02. 救世主は助けない
場所を変えて。
我が組織「オリエント」(組織に関する詳しい説明は追々させていただく)にて、話し合いは遂行されていた。
大きな部屋に、大きなデスク。どこかの「人類補完計画!」を語っていた人物にそっくりな態勢の一条。
そして、一条と向かい合うようにして立たされている(冷静さを取り戻した)、俺。
隣には、大嫌いなアイツ―――――――№400がいた。
待ちきれなくて、俺はつい聞いてしまった。
「なあ、おい。さっきの、電話」
「その話は、あとで。私の話を最後まで聞き、了承していただけたら、彼女の現在地をお教えします」
「おい! 言っとくけどな、この組織のボスは俺だぞ!」
「現在は私です。それに、自分から『オリエントは解散だ、俺はボスを下りる』などと言っていた人が、今になって言うセリフがそれですか?」
「あァ!? なんだと! 一条、お前いつの間に口答えするようになったんだ!」
「ごほん! 喧嘩なんぞにくれてやる時間はございません。静粛に」
この野郎……、前はもっと素直だったのに!
「貴方は解放されたとはいえ、完全に自由の身というわけではない。非人類、危険生物として、まだ監視対象です」
「……ふん」
そう言われちゃ何も言えん。俺が監獄にいる間に、俺はボスではなくなり、さらに政府は俺を危険物として処理したのか。
「ですが、貴方の力が必要になった。だから貴方を解放したのです」
「どういうことだ」
「――――ツキナミが、完成した」
「ハッ! そんなわけあるか」
俺は、冗談だろ、と言い捨てる。
「ツキナミプロジェクトは、俺がかつて参加したプロジェクトだ。人間による、『最強を作り出す』実験、だったか? だが、俺が研究所ごとぶっ壊したはずだ」
ツキナミ、なんてバケモノ。あれは、世界を崩壊させる兵器だ。
「第四研究所、そのことについては俺より№400の方が詳しいだろ」
厭味ったらしく言ってやった。
№400は少しも気にする様子はなく、早く進めろと目で指示した。
「チッ……」
「プラズマの言う通り。そこにいる№400は、第四研究所の実験体の一人です。だから彼から、近衛夕陽が記録していた内部記録データを入手しました」
「……ふうん」
「何か?」一条は、睨みを利かせる。
「いいや、何も」
もう、近衛の事をとやかく言うつもりはない。言えない。
「では、何か言うことは?」
一条は、俺の返事に不満を抱き、言う。
「―――――――――――俺が悪かったよ」
うまく謝れない俺にとって、最上級の謝罪だ……これが。
その言葉に一条は納得したようだった。
「……ほんっと、本気になると手が付けられなくなるんですから。まあ、そんな返事で済む話じゃないんですけどねー!」
うげっ、こいつめんどくせえ。話題をそらすか。
「しかし、にわかに信じがたい話だな。完璧に完全に、完成しきってるのか? ツキナミは」
だとしたら、もうすでに人類は滅んでいそうだ。まあこれも完全に俺の憶測ではあるのだが。
「完成した、とはいっても今すぐ動き出すわけではありません。だから、それが完全に動き出す前に、貴方には力を取り戻していただかなればなりません」
俺の四肢を奪った奴は明確に三人いる。
右腕を持って行った、ツインテールの少女。
左腕を持って行った、緑色の髪をした少年。
そして、右足を持って行った……あれは、誰だったか。思い出せない。なんでだ?
「って言っても、最弱過ぎる俺に、力を取り戻す術はないだろ。返り討ちにあって、今度こそ終いだ」
すると一条は、ふふんっと笑う。
「そのために、助っ人を呼んだのではありませんか」
助っ人? 一条の視線の先にいる人物を見て、愕然とした。
まさか、まさかまさか。
「コイツが、助っ人だなんて……」
隣に居座る、№400。相も変わらず、黒コートに帽子、そして赤マフラー。顔も変わらず、無表情。
「そのまさかのまさかです」
「ふざけるなッ! コイツとタックを組めって? んなもん、やるわけねーだろーが!」
思わず、声を荒げる。
「第一、コイツは俺が殺す。手を組む前にな! そんな話なら俺はもう帰る!」
踵を返し部屋から出ようとする。
「あの子の事はいいんですか? まだ住所、聞いてませんよね」
その言葉に俺は、ぎくりとした。
そうだった、まだ俺は電話でしかあの子の声を聞けていない。
ようやく牢から出れたのに、ここで機会を逃すのは――――でも、コイツは絶対にない!
「……い、いいんだよ! あの子のことは……どうにかして見つけ出す、から……」
扉の前に立つ。
それでも必死に、一条は言う。
「貴方のせいで、人類が滅んでもいいんですか? あなた、仮にも救世主なんでしょう? この世界を救うためにやってきたんでしょう? 私を助けてくれた時も、そう言ってたじゃないですか!」
「貴方が私たちを助けないで、どうするんです! プラズマ!」
「――――五月蠅ぇな。俺は元々人間、きらいなんだよ。滅ぼうが、何だろうが、もうどうだっていいんだよ」
「俺はもう、人類を救済しない」
扉が開き、また閉じる。
説得、できなかった。
一条は、立ったまま下を向き、落ち込んだ。
一条の机にあるのは、メモリデータとツキナミに関する資料。
自由の女神を握りつぶしてしまうほどの巨体。少女のような見た目のそれ、ツキナミは、予想では一日足らずで世界を滅ぼす。
目から放たれる閃光は全てを焼き、体中を覆っている黒い体液は自らを守るだけでなく外敵を溶かす。
確認されていないだけで、もっと恐ろしい何かを持ち合わせているかもしれない。
こちらにあるのは、われわれ人間と、そして世界を救うはずの救世主。
しかし今、こちらには何もない。
思わず、机にしずくが落ちた。
下を向く一条に、手が伸びる。それは黒い手袋を付けた、手であった。
「僕に少し、時間をくれないか。多分何とかなるから」
慣れているんだ、と№400は言う。
小さくうなずけば、彼は笑った。
「あなたは、いち早くツキナミの所在地を探索してくれ」
ぱたん、と扉が閉じて静かになる。
その頃の俺はというと。
スクランブル交差点。
信号が青になるのを待つ女子高生が近くにいた。黒髪で、猫背で、メガネで、スマホをガン見して。
陽キャとはかかわりたくありませんみたいな感じで、そこにいる女子高生。
俺は迷わず声をかけた。
「おい、お前、スマホ貸せ」
はい! そろそろ(?)あとがきコーナーに書くことが無くなって参りました! 夏神ジンと申します!!
pv数、中々伸びません! 大変に伸び悩んでおります!
そこで! ぜひともコメント欄にこうしたほうがいいんじゃない?的なことを書いていただきたく思っております!(おねだり)
ぜひともよろしくお願いいたします!
読んでいただきありがとうございました!