露見
それからまた月日が流れた。
ジョンとメアリーの夫婦関係は悪化の一途を辿るばかりであった。それは一般的な意味での倦怠期などという生易しいものではなく、特にジョンにとってはまさに生き地獄であった。そのせいか、ジョンも伝道旅行に出かけて、家を留守にすることが多くなった。それが、メアリーには夫の女性関係への疑惑へと繋がり、ますます不機嫌となるという、悪循環に陥っていた。
──後世の研究者の中には、家庭の事情にもかかわらず精力的に伝道に邁進するジョンを評価する者も多い。しかし実際のところ、いつ修羅場と化すかわからない家にいるより、外で福音を語る方が幾分か心が休まったことであろう。
そんな状況にもかかわらず、周りの人々はウェスレー夫妻を見て理想的な夫婦と思い続けていた。
ところが、そんな周囲の人間たちも何かおかしいかと思い始めた。まず、ジョンが日に日に痩せ細っていったのである。
「ウェスレー先生、最近かなり痩せてきたのではありませんか?」
そのように尋ねられると、メアリーがしゃしゃり出るのだった。
「ええ最近、宅は忙しくてついつい痩せてしまうのですよ」
しかしそのようなごまかしにも、やがて限界が来た。
メアリーの発作的な癇癪は時と共に酷くなり、とうとう人前でも隠し通すことが難しいほどになっていた。
ある日、ジョンが伝道旅行からの帰りに教会の礼拝に出席したのだが、メアリーはすこぶる機嫌を悪くしていた。というのは夫の旅行先に、メアリーが怪しんでいた女性がいたことを耳にしたのである。
メアリーは、夫が旅行中その女性と何かしたと勘繰った。そこで彼女はジョンの姿を見つけると駆け寄って行き、鬼の形相で掴みかかった。
「よくも私の留守中にあんな女と!」
怒り狂ったメアリーはジョンの髪の毛を鷲掴みにし、ブンブン振り回して投げ飛ばした。すっかり痩せこけて骨と皮になっていたジョンは、まるで嵐に襲われた木々のように揺れていた。周囲の人々は、ジョンがノックダウンし、最早動けなくなってようやくメアリーを止めに入った。