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プロローグ

街中の至る所にプロパガンダポスターが掲示され、建物の屋上にはこれまた別のプロパガンダ看板が設置されている。内容はどれも「万国の労働者よ、団結せよ!」「労働によって未来を築く!」などの勇ましいスローガンと党に貢献する労働者の姿だ。


だが現実に目を向けるとどうだろうか。確かに共産党の理想通り人々は互いのことを同志と呼び合い、常に前向きなことを話している。しかし常に人の目を気にし、政治批判と捉えられないように政治の話を避けているのが果たして本当に健全な姿なのか。


きれいに整備された大通りを一歩外れると人民警察の警備が薄れ、この街の本当の姿が見れる。パンを買う金すらなく乞食をする者、病気で倒れている者、そして恐喝で金を奪い取るもの。そこには平等のびの文字は一切ない。


「これは酷い有様ね。革命を起こして特権階級を追放して、その結果がこれとは笑えないわ。たったの10年でここまで貧しくなるなんて。私がまだヴィンセンヌに住んでた頃はもっとマシだったわ」


「そーなんだ。でも革命が起きて良かったんじゃない?ずっとアリシアの


時は10年前、旧ヴィンセンヌ王国に遡る。


「アリシア、貴様はいつになったら能力に目覚めるんだ。今までこんなやつはいなかったぞ。王族の恥だ!」


「ご、ごめんなさいお父様・・・」


私の両親ははっきり言って最低最悪のクズだった。長男である兄ばかり甘やかし、私にはなんの愛情も注いでくれない。そればかりか兄まで私に関わろうとしなかった。それは私にはなんの”能力”がなかったからだ。


かつてヴィンセンヌの国を設立した建国王にはある特殊能力があった。それがなんであったか定かではないが、それ以来王族には15歳までに特殊能力が発現するとされている。例えば私の父である国王ははるか遠くのものを見れたり、兄は空間を操作できる能力を持っている。


しかし私はその特殊能力が一向に発現することがなかった。王族として最低限、舞踏と礼儀作法は覚えていたが、両親が求めたのはそんなことではなかった。特に才能もなかった私が唯一得意だといえたのは勉学ぐらいだ。ただでさえ長子相続を重視する王族において能力もない女ははっきり言って不要な存在だったのだ


そんな私を家族は軽蔑し、メイドにすら相手にされないようになった。そして15歳になったとき私は必死に能力を開花させようとしたが努力は実らず、失望した父に言われた。「アリシア、お前はもう私の娘ではない!この国から出ていけ!」と。


私は護られるはずの近衛騎士たちに宮殿から無理やり連れ出された。必死に抵抗したものの、ひ弱な少女に騎士がやられるはずもなく、そのまま隣国オストリア公国に追放されたのであった。


それからは地獄が続いた。はじめはヴィンセンヌの王女だからと楽観視していた。しかし今まで仕事人を見下してきた私は「労働」という発想はなく、渡されたわずかなお金もすぐに消えてしまった。生活が困窮しだしても働くことなく人々に助けを求めたが、ただで心優しい者などいなかった。物乞いのような姿をした、いや物乞いそのものであった私を誰もヴィンセンヌの王女であることを信じず、相手にしてくれなかった。


誰も救いの手を差し伸べないなか、ついに支援をしてくれるという人が現れた。しかし金を得るには対価が伴う。無条件で支援をするという典型的な詐欺に騙され奴隷として連れ去られそうになったとき、一人の優しい騎士に救われた。


その騎士ははるか海の向こう側、メーナ王国という国の出身だった。私は海をわたり、母国からはるか離れたメーナ王国の王都でその騎士のもとで暮らし始めた。家事でもすればいいのか何をすればいいか困っていると、彼はそれよりも生きる術を教えてくれた。その中には戦う方法もあった。私はそのとき城では指一つ触らせてくれなかった剣を初めて握った。訓練を始めるとすぐに扱えるようになった。私には剣術の才能があったのだ。その人のもとで鍛錬を重ね、王国中の誰よりも優れた剣術を会得した。


メーナ王国で暮らし始めてから5年が経ったとき、世界を脅かす魔王が現れたという知らせが入った。私はかつて王族であるという驕りから、権力を振りかざして人を困らせてばかりだった。だから人助けをしたい、勇者になり魔王を討伐したいと思った。


私が勇者になると言ったとき、誰もが無理だと言った。しかし騎士の助けで私は王に謁見し、正式に勇者を、魔王討伐を命じられた。はじめは仲間は誰もいなかったが、旅の道中で仲間を見つけることができた。


聖女のシャルロッテ・メディオクリス、戦士のエルマ・ヴァリッチ、そして魔法使いのベルニス・ブラスマ。みんな癖は強いが、頼りになる仲間たちだ。


旅を始めてから約5年、私達はついに魔王を討伐した。勝利を知らせるためこれまでに通ったすべての場所を巡り、ついに最終地点であるメーナ王国の王都の目前に迫った。


「はあ、平和っていいわね。戦いが起きてないなんて少し前だったら信じられなかったわね」


「ええ、そうですね。僕も平和が一番だと思います。冒険者もずっと戦っていたいわけじゃないですし・・・」


森を抜けるとついに王都の姿が見えてきた。ここに返ってくるのも実に5年ぶりだ。昔を懐かしんでいると、守銭奴のベルニスが金の話を始めた。


「ねえみんな、いくらもらえると思うー?。金貨500枚、それとも1000枚かな。魔王を討伐したんだから冒険者ギルドのしょっぼい報酬じゃなくて、これぐらい大金もらえるよね!」


「そんなに貰えるかしら。金貨100枚でも多いと思うけど。それよりまずは金を返すのが先じゃない、ベルニス」


「そうよベルニス。あんたはとっとと金を返せって言ってんのね」


「うっ。わかってるよ。シャルロッテ、金もらったらちゃんと返してやるって」


「約束よベルニス」


私達の乗る馬車は王宮に続く大通りに差し掛かった。勇者の姿を一目見ようと街中の人が集まり、私達の姿が見えた瞬間歓喜の声が上がった。


「みんな、僕達のことを見つめています。は、恥ずかしくて死にたいですぅ」


「何言ってるのよエルマ。勇者一行の凱旋よ。もっと誇らしくしなさいよ」


ゆっくりと大通りを通り抜け、王宮に入場した。この城に来るのも5年ぶりだ。あのときは大した金もくれずに追い出されたんだっけ。懐かしいなあ。


「みんな国王の前では無礼のないようにしてよね」


「はーい、アリシア姫」


「ベルニス、その言い方やめてほしいんだけど・・・」


玉座の間に入ると、国王が待っていた。私の父とは違う温厚なお方であり、それ以上に威厳を感じさせられる。


「勇者アリシア、戦士ヴァリッチ、聖女メディオクリス、魔法使いブラスマ。よくぞ魔王を倒してくれた。褒美として君たち全員に騎士の称号を与えよう」


王は玉座から降り、一人ひとりに剣を肩に当てていき騎士の称号を与えていった。


「ぼ、僕も今日から騎士ってこと・・・?」


「そうじゃ、ヴァリッチ。誇りなさい」


エルマは騎士の称号をもらい、感動のあまり涙を流していた。私?私はもともと姫だからそこまでの感動はないわ。


最後に渡された麻袋にはたんまり金貨が詰まっていた。爵位やら家やら他にもいろいろ褒美はあるが、なんだかんだ言ってベルニスはお金に一番喜んでいるようだ。


「わーすごい。金貨600枚も。こんだけあったら一生遊べるよ。えー何に使おっかなあ~」


すかさずシャルロッテが、ベルニスが持っていた金を奪い取った。


「あんたが金を持ってたらろくな使い方をしないからあたしが管理するわ」


ガヤガヤ騒いだあと、荷物をまとめみんなが玉座の間から出ていった。私も去ろうとしたら国王に呼びつけられた。


「勇者、いやアリシア姫よ、儂の養子にならんかね?」


国王の養子・・・つまりメーナ王国の王族になるってこと?たしか国王には子どもがいないはずだから必然的に私が跡継ぎになる・・・ってことか。悪くはないけど・・・しばらく考えたあと結論を出した。


「国王陛下、魅力的な提案ではございますが、今回は遠慮させていただきますわ」


「そうか。残念じゃな。王族としてしっかり教育を受けておるから跡継ぎとしてふさわしいと思ったんじゃが。気が変わったらいつでも声をかけてくれ、アリシア姫よ」


姫か・・・故郷に戻れたら姫って呼ばれるのかな。それともみんなもう忘れたかな・・・


このことは忘れよう。今日は魔王討伐を祝わないと。


「待ってたわよ、勇者様。一体何をしてたの。ほら早く座りな」


「ごめんごめん、国王に止められちゃって」


私が座るとウェイターさんが酒を持ってきてくれた。全員揃ったので祝杯をあげた。


「魔法討伐を祝して、乾杯!」


ひゃーうまい。これが勝利の味か。最高だ。


「やっぱり酒は最高ね。それも魔王を倒した記念の味は格別だわ」


「シャルロッテ、いっつも酒を飲んでるじゃない。魔王と戦ってるときですら飲んでなかった?まあ勝利の味が格別なのは認めるけど」


まったくこの酔っぱらいが。まったく聖女らしくないな。だから教会を破門になるんだ。それでもヒールはしっかりやるから文句言えないんだよなあ。


「ねえみんな、この5年間いろんなことがあったわね」


「そうだな。一番やばかったのはシャルロッテが連れ去られたときか?」


あれは4人でパーティーを組んだ直後だったっけ。まだお互い戦い方をよくわかってなくて、油断してた隙に連れ去られたんだったね。救出するにも時間かかっちゃったし。


「あのときは、その油断してただけよ」


「はう、シャルロッテがお酒を飲んでたから・・・じゃないんですか?その時僕見ちゃったんです隠れて飲んでたのを・・・」


ああ懐かしい思い出ばかりだ。お酒を何杯も飲んでいると、完全に酔っぱらってしまい呂律が回らなくなった。


もう酒を飲むのをやめようとしたとき、シャルロッテの一言で酔いが冷めた。


「これであたしらの冒険は終わりか。長かったような、短かったような・・・」


旅の終わり・・・いやまだ終わりたくない。まだ終われないんだ。父の顔を拝むまでは。


「何いってんのシャルロッテ。魔法を倒したから終わりってそれじゃつまらないでしょ。だからみんな、私といっしょに旅の続きをしない?」


「アリシア、面白いこと言うもんだなあ。よし、乗った」


「あたしも賛成よ」


「ぼ、僕も賛成ですぅ」


私の提案にみんな賛成してくれた。まだ若いから旅を続けなくちゃね。


「満場一致ね。それじゃ新たな旅を始めるわよ。私の故郷ヴィンセンヌへ!」



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