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アルダスゲイトの影  作者: 東空塔
第一章 ソフィー
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聖餐拒否事件

 ソフィーがウィリアム・ウィリアムソンと結婚しソフィー・ウィリアムソンとなったのは1737年3月12日のことだったが、それ以前に彼らはジョンの目から逃れるように、サヴァンナから22マイルほど離れたサウスカロライナのスプリーバーグという町に移り住んでいた。彼らは結婚後もしばらくそこにいて、ジョンの前に現れることはなかった。


 ところがその年の8月になって、ウィリアムソン夫妻はひょっこりジョンが牧会する教会に現れたのである。その日は第一日曜日で聖餐式の行われる日であった。

「それでは聖餐を受ける方は前に出て来て下さい」

 ジョンが聖餐式の初めにあたりそのようにアナウンスすると、多くの信者が席を立って前に進み出て来た。その中にはソフィーもいた。

「キリストは言われます。『取って食べなさい。これは私の肉です』神の祝福がありますように」

 そう言ってジョンは一人一人にパンを千切って渡していった。ところがソフィーの順番が回って来た時、驚くべき言葉がジョンの口から出て来た。

「ミセス・ウィリアムソン、あなたは聖餐を受けることは出来ません」

 ソフィーは一瞬我が耳を疑った。そして尋ねた。

「どうして……受けられないのですか?」

 成り行きを傍観していた信者たちがざわつき始めた。その中でジョンは冷静に説明した。

「英国教会規約によれば、三カ月以上無断で礼拝を欠席した場合、総会議決権および聖餐を受ける権利を失うとあります。私はその規則に従わなくてはなりません」

 ソフィーは目に涙を浮かべた。そこにはジョンへの失望と悲しみが宿っていた。その時、やり取りを見ていたソフィーの夫が怒鳴り込んで来た。

「いくら規則だからって、こんな大勢の前で恥をかかせるようなやり方をしなくてもいいだろう! こんな横暴が許されていいのか! あんた、このままじゃ済まさんからな!」

 ウィリアムは泣きじゃくるソフィーの手を引いて荒々しく教会から出て行った。


 トーマス・コーストンはこの騒ぎを聞き、これをまたとない復讐の機会と捉えてウィリアムに近づき、話を持ち出した。

「僕がウェスレー 師に対して訴訟を起こすですって?」

「そうだ。君は教会で叫んだそうじゃないか。『こんな横暴が許されていいのか、このままじゃ済まさん』とね」

「確かにそう言いましたけど……やはり聖職者を訴えるなんて……」

「何を言うか、聖職者だからこそ厳しく裁かれるべきなんだよ。心配するな。私は汚職を通してサヴァンナ中の弁護士に顔がきく。その中から優秀な弁護士をつけてやろう。そうすればこの件での勝訴は確実だ」

 コーストンに説得されたウィリアムは、早速事件翌日の8月8日、ジョン・ウェスレー に対する名誉毀損の訴状を提出した。

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