新たな武器を手にせよ
「皆さん、おはようございます。早速ですが人事は決まったかしら?」
「役職名はよくわからんからつけてないが、一応決めたぞ。といっても今と何一つ変わってないけどな」
辺境伯から名簿が渡された。読んでみると確かにそのままといった感じだ。特段変える必要がないということだ。
「わかったわ。まずは改めて階級制度を導入し直すわ。これを見て頂戴。赤軍が使ってる階級制度よ」
赤軍の階級が上から順番にずらっと書かれた、手書きの紙を一人ひとりに渡した。
「軍という組織は上から国家、私達の場合は国王ね。今は不在だから私が代理よ。そして次に政府の組織があるわ。そうね名前は軍務省にしましょう。この組織の長は大臣、担当はコマール辺境伯よ。コマール大臣、あとはよろしくお願いするわ」
いきなり私が話を引き継げと言うからアンリおじさんはかなり慌てていたが、事前に用意した紙を渡してあげると、軽く目を通して話を続けた。
「えー軍務大臣・・・に就任したコマールだ。アリシア王女殿下から引き続き、私が説明させていただく。今後王立軍は赤軍と同じく陸軍と海軍を設置する。そして総軍を仕切るのが参謀本部だ。海軍はまだ海沿いを奪還できていないためその時に考えるとして、まずは陸軍から考えるとしよう。まず参謀総長にはマクロン・・・大将を、参謀次長にはペレーズ中将を任命する。また陸軍司令長、次長もそれぞれ兼任してもらう。それでほかのやつだが・・・」
大将、中将ときたら次は少将だ。誰もが同じ階級として任官できると思っていた。しかしコマール”大臣”が放った言葉は彼らの予想とは違うものだった。
「グレゴワール、君を少将に任命する。残りは全員大佐とする。以上だ」
誰もが不満そうにしていたがそれを言葉には出そうとしなかった。しかし一人だけそうではないものがいた。あの若者だ。立ち上がると机を叩き大臣に抗議を始めた。
「ちょっとまってください。なんであいつだけ少将なんですか。俺達全員同じ防衛隊長じゃないですか」
「君はそう思っているのか。けどなそれは違うんだよ。いくつか防衛拠点あるが、その中でもルーペ峠が最重要拠点なのはわかるだろ?そこの防衛隊長が序列的に一番上になるのは必然だろ。それともそんな事も考えたことがなかったのか?」
まだなにか言いたげな表情をしていたが、私が睨みつけると慌てて席についた。
「グレゴワールを師団長としてお前たちの防衛隊はその下にある連隊として再編する。とっても奴らの基準で考えると、現状の私達の規模はせいぜいこの連隊と言われる規模だろうな」
いまいちピンと来ていないようだったので、席を離れて現状の赤軍の規模を黒板に書き始めた。
「向こうもゴタゴタで再編は完了していないでしょうけど、それでも総員15万人はいると思われるわ。それを考えると最低でも一個師団は用意してくるでしょうね」
向こうが最低でも一個師団、こちらは裏方まで合わせて一個連隊に満たない規模だ。到底太刀打ちなぞできない規模だ。しかしまだ猶予は残されている。
「そ、そんなので太刀打ちできるんですか!考えはあるんですか!」
「あるに決まってるでしょうが!」
私が机を叩くと、騒がしかった室内は静まり返った。
「はあ、続けるわよ。まず防衛側は敵より半分の兵力があればいいとされているわ。これはあなた達でも知っているでしょう?それで半分というのは二個連隊よ。つまりもう一個連隊を用意できれば防衛はできるはずよ。けど一つだけ条件があるわ。それは向こうと同程度の技術、練度が必要ということよ」
「つまり騎士団の倍の人数を集めて全員を教育し直すということですか?いくらなんでもそれは非現実的では・・・」
「やるしかないわ。さもなければコマールは陥落し、私達は住民もろとも粛清されるだけだから・・・」
どれだけ説明しようが、不安だけが残っていった。誰もが無理がある計画だとは思っている。しかしやらなければ滅びの運命へいざなうだけなのだ。
「ですが兵士を集めたとして勝算はどのくらいで・・・?」
「うまくいけば五分五分といったところかしら。けどここには魔王を討伐した勇者とその一行がいるのよ?間違いなく勝てるわ。私が保証する」
相手は魔法も使えないただの人間だ。魔王軍と比べれはへでもない。必ず、必ず勝つと、そう誓った。
「みんなよく聞いて。間に合う間に合わないじゃない。間に合わせるのよ。今から街中の住民を徴兵しなさい。できる限り多くの若者を集めるのよ。力がありそうだったら女でもいいわ。とにかくたくさん集めなさい。期限は明々後日までよ。それまでにライフル銃は用意するから。そしてあなた達の訓練も同時に行うわ。以上よ」
会議が終わるとすぐに騎士、いや大佐たちが出ていき、残されたのは私とマクロン大将、グレゴワール少将になった。一旦休憩時間を挟んだあと、私は三人を、グレゴワール少将は精鋭部隊を呼びにいった。
「アリシア、あんた軍隊の指揮経験あるわけ?」
「え、もしかして忘れたの?シャルロッテ。3年前か4年前だったと思うけど、ランスを奪還したとき現地の騎士団と一緒に行動したじゃない。その時先頭に立って指揮したの私だったと思うけど」
シャルロッテはうーんと考え込んでいたが、思い出せたようだった。
「・・・あーあったわね。忘れていたわ」
「忘れていた」という一言を聞くとエルマは一人で悲しみ始めた。
「あれを忘れるなんてひどいですシャルロッテ。あのとき僕が騎士団を協力させるためにどれだけ苦労したか覚えていないなんて・・・」
「そ、そう。わるかったわね・・・」
シャルロッテが反省をしていると、しんみりとした雰囲気をぶち壊すように話にベルニスが飛び入り参加してきた。
「えーなんの話ー?私にも聞かせてよーーー」
「はいはいはい。会議始めるから話はあとにしてあげるわ」
駄弁っていると騎士たちが集まり始めた。装備はこの前見たまんまだ。それもそのはず武器を更新するにはまず敵から奪わないといけないからだ。
「みんな集まってくれたわね。これから作戦会議を始めるわ。まずは地図を見て頂戴」
机の上にある地図に注目が集まった。現在地に白いピン、峠の頂上に青いピン、そして目標地点に赤いピンを刺した。
「ここ、この赤いピンの場所が敵の前線基地よ。名前は東ルーペ駐屯地。コマール侵攻のために現在絶賛準備中で付近の基地の中ではダントツで兵力と武器の数が多いそうよ」
グレゴワール少将は地図をまじまじと見て、指をなぞって距離と経路を計算し始めた。
「これは・・・ルーペ峠からはそこそこ離れていますね。敵地のど真ん中というわけじゃないですがこれはこれで・・・・・それで目的はなんでしょうか」
「今回の目的はその武器を奪うことよ。最優先目標はライフル銃、それ以外も小型のものなら持っていけるだけ持っていくわ」
「小型なもの・・・ですか。具体的に言うとどんな感じですかね。その見た目とか・・・」
どんな見た目なのかわからないと回収もままならないか。ライフル銃ならなんとなくわかりそうだけど、それ以外はまあ見てもわからないよね・・・
「あー、すっかり忘れてたわ。エルマ武器って持ってきたっけ」
エルマを見てみるといつもの大剣ではなくあのライフル銃を担いでいた。
「は、はい。ちょっとまっててください。今ここに置きますから」
エルマは次々に武器を机の上にならべていった。どんな見た目なのかわからないままやっても回収できないと思われるので、机の上に鹵獲した武器を並べた。ライフル銃の他は手榴弾に催涙弾、あとは拳銃だ。これはすべてチェキスト君から剥がしたものだ。
「ライフル銃と拳銃はまあなんとなくわかるわよね。あとはこの手榴弾と呼ばれるものなんだけど、このピンを抜くと数秒後に爆発する、あるいは煙が出てくるわ。使い方の資料もあるけどそれは訓練で教える予定だから、とりあえずはピンには絶対に触れない、抜かないこと。三回復唱して」
「ピンには絶対に触れない、ピンは絶対に抜かない。ピンには絶対に触れない、ピンは絶対に抜かない。ピンには絶対に触れない、ピンは絶対に抜かない」
三回も言わせることでピンに触れない抜かないことを頭に刷り込ませた。万が一爆発したら対処法を教えてないので確実に甚大な被害がでるからだ。本当に覚えたか不安ではあるが、回収したときにまたいえばいいだろう。
「作戦は夜間に実行するわ。まずは私達4人で先行して峠を制圧するわ。制圧が完了したら街道を曲がって東に伸びてる山道を通って山を下るわ。ここが山道の終わり、そこから先は森の中を進むわ」
おそらく山道の終わりであろう場所に黄色いピンを刺し、基地を指す赤いピンまで紐を結んだ。距離はおよそ7キロ、迂闊に動けば警備網に引っかかってしまうだろう。
「基地周辺についたらまずベルニスに陽動として付近の森で大規模な爆発魔法を打ってもらい、敵が一定数出払ったら侵入するわ。どこから侵入するかというと・・・」
あのチェキストに書かせた基地内の地図を取り出した。雑なものだが、読めればそれで問題はない。
「ここよ。北側から線路が伸びていて一見厳重警備されているように見えるけど、実際は警備が一番薄い箇所らしいわ。武器を奪ったら速やかに脱出、ベルニスと合流するわ。ここまでになにか質問はあるかしら」
質疑応答に移ると、すぐにいくつも手を挙がった。グレゴワール少将も手をあげていたが、適当に別の誰かをあてた。
「えっと、そこのあなた」
「質問があります。武器を回収したあとどのように運搬するつもりなのでしょうか」
運搬方法か。確かに説明し忘れていたわ・・・
「えっと運搬方法は荷馬車で行うわ。チェキスト・・・国家保安委員会の制服をシャルロッテに着てもらうわ。そして街道を移動して基地に堂々と入ってもらうわ。赤軍の連中は国家保安委員会を恐れているから身元確認もせずに入れるはずよ」
「なるほど、事前に味方を基地内に送ると。それで内部構造まで把握するわけですね。それなら脱出するときはどうするんですか?」
「荷物を満載にしたときか、敵が完全に我々の意図を理解したときよ。脱出するときは列車を爆破して時間稼ぎをするわ」
会議が終わる頃には陽が沈み始め、作戦準備を終えた頃には陽が完全に沈み、世界は闇に覆われた。集まった兵は40人、一個小隊規模だ。基地を襲撃するには足りないかもしれない、しかし彼らは精鋭中の精鋭だ。必ずや成功するであろう。
「作戦行動中は決して姿を見られないこと。そして誰一人脱落しないこと。それでは作戦を開始するわ」