10年ぶりの帰国
どこまでも続く広大な海、美しい・・・美しい・・・・・ってあーもう飽きたわ!!!
出港から2週間以上がたち、私は我慢の限界に達していた。大型の魔物を狩ったり魔法軍を撃滅したりと刺激的な生活を送っていた私達にとって船旅は退屈極まりないものだった。
「ねえエルマ、もし暇だったら・・・いや暇でしょ。ちょっと戦わない?」
魔王を討ち倒した自慢の剣を抜き取り、エルマに向けた。
「ア、アリシア・・・船上で戦ったら危ないですよ・・・僕は戦いたくないです。海に落ちたら嫌なので・・・」
がっかりしているとシャルロッテがやってきた。
「ふう、何やってんのよアリシア。頭でもおかしくなったかしら。言っとくけど頭の治療は専門外よ」
「ゴホッゴホッ、ちょっとタバコ吸わないでよ。私は別におかしくなってないわ。腕がなまるから訓練がしたくなっただけよ」
しょぼくれて剣をしまい、また海を眺め始めた。一体いつになったらつくのかしら。退屈だわ。ん?あれは・・・
ついに陸地が見えてきた。ああ、母なる大地よ。私は帰ってきたぞ!
みんなではしゃいでいると船長がやってきた。
「みなさん予定より早く入港できそうです。そろそろ上陸の準備をお願いします」
「わかったわ」
陸地に近づくにつれ船員たちは忙しなく働き、上陸の準備を始めた。もうすぐだ、私の祖国はもう目の前にあるのだ。
「ついに、ついに私は帰ってきたわ!ヴィンセンヌに!」
入校を果たすと、私は船首で腕を大の字に大きく広げながら喜びを噛み締めていた。美しい港町を眺めていると、仲間たちが集まってきた。
「みんな見て!あれが私の母国、ヴィンセンヌよ。綺麗な街並みでしょう?・・・・・ってなにあの旗ーーー!」
港のありとあらゆる場所に私の見慣れない旗が掲げられていた。鎌と槌が書かれた赤い旗が掲げられていた。ヴィンセンヌの国旗でもここの領主の旗でもない謎の旗だ。
「アリシア、どうしたのー?」
象徴的なとんがり帽子を被ったベルニスが私の困惑している姿を見て心配そうにしていた。
「あれはヴィンセンヌの旗じゃないわ。それに領主の旗でもどこの地域の旗でもないまったく見たことのない旗よ。何があったのかしら・・・」
頭の中に様々な考えがよぎった。単純に国旗かこの街の旗が変わっただけなのか、それか領主が変わったのか、またまた国が変わってしまったのか・・・
「アリシア、とりあえず気をつけたほうがいいわね」
「そ、そうですね。もしかしたいきなり攻撃されるかもしれません・・・」
警戒するように言ってきたのはシャルロッテとエルマだ。脳天気なベルニスとは違い二人には十分警戒心があるようだった。
「はたしてヴィンセンヌ王国が残ってるのか、それを確かめるまでは私の名前、特に名字は絶対に言わないでね。敵地だとしたら私は格好の獲物よ」
「「「りょうかい!」」」
錨をおろし、タラップを架橋すると係柱にロープを結ぶと。そしてついに上陸を果たすことができた。町並みそのもの船から降りると凄まじい光景が広がっていた。人々は薄汚れた服をきており、道にはゴミが散乱していた。明らかに栄養失調のような人がぎこちなく歩いていると、突然嘔吐した。それも1人、2人ではなく、何人もだ。この異常な光景に私達は恐怖を覚えていた。
「う、ここの空気なにかおかしくないですか?それに視界もぼやけているというか黒ずんでいるような・・・」
上を見上げると黒い煙が空を覆っていた。
「エルマの言う通り確かにひどい空気ね。多分この黒い煙が原因のようね。この煙どこからでてるのかしら」
どこから出ているのか見てみると街の至る所に煙突があり、そこから出ているようだった。10年前はこんなものはなかったはずだが、一体なんの施設なのか。疑問に思いながら王都に向かうための馬車を探していると、突然道端に人が倒れた。
「ねえあんたどうしたんだい?気分は大丈夫か?」
倒れた男ははあ、はあと旨を抑え息苦しそうにしていて、体も痙攣していた。シャルロッテが急いで救護しようとすると、近くにいたおじさんに妨害された。
「おいお前ら。その格好、よそもんか。そいつを絶対に助けるんじゃねえぞ。病気が伝染るからな」
シャルロッテは助けるなという要求に困惑していた。
「何いってんのあんた。目の前に人が倒れてて助けないわけないでしょ。あんたこいつを助ける気がないんだったらせめてその病気を教えなさい」
シャルロッテが倒れた男の体に触れようとした瞬間、おじさんによって無理やり引き離された。
「ああ、近づきたくもなかったのに!知らないようだから教えてやるよ。今この街・・・いや近くの街でもか。とにかく原因不明の病気が蔓延してるんだ。この病気に感染したやつはみんな嘔吐や下痢を繰り返して死んだ!だから近づくなって言ってるんだ」
嘔吐と下痢を繰り返して最終的に死に至る病気・・・恐ろしい。なにか助ける方法はないのだろうか・・・?そうだ治療法、治療法があるはずだ。ないなんて言わせないぞ。
「そうなのね。原因不明って言ってるけどなにか治療法はないわけ?金がどうたらとか言わないでよね」
「言っとくが治療法はないぞ。それにあなんた修道士か司祭かまあ知らねえが、治療にかかわらないほうがいいぞ。そういうのは医者か看護師の仕事だからな」
治療法がない・・・?そんな・・・・・
「シャルロッテ、諦めるしかないわ。原因不明の病気だもの。あなたの治療魔法でもこの人は治せないはずよ」
「あ、あたしに患者を見捨てろって?そう言いたいわけ?」
「残念だけどそういうことになるわね」
急患人を見捨てることにシャルロッテは悔しそうにしていた。勇者一行の聖女なら誰でも救える、そう思いたいが現実は残酷だ・・・
「ど、どうしてこの街はこんなにひどい状態になったんでしょうか。魔王軍に占領されてた街だってまだここまでひどくはなかったですよね・・・」
「わからない、わからないことだらけよ。どうしてこんなことになったのか想像もつかないわ」
疑問が山積みだが、まずはこの国がどうなったか、あの旗は何なのか気になるので、街行く人に聞いてみた。
「ねえちょっと質問があるんだけど。あの旗はなんの旗かしら」
「知らねえのか嬢ちゃん。ま格好を見る限りよそから来たっぽいから知らなくて当然か。あれはなうちらの国の旗だよ」
あれが国旗!?あの旗に描かれてるのって多分鎌と槌だと思うけど、たしか農家の象徴だから・・・政権が変わった、つまり王族は追放されたってこと・・・?そ、そんなことあるかしら。この街が変わっただけよね・・・
「じゃ、じゃあその国の名前はなにかしら」
国名を聞くと衝撃的な答えが返ってきた。
「ヴィンセンヌ、ヴィンセンヌ社会主義共和国連邦だよ」
社会主義・・・共和国連邦・・・・・?社会主義って何なんだ。それに共和国って共和制ということだろう?王族はどうなったんだ。
街ゆく人に聞き回っていると衝撃的な事実を知った。革命が起き各地の領主は追い出され、一族郎党皆殺しになったと・・・
信じられない、信じられるものか。私の家族が皆殺しになっただなんて。きっとどこかで生き延びているはずだ。そうじゃなきゃ私は”復讐”を果たせないじゃないか。