01. 最強の救世主、復活
春、三月。東京、とあるビルの屋上階。そこには、牢獄ある。
何故、最上階にあるのかと言えば、できるだけ俺を地上から離れた場所に置きたかったからだろう。
分厚く、固い扉が開く。
「ようやくだ」
後ろで一本に結われた橙色の髪が、風になびく。
服は、ここに来た時からずっと同じ、フード付きのスウェット。
いかにも普通の人間に見えるだろう俺は。
しかし、よく見ればおかしい。
肩から先がない、両腕。右足もなく、右手左手がなくても右足がないと困るだろうということで、ここだけ義足をつけられた。右目も潰されたため、包帯が巻かれている。
治ることのない傷を持った、重症患者である。
扉の左右には、看護師ではなく看守。
俺が出てきたというのに、いたわりの言葉一つかけられないのか? 俺だぞ!
俺は看守の顔を見た。
「……見知らぬやつだな。おーい、鷹司、九条! どこにいる?」
約五年間、とある理由で牢獄に閉じ込められていた。解放されたと思えば、見知った顔は一人もいない。
「静かにしろ! 大声を出すな! 釈放されたとはいえ、まだ監視対象なんだぞ!」
「―――――あァ?」
ガンを飛ばせば、警官も負けじと反抗する。
「お、お前! 釈放されたばかりだというのに、なんだその態度! 戻りたいのか!? っひ!」
苛立ちを隠せない俺は。
「……お前、上から目線だな」
目を赤から蒼に変化させ、看守に警告する。
「こ、この野郎! 調子に乗りやがって!」
看守が殴りかかる。が、しかしそれを俺は華麗に避ける。
「まさか、本当に俺の事を知らないのか? わざと看守にバカを持ってきたんだな」
「何をわからないことを!」
降ってくる拳を、左足で蹴り、さらに空中で警官の頸に蹴りを入れた。
倒れた看守の背中に、ドスンッと足を置く。
俺が勝つ、俺が強い。それを誇示するように。
「――――俺は、唯一無二の救世主様だぞ」
「ひれ伏せ愚民~ッ!!!」
ふはははははっ、ふははははははっ!と笑っていると、そこへ。
「プラズマ!」
メガネをかけ、茶色い髪をポニーテールにしている女がやってきた。
「一条、お前今の今まで何をしていたんだ。五年もの間、俺を閉じ込めやがって」
グレー色のスーツは前と変わらなくて、でもなんだか少し大人びた顔つきをしていた。
「はい、すみません。遅くなりました」
キリっとした顔が、一瞬で緩む。その顔が懐かしい。
「実は、あなたが解放されたことには、わけがありまして……でも、それを話す前に……」
一条の後ろに隠れている影。それが、ちらり姿を現す。
「ッ!」
見た瞬間、俺は殺気立った。
「その顔は……、その色は……」
同じ顔、死んだ目、蒼い髪。頬に描かれた、「№400」の文字。
真冬に切るような黒いウシャンカ帽に、黒い外套、そして「赤いマフラー」。ああ知ってるよそのマフラー。そうだよそうだよ。
あいつは俺たちにも同じように、編んでくれたさ。
ずっと、ずっと、ひた隠しにしていたことが、目の前のコイツによって全部、表に出た。
俺の髪は、真っ赤に染まって、怒りに身を任せるよう変わっていく。
そうだよ、お前の事は知っている。
自分のデータを基に作られた、量産型クローン。同じ顔、死んだ目、蒼い髪。同じ顔、死んだ目、蒼い髪。同じ顔、死んだ目、蒼い髪。同じ顔、死んだ目、蒼い髪。同じ顔、死んだ目、蒼い髪。同じ顔、死んだ目、蒼い髪。
無尽蔵に作られる彼らが、無制限に殺されていく。
でもそれを招いたのは俺自身。
「――――――――――あ、ああ……」
頭の中で、渦巻いて離れない。
あの研究所での光景が。
№400。それが、最後の実験体の番号だった。
「プラズマッ!」
一条が叫ぶ。
「お待ちください……お願いだから待って、プラズマッ!」
俺は一条の言葉を聞かず、そいつの腹を蹴って外へ突き出した。
ガラスの破片が飛び交う中、俺が激突したのは隣のビル。円形状にへこみ、その中にぽつん、俺とコイツがいる。
「この程度か、元最強。本気なら、存在ごと無くしてくるかと思っていたのに。ああ、それともこの顔と共に、近衛夕陽を思い出したか? お前が殺したッ――――」
俺は、そいつの顔を蹴った。
「黙れ、黙れ! お前に、俺たちの何が分かる!」
蹴る、蹴る、蹴る。
もう一生、これは見たくなかった。
「どうして、お前が生きてるんだよ!」
口が開いた途端、止まらない、止まらない。蹴って、蹴って、蹴って。
「お前じゃなくて、夕陽が生きていればよかったんだ! あいつが裏切ったりしなきゃよかったんだ! あいつの所為だ! あいつの所為だっ!」
蹴って、蹴って、蹴って。
「俺の何が悪いってんだ!!!」
最後の一発を決めようと、足を上げた。
『やめて!』
その声に足が止まった。
俺の目の前に、№400はスマートフォンを出した。そこに映っていたのは、恋しい名前だった。
『お願いだから、その人を殺さないで』
凛としていて、やわらかくて、桜の花のような、少女の声。君の声。
「……っ」
それは、俺の命を懸けて守らなければならない、愛しくてたまらない人の声。
「そんなこと言われちゃ、殺せねえじゃねえか」
俺は、その場に崩れて座り込んだ。
「―――――――――――――――――、はあ」
ようやく、と言わんばかりに№400は息を吐いた。
……あんなにも、明日もこの時間に!みたいなこと言っていたのに、三十分遅れ……
初心者としては、ピッタリより数分ずらす的なことを、様々なサイトで勉強させていただきましたので、この時間に投稿することが、超絶不安です。 伸びてください!お願いです!
この小説を最後までお読みいただいた皆様!ぜひともコメント、ブックマーク、評価等つけていただけると、大変喜びます! 貴方が一人目になって、夏神ジン古参アピールをかましましょう!
ありがとうございました!