ぎ、銀貨15枚!?少し高くないかしら。服屋の話を鵜呑みにするなら金貨1枚で銀貨20枚らしいけど、4人分の運賃に換算したら金貨3枚になるわよ。ここの住民はそんなに稼いでるのかしら。見や限り食事も満足にできるようには見えないけど」


思考を巡らせているとベルニスがやってきた。


「なあアリシア早く行こうぜ。このままここに居続けたら奴らに見つかるぞ」


「そうね。じゃあ馬車を探しにいきましょ」


駅の外に出て早そうな一番早そうな馬車を探した。周りを見渡していたら、特急便と書かれた看板を掲げた青年が立っていた。馬車を見てみたところ、確かにうたい文句通り特急で届けてくれそうな見た目をしていた。よしこいつに決めた。


「失礼するわ。スタリーングラードまでいくらになるかしら」


「うちの馬車は特別早い馬車なんで高くつきますよ。金がないんだったらよそにしてくださいよ」


何よその態度。私が貧乏人に見えるわけ・・・


自分の服装をよく見て見たらいかにも貧乏人としか見えない格好をしていた。そうだ地味で目立たない服装は貧乏人の服装なのだった・・・


「構わないわ。早く金額を教えてくださる?」


「お客さんいいんですね。わかりました。うちは銀貨25枚ですが本当に払えるんですか?」


あーむかつく男ね。社会主義って貧困の差をなくすのが目標なのよね。この男は真逆の態度を取るわね。私が体制側だったら絶対捕まえてるわよ。


ここで騒いで警察を呼ばれて困るのは私なので大人しく金を出すことにした。


「わかったわ。4人で乗るから金貨7枚で貸切にしてくれるかしら。あと急いでるから最速でお願いね」


私が実際に金貨7枚を取り出すと、この青年は驚愕して看板を落としてしまった。貧乏人がこれほどの大金を持ってるとは思ってなかったのだろう。


「き、金貨7枚も!?これまでの発言をお許しください、お客様。ご要望どおり最速でお届けいたします」


「頼んだわよ。みんなこれに乗って行くわよ!」


みんな私を馬鹿にした金に狂った御者を若干睨みつけながら馬車に乗り込んだ。


街の外れで検問が行われていた。前の馬車の様子を見ると警察署から脱走した4()()()を探しているようだった。


エルマはおびえて私に抱きつき、小声で話しかけてきた。


「あ、アリシア、ぼぼ僕たち指名手配されてます。これ大丈夫なんですか?」


「エルマ、別に顔が知られているわけではないし服装も変えたのよ?バレるわけないわ」


「そ、それならいいんですけど」


私の予想通り警察は身元を確認することなく通行を許可した。貧乏人がこの高そうな馬車に乗っているのは不釣り合いに見えるが、王都に行くということは出稼ぎだと思うのが普通だろう。計画通りだ・・・


しばらくすると田園風景が広がっていた。農家たちの使っている道具をみるとどれも見たことのない形をした機械を使っていた。労働者の国らしく労働用の技術は確実に進化しているようだった。


「あなた銀貨ならたくさんあるのよね。金貨2枚を銀貨と交換してくれないかしら」


「もちろんです。少々お待ちくださいね」


若い御者は相場より少し多い銀貨45枚を渡してきた。先ほどの態度を反省しているとアピールしたいのだろうか。ありがたく受け取っておこう。


「不躾な質問ですが、お客さんそんな大金いったいどこで稼いだんですか?」


「それはね私たちがま」


ベルニスが余計なことを言い始めたので口を塞いだ。


「聞かない方がいいわよ。捕まりたくないならね」


この御者は緊張して黙ってしまった。そうこうしている間に旧王都こと現スタリーングラードについた。城塞都市らしく城壁に囲まれていたはずだが、都市開発の邪魔だったのか大部分が撤去されていた。なんて奴らだ・・・


「アリシア、こっからどこに行くんだ」


「もう夜になるしあんまり広範囲に行動はできないわね。とりあえず宮殿の前まで行くわよ」


街中いたるところに棒が立てられランプが吊るされていた。さっきまでいた港町以上に大量の煙突が立てられていて、黒い煙を吐き出していた。


ここにある技術はどれも10年前にはなかったものだ。たった10年でここまで技術力が上がるはずがない。社会主義思想もそうだが、このスタリーンという男はとてつもない天才なのかあるいは・・・


広場に向かう道を歩いていると小さな売店を見つけた。売店そのものは昔からあるが、昔と違うのは新聞というもの大々的にを販売している点だ。


興味が湧いてきたので新聞を一部買ってみることにしてみた。銀貨1枚以下とは破格だ。


「アリシア、なに買ったんだ?」


「新聞ってものよ。いろんな情報が乗ってるみたい」


「へえ面白そう。読ませてちょーだい」


あっという間に読もうとしていた新聞をベルニスに奪われてしまった。銀貨1枚もしないんだから買えばいいのに・・・


ベルニスは新聞を読み始めてからものの数分で諦めたようだ。


「そんなに難しいこと書いてる?本でもないのに。とりあえず返してもらうわ」


やっと新聞を読むことができた。中身は当たり障りのない情報やプロパガンダで埋め尽くされていた。どこそこで新工場が建設されたとか、共産党の政策の説明であったり、あとは指導者、つまりスタリーンの称賛だ。


「確かにこれは最悪ね。庶民に幅広く情報を伝えるって点では画期的な発想ではあるけど、これじゃ読む気は失せるわね。まあ娯楽に飢えてる労働者にとって数少ない娯楽でしょうし、党も体制賛美をさせやすいのでしょうけど」


しばらく歩いているとそこには変わり果てた広場が広がっていた。アリシアのご先祖さまでもあるヴィンセンヌ王国の建国王の銅像や数々の王族称賛の石碑などは跡形もなく消えており、代わりに誰かの巨大な銅像が建っていた。新聞に掲載されていた個人崇拝ぶりを見るとおそらくスタリーンなのだろう。


「まさかスタリーンの銅像が建っているとは思ってなかったわ。王族の痕跡をすべて消し去るつもりね。私は王族から追い出されたとはいえ、建国王は偉大なご先祖様として尊敬しているわ。今すぐ銅像を取り戻すか、それか私の銅像を建てるのも悪くないわね」


「アリシア、メーナ王国はあたしたちの銅像を建てるつもりらしいから、もう一個作ってもらって持ってきてもらえばいいんじゃないかしら。きっとこの男の銅像より似合うはずよ」


宮殿の方を見ていると、宮殿の塔のてっぺんにつけられていた王室を象徴するフルール・ド・リスの彫刻は赤い星に付け替えられていた。


「なにあの趣味の悪い星。あれまで変える?これじゃ歴史遺産の破壊よ。クレアシオン広場をこんなめちゃくちゃにして許せないわ」


憤慨していると近くに居たおじさんがやってきた


「君たちちょっといいかな。ここ今は赤の広場って言うんだ。あんまり旧名で言わないほうがいいぞ。王党派とみなされて捕まるぞ」


「忠告感謝しますわ。あと今あの宮殿って何に使われるんですの?」


「ああ、今は党の本部として使われてるよ。あと観光とかできるような場所じゃないから、あんまり近づかないほうがいいぞ」


今この国を支配する共産党の本部はまさかのブローニャ宮殿なのか。散々王政を貶しておいて宮殿は使うのね。図々しい連中だわ。


すっかりあたりも暗くなってきたので近くの宿に泊まることにした。金貨を出すと悪目立ちするので銀貨をもらっておいて正解だったな。


部屋の扉をしっかり施錠するとベルニスに部屋に遮音魔法を掛けてもらった。


「私一つ思いだしたわ。ブローニャ宮殿って王族だけが知る秘密通路があるのよ。その中にもともと私が使ってた部屋に続く通路があったと思うんだけど、そこってあんまり人が来ない区画だったから今でも使われてないと思うの。だからそこから内部に侵入して見ようと思うの。どうかしら?」


「そ、それ本当に問題ないんですか?今度は本当に捕まるかも・・・」


「エルマ、安心しなさい。相手はただの人間、それも魔法も使えない集団よ。魔王も倒した私達が恐れる相手ではないわ」


エルマは若干恐れているものの、残りの二人は宮殿・・・というよりその中にある財産に興味があるようだった。


「あたしは秘蔵の酒を奪えればそれでいいわ」


「シャルロッテ、秘蔵の酒はもう全部共産主義者どもに飲み干されてるんじゃない?まあいいわ。あったらあげるわよ」


「私も財宝があったらもらっていいか?」


「それはだめよ。王族の財産は全部私のものなんだから」


「アリシアのケチ!じゃあ代わりに党の財産を奪うからな」


「それは構わないわよ。じゃあいくわよ宮殿に!」


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