コマールの麓への旅路
「ふあぁー、よく寝れたわ。やっとラビーニュについたわね」
「や、やっと・・・?アリシアは朝食も食べずにずっと寝てたじゃないですか。僕は何度も起こそうとしたのに・・・」
「そ、それは・・・つ、疲れてたからよ。結構な数のフェロースウルフと戦ったし、それに長を討伐したのも私じゃない。もしかしたら一番討伐したのも私だったりして」
討伐数を自慢しようとしたらベルニスが突っかかってきた。
「えー、一番討伐したのは私だと思うけどなー」
「なに討伐数で争ってるのよ。あたしが居なければ今頃傷まみれだったのに」
昨夜の戦闘について反省をしていると長いプラットホームを抜け、駅の出口についた。
「うわー、きれいな景色ね。メーナ王国の港町とは大違いだわ」
駅から出ると眼下には青く澄んだ海が広がっていた。丘の上にある駅から海に向けて色鮮やかな建物が軒を連ね、たくさんの船が港を行き交っていた。
「潮の匂い、この街並み、なんとなく故郷を思い出すわ」
「シャルロッテの故郷も港町だったっけ」
「そうね。ここと比べるとあたしの故郷は小さな港町よ」
シャルロッテの故郷はどんな街なんだろう。気になるけどまずは目の前のことに集中しないとね。
「さてとアリシア、ここからどうやっていくつもりかしら?」
「えっと、ここからコマールまでは間に険しい山脈があるわ。一本だけ街道があるんだけどそこを歩いていくしかないわね。まあ紛争中とか言ってたし途中で止められるだろうけど、その時はその時に考えましょ」
「つまり計画なしってことー?」
「そ、そうじゃない!・・・とも言い切れないわね。けどスタリーングラードに居たときはどこまでいけるかわからなかったし、しょうがないじゃない。まあ一本道なんだから迷うことはないと思うわ」
するとエルマが地図を取り出して道を指差した。
「これが街道なんですよね。もう一つの街道はここにありますけど、もし迂回するとしても一日以上かかりそうです。急いでいるなら僕もここを通るしかないと思います・・・」
うーん地図があるから道はわかるけど、それ以外の情報が足りないわね。とりあえずここを離れる前に情報収集しないと・・・うーん、コマールに関する情報は当局に規制されてるかもしれないし、誰に聞くべきかなー。
駅の周辺をうろうろしていると、暇そうにしている警察官を見つけた。治安組織の人間なら確実に知っているはずだ。
「失礼、おまわりさん。今のコマールの状況ってわかるかしら」
「なんだ君、コマールに行くつもりか?残念だがそれはできないぜ。今すべての街道が閉鎖されてるからな。それに戦闘地域だから近づかないほうがいいぜ。捕まるだけならまだいいが、最悪流れ弾にでも当たって死ぬかもしれないからな」
すべての街道が閉鎖されてる・・・?ここ一応重要な港だから街道が封鎖されてるのはわかるけど、まさかすべての街道を封鎖するなんて。本気で住民まで封じ込めるつもりなのね。
「ほ、本当ですか?実はコマールに私の親戚が住んでるんでて、もう8年も会えてないんです。なんとか行く方法はないんですか」
「そんなことを言われてもなあ。俺たち警察の管轄外だから何もできねえよ。軍に掛け合ってみたらどうだ?」
軍に通行許可を求めろってできるわけないでしょ。はあどうしたらいいんだか。
「アリシア、どうだった?」
「すべての街道が封鎖されてるって。迂回路もないし困ったわね」
「じゃあ強行突破するしかないってことですか・・・?」
「エルマ、魔物の巣窟を通るならまだできるけどさ、軍の陣地を通るのは流石に無理よ。いくら敵対勢力の人とはいえ無闇矢鱈に殺すわけにもいかないし」
「そ、そうですよね・・・」
ほかの警察官や軍人、商人など詳しい情報を知ってそうな人に片っ端から話しかけていったが、全員行くのは不可能だ、あきらめろとしか言われなかった。
「これはだめそうね。通れる道が一つもないなら道以外を通る方法しかないと思うわ」
「シャルロッテ、もしかして山をよじ登るつもり?でもそれしか方法が思いつかないのも事実ね。ここで時間を浪費するのももったいないし、とりあえずいけるところまで行くわよ」
ラビーニュを離れてから次第に人も減っていき、村を通る回数も少なくなった。街を離れてから十数時間が経つと、ついには畑すらなくなり、あたり一面にはただひたすら広大な緑が広がっていた。休憩を挟みつつ何十時間も街道を歩き続け、ようやく麓の村にたどり着いた。
「はぁ、はぁ、ここまで長かったよー。さすがに休みたいかも」
「ぼ、僕もです」
「そうね、ここまでほぼ休まずに歩いてきた私も今日は近くの宿に泊まりましょ」
今いる村はかつて峠前の宿場町として栄えていたようだが、紛争のせいかいくつか閉店した店と宿があり閑散としていた。大通りを歩き続けたが宿の跡しか見つからず、もしかして宿は全部潰れたのではと思い始めたとき、ようやく一件だけ営業している宿を見つけた。
「すみませーん、誰かいますかー?まだ営業してるー?」
受付で待っていると裏からおばあちゃんが出てきた。
「いらっしゃいませ。客が来るなんて久しぶりだわあ。それも若いおなごだなんて」
店主らしきおばあちゃんは私たちを見ると嬉しそうにしていた。
「4人で泊まれる部屋はないかしら」
「もちろんありますわ。部屋なんてどれもがら空きですから。夕食と朝食、別料金ですけど頼まれますか?」
「今日はもう寝るから朝食だけ頼むわ」
銀貨を渡すと、おばあちゃんはゆっくりと壁に掛けてある鍵を取り、そっと受付の上に置いた。
「わかりました。これが部屋の鍵です。それと朝食は明日一階の食堂に来て私を呼んでください。食堂に来たときに用意しますから。ではおやすみなさいませ」
階段を上るとすぐそこに部屋があった。扉を開けようとするとシャルロッテが寄りかかってきた。
「ちょっとシャルロッテ、大丈夫?もうすぐ部屋だから頑張ってよ」
「ア、アリシア。あたしもう限界かも・・・」
扉を開けると突然、シャルロッテが倒れてしまった。
「シャ、シャルロッテ!ねえどうしたの」
倒れたシャルロッテを三人でベッドまで運び寝かせてあげた。私たちも疲れ切っているので交代で様子を見守っているとしばらくして目を覚ました。
「シャルロッテ、だ、大丈夫ですか?どこか体に異常とか。僕医者じゃないからわからないですけど・・・」
「安心して、疲れて気を失っただけよ。自分の体のことはあたしが一番わかってるから」
「なーんだ。本当に心配したんだからねー」
シャルロッテを観察してみたが、本当に問題はなさそうだった。病気でないなら安心だ。
「みんな体調管理には気を付けるのよ。ここから先は魔物もいるし、軍と戦闘になる可能性もあるわ。それにここの山は険しくて過酷だわ。どこを通るにしても山を越えるまでは万全な状態でいないと私はもう寝るわ。みんなも早く寝なさい。じゃああおやすみなさい・・・」
何十時間もろくに眠れていないため、布団にはいると気絶したかのように眠りについた。