12.二人きりで
「――――一条、今の様子は」
真夜中。
表向きは只の廃墟、病院である研究所。
侵入してから数分が経ったが、特に異常は見られない。
『はい。現在早急に、研究所の把握を行っております。ですが、あまりよろしくありません』
一条には、現在の中の様子を俺の耳に装着されたカメラから把握してもらえるよう指示していた。
その方が、敵の状況が分かり包囲が簡単になるからだ。
『意図して誰かが、電波を操っている可能性があります。ですので、現場にいる二条によるアシストをお勧めします』
「了解した」
『とりあえず、地下につながるエレベーターまたは階段を見つけてください。そこから奥へもぐりこみましょう』
「わかった」
「それからプラズマ、義手義足の加減はどうでしょうか』
「上々だ。前に付けてた義足よりもずっといい。手足が戻ったような感覚だ」
って……ん? 頭から首にかけて、何かを感じる。やわらかい、ふんわりとした何かを。
すぐにその正体に気付いた。
「……鷹司、やめてくれ。俺はお前の子供じゃないんだ」
「ええ~? 良いじゃないですか。こういうのも久々なんだし」
などと可愛らしい口調で言っているが、れっきとした男だ。
もう一度言っておこう。こいつは男だ!
確かに、顔は柔らかな印象でべっこうのメガネをかけた好青年だ。だが、体は逆三角形。俺の肩幅の二倍はある。また、戦闘にもたけており、俺の足技はこいつお手製だ。
お気に入りのFN P90が、まるでハンドガンほどの小ささに見えるその胸板を、鷹司は押し付ける。
俺が気が付き忠告しても、さらにさらに胸を押し付けてくる。
しかし……もちもちしていて、ふっわふわで、堪らな――――堪らなくなんかない!
「や、やめてくれ! 僕には大事な人がいるし、ましてや男にそんなことをされたくはない!」
「ええ~?」
「あっ、あっちにお前の欲望を満たせそうなやつがもう一人いるじゃないか!」
指差したのは、シオンだ。
「ん?」
本人は全く話を聞いていなかったようで、状況が呑み込めていない。
「そうでした! 新人であるあなたとは、思うように意思疎通ができていなかったところです!」
そう言って、瞬間的に近づいた鷹司。
その速度にシオンが追いつけるはずはなく、鷹司の胸にあっという間に引き込まれていった。
「やめてくれ! ちょっと! そんなところ触らないで――――ッ!」
「そう言わずに、ああ、新しい匂いですね。可愛いです。シオン、大好きですよっ!」
可哀そうに、新たな餌食となってしまったのか……シオン。
「この恩は一生忘れないぞ。我が友人よ」
俺は格好つけた。
その声は聞こえていないようで、その後も。
「うあああああああああああっ! ど、どうして……こんなことを……あっ……!」
「これは、私なりの愛の表現なのです。だから、シオンにも受け止めてほしいのです。うふふ、うふふ、可愛い。あなたはどこを触っても、もちもちなのですね。もっと、触らせてください!」
「うぎゃあああああああああああああああああっ!」
などという、見ていられない気持ち悪いワールドが広がっていくのだった。
鷹司の少し斜めを行く、仲間への愛情は壮大である。
「テメェら、うっせんだよ。敵に気付かれたらどうすんだ」
そこで、真面目にやっていた二条が、口を開いた。
「もう気づかれてますよ! こんなに大声出してたら! 其れよりも、手を動かしましょう! 皆さん! 夜にしか活動できないんですよ! そんなことやっていたら、日が暮れちゃ……」
二条が、とある棚を退けるとそこに、お出ましの物が現れた。
古ぼけたエレベーター。
俺たちはそれに乗り、下へ降りるボタンを押した。
あるのは、一階、二階、三階。
「鷹司と二条は、一階に降りろ。ツキナミと、あの三人に関する情報を集めろ。順に降りていき、最下層でまた会おう」
「了解しました」
鷹司、二条が、同時に言う。
「シオンと俺は、先に最下層で奴を討つ。鷹司たちの仕事が終わるのと同時か、俺たちが先に終わるのがベストだ」
一通り喋った後、すぐ地下一階に付いた。
「では、ボス。またあとで」
そう言って鷹司は手を振り、二条と共にエレベーターを出た。
俺は、シオンと二人っきりになった。
案外最下層に付くのは遅くて、まだまだかかりそうだ。
中は二人だと静かだ。何か、話題があった方がいいのか。
そう思って、口を開こうとした時。
「ねえ、近衛夕陽はどんな人だった」
シオンが先に、口を開いた。