15.一条と九条
『――――ツキナミプロジェクト、と言ったな』
『その誘い、受けてやるよ』
その声はプラズマだ。
『人間が作り出す最強、とくと見届けてやろうじゃねぇか』
面白がって、楽しそうでまだ何も知らないプラズマは、さも自分が最強であることが当たり前であるかのように、言っていた。
『良かったです!! 私共としてもやりがいがあるというものです!』
もう一つの声の主は、若い男性の声だった。
『もちろん俺が最強で、お前たちが作るのは二番目だ。だからといってジャンクでも作ったら承知しないからな』
『わかっておりますとも!』
『はははははッ! 面白くなってきたじゃねぇか! 人間ごときが、どこまでできるのか俺が最後の最後まで見届けてやる!』
『はははははッ! はははははッ! ははははは―――――』
ガサガサと音を立てて、動画の再生が終わる。
終わると同時にシオンはメモリデータをパソコンから抜き取った。
「今の彼が聞いたら、恥ずかしさで破裂しそうな内容だな」
そんなことを悠長に話す、シオン。
地下二階。デスクと、データが並ぶ部屋で、シオンはこのメモリデータを見つけた。
メモリデータには、可愛らしいマスキングテープの上に書かれた名前が貼ってあった。
持ち主の名前は、「近衛 夕陽」
しかし、シオンには理由が分からなかった。なぜならここは、近衛夕陽が所属していた研究所ではないからだ。
この階には、生きている人間はいなかった。死体ばかりが転がっており、パソコン、机、椅子、いたるところに血がついている。
けれど、このメモリデータは少しも汚れていない。血の飛沫の範囲としては、汚れていなければおかしいのに。
誰かが、僕がここに来ることを意図して残しておいた、とした考えられない。
と、そこで耳に付けていた通信機が鳴った。
『シオン! 無事ですか!?』
一条の声だ。
「大丈夫。多分今のところ、誰も死んでいない」
『本当ですか!? 数分前、プラズマのとの通信が切れました。貴方とは何とか繋がりましたが、プラズマとはまだ通信ができません。何か問題が発生していませんか!?』
なるほど、というか忘れていた。
連絡を入れるのを、忘れていた。
「ああ、そうそう。エレベーターで最深部に突入していた途中、ツキナミらしき手が侵入し、プラズマを掻っ攫っていった。エレベーター内は僕と彼しかおらず、あともう少しだったんだが連れて行かれた」
シオンは、はっきりと事実を述べた。嘘偽りなく、真実を述べた。
少し経ってから、一条は口を開き始めた。
『あ、あ、あ、貴方ねええ――――ッ!!!!』
口を開いたと思えば、耳に直で怒鳴られ、びくっとしたシオン。
『もうちょっと早くに連絡してくれませんか!!』
一条の口は、いったん開くと誰にも留められないようで、奥で困っている他の者の声が聞こえた。
『全く! 頭に来るじゃないですか!!!!』
「一条、ちょっと落ち着こう。確かに僕も」
『ええ! 貴方のせいです! 私が落ち着くんじゃないんです! 貴方の落ち度に問題があったんです!! 故にあなたが落ち着いていてはダメなんです!!』
と怒りをぶつけられる、シオン。
『こちらとしては、まだまだ状況を把握できていないというのに! ええ、貴方のの言うこともわかりますよ! この研究所は何かしらの妨害電波を扱っているようで、通信は不安定! アシストなんてできやしませんよ! だから、連絡しなくてもいいって? ああそうですねっ! そうでしたよっ!』
「そ、そこまで僕は言っていない」
『そうですか! そうでしたか! もう知りません!」
そう言ってから、ドアが閉まる音がした。
『―――すまない、アイツは爆発すると覚めるまでに時間がかかる。ここからは、俺が繋ごう」
一条から変わって、男の声がした。
『俺は一条と違って、特熱意も何も無く、冷静沈着で寡黙であり、面白みもないかもしれないが、それでも構わないなら続けてくれ。無理なら、チェンジしろ』
チェンジ、だなんて言いにくいことを言えるほど、シオンの人間に対する強度は強くない。
それにしても、なんというか、寡黙と言っておきながらよく喋るし、おもしろい奴だ。
「そういう人の方が、親しみやすくて楽だ。ぜひともよろしく頼みたい」
『なら続けよう。九条だ、よろしく頼む』
シオンは、その名前で思い出した。
右メカクレの細長メガネのあの男か。スレンダーな見た目で、先頭にたけているイメージはなかったが、やはりこういった方面の仕事をしているのだな、とシオンは気づいた。
『さっそくだが、今の状況を簡潔に教えてくれ』
その質問に、シオンは先ほど同様、事実をしっかりと簡潔に述べた。
「エレベーターを見つけ最深部へと向かっていた。地下一階は鷹司と二条が、二階は僕がいる。だが、未だ一階メンバーとは連絡が取れていない」
『一階に向かうというのは?』
「それについては考えた。が、エレベーターはプラズマを連れて行った後、全く動かなくなり、階段も見つけたがコンクリートの破片を敷き詰められていて出入りできないようになっていた」
「僕らは、完全に嵌められたらしい」
僕らは分裂させ、プラズマのみを狙うために。
『……まだ、策はある。階段を通過できるように、爆弾に近いものを見つけてくれ』
「生憎だが、ここにはそういった物はなさそうだ」
『なら、鷹司と二条の方にそのことは連絡する。あとは……ボスの状況だ』
『ボスが今一人だとすると、相当に危ない』
「大丈夫、彼は無傷だ」
『何故、そう言い切れる』
「今、僕は彼の視界をハイジャックしている」
「ここに来る前に、一線繋いでおいたんだ」
シオンの能力である接続は、相手を用いれば強力な能力になりえるが、長く接続し続けることはできない。
短期決戦には向いているが、こういった潜入作戦には向かない。
しかし、この程度ならば繋いでいても、導線に熱は籠らない。
『そりゃすごい。なら、ボスは今どうなっている?』
「―――話している、ガーネットと。至極温厚な雰囲気で、静かで、まるで戦闘を行う様子がない」
「!」
その時だった。動きがあったのは。
ガガガガガガガ―――――――――――――。
ハイジャックしていた視界に砂嵐が走る。
そして、何かが衝突する音がする。
その時。
「――――は」
胸元から吹き出す血しぶき。
「ぐ――――」
シオンはそのまま倒れ込む。
『……シオン? シオン!』
名前を呼んでも、返されることはない。
皆様こんにちは!夏神ジンです!今日からプラズマの方は朝投稿になったので、見慣れない方も多いとは思うのですがよろしくお願いします!!
いや〜早起きは良いですね!心が洗われる気がします!
読んでいただきありがとう御座いました!ぜひぜひブックマーク、コメント等々よろしくお願いします!