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閑話3 大失態の裁き

昨夜発生した東ルーペ駐屯地の襲撃事件で保管していた武器を一式を奪われた挙げ句、死傷者が多数発生し基地は機能不全になっていた。このことは基地司令官である連隊長にとって失態、大失態であった。このことが知られたら懲戒免職、最悪の場合強制収容所送りになる可能性さえあった。連隊長は当然のごとく隠蔽しようとし、連隊付きのチェキストにも上層部に報告しないよう懇願した。


「なあ、お前報告しないでくれよ。お前だって処罰は免れないだろ?なあ、数日でもいいからお願いだ!この通り!」


「お断りします。第一私が処罰されるということはありえないですし、報告しないであげる義理もありません。それより報告しないほうが自分のキャリアを傷つけることになります」


チェキストはあっさりと連隊長の頼みを断り、このことはすぐに上層部に知れ渡った。不安になりコマールか隣国にでも夜逃げでもしようと考え始めたころ、1通の封筒が送られてきた。


「なんだこれ、どこから送られてきたんだ。は、さ、参謀本部!?まじかよ・・・」


封筒を開けてみたところ中には1枚の紙が入っていた。広げてみてまず最初に目に入ったのが「招集命令」という文字だった。


「なになに、招集命令。昨夜発生した事件の事実確認のため、連隊長は直ちに参謀本部へ出頭せよ・・・だと?・・・チクショウ!チクショウ!!チクショウ!!!」


参謀本部に呼ばれたら最後どうなるのか。自分の運命を悟った連隊長は怒りのあまり机の上にあった資料を全部はたき落とし、物にあたっていた。しばらくすると怒りは収まり、逆に涙が溢れてきたのだった。


「ああ、俺の人生どうなるんだよ・・・」


悲しみに暮れる中、招集命令を出した参謀本部では何がおきたのか状況を把握できずにいた。報告にかかれていたのは「基地が襲撃され、武器が盗まれ、部隊が半壊した」ということだけである。そこから自体を重くみた参謀本部は連隊長を直接スタリーングラードまで呼びつけ、事実確認をすることにした。


「だ、第七連隊長のピエール大佐であります」


連隊長が指定された会議室に入るとそこには参謀総長、参謀次長、陸軍司令官と副司令、さらには作戦局長、兵站局長、人事局長など錚々たる面々が集まっていた。これほどの大物が集まっているということは・・・・・連隊長は自らの運命を悟り始めた。


「よく来たな同志。おととい何があったか、まずは報告書を読んでみることにしよう。なになに、基地・・・それも最重要拠点の東ルーペ駐屯地に侵入されたあげく、武器一式を盗まれ多数の死傷者が出たと。まったくやってくれたな・・・・・」


参謀総長であるレノー元帥は怒りを超えもはや呆れるばかりであったが、一方の陸軍司令官は「ふざけているのか!」と言いながら熱々のコーヒーで満たされたカップを連隊長に投げつけた。


「も、申し訳ありません。ですがあの規模の魔法攻撃は想定外でして、かくいう私も攻撃を喰らってしまいしばらくは行動できなかったのです。確かに私にも多少の非はあるでしょう。ですが我々はあれを防げる訓練はされていません。想定外、そうこれは想定外だったのです」


「想定外」その一言は陸軍司令官のさらなる怒りを買った。静観していた他のメンバーも次々に参加し、連隊長には非難が浴びせられた。


「想定外・・・想定外だと?弁明の余地なんてあるはずがないだろう。これほどの被害、貴様一人で償える規模ではないぞ。どうしてくれるんだ!」


「お、お許しください、お許しください・・・・・」


連隊長は泣いて許しを懇願したが、それを受け入れるものは誰ひとりいなかった。


「奴らは我々より圧倒的に劣る技術水準で生きているんだぞ。この鍛えられた我ら赤軍が負けたと党に知られたら貴様はどうなるだろうな?」


今まで党に歯向かったもの、面子を汚すようなことを犯したものがどうなったか、それは彼もよく知っていた。連隊長はこれから自分の身に起こることを想像し、完全に顔が青ざめた。


「まあまあ落ち着け。彼を叩いたって問題は解決しないぞ」


「いや、それでもこいつのしでかしたことは俺が許せん!」


陸軍司令官らが連隊長を袋叩きにする中、兵站局長と人事局長は今後の方針・・・穴埋めを話し合っていた。


「いやー困りましたな。あの数の武器を揃えるには相当な時間と金が必要ですのに、なんてことをしてくれたのか」


「全くだ。でもそちらはまだ生産するだけですからマシでは?こちらは金では買えないものだからな」


「確かにそうですな。金なら補正予算案な出せば済む話ですが、人命はそうもいかない」


人事局長は今回の死傷者数を見ながら紙になにかを書いていった。


「これが現在の人的資源だが、そのうち損害を引くと・・・ずばりこうだ。これだけの兵員、他の部隊から捻出するにしても補充しきれないぞ。ただでさえ人手不足だというのに、追い打ちをかけられてもう気分は最悪だ」


「それに数字上はそれだけいても実際動かせる兵はもっと少ないのでしょう?大半は徴兵されたばかりの素人だと聞きましたが」


「あながち誤解とも言えませんな。訓練を終えて正規兵になったやつも結局は予算不足と教官不足でまともに訓練はできてないし、まして実戦経験なんてないですから。今から新兵を用意しても訓練して使い物になるまで時間もかかりますし、本当にどうしたものか」


二人が議論をしている中、陸軍司令官は満足したのか席についた。議論を重ねたあと参謀総長は締め直し、コーヒーを口に含んだ。


「これから貴様の処罰を宣言する」


参謀総長は息を整え、ゆっくりと議論の結果を伝えた。


「ピエール大佐、貴様を連隊長から解任し中佐に降格処分とする。また減給2分の1の6ヶ月とする。配属先は追って連絡する。この件について賠償は求めない。以上だ」


「あ、ありがとうございます!同志レノー元帥の寛大さは決して忘れません」


降格処分にされた挙げ句給料まで減らされたというのにピエール”元”大佐は大喜びしていた。それもそのはず国家保安委員会に身柄を渡されるのを回避できたからであった・・・


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