ボリリンピック
<登場人物>
何木清志郎
本作の主人公。34歳。ネーマン会社のスポーツ記者。
無類のボウリング好きだがストライクが決まれば台風になると伝説になるほどボウリングのセンスは無かったが、緑に弟子入りする事で才能が開花していく。学生時代はサッカーをやっていたため、それなりに体力はある。
当初は緑を利用してでも金目にしようと狡猾な部分が目立っていたが、徐々に勝つことが楽しくなり、本来のスポーツの目的に気づいていく。
得意投げはダブルハンド。白眼鏡が特徴。
深坂緑
本作のもう一人の主人公。12歳。アマチュア全国大会2連続優勝保持者。
ボウリングに関してはメダルを取るのは確実だと言われるほどの才能の持ち主だが、オリンピックの競技に入らないスポーツには未来が無いと母親に言われボウリングを捨てる決意をしたが、何木からボウリングの指導を頼まれ早くにも教育者の立場になる。
母親譲りの美少女だが、サバサバした性格で口が悪い。アドバイス能力は子供ながら的確で見抜く才能も指導者としての技量もあるが、感情的になり暴力性も見られる。
得意投げはサムレス投法。
根岸百恵
何木の会社の上司だが彼より年下。シングルマザー。喫煙者。
巨乳で妖艶な雰囲気をさらけ出し、丸メガネが特徴的。
学生時代はフェイシングでインターハイに出場するほど運動神経万能でスポーツとしての知識は深い。
深坂青子
緑の母親。バツイチ。世界ボウリング選手権の元候補選手。
いつかボウリングをオリンピックの競技にする約束を指導者達としたが、結局、競技になる事は無く、大人達は責任逃れで去っていった。
この事から自身の娘に同じ思いをさせたくない一心から緑にはボウリングを遠ざけていた。
爺さん
緑の祖父。バッティングセンターを経営しており、緑と何木の特訓には全面的に協力する。緑の行き過ぎた指導にアドバイスをするなど重要な役目を果たす。
高齢だが、活発的で姿勢がいい、ただよく年齢をネタにされる。元野球部で元沖縄の自衛官。
ボリリンピック‼ keiTO
オリンピック会場で女性ボウラーの対決盛り上がり、観客と試合状況を視聴者に教える解説者と実況者、最後の試合をするアメリカ代表のマーガッレト・デューク、日本代表の深坂緑、最後のフレームを打ち合う。
得点はマーガレットが242点、緑は233点。
マーガレットサイドは祈る様に待機する。
緑はレーンの前に立ち、緊張をほぐすため目をつぶり、鼻で小さく深呼吸し、力強く目を開き覚悟を決めた顔をする。
解説者「さぁこの勝負もいよいよ大詰めとなりました、先ほど最後の投球したマーガレット、ストライクを取り10点を獲得、現在のスコアは242点、深坂緑のスコアは232点、10点差も開いております、逆転するには最後の一投でストライクを取るしかありません、9点以下であれば負けとなります、さぁ深坂、運命の一投、投げたー」
緑は両手で持ち、指に穴を入れずに助走をつけ、体をねじ込ませて投
げた、ボールは回転しながらカーブしガターすれすれながらストラ
イクを取った。得意技の“ハリケーン”。
解説者「どうだー、ストライーーーク、決まったー、得意投げの“ハリケーン”で勝利を収めるー、深坂緑、金メダル獲得だー」熱く解説する。
緑とそのサイドにいる監督達と観客は立ち上がって歓声を挙げ、緑は監督達に飛びついて抱き合う。
マーガレットは泣き、父親のマーガリン・デュークの胸に抱かれ、マーガリンも慰める様に強く抱きしめる。
緑は相手チームのデューク親子が抱き合う姿を見て、昔を思い出す表情をする。
緑「(弟子とは師の背中を見て育つ、師とは決して弟子の前で弱さを見せてはならない、師は優しさ、賢明さ、経験を備えておかなければならない、でも、これだけで指導者になれるのだ、他には何もいらない)」
緑の表情は笑顔だけど、どこか寂しそう。
緑「(私の弟子は・・・22歳も年上だった!)」
〇ボウリング場 夜型
サラリーマンA・B・Cと主人公の何木清志郎
深坂緑と深坂青子の登場
夜のボウリング場で仕事帰りのサラリーマン4人がストレス発散にボウリングを打ち合い、サラリーマンAの最後の投球をする。
ボールリターンから会社の社長似のハゲ頭が描かれた絵のボールが出てきてAはタオルでハゲ頭の部分を意識して磨く。
A「しゃちょーうー、お願いしますよ、次ストライク取ればターキーで俺の勝ちなんですから、満額ボーナスくださいよー」楽しそう。
B「社長頼みます、外してください」手を合わせて願う。
C「ガーター、ガーター」手拍子。
何木「・・・」
Aはストレートでストライクを決める。
A「しゃちょー――」タコ顔で投げる。
A「うほーーストライーーク」ガッツポーズ。
B「あーちくしょー、社長のバカ野郎!」
C「三連続ストライクかよー」
A「よーし、それじゃー採点するぞー」
何木「ちょっと待てよ、俺のスコアがまだ残ってんだろ!」怒声。
C「あーそうだったな、それで?」
何木「そ、それでって、何勝手に勝負終わらせて逃げようとしてんだよ!」
B「いや別に逃げてねーよ、つうかお前ドベだし、ここまでやってスペアたったの3回、スプリット4回、ストライク一本も無し、あとは全部ガター、勝負は決まってんだろ」
何木「諦めるな、諦めたらそこで試合終了だ、タップタップ」頬を三回、軽く叩く。
C「いやもう諦めろよ」
A「まぁちょっと待て、俺に言い提案がある、何木、もしお前が次の投げで、一発でストライク決めたら、お前に超絶に冷えたビールを奢ってやる、正し外したら俺達三人にビールを奢る、どうだ?」
何木「・・・言ったな?」指を差す。
A「言わせたな?」笑顔で指を差す。
何木はボールリターンからハゲ頭ボールを取り、レーンの前に立ち構える。
何木「社長、俺に元気を分けてくれ」目をつぶって鼻から小さく呼吸する。
B「ストライク取ったら、今までの勝負がパアだぜ?」
A「スポーツは何が起こるか分からないの、奇跡は起こるけどアイツの場合はすでに奇跡だ」
C「アイツも弱いくせに何であんなにボウリングやりたがるんだろうな?」
何木は助走をつける同時に隣のレーンで同じ様に助走をつけ、同時に投球する緑。
何木「おりゃ!」目をつぶったまま勢い良く投げる。
目を開けると隣のレーンのストライクを見てしまい、自分がストライクを取ったと勘違いする。
何木「(ゆっくりと目を開ける)よっしゃーフォー、ストライークー、ヒーハー!」雄叫びを上げる。
何木「どうだー諦めない根性、タップタップ」自慢する。
A・B・Cは緑のキレのあるカーブを見て口が開いた状態で呆然とし、
何木の存在を忘れてしまう。
B「・・・今の見たか?」仰天する。
A「ああ、スゲーストライクだ」
何木「だろ、俺の渾身のストレートだ!」
C「ハァー? お前ガターだろ」
何木「・・・あれ?」自分のレーンを見てガターだと気づく。
何木は緑の存在に気づく。
緑は無表情のままサムレス投法し続け、ストライクを決めまくる。
A「なんちゅーキレのあるカーブだ、あの年頃の子が、あすこまで完璧なカーブが投げられるなんて」
B「スコアはどれぐらいなんだ?」スコア表の画面を見る、
A・B・C「セブンス⁉」脅威する。
B「7回連続ストライクだと‼」
C「しかも2フレームはスペアだが、1はストライクだ、つまり合計8回もストライクを入れてる」
B「素人じゃない、プロか?」
A「プロでもそうそうに出せる記録じゃねー、あれは間違いなく・・・天才だ!」
何木「・・・」険しい顔をして緑を見つめる。
場面は変わりボウリング場の外の駐車場で車の助手席に乗る緑、運転席に乗ってる青子。
緑は静かに助手席に乗る。
青子「・・・満足した?」小声で言う。
緑「・・・うん」満足しなさそうに返事をする。
青子は車を発進させる。
ボウリング場の出口に出て急いで緑を探す何木は助手席に座ってる緑を見つけ、走って駆け付ける。
追いつかなそうに見えたが視界から消え、まるで下から飛び出した様に現れ緑を驚かせる。
何木は車を止めて貰う様に窓をパンパン叩く。
何木「あのーすいません、ちょっと開けて貰えますかー、怪しいものじゃありませーん」
青子は車を止め、困惑しながらも緑に窓を開けさせる。
何木「あーすいません突然、いやー実は先ほどお嬢さんのボウリングをやってる姿を拝見しまして、いやーすごかったですねー8回も連続でストライクするんですもん、度肝抜かれちゃいましたよ、あっ失礼、自分スポーツライターの何木清志郎と申します」車の窓ら辺に肘を置いて早口で喋り、名刺を渡す。
青子「・・・スポーツライター」小声。
何木「あのーもしお時間よろしかったら、少し取材をさせていただきませんか? お時間は取りません30分、いや20分だけでもお願いします、ぜひ将来についてのお話を」メモを出す。
青子「すいませんが、取材はお断りです、お引き取りを」急いで帰ろうとする素振りを見せる。
何木「あっちょっと待ってください、そんなまだ、まだ1分も経ってないですよ、あと5秒で1分ですけど」
青子「・・・・・はい、5秒経ちました」
緑は窓を閉め、何木は肘が挟む。
何木「あーちょっ、そういう事じゃなくて、お願いです少しだ、痛い、痛い、腕が挟まってる、あー!」地面に転倒する。
サラリーマンA達は何木の後ろを呆然と立ち尽くす。
何木「ちくしょー、名前ぐらい教えてくれよー!」悔しがる。
何木「・・・帰ろ」立ち直る、小声。
B「いやビール奢れよ」ツッコム。
緑は貰った名刺を眺める。
青子「・・・緑」緑を見つめる。
緑「分かってるよ」名刺を外に捨てる。
〇ネーマン会社 社内 昼間
根岸百恵とハゲ社長の登場。
社内はスケート選手の“飯田南“がオリンピックで金メダルを取
った事が話題になり、記者達は情報収集しようと行動しだす。
頭上にはテレビが置いてあり、飯田南のニュースが流れている。
何木はタバコを吸いながら飯田南が記載されている新聞の一面の記事
を見る、内容は“弱虫、南ちゃん、念願の金メダルを獲得し涙を流
す”。
何木は昨日の天才少女が忘れられず、隣のデスクで仕事してるAに話しかける。
マスコミ「飯田南選手、オリンピックで金メダルを獲得おめでとうございます、現在の心境は?」テレビの映像。
南「え~なんて言ったら・・・金メダル取れた事が夢なんじゃないか
なって、今はとにかく嬉しいです」涙を流しながら、笑顔で答え
る。
D「今日の特集は飯田南だ、一面にびっしりと貼れ」
E「取材に行ってきます」Dに伝える。
D「おう、いいか彼女の地元でガキの頃からの友達を見つけて取材しろ、いいかお前ら過去の記憶は貴重だ、しらみつぶしに調査して来い」
部下達「はい!」大きく返事。
何木「・・・」タバコを吸いながら新聞を読み、デスクに置いてタバコを吹かす。
何木「いやー昨日のボウリングは凄かったなー」Aに話しかける。
A「えっ、俺の三回連続ストライク?」
何木「ちげーよ!」ツッコム。
何木「あの8回連続ストライクを決めた、カーブ投げの女の子だよ」
A「確かに凄かった、あれは紛れもねー天才だ、でもな、所詮ボウリングだ、オリンピックにもなってないスポーツを記事にしたって、俺達の飯の種になりやしねー」
根岸「そうとも限りませんよ」唐突に横入りする。
何木「根岸さん!」
根岸「いま世界中で最も人気なスポーツ、サッカーはマイナースポーツでした、しかし、どんな貧困な国でもボール一つあれば簡単に遊べる、そしてオリンピックになるほど普及しました、もしかしたらボウリングもオリンピックの一つに数えられるのも夢じゃありません」キリっと言う。
A「・・・」言い返せず無言になる。
根岸「何木さん?」
何木「ハイ」
根岸「社長がお呼びです」
場面は変わり、太陽の光で反射している社長室に入る。
何木と根岸は横並びに立ち、何木は手を後ろに組み、根岸は手を前に
組む。
社長は二人に背中を向け窓の外を見る。
社長「・・・まず聞く、未来とはなんだ?」
何木・根岸「!」意味不明の質問に頭を悩ます。
社長「未来とは・・・分からない、いや見えない、私にはもう未来が少ない」悲しそうに自分のハゲ頭をなでる様に触る
社長「人は見えない未来に興味など持たない、見える過去を見たがる」力強い声。
社長「有能な君らに、ある任務を命ずる、まだ熟してない金の卵を見つけてこい!」
何木「あのー社長」戸惑いながら言う。
社長「いいか、時間はいくらかけても構わん、出来るだけ小学生くらいの子がいい」
何木「社長、いくら何でも」
社長「我がライバル社“ロッコウ”の新聞記事を見ろ、“弱虫、南ちゃん、金メダルを獲得し涙を流す”この弱虫、何故弱虫だと言い切る、それは奴らが幼少期頃から飯田南に目を付けていた
からだ、まだ彼女が無名の頃で芽が出るのを待ち続けた、そして飯田
は金メダル保持者になり、世間は彼女に注目!」両手でタオルを持ち
ハゲ頭を磨く。
社長「今じゃロッコウが保存してた過去のデータが他社に高く買われている、それだけじゃない、この弱虫という表現も彼女の個性を調べ尽くしたからだ、過去の記録は国宝になる!」
何木「ですが社長、飯田南は幼少期の頃は目立った成果は出していませんでしたが、体が未発達なら当然の事、秘めていた才能は誰よりもピカ一でしたよ?」
根岸「ロッコウは、彼女の存在能力に気が付きオリンピック出場をさせるサポートをした、スポーツ記者なら選手を見極められる分析能力も持ってて当然ですね」
社長「そうだ、隠れた才能を見つけるのも我々の仕事、いいか、将来オリンピックで金メダルを取れる、金の卵を見つけてこーい」
太陽の光がハゲ頭に強く反射して二人は眩しく目が開けられない様
になる、ドラゴンボールの太陽拳みたいになる。
何木「くっ‼ 太陽拳」眩しがる。
場面が変わり、喫煙所でタバコを吸う二人、何木は座りながら、根岸は壁に寄り掛かりながら吸う。
何木は社長の無茶ぶり要求にイラつき、その様子を見ながら小笑いする根岸。
何木「じゃけんじゃねーよハゲ親父、金の卵を探せだー、テメーの頭が金ピラピンに光ってんじゃねーか!」イラつく。
根岸「金を探すのは困難ね、取れないのが大半だもの、まずオリンピック出れるだけでも限られた天才なんだけどね」笑顔。
根岸「めんどくさい、仕事を押し付けられたわね」
何木「そういえば、根岸さん所の娘さん、フェイシング始めたんですよね?」
根岸「ええ、親の影響でね」
何木「もしかしたらワンチャン」期待する。
根岸「無理ね、金どころか、純銀すら届かないわ」
何木「うわー自分の娘なのに辛口―、でもまだ小学生なんでしょ、コレからなんじゃないですか?」
根岸「何年スポーツ記者やってると思ってるのよ、天才肌かどうかは見れば分かる、あの子には期待できる様な素材は持って生まれてない、努力だけじゃどうにもならない時が来る、それがスポーツよ」真剣な顔をする。
何木「確かにスポーツは才能です・・・でも才能や努力だけじゃ数千万人の器の席には立てませんよ、才能や努力だけじゃなく、その天才を咲かせる“教え”も重要なんですから」真剣な顔をする。
何木「昭和に誕生したヘビー級天才ボクサー“マイク・タイソン”は最短KOを連続で出し、その中でも1ラウンドKOを引退するまで21回も出した、これこそ天才の中の天才、でもそんな逸材を咲かせたのは、マイク・タイソンのトレーナー“カス・ダマト”マイク・タイソンも彼を慕い唯一心が開ける存在だった」
根岸「でもその師が死に、マイクは不祥事が連発し堕落、きっとマイクにとって彼は最高の指導者でもあり親の様な存在だったのかもね」
何木「いくら類まれない天才に生まれても、その才能が隠れてしまったら意味がない、相性の師と出会うは・・・運です」
根岸「スポーツにも運が必要なのね」
何木「才能と努力、そして指導するのも天才的じゃないと逸材は生まれません」
根岸「頼み癖は良くないわよ何木さん、運は頼るものじゃなく味方にするもんなんだから」タバコを捨てる。
根岸「私は適当にどこか当たってみる、何木さんは?」
何木「実は頭の中に一人いるんです」笑顔。
〇夕方 ボウリング教室 入口
何木は緑を探すため、ボウリング教室から出てきた大勢の子供達とブサイクな女性の先生に尋ねる。
子供達「先生さようなら」
先生「はい、さようなら」
何木「あのーすいません、自分スポーツライターの何木というものでして、実はこういう子を探してましてね」自分で描いた下手くそな似顔絵を見せる。
先生「・・・これは・・・誰ですか?」下手くそすぎて唖然とする。
生徒「下手くそー」
何木「名前は分からないんですけど、髪は長髪、年齢は11か12歳ぐらいで美少女、ボウリングが超絶上手い」
先生「美少女でボウリングが上手い・・・ハッ!」考えて思いつく。
何木「誰か思い当たりましたか」喜ぶ。
先生「もしかしたらウチの娘かもしれません」
何木「本当ですか、ぜひお会いしたいんですが?」
先生「双葉―、筋トレしてるところ悪いんだけど、ちょっと出てきてー、記者の人が会いたいんだって」
双葉「はーい」出てきたのは大学生ぐらいの筋肉女子でボウリングボ
ールをダンベル代わりにして、ランドセルを背負ってる。
双葉「うっす!」
何木「・・・」唖然とする
先生「娘の双葉です、ボウリングが上手い美女です」
何木「小学生ぐらいだって言ったでしょ」冷静にツッコム。
先生「これでも実は小学生なんです」
何木「そんな発達が早い小学生いるわけないでしょ、いたとしてもパス」
子供A「もしかして、ボウリングが上手いって深坂じゃね?」
子供B「あーそうだね、ここら辺でボウリングが上手く私達ぐらいと言えば緑ちゃんしかいないもんね」
何木「その緑ちゃんって子はどのくらいボウリングが上手いかな?」
子供B「そりゃ抜群的に上手い、この前の全国大会で優勝したもん」
子供A「その前の大会でも優勝してたぜ、大人でも叶わないぐらいに
レベルだ」
何木「・・・間違いない」確信する。
何木「その子、今日は教室に来てないの、それとも通ってないの?」
子供A「ううん、前まで来てたよ、でも最近は全く来ないよね?」
子供B「そういえば近頃は全然見ないな」
何木「・・・」顎を触って考える。
先生「あのーウチの娘は?」
場面は変わり夕べ遊んだボウリング場で店員に聞き込みする。
店員「あー深坂さんですか、前はよく来てたんですけどね、昨日は久しぶりに見ましたね」
何木「彼女は、ここにはどのくらいの頻度で来るんですか?」
店員「最近は来なくなりましたけど、前は週に2,3回はここに来て練習してましたよ、何時間も、あの子のフォームは人を惹きつける様で見てて飽きなかったんですけどね」
何木「今日は来てない、待ってても来なさそうだな」
場面は変わり、ゲームセンターで緑を探すが見つからず、暇つぶしにコインゲームをする。
コインゲームの高速で連打しクリアした事でコインを入れるバケツがいっぱいになる、周りの子供達は、それに惹きつけられ群がる。
子供C「おじさん、凄いね」
何木「ねぇ、こんな子見なかった」下手くそな似顔絵を見せる。
子供D「ううん、見てない」
何木「そうか」コインを子供達に渡して、諦めて帰ろうとする。
その時、子供向けボウリングをしてる緑を見つける。
何木「ん?・・・見つけた!」走って駆け寄る。
何木「そこのキミ、ボウリング好きなの?」心を落ち着かして話しかける。
緑「・・・」無言で立ち去る。
何木「あーちょっと待って、おじさんの事、覚えてるでしょ、ホラ、昨日キミの隣のレーンでボウリングしてた記者の人、名刺渡した様ね、あー頼むから待って、お願いおじさんとどこかで お茶でもしてさ、少しだけ時間をくれないかな」歩きながら必死に呼び止める。
見かねたゲームセンターの店員は変質者だと怪しみ、警察に電話しようとした所、何木は止める。
緑は構わず歩く。
何木「おい俺は誘拐犯でもなきゃロリコンでもねーよ、ただの記者だ!」怒声。
何木「あーちょっと持って、パフェ、パフェ奢るよ」
場面が変わり小さな喫茶店でパフェをご馳走して貰った緑、ボウリングボールを持って、酒瓶を10本のピンの様に並べ、喋りながらフォームを構える何木。
何木「いやー昨日のボウリング場での緑ちゃんのカーブは凄かったよ、もうキレッキレだったね、まさか僕よりボウリングが上手い人間がいるなんてねー」瓶にめがけて投げるが大きくそれ一本も倒せない。
何木「・・・あはは、それでキミにお願いしたい事があるんだ、少しだけ取材をさせてくれないか、プライベートを深く入り込む事はしない、単純な事でいい、例えばボウリングを始めた経緯、好きな有名人や出来たら両親についても教えて欲しい」メモを取り出す。
緑は無視してパフェを食べ続ける。
何木「・・・あー・・・これはビジネスだよ、ただの金儲けだと思ってくれればいい、もし緑ちゃんが将来大物になった時、今日の取材は、いつかは為になる時が来る、それにキミは可愛い、あと5年も経てばきっと新聞に“ボウリング界に女神降臨”って一面に載るよ、どうかな?」
緑「・・・取材してどうすんの、アタシもうボウリングを辞めたのに」食べ終える。
何木「やめた・・・どうして?」
緑「もっとメジャーなスポーツをやりたいの、金儲けしたいんだったら、それこそボウリングなんてマイナーでつまらないし儲からないじゃない」
何木「でも昨日、ボウリングしてたじゃないか、お母さんと一緒に、さっきだってゲームセンターで玉を投げてたじゃん」
緑「・・・おじさん、本当はボウリング下手でしょ、さっきのフォームを見たけど柔軟が足りてなくて、体勢がバラバラ、あれじゃまぐれのストライクも取れないわ」
何木「・・・」図星の顔をする。
何木「凄い洞察力だ、好きなんでしょボウリング、隠す事はないよ、好きなものを好きって言って何が悪い、否定する奴はほっとけばいいし」
緑はランドセルを間違って逆に背負い、帰ろうとする。
緑「ご馳走様」
何木「あーちょっ・・・緑ちゃん、ランドセル逆に背負ってるよ?」
緑「えっ⁉」治そうとした所、中身を散乱してしまう。
何木は手伝おうとした時に緑の0点のテスト用紙を見つける。
緑「あーもう」イラつく。
何木「手伝うよ・・・0点か・・・勉強苦手なの?」
緑はテスト用紙を見られ恥ずかしくなり急いで帰ろうとする。
何木「あー緑ちゃん!」
場面が変わり河川敷で夕日を浴び並びながら話す。
何木は何故、緑がボウリングを辞めたがってるのか聞く。
何木「どうしてボウリングを辞めたいの、それだけでも教えてくれないかな?」
緑「ママが・・・もっと為になるスポーツをやらせたくて、ボウリングなんて大した取り柄にならないから」悲しそうに言う。
何木「そんな事ないよ、今はまだだけど、いつかはボウリングもオリンピックの競技になる、キミが大人になるまで俺達がきっと」
緑「ママの頃もそうやって言われ続けてた!」言葉を止めるように怒声。
何木「‼」驚く。
緑「でも結局、そうはならなかった、大人達を信じたのに」
何木「・・・」真顔。
緑は石を拾って、水切りをする。
何木も真似をするが緑ほど凄くない。
緑「だからボウリングが世界中の人に認められるなんて夢は見ない、ライターさんも、ボウリングなんかじゃくて、もっと注目集めるスポーツを取材しなよ、じゃなね」背中を見せて手を振る。
何木は砂利の上だろとお構いなく勢いをつけて拳は握った状態で土
下座して頼む。
何木「たのもー!」
緑「⁉」驚く。
何木「キミの言う通り、俺は一度も誰にもボウリングに勝ったことが無い、それほど弱い、だから緑さん、この未熟者にボウリングを教えてください、師匠!」
緑は苦笑いしながら背中を見せて帰る。
何木は呼び止めようとするが、無視して歩き続ける。
何木「何木清志郎、一片の覚悟・・・ってアレ、師匠?」顔を上げる。
何木「分かった、パフェ奢るから、ねぇ・・・クソ、あー・・・」緑が勉強苦手なのを思い出す。
何木「分かった、勉強、勉強を教える、0点だとお母さんに怒られるでしょ、俺が家庭教師してあげて百点取らせるよ」
緑は立ち止まり無言で何木の方を見る。
〇居酒屋 夜。
何木は同僚のA・B・Cと居酒屋のふすま個室で緑に弟子になった事を話し、同僚達からは大笑いされる。
すると突然、緑から電話が掛かりバッティングセンターに来るよう命令される。
同僚のA・B・Cは一人ずつ順番に笑いながら何木に問いかける。
A・B・C「ハッハハハハハ‼」爆笑。
A「小学生の女の子の弟子になったって?」笑う。
B「しかも河川敷で土下座したって?」笑う。
C「その子から才能がないって言われたんだろ、腹いてー!」笑う。
A「ていうか普通逆だよな、師匠が歳上で弟子が年下の筈なのによ、コイツ34歳だぜ、離れすぎだろーアハハハハ」B・Cも笑う。
何木「フフ、今の内に笑っとけ、お前らから徴収された酒代は必ず取り返してやるからよ」勝利を浮かべた様に微笑む。
C「でもよ、その子はボウリング辞めたがってんだろ、弟子なんか持ったら教えていく内に体がうずいて辞めるのが困難になるんじゃないか?」
何木「それが狙いだ」
A「狙い?」
何木「プロに行けず社会人になって交流スポーツやる奴はたくさんいるだろ、学生みたいに青春も無ければプロと違って金にもならねーのに、何故やるんだ?」
何木「それは体を動かすのが好きだからだ、そうだろ?」
何木「あの緑ちゃんの目は、刺激的な戦いに飢えてる目だ、11本のピンが倒れる音がすれば、球を手放したくても手放せない、だから俺は教えられる側に回ったんだ、ついでにボウリングも上手くなり一石二鳥って訳よ」
A「コイツ、ゲスだ」
B「まぁ確かに俺達はスポーツ記者だ、情報を得てなんぼだし」
C「ボウリングがオリンピック競技になればな」
A「頑張れよ、34歳のお弟子さん、アハハハハ!」笑う。
何木「アッハハハハハハ!」便乗して笑う。
A「なんでお前も笑うんだよ、アハハ」携帯電話が鳴る。
何木「ん、緑ちゃん? はい、もしもし?」出る。
何木「えっ! 今から、いやーでも・・・あーはいはい行きます、分かりました」電話を切る。
A「どうした?」
〇バッティングセンター
深坂緑の祖父“爺さん”が登場。
バッティングセンターで緑に落ち合う。
何木は受付で爺さんと会話する。
何木は閉店の表札を見て入るのを躊躇い、まず受付に人がいるかを確認する。
何木「あのーすいません、誰かー」大声。
爺さん「はい!」下から脅かすように突然出てくる。
爺さん「うわっ!」何木と同時に驚く。
何木「うわっ!」爺さんと同時に驚く。
何木「びっくりしたー、寿命が減ったー」
爺さん「驚いたー、腰イッター、死神近づいたー」
何木「何でそっちも驚いてるんですか?」
爺さん「もしかしてお兄さん、なんきくん、なんきくんでしょ?」
何木「いえ、何木です」
爺さん「このー木、何の木、腐る木だね?」
何木「おー、その歌、懐かしいようで懐かしくない」
爺さん「緑から話は聞いてるよ、ボウリング下手なんだってねー?」
何木「(天寿全うさせてやろうか、この爺さん)」表情は真顔。
爺さん「今日は貸し切りにしといたから、好きなだけ使って」
何木「使う?」
場面が変わり、緑がジャージ姿でストラックアウトのコース前で不貞腐れながら待っている。
緑「動きやすい格好で来いって言ったでしょ」
何木「仕事の帰りでね、それでここに呼んで一体なにするの?」
緑「はい」ソフトボールを渡し、ストラックアウトのマウンドに入る。
何木「んっ、ソフトボール?」ボールを見つめる。
緑「早く入ってよ」
何木はマウンドに立つ。
ボールが大量に入っている、コンテナがある。
緑「今からあそこにある、1から9まである的をソフトボール投げで当てて、どれでもいいから」
何木「・・・緑ちゃん、俺がいくらボウリングに才能無いからってソフトボールに転校させないでくれ」
何木は手を上げ運動会の宣誓の様に緑に申告するが、グダグダ言っている何木に、喋ってる途中でボールを投げつける。
緑は投げながら怒る。セリフは「早くやれ!」
何木「ボク、何木清志郎は一生懸命ボウリングの練習に取り組み、成果が向上す、アイた‼」痛がる。
何木「パワハラ!」
緑「まずは的を正確に当てるよりも球速を早くする事を意識して」
何木「ハーイ」フォームを構える。
何木は素人構えで勢いよくボールを投げるが無意識に後方に転がる。
何木「あれ?・・・あっ! しまった、消えるボールを投げてしまった、ごめんね、早すぎちゃった、今度はもっとゆっくり投げるよ」苦笑い。
緑は後方に転がったボールを確認する。
緑「今度はちゃんと前に飛ばして」
何木「・・・はい」小声。
何木はもう一度構えボールを投げるが、今度は上斜めに投げ天井に
当たる。
何木「・・・」固まる。
緑「ハァー」ため息。
何木「・・・実は野球すらやった事なくてね、こういうのは」
緑「ちょっとどいて」ボールを持ってマウンドに立つ。
緑「まずフォームすら取れてない、こういうのはボールをしっかり抱えこんで腰を曲げて左足を飛び出すように出す!」投げる。
ボールは的の5番に当たる。
球速は百キロ出ており、その事に脅威する何木。
何木「なっ、速い⁉」
緑「はい」ボールを渡す。
緑「最低90キロは出して、出てなかったら例え的をとしてもやり直しね」
何木はボールを見つめる。
それからコンテナ一杯に入ったボールをぶっ通しで投げ続けるが、
結局、一つも的に当たらず疲れてきた所、残りボールは一つとなる。
何木は、球速は出てきたが、コントロールは上がらない。
残り最後のボールを意識して遅く投げ6番の的に当たる。
何木「ハァ、ハァ、ハァ」息が切れて膝に手を付く。
緑「球速は良いけど、命中率がダメすぎ、さぁ早く投げて」
何木「ハァ、ハァ、あと一つ・・・」ボールを手にして構える。
息遣いを止めて呼吸に集中し、思いきり投げる。
何木「イエーー、フォーーー、シックスに当たったぜーー」雄たけびを上げ、緑にハイタッチを促す。
緑「ダメ、70キロしか出してない、やり直し」冷静に言う。
何木「・・・でももう、ボールが無くて、さっきのボールがラストボールなんだよね」苦笑い。
緑「目の前にたくさん転がってるでしょ、そんな事イチイチ言わせな
いでよ、全部拾ってから投げてね」イラつく。
何木「お願いします、少しだけでいいから、少しだけ休ませてください」床に膝をついて神に祈る様にお願いする。
緑「ダメ、まだ一つも当ててないのに甘ったれるな」
何木「鬼! もう10時ですぜ、補導されちゃうよ、PTAに訴えてやるよ」子供の様に声を上げる。
緑「分かった、当てた番号分、休ませてあげる」
何木「と言うと?」
緑「1番に当てたら1時間休憩」
何木「マジで!」驚く。
何木「じっちゃんの名に懸けてやるわ」やる気出す。
爺さん「俺のために頑張ってるのか?」様子を見ていた爺さんが何木
のセリフが聞こえた。
ボールを投げ続けて12時過ぎになり、疲労も溜まり腕も重くなってくる。
何木は大きく腕を回し万全の状態でフォームを構える。
力強くボールを握り、渾身の一球を投げ、ようやく8番の的を当てる。
何木「はち、は、は、はち、8を当てたよね?」取り乱す。
緑「・・・明日は仕事?」
何木「えっ、あー、そうねー」誤魔化そうか悩む仕草をする。
緑「じゃあ明日の8時にここに来て、残りの的を当てて、ハイこれ」
学校の宿題を渡す。
何木「えっ、嘘」困惑する。
緑「取引でしょ、こっちも時間を潰してボウリングを教えたんだから、勉強を教えてくれるんでしょ」
何木「今日やったのボウリングじゃなくソフトボールじゃん、駄目だよー、宿題は自分の力でやらないと、身に着かないよ?」
緑「同情するなら宿題してくれ」マウンドから出ようとする。
何木「家なき子?」マウンドから出ようとしたら緑に蹴り飛ばされる。
緑「片付けてから帰れ」蹴り飛ばし、怒声。
場面が変わりボロボロになった状態で自分のマンションの部屋に帰ってくる何木はリビングで一息をつき、コンビニで買ったビールを飲む。
壁に飾ってある学生時代のサッカー部のユニフォームを見て、辛い過去を思い出す。
上着を着たままリビングのソファーに腰を落とす。
何木「ハァー」ため息をして缶ビールを飲む。
何木「・・・」無言のまま顔の疲れている表情を出す。ユニフォーム
を見て過去を浸る。
過去の回想シーン。
学生時代に捻挫をし、座ってる所に先輩から注意を受け捻挫してる足を蹴られる。
先輩のセリフ“甘えるな”が今日、緑に言われたセリフと被り、フラッシュバックする。
先輩「おい、清志、お前なに座ってんだ?」威圧的。
何木「足を捻挫してしまって」小声。
先輩「甘えんじゃねーよ」足を蹴る。
先輩「やる気がねーなら帰れ」立ち去る。
何木は怒りを抑えて悔しい表情をする。
場面は現代に戻り、過去を浸った事で頭を抱える。
〇バッティングセンター 午前8時
何木はサッカー部の時に使っていた運動着のピステを着用し、眠そうな顔でバッティングセンターに訪れ、爺さんに話しかける。
緑は、まだ来ておらず2時間遅刻してやってくる。
広間を箒で掃除中の爺さんに挨拶する。
何木「おはようございます」
爺さん「ん?・・・おーこのー木、何の木、駄目な木じゃないか」
何木「・・・今日も貸し切りですか?」
爺さん「今日は休みだからね、好きなだけ使っていいよ」
何木「そいつはどうも・・・あれ、緑ちゃんは?」
爺さん「緑子なら、まだ来てないが」
何木「遅刻かよ、時間通り来るんじゃなかった・・・ねむ」ベンチを見つけ仰向きに横たわる。
イビキを搔きながら寝てる所をそっと近づいた爺さんに箒の先を股間で突かれ、起き上がる。
爺さん「ヤーーー」柔剣道の様に突く。
何木「おーーー⁉」下半身を90度起き上がり、唸る。
何木「いたーー、たい、たい」股間をさする。
爺さん「このゆとりが!」怒声。
爺さん「教官が来るまで自主練をしとかんか、努力は見せる物ではないぞ、磨くためにするんだ、さあ行け、行け」柔剣道の様に構
えて何木をマウンドに行かせる。
何木は、コントロールは悪いが、昨日よりかは命中率が上がり、球速も90キロを安定する様になった。
緑が来るまでに的の3番と7番を当てる。
緑はローラースケートでバッティングセンターに到着して、受付にいる爺さんに状況を聞く。
爺さん「おう、緑、来たか、おはよう」
緑「爺さん、今日も生きてたのね、嬉しい、それでライターさんの進歩の方は?」
何木は緑が来た事を察知して、休憩するためコンテナのボールを全部、放り出す。
爺さん「今の所、妥協せずちゃんと練習してるよ、球速も出てるしコ
ントロールも良くなってる」
緑「よし」何木の所に向かう。
何木「あーおはよう、緑ちゃん」
緑「挨拶は後でいいから、投げて」
何木「もうコンテナの中にある、ボールは全部投げたよ、あと的も当たった」疲れたふりをする。
緑「じゃあサボった分のボールを集めて」
何木「えっ?」
緑「だから、誤魔化したボールをさっさと集めてよ」威圧的に言う。
何木「で、でも、3番と7番を当てたよ、合計10時間は休憩を」
緑「今日は別メニュー」
何木は緑を獣の様に睨むが、緑にボールを投げつけられる。
緑「早くしろ」小声の怒声。
何木はダラダラとボールを集めてる所を指摘される。
緑「さっさと集めろ!」怒声。
何木「ハァー」ため息をして不満を募らせていく。
ボールを集め終え、新しいメニューを説明する。
緑「今日やるのはカーブよ、ボールはこう握るの、よく見てて」
緑はフォームを構えカーブを投げる。何木はスマホのストップウォッチで球速を測る。
緑はカーブを100キロ以上だし的の6番に当てる。
何木はストップウオッチを見て100キロ以上出てる事に驚く。
何木「(速い、この年頃の女の子が、これほど球を投げれるなんて、ボウリングに限らずこの子はただ者じゃないんだ)」
何木「緑ちゃん、やっぱりボウリングじゃなく、他のス」
緑「はい、やり方は分かった?」ボールを渡す。
何木「・・・うん」自信なさそうに言う。
何木はカーブを投げるが、意外にもストレートより球速が速く、コントロールも良くなる。
緑は想定外に驚き、彼の隠れた才能を見つけ出し期待が沸き、メニューを追加する。
緑「⁉」驚く。
何木「あー惜しい」ボールを取ろうとする。
緑「ちょっと待って、今なにを投げたの?」
何木「何を?」
緑「変化球よ、今のはカーブ?」
何木「カーブに決まってるじゃん」
緑「カーブ・・・もしかして」考える。
何木「何を考えてるの?」
緑「メニューを増やすは、今からアタシが言う番号に当てて」
何木「ハードにする事を考えてたの?」焦る。
緑「まずは1番」
何木「ちょっと待ってよ、せめて手を休憩させてくれ、こっちは2時間も投げ続けてるんだから、休ませてくれないなら俺もうやんないから」子供の様に座り込む。
緑「・・・10分休憩」
何木「!」休憩を取らせてくれる事に驚く。
何木はベンチに座り氷が一杯に入ったバケツに右手を突っ込む。
冷やしてる最中に根岸が話しかけ隣に座る。
根岸「ご苦労様」笑顔。
何木「・・・ずっと見てたんですか?」イラつく。
根岸「私に感情をぶつけないでよ」隣に座る。
根岸「取材の方は上手く言ってる?」
何木「クソ、ただの取材が何でか知らねーが特訓になっちまった」
根岸「・・・感情が高ぶってるわね、やらされてると感じたら熱くなって自我を失うわ、それだと金の卵をミスミス手放すわよ」何木の胸に指を置き、顔を近づけ誘惑しだす。
何木「いや、でも・・・どうしたら?」動揺する。
根岸「自制を保つのよ、男の選手なら自慰行為かしら、それとも、お・ん・な、どうやるか教えてあげましょうか?」体を密着させ誘惑する。
何木「あっ、あっ、は・・・ぜひ!」
緑「休憩終わり、再開するよ」
何木「・・・」固まる。
根岸「頑張って!」体を離れる。
何木は1番を投球し続けるが、まったく当たらず、緑はどんどんイラつき、遂に感情が爆発するが、何木も今までの溜まってた不満が漏れ逆上して帰る。
緑「もう一度」
緑「ダメ」少しイラつく。
緑「全然ダメ」イラつく。5番に当たる。
緑「あー、下手くそ!」少しキレる。
緑「死ね!」怒声。
コンテナのボールが無くなりだす。
緑「どんだけ当たんないんだよ、アレか、アタシが子供だからって舐めてんの、なあ?」啖呵を切る。
何木「舐めてないです」小声。
緑「舐めてんのか?」
何木「いいえ」
緑「あー、思いっきりかそれでー!」怒号を浴びせながら何木を蹴る。
何木は表情が曇る。
緑「やれ」
何木「はい」
緑「殺すぞコノヤロー」怒声。
投げるが外れる。
緑「それがお前の思いっきりか!」飛び蹴りする。
緑「ボールを集めろ、これが終わんないと次の課題に進めねーぞ」
何木はボールを集め終わり、フォームを構える。
緑は的の近くに立つ。
投球するが外れる。
緑「当たんねー当たんねーな、よくその身体能力でスポーツやってん
なー」怒声。
何木は表情がキレる。
緑「やる気がねーなら帰れ!」
何木はこの言葉で学生時代の先輩の言葉を思い出す。
何木はボールを手に取り、上投げで緑にめがける様に1番の的に当てる。
何木「やる気があるだと、このクソガキ、あーそうだよ、やる気なんて、これっぽちもねーよ、俺はボウリングを教えてくれって言ったのに、なんの前置きも無く球投げさせられなきゃいけねーんだ、右手が痛くてペンが握れねーわ、仕事があるってのによ」怒声。
緑「・・・」何木の豹変に驚き冷静になる。
何木「そもそも、子供なんかに教わろうとしたのが間違いだった」マ
ウンドを出ていく。
根岸は何木を呼び止めようとせず、バッティングセンターを出た後から追いかける。
何木も我に返りバッティングセンターの外で我に返り、取り返しの付かない事をしてしまったと思う表情をする。
爺さんは、じっと呆然と立ち尽くしてる緑を険しく見つめる。
〇喫茶店 昼間
何木は喫茶店のテーブルでコーヒーを頼むが、燃え尽きる様に座っている。
2名の店員が何木を見て笑い話をする。
そこに根岸が来て、隣に座って緑の元に戻る様に忠告する。
根岸が喫茶店に入店する所から始まる。
店員A「あのお客さん、コーヒー頼んで何時間も経つのに一口も飲んでないのよ?」
店員B「嘘?」
店員A「マジ」
店員B「ていうか、なんなのあのオーラ、矢吹ジョー?」笑う。
店員C「いらっしゃいませー」根岸に挨拶する。
根岸は何木を探し、席に座ってる、彼の元に向かい何も言わず隣に座る。
何木「・・・説教なら聞きませんよ」目を合わせず不貞腐れる。
根岸「担当直入に言うわ、戻りなさい」
何木「ハイー、無視しまーす」目を閉じる。
根岸「投げ出すのはスポーツ記者として失格よ」
何木「・・・」
根岸「さっきのは子供に対して大人げないわよ、あれじゃーどっちが
大人だか分からないけど、正直に言って幻滅だけど」
何木「うるさいっすよ、無視するって言ったじゃないですか?」怒声。
何木「話しかけないでください」
根岸「戻らないと、あなたの仲の良い同僚に今日の事を言いふらけど、
それでいいの?」
何木「何なんですか、黙ってくださいって言ってるじゃないですか、
それか俺の愚痴を聞いてください!」
根岸「あの3人に知られたら、あなたは笑いのネタにされるわよ、それでもいいの?」無視して喋る。
何木「言う舌は持ってて、聞く耳は持たないんですね?」
根岸「・・・何を求めてたの?」
何木「・・・子供に大人の気持ちなんて分からないですよ」
根岸「当たり前じゃない」即答。
根岸「子供と大人は別の生き物なんだから、何木さん、指導者の立場に立った事ないでしょ?」
何木「・・・」
根岸「指導者の立場になった事があれば耐えられたはず、あの子も一緒よ、指導者の立場に立った事はないはず、でもそれって当然の事じゃない?」
何木は、ゆっくりとコーヒーを飲む。
根岸「・・・何木さん、言ってたじゃない、才能や努力だけで天才は生まれない、“教え“も大切なんだって、だからアナタが教えるのよ、スポーツの奥の深さを、未来の金にね」
何木「・・・」表情が少し前向きになる。
根岸「・・・言わないで置こうと思ったんだけど、何木さん、ボウリングの才能があるわ」
何木は疑うような顔で根岸を見る。
根岸「嘘だと思ってる? 何年スポーツ記者やって来たと思ってんのよ」何木の鼻を指で軽くピンして笑顔で店を去る。
何木はバックから財布を取り出そうとした時に緑から預かった宿題ノートを見つけ、戻る決心をする。
〇バッティングセンター 夕方。
爺さんは掃除を終え、動かずずっとベンチに座ってる緑が気になり、
野球部時代だった懺悔を話す。
緑は、初めての指導者の立場で感情が高ぶり、やり過ぎたのではないかと気にしている。
爺さんは緑の横に座り、まずは慰める。
爺さん「・・・緑、俺の懐かし話でも聞いてくれないか?」
緑「いいよ」
爺さん「この歳まで生きて、よく勘違いされるんだが、今どきの若いもんは根性が無いという概念に、確かに昔は部活中に水を飲むと調子が悪くなったり、殴られるのが当たり前だった」
緑「知ってる」
爺さん「今はそんな事をしたら、パワハラや教育侵害だと言われる時代、それも俺は一つの考えだと思うんだ、だから今時の若い奴が根性ない何て思わん、むしろ今の世代の奴らの方が世界で活躍してるしな」
爺さん「あのライターと、お前の欠点はお互い期待過ぎた事だ」
緑「期待?」
爺さん「そうだ、まだ子供のお前に教育者の立場を立たせるなんて、奴は大人としては失格だ、しかし、いい経験をさせてくれた、お前は、あのライターの才能に気づき、期待する余りに感情が制御出来なくなってしまう」
緑「・・・」無意識に期待していた事に気づく。
爺さん「あの程度で帰るのは情けないが、やり過ぎれば必ず間違いが
来る、それに気づいた時には・・・もう遅い」昔の過ちを思い出す。
爺さん「自分なりの限度を持て、今回の・・・」何木が視界に写る。
緑は戻って来た何木に少し驚く。何木は二人の前に目を合わせず立
つ。
何木は髭を反り、手に持ってる宿題ノートを渡す。
何木「・・・コレ、全部終わらしといたから、練習費としてボウリン
グを・・・プロにしてくれ」目を合わして話す。
緑「・・・用意して」顔色が変わる。
二人はお互いの立場を理解し、さっきまでと緊張感の練習とは打って変わり、緑は怒りはするが、殴ったりはせず励ます言葉もかけて、何木の為の指導をする。
何木もそれに応える様に気合を見せ、命中率も上がる。
二人の絆が深まっていく事が観客に分かる。
緑「よく狙って、マグレで当てようとしない」
何木「クソ」
次の投球で1番に当たる。
何木「よし!」ガッツポーズ。
緑「よし、次は2番、その前にボールを拾って15分休憩」
何木、氷が入ったバケツに右手を突っ込み、冷やす。
1時間後。2番の的に当たるが、球速が落ちている。
緑「ダメ、100キロ出てない、やり直し!」
何木「おう!」
爺さんは二人の成長した姿を見て嬉しそうに微笑む。
3時間後。長い投球も残り的は9番になった。
二人は体力に限界直前まで来ている。
緑「ハァ、ハァ、よし、あと一つ・・・30分休憩」
何木「30分も!」驚く。
緑「・・・トイレ」疲れた顔でトイレに向かう。
何木はベンチで右手を冷やそうとするが、爺さんから蒸しタオルで温める様に提案する。
爺さん「やめろ」止める。
何木「うん?」
爺さん「冷やしは痛みを緩和させるだけじゃ、温めた方が痛みを和らげる」何木の右手に蒸しタオルを置く。
何木「・・・どうも」
爺さん「・・・ありがとう」
何木「はい? なぜ礼なんか?」
爺さん「最近、あの子は元気なかったんだ・・・他のスポーツじゃダメなんだと思う・・・あの子にはボウリングしか無いと思うんだ」悲しそうな顔をする。
爺さん「並木さん、あの子のボウリングをしてる姿を、また見せて下って・・・ありがとう」お辞儀する。
何木「お爺さん・・・並木じゃなく何木です」
緑「ハァー疲れた」トイレから戻ってくる。
爺さん「おーお疲れ、ジュースでも買ってやる、ポカリがいいか?」
緑「お茶でお願い」
爺さん「オーケー」笑顔。
何木と緑は二人きりなり気まずい空気になる。
何木「・・・」
緑「・・・」
何木「あー」緑「・・・」同時に言う。
緑「あっ!」
何木「・・・どうぞ」
緑「最後の的だけど、アタシは的の隣に立つから」
何木「えっ⁉」
何木「いやいや、そんな事したら、ボールに当たってケガするよ」焦る。
緑「見くびらないで、100キロ程度の球なんて目をつぶっても避けられるわ」
何木「いやでも」納得しない表情をする。
緑「そうした方が、集中力ますでしょ?」
何木「・・・」真顔。
緑「・・・どうぞ」
何木「あー・・・トイレ行ってもいいかな?」
緑「・・・どうぞ」
40分後。
トイレから帰って来ない何木を疑問に思う。
緑「遅い、例のあれか?」
爺さん「・・・野球部時代、先輩達に精神的に痛めつけられた後輩がいた、点呼になっても部屋に戻らず消息不明、部員全員で捜索をしたらトイレにいた、何でそこにいたのか、先輩達と寝るのが嫌で朝の晩までずっとトイレに籠ってたとさ」
緑はその話を聞いて急いでトイレに向かう。
緑は思いっきりトイレのドアを開けた。
男子トイレに入り、個室の中で眠っている何木を見つけ、連れ戻す。
緑「寝るな、まだ練習は終わってないでしょ」服の襟を掴んで引きずる。
何木「もう勘弁してください」子供の様に駄々をこねる。
緑「ダメだ、今日中に終わらす」
何木「明日、せめて明日にしてください」
緑「投げやりにするな、あと一つだろ、最後まで絶対に付き合ってやるから」意思を持って伝える。
何木「・・・」心に響いて無言になる。
緑は的の横に立つが、見兼ねた爺さんが自ら買って出る。
緑「さぁ、ラスト一つ集中して」
何木「逆に投げづらいよ」
緑「覚悟を決めないと」
爺さん「その覚悟、俺が引き受ける」
緑「爺さん!」
爺さん「緑、お前はアイツの指導に専念しろ、ここは俺が立つ」
緑「危ないわ、もしボールが当たったら、老い先短いんだから」
爺さん「心配するな、その程度じゃ棺桶には入るまでの期間は半日も
行かん、まだ若い奴には負けんぞ、さあ来い!」仁王立ちする。
何木は9番に向かって投げるが、爺さんの股間に当たる。
爺さん「⁉、ガァーーー、死ぬーー」うめき声を上げる。
何木「やべ!」焦る。
緑「爺さん‼」駆け寄る。
緑「どこに当たったの?」
爺さん「金玉だ!」
緑「えっ、なんて? 金メダル獲得?」
爺さん「くっーー、10年寿命が縮んだー」
何木「それもう棺桶に入ってるよ!」
爺さん「このゆとり若造が、ここに立て、俺と同じ苦しみを味合わせ
てやるー」怒声。
何木「それは後でお願いします」
爺さん「あっ?」
何木「あとで好きなだけ突いてください、でも今はその子を早く家に帰したいんです、だから協力をお願いします」
緑「・・・」何木のカッコよさに少しだけ惹かれる。
爺さん「よし! いいだろ、どんどん来いー、まだまだ、お迎えはこんぞー」
緑「・・・よーしー、いくぞー、ストライクーーGO」拳を上げる。
〇バッティングセンター 早朝
何木達が気になった根岸が訪れ、バッティングセンターの広間で熟睡中の緑と爺さんを確認、マウンドでうつ伏せの状態で寝てる何木を確認する。
このシーンのセリフは根岸のみ。
根岸が倒れてる3人を発見し心配して駆け寄るが、的が全部倒れてるのを確認し状況を把握する。
根岸「ちょっと、大丈夫ですか⁉」マウンドに入り、的を見る。
根岸「ハァー・・・今日は出勤だってのに」安心する。
根岸「お疲れさまでした」笑顔。
前半終了。
2人の変わった師弟関係の過酷な訓練は終わり、訓練の成果を試す時が来た。
〇ボウリング場 夜。
緑の父親“深坂黒”と、女性ボウラー“秋子”初登場。
今までの特訓の成果を試すため、ボウリング場に訪れ確かめる。
何木はサムレス投法が気づかぬ内に身についている。
その事に驚き、自分が成長した事を浮かれている時、離婚した父の深坂利男と偶然出会う。
車を駐車場に置きボウリング場の入り口に向かう何木と緑。
二人は運動服を着てサングラスをかけて横に並んで歩く。
何木「緑ちゃん?」
緑「ん?」
何木「あれから1日しか経ってなくて、いきなりアナタとボウリング勝負しろって・・・教えて貰ったのはソフトボールだよね?」入口を開ける。
緑「まだ気づかないの?」
何木「えっ?」
緑「本当にスポーツライター? まぁやれば気づくでしょ」
場面が変わる。
何木はレーンでの前でフォームを構え、緑は足を組んで待機する。
緑はサムレス投法で投げる様に助言する。
緑「いい、サムレスよ」
何木「確か、サムレスの指の位置は・・・よし、何木、行きます」
何木は、いつも通りのボウリングを投げるが、一発でストライクを取る。
その時、今まで感じた事ない感じを体感する。
何木「・・・ストライク・・・俺が?」唖然とする。
何木「ウォーーー‼」雄たけびを上げる。
何木「ス、ス、ス、初めてだ・・・雨が、いや大型台風が降るぞー」興奮する。
緑「・・・」少し悔しそうな顔で何木を見る。
何木「でも、何で突然?」疑問に思う。
緑「ソフトボールの投げが癖になったの?」
何木「癖?」
緑「例えば、サッカーをやった事ある人はバスケをやって味方にパスするタイミングが分かってる、剣道をやった事がある人は、もしフェイシングをやる時、技を出す瞬間のコツはすぐ掴める、野球でバットを振るのは手からじゃなく腰から振る、それはテニスもゴルフも一緒でしょ?」
何木「⁉」納得する。
緑「ソフトボール投げをさせたのは、そのためよ、」
緑「全てのスポーツに共通点がある」真剣な顔をする。
何木「師匠―――!」感激する。
緑「ライターさんは極限までボールを投げただけじゃない、カーブはアタシ以上の才能がある、カーブを投げた瞬間、腕の回転が上がり、球速もストレートより上がった、つまり、何木さんが今までストライクを取れなかったのは、ストレートばかり投げてたからさ、これからはカーブを・・・」
何木「師匠!」膝をつき、崇拝。
緑「⁉」驚く。
何木「俺、感激っす、今なら誰にも負けそうな気がしません」号泣する。
黒「!」隣のレーンから聞こえる声に反応して、緑がいる事に気づ
く。
何木「師匠、俺はもう誰にも負けない、どんな奴でも勝ってみせる、師匠、貴様にもな!」中二病風に言う。
緑「下克上が、はえーな」
黒「緑、緑じゃねーか?」
緑「ダディ?」
何木「えっ! ビックダディ?」驚く。
黒「おー奇遇だな・・・いや、ボウリング場で会うのは当然か、お母さんも・・・?」何木が気になる。
黒「その人は?」
緑「あー、弟子のスポーツライターさん」
黒「弟子?」
何木「あっ、何木清志郎と申します」立ち上がって丁寧に挨拶する。
黒「・・・ハハハ、そうでしたか、お弟子さんですか、緑がお世話になってます、父の深坂利男です」握手する。
緑「元でしょ」冷たい視線を送る。
黒「元って、今でも、お前達の事はラブだぜ~」嬉しそうに言う。
緑「・・・」真顔。
何木「・・・」「
黒「・・・あーそうだ、こっちも弟子を紹介するよ、女子ボウラーの“秋子さん“だ」
秋子「秋子です」お辞儀する。
黒「秋子さんは、ボウリングを始めて、まだ1年なのに上達が早くて
器量でな、今ちょうど師弟対決してたんだ、あそうだ、良かった
ら一緒にどうですか? 弟子対決なんてのは、やりませんか」
何木「面白そうですねー」嬉しそう。
何木「やりましょう、師匠、受けて立ちましょう!」
緑「ダメ、差が開きすぎてる、やるだけ無駄、どうしてもやるなら大会の日よ」大会ポスターに指を差す。
場面が変わり、駐車場で歩きながら話す。
何木「師匠、今の俺ならあの美人ボウラーに勝てますよ」
緑「無理ね、絶対無理、あの女は中々の腕よ、スポーツにとって経験は大事だけど、負け戦はするもんじゃないよ」
何木「じゃあ後、2週間で勝てると?」
緑「やるだけやってみましょう、この2週間は自主練だけして、アタシは何も言わないから」
何木「えっ! 自主練だけ?」
緑「教えられてばっかりじゃ成長しないわよ、母さんは・・・いやいいや、とにかく自分の頭で考えなさい、そしてアタシの宿題やっといて」
何木「自分の頭で考えなさい」冷静にツッコム。
何木「でもアマチュアの大会まで2週間しかない、それまでにあの美人さんに勝てますかね?」
緑は立ち止まって真剣な表情で言う。
緑「やれるだけやってみましょう、やらなければ勝てないんだから」
〇何木の家 台所 早朝
何木は台所でビールグラスに“ロッキー”映画の様に、生卵を何個も入れる。
今後の大会に向けて気合を入れて飲もうとするが、卵を全部口に入れて、飲み込めずグラスに吐き出す。
それの後、体力を付けるためランニングに出かける。
休息している時に小さな風がハリケーンを起こし、その光景を見た何木は技を閃く。
〇ボウリング場・レーン 大会日 昼間
ボウリング場はアマチュアボウラー達で埋め尽くされており、各々が試合の準備を進めている。
緑達と黒達は同じレーン。
何木は技投げ“ハリケーン”を伝授した事を緑に伝える。
緑「ハリケーン?」
何木「ハリケーン!」裏声を強調して言う。
緑「何それ? あんまり変な投げ方して体と傷めないでよね」
何木「この2週間でマスターしたんだ、オリジナルの投法」
大会開始のブザーが鳴る。
何木「師匠、取り敢えず見といてください」笑顔。
緑「ウィー」
秋子は一発目でストライクを取り黒は上機嫌、何木の出番になる。
黒「ウホー、さすがだ、イエイ」秋子とハイタッチする。
秋子「頑張ってくださーい」笑顔。
何木は指に穴を入れず両手で持ち、ドラゴンボールの“かめはめ波”をするみたいに構え、両手で玉を回転させながら体をねじ込まして投げる。その際に右手は左斜め上方向、左手は右斜め下方向に出す。
〇ボウリング場 大会当日
ボウリング会場はアマチュア選手で溢れ返っており、それぞれが投げる前の準備している。
深坂親子とその弟子達は同じレーン。
何木は緑に新しい投げ技を開発した事を報告する。
緑「ハリケーン?」
何木「そう、ハリケーン」
緑「そんな投げ技、あったかしら? ダディ、知ってる?」
黒「えっ! あーハリケーンね、もちろんプロのボウラーなら知ってる投法さ」知らないとバレるのが恥ずかしいと思い、適当に誤魔化そうとする。
緑「どんな投げ技」
黒「イギリスの有名な革命家“ナポレオン”が開発した技さ、嵐の様に投げる、ね?」笑顔。
何木「違います、自分が考えた技ですので、ナポレオンではありません」
黒「少しは自分に合わせてくれてもいいじゃないですか、娘と弟子の前では指導者は知らないは禁句なんですから」少しイラつく。
緑「ダディ、それはアタシにも帰ってくる事だよ」落ち込む。
何木「いや最新作のオリジナルだから仕方なくね?」
緑「ハリケーン、どんな投げ方をするのか気になる」
黒「ハリケーン・・・もしかした」喋ってる途中に試合開始のブザーが鳴る。
秋子「さぁ先生、初っ端から全開でいきますね!」笑顔。
黒「ようやく分かったのに」残念そうに言う。
緑「よっし! 負けないでね、ライターさん」
何木「オラ、ワクワクすっぞ!」裏声。
試合が始まり、他のレーンの選手達は自分の得意な投法で一球目を
投げていく。
秋子は一球目でストライクを取り、黒は歓声を上げる。
黒「おっしゃー、ナイスだ、秋ちゃん!」両手でハイタッチする。
何木の出番になり、球を用意する。
緑「力まず落ち着いて投げて」助言する。
何木はレーンの手前に立ってフォームする。
緑「ちょっとライターさん、そんなに前だと助走付けられないでしょ、もっと下がって・・・何あの構え・・・」変則的な構えに唖然とする。
何木は指を穴に入れずドラゴンボールの“かめはめ波”の様に両手
で上と下から球を押し潰す様に構え、助走を付けずに上半身だけで
球を投げる、下半身は膝を曲げて全体の状態を低くする。投げ方は体をねじ込ませ球から両手を話す瞬間、右手は左斜め上に左手は右斜め下に向け、球が回転してサムネス投法よりも急激なカーブをして、回転した勢いでピンに衝撃を与える事でストライクの確率が高まる。
投げ終わった後は右足を左方向に上げて、左足のみで一本立ちする。
何木はハリケーンでストライクを決め、雄叫びを上げる。
何木「ハリケーンー、ショーシューリッキー!」CMの声真似。
緑・黒・秋子「・・・」口を開けて呆然。
何木「どうしたんですか、いい具合にうまい棒が入りそうなぐらい口を開けて」三人の驚いた表情に少しだけ怯える。
緑「何・・・今の投げ方、見た事も無ければ、凄い独特な」
何木「実はサッカー部の時に変化シュートの一つ“バナナシュート”から知識を参考にしたんです」
緑「バナナシュート? それが今の投げ方とサッカーの蹴り方が、ど
う同じなの?」
何木「師匠、言ってたじゃん、どんなスポーツにも共通点がある」
秋子「確かバナナシュートは体重軌道で蹴り、その反動から急激なカーブを打てるシュート」
何木「その逆バージョン、軌道は使うけど最初は体重を前方に集中して押し出す様に投げる、その時に回転率を上げるため手と腰をひねり出す」
緑「ライターさん・・・本当に・・・自分で考えたの?」
何木「・・・ショーシューリッキー!」誤魔化す様に言う。
緑「絶対に自分で考えてないでしょ、誰に教わったの、教えなさい」大声。
緑と何木は小競り合い、その近くで真剣な眼差しで二人を見つめる
黒。
何木「ほんとっすよ、俺です、俺が考えたんです、てーぺろ」笑顔。
緑「もうふざけてる時点で嘘だって分かってるから、観念しろ」
黒「(この二人は良いコンビだ、もしかしたら・・・この師弟ならボウラー達の長年の夢を叶えられるかもしれない)」満足そうに微笑む。
それから何木と緑は数多のアマチュア大会で徐々に優勝に近づいて
く。
練習も怠らず、宿題、バッティングセンターでの平凡なやり取り、二人の成長が見えるシーン。劇伴用の挿入曲として“遅れ時代”が流れる。
練習風景:何木は普通にジョギングし、付きっ切りのコーチとしてローラースケートで先頭を走る緑。
何木の成長:3人の同僚に酒代を取り返す為にボウリングで勝利し、3人の前で勝ち誇った顔をする。3人は口を開けて仰天する。
最後のアマチュア大会で優勝し、根岸、ジジイ、3人の同僚(その内の一人は優勝杯を審査会のテーブルに置いてある優勝杯を断りも無く取って、何木に渡す)、黒、秋子は集まって喜び合い、緑は優勝杯を手に持って、何木に肩車される。根岸は記事に載せる写真を撮る。
ギャグシーン:緑は宿題を無理やり何木にやらせ、嫌々ながら引き受ける。バッティングセンターで歩きながら緑の宿題をしてる時に後ろから、根岸と緑が片足ずつに目掛けてボウリングの球を投げて、何木を転ばせる。
何木は怒って二人に追いかけるが、ジジイに圧を掛けられる。
空気椅子の状態で球を片方ずつに持ち、上げた状態でキープする体感をしてる最中に美人の女子高生が通りかかり、見惚れて手に持ってる球を誤って放してしまい、緑に竹刀で何発も叩かれる。
〇成田空港・昼間
カレンダー・デューク、マーガリン・マーカスの初登場。
日本で行われるボウリング世界大会に出場するため、日本にやっ
てきた。
二人のボディーガードを連れ、成田空港の出口に向かう。
マーカスはデュークに健康状態を聞く。
デュークは不満げな顔で答える。
マーカス「体調はどうだ? デューク」
デューク「体調上々、気分下下」
マーカス「・・・スポーツマンは気持ちも備えておくもんだ、試合前
に東京観光してこい、それで気持ちを整えろ」
デューク「・・・いつも通りさデューク、俺に敗北を教えてくれる強
敵が、この侍の国“日本”にいるのか、それを期待しているんだよ」
寂しげな顔。
空港の出口に出て、場面が変わる。
〇ネーマン会社 社内 昼間
何木は自分のデスクで緑との活躍がスポーツ記事の一面に載ってる
所を見る。
内容は“天才指導者、緑ちゃん、若くしてボウリング界の導くものと
なる“何木は自分の顔写真が、まるで犯罪者の様に小さく載ってる
事に腹が立つ。内容は“ボウリングを教わった、何木清志郎さん、
34歳”。
何木「ついでか!」記事をデスクに叩きつける。
そこに根岸がやってきて何木に社長が呼んでる事を伝える。
根岸「何木さん、社長がお呼びです」
何木「やべ、大目玉だ」不安。
場面が変わり、社長室で深坂青子が苛立ちながら待っている。
何木「失礼します」ドアを開けて入る。
何木「お呼びですか社長、呼ばれた理由は分かってます、ダメ元で謝ります、すいませんでした」
青子は険しい顔で何木を睨みつける。
何木「あれ・・・何処かでお会いしました?」
青子「アナタ、あの時の!」思い出す。
何木「あっ! 師匠のマザー」
青子「取材はお断りしたはずですよね、どうしてアナタが緑と関わってるんですか?」怒声。
何木「いえ、取材はしてません、ただボウリングの指導を受けただけ
です」
社長はデスクで険しい顔をして待機してる。
青子「じゃあ、コレは何ですか?」さっきのスポーツ記事を見せる。
何木「・・・」何も言い返せない表情。
青子「まるでウチの娘を出し抜こうとしてませんか、ましてや親に断りも無く、まだ小学生の子供を新聞に載せるなんて!」
何木「悪い事をした訳じゃないじゃないですか、記事の売り上げも大した事ないし、一瞬の歴史みたいなもんですよ」自信なさそうに言う。
青子「あなた達は悪いことしました、世間に一瞬の一生の黒歴史を残したんですから」大声。
何木「くっ、黒歴史って、娘さんにとってこれは輝かしい功績じゃないですか、本人はボウリングをやりたがってる訳ですし」大声。
青子「何ですか、アナタは! 詫びも入れずに開き直って、コレ、訴えますからね」
社長は青子に謝りながら近づき、謝礼金を渡す事を申し出す。
社長「申し訳ありません、我が社の不備をお許しください」丁寧。
何木「しかし、社長」
社長「黙れ!」怒声。
何木「でも、」
社長「太陽拳!」ハゲ頭で太陽の光を反射さして何木に浴びせる。
何木「あっ‼」眩しがる。
社長「深坂さんの為にもコレ以上、公にせずお詫びとして、200万円程で手を打って頂けないでしょうか?」
青子「・・・分かりました、それだけ頂ければ問題の処理は出来るので」何も言わずに不機嫌のまま帰る。
社長「ご足労おかけして申し訳ありませんでした」
何木は社長と二人っきりになり、今回の不祥事を罰せられると思ったが、社長は実は上機嫌で何木を抱きしめる。
何木「・・・社長、申し訳ありませんでした」目を合わせられずに車長の方を向いて謝る。
社長は思いっきり抱きしめる。
何木は突然の行為に驚く。
何木「えっ⁉」
社長「よくやった」両手以外の体を放して言う。
何木「はい?」
社長「金の卵はここにいたとは」笑顔。
何木「・・・卵はこの子(緑)ですよ」記事に指を差す。
社長「いや、お前だ!」
何木「俺? ・・・でもボウリングはマイナーですよね、この記事だって自分じゃなく、根岸さんが」
社長「根岸から頼まれてな、記事にしたんだ、そして効果があった、先ほどボウリング協会から連絡が合ってな」
何木「ボウリング協会から?・・・何で?」
場面が変わる。
〇デュークの控室
日本での国際大会で優勝したデュークだったが、強敵に出会えなかった事に失望、支度をして帰国しようとしたが、たまたま点いていたテレビに目が行き、緑の報道内容に興味を持ち、闘志を燃やす。
デュークは優勝杯を眺めているが、顔を喜んでおらず、優勝杯に興味を持たず床に置く。
仲間の黒人二人が控室に入ってきて、六本木にデュークを誘う。
黒人A「へいデューク! 優勝おめでとう!」
デューク「・・・どうも」
黒人B「何だよ浮かれた顔をして、優勝したんだぜ?」
デューク「支度しろ、帰るぞ」
黒人A「ちょっと待てよ、折角日本に来たんだからよ、遊んで帰ろうぜ!」
黒人B「そうだよ、六本木いこう六本木!」
デュークはテレビに流れたボウリングのコーンが倒れた音に振り向
く。
最初に緑が話題になっているニュースが流れ、次にバッティングセ
ンターの爺さんが女子アナのインタビューに答える。
司会「奇跡のボウリング美少女、深坂緑ちゃんの馴染みのある人にインタビューが取れました」
女子アナ「わずか11歳で指導者になるなんて凄いですよね?」
爺さん「そうですねー」笑顔。
女子アナ「ここは緑ちゃんにとって、どういう場所なんですか?」
爺さん「そうですねー、弟子と師の修行場みたいな場所だね」
女子アナ「バッティングセンターがですか?」
爺さん「そうですねー」
女子アナ「緑ちゃんはどれくらいボウリングが上手いんですか?」
爺さん「そうですねー、ボウリングがオリンピックになったら金メダルは確実ですねー」
女子アナ「そんなにすごいんですねー、じゃあもしかしたら今の世界一のボウリング選手にも勝てちゃいますか?」
爺さん「そうですねー・・・そうですじゃない、まだそれは早い!」焦る。
デューク「この爺さん・・・なんて言ってるんだ?」
黒人A「えっ! ・・・そうだなー」
黒人Aは通訳としてデュークに同行しているが、実は3流程度の日本語力で適当に解釈してデュークを怒らせてしまう。
黒人A「That,s right.ミドリ・フカサカは期待のニューフェイス、アメリカのボウラーなんて親指の穴一つで打ち負かせる、弟子の何木は既に現在の世界一のカレンダー・デュークには余裕で勝てる」
デュークは手に持っているペットボトルを握りつぶす。
デューク「ファーキュージャップ‼」怒り心頭。
場面が変わり、社長室。
社長は今までのバッティングセンターでの経緯を何木に話した。
社長「と言うわけだ」
何木「・・・なに・・・を」動揺する。
社長「何木―、コレはチャンスだ!」勢いよく立ち上がる。
社長「もし、世界一のボウラーに勝てば世界中に知れ渡る、スポーツ界は勝ち惜しみ、負け惜しみで溢れている、もし日本人がボウリングの頂点に立ってみろ、オリンピックの競技になるかもしれん」期待しながら必死に伝える。
何木「そんな簡単に」苦笑い。
社長「やるだけ価値はあるだろ、世界のリーダーであるアメリカに勝負を挑めば!」
何木は期待が上がる表情をする。
〇深坂家 リビング 夕方。
青子は熊本に引っ越す準備をする。
ボウリング道具も大会で優勝した表彰状も全てゴミ袋に入れる。
緑は母親の光景に不安を感じながら見つめる。
そして、どうしてボウリングを嫌い、遠ざけるのか嫌う。
青子は段ボールに日用品を詰める。
緑は青子の行為を眺める。
青子「・・・緑、部屋で宿題でもしてなさい、ママは今、身支度を整
えてるから」
緑「・・・どうして・・・いきなり急すぎるよ、熊本に引っ越すなんて!」感情的になる。
青子「・・・もう決めた事よ、事が覚めるまで、熊本のおばあちゃんの所で暮らすのよ、向こうで欲しい物も、やりたいスポーツもやらせてあげるから」
緑「ボウリング以外でしょ?」
青子「・・・」動きを止める。
緑「お母さん、アタシやっぱりボウリングをやりたい、他のスポーツじゃ満足できないの、あの面白いライターさんならきっと、将来ボウリングを、」
青子は緑が発した“将来、ボウリング”の言葉にトラウマが蘇る。
青子は子供の頃から大人達に期待され、この言葉を浴び続けていた。
青子「無いわよ‼」大声。
緑「⁉」驚く。
青子は涙を流しながら、自分がボウリングを出来なくなった過去を伝える。
青子「・・・アタシだって、誰よりも、世界中で誰よりも、ボウリングが好き・・・でも、もう出来ないの」肩を触り、緑の方を見る。
青子「投げたくても、やりたくても、もう・・・緑・・・他人に期待するものじゃない、心の痛みは体よりも痛む」
緑は青子の泣き崩れる所をただ悲しそうに見る。
〇緑の部屋 夜
緑は黄昏、じっと窓から切なそうに星空を眺める、そこに何木が車でやってきて、外から“カレンダー・デューク”と1週間後に対決が決まった事を報告する。
緑は何木の車が来た事に気づく。
何木は車を降りて、深坂家に入ろうとするが、緑が窓際にいる事に気づく。
緑は何木に呼ばれるが、無視して窓を閉め部屋の電気を消して視界から消える。
何木「師匠! ちょうど良かった、お母さんには会わずにすむ、実は報告したい事が」小声。
緑は窓を閉める。
何木「あれ?」
何木「あれ? 師匠、師匠?」
何木は地面に置いてある、ソフトボールを窓に向かって投げる。
予想外の事に窓にヒビが入る
何木「やべ⁉」
緑が窓を開け、顔を出す。
緑「・・・命中率が上がったね」
何木「すいません、弁償します」
緑「当然でしょ、それで何?」
何木「実はビックニュースがあるんだ、聞いて驚いてー、興奮して、期待してー」じらす。
緑「早く言え!」怒声。
何木「カレンダー・デュークと試合する事が決まった」
緑「カレンダー・デューク、確かアメリカのプロボウラー!」
何木「そう、さすが師匠、わざわざ帰国を延期して戦ってくれるん
だ、絶対に勝たないと、だから、」
緑「・・・それで?」一気に冷める。
何木「はい?」
緑「アタシに何の関係があるの?」
何木「それは・・・俺の師匠なんだから、弟子の活躍を傍で見守るの
が、緑さんの役目でしょ」
緑「アタシの役目はアナタのプロ並みに上手くする事でしょ、成長を見守るのは約束には入ってないはず」
何木「・・・何言ってるんですか、今までずっと応援してくれた、ホラ、宿題も終わらしときましたよ、夏休みの!」混乱する。
緑「そこのドアのポスターに入れといて」
何木「どうしちゃったのよ、もしかして青子さんに何か吹き込まれたんだね、鵜呑みにしちゃいけない、俺達が必ず将来、」
緑「お母さんもそうやって大人達に騙されて、二度とボウリング出来ない体になった!」大声。
何木「⁉」
緑「・・・お母さんに期待して期待して、使えなくなれば、離れていき自分達は非が無いかの様に消える、大人って皆そう何でしょ、指導者は身勝手な者なんでしょ?」
緑「アタシはボウリングが世界に認められる夢なんて見ない、誰にももう期待しない」悲しそうに言う。
何木は緑の決心を聞き、説得はせず受け入れる。
そして自分の思いを伝える。
何木「・・・俺はサッカーなんて嫌いだ、本当は大嫌いだった、でも
ボウリングは好きだ」
緑「・・・」真顔で見つめる。
何木「どれだけ負けても、才能が無くても、プロボウラーに打ちのめ
されても過酷な練習でもボウリングをやめない、・・・誰より
もボウリングが好きだから」真剣な顔で伝える。
緑「・・・」無表情だが、内心では心に響く。
何木「俺は一人でも戦うよ・・・青子さんに事情があるのは分かったでもキミは、お母さんとは違う」背中を向けて去ろうとする。
何木「それじゃあ、またね緑さん」車に乗り去る。
緑は部屋に飾ってある、ボウリング仲間の集合写真を見つめる。
〇東京体育館 控室 午前
会場はボウリング関係者や選手が観客として溢れ返っている。
控室で体が震える程、緊張する何木。
トレーナーは緑の代わりに根岸が代理になる。
根岸は腕時計を見て、時間である事を伝える。
根岸「そろそろよ、何木さん」
何木「う~」座りながら震える。
根岸「どうしたの?」
何木「時間が迫れば迫るほど心臓の鼓動音が高まるんです」
根岸「結局、緑ちゃんは来なかったもんね、きっと緊張してるのはテ
ストステロンが足りないのよ」
根岸は両手で何木の右手を取り、自分の胸の方に持ってきて触らせ
様として緊張をほぐそうとするが、審判が控室に入ってきて寸前の
所で行為をやめる。
審判「何木選手、お時間です」
根岸「はい、がんばって!」笑顔。
何木「いやいや、少し、あと少しでしたよ!」
場面が変わり、深坂黒の車で空港まで向かう母娘。
黒は運転席、青子は助手席、緑は力が抜けた様に後部座にいる。
青子「ゴメンね、無理言って」
黒「いや~、元でも亭主だったし、離れるのは少し寂しいていうか」苦笑い。
青子「緑が、もう少し大人になったら東京に帰ってくるかもしれないから」
黒「・・・そうか、でも何もわざわざ熊本に引っ越さなくても」
青子「出来るだけ、あのスポーツライターから離れた方がいいと思うの、きっと無理やりでもボウリングをやらせようとするはずよ」
黒「そんな人には見えないけどな」
青子「・・・アナタには分からないわ」
黒「・・・緑、また今度の夏休みにでもパパの家に遊びに来いよ!」
緑「・・・好きだから」暗そう。
黒「ん?」緑の元気のない姿に疑問が思い、緑の想いに気づく。
黒「大丈夫か?」不安になる。
青子「・・・大丈夫だから、早く空港に向かって」
場面が変わり、東京体育館のボウリング場。
何木チームゾーンは何木・根岸・社長、輪になって作戦を立てる。
観客席には爺さんがいる。
根岸「調子の方はどう?」
何木「万全だ、胸を揉まして」根岸の胸を触ろうとする。
根岸「異常無しね」手ではらう。
社長「球はここにある」地球の形をした球を見せる。
何木「それは!」
社長「よく磨いといた、この球で世界を取ってこい!」
何木「社長、ありがとうございます、俺、絶対に勝ちます」社長のハゲボールを見せる。
社長「誰かに・・・ていうか自分に似てね」
デュークチームゾーンは作戦を立てずに緊張感が無い。
デュークは余裕の表情で座ってる。
マーカス「すまんな、デューク、私の時間に付き合ってもらって」
デューク「謝る事ないよ、マーカス、おかげで六本木を満喫できた」
マーカス「この1週間、お前は全く練習もせずに遊び歩いて、舐めすぎだぞ」
デューク「この時間こそ無駄だよ、国に帰るのを伸ばすって言うから、どんな奴が相手かと思ったら、まさかの無名の選手とは、祖国に自慢話にもならない」
マーカス「油断するな、オキナワは今までに何度も喧嘩を売られて買ってきたが、決して口だけじゃなかった、きっとあの男に何かあるはずだ」
試合開始のブザーが鳴り審判を中央にしてお互い向き合う様に並ぶ。
審判「これよりエキションビジョンマッチを開催します、ルールは2試合制つまり20フレーム、2試合の合計点数が高い選手の勝ち、もしタイムを掛けるのであれば、手を上げて大声で私を呼んでください、説明の方はいいですね?」
何木「はい」!
デューク「YES!」
審判「それでは先投げはデューク選手からです」
デュークは1球目にストレートを投げ、ストライクを取る。
何木達は球速に脅威する。
何木「速い、しかもストレートかよ!」
根岸「腕が長い分、リーチも長いのよ、レーンが短く感じるわね」
何木「俺の番だ」立ち上がって球を取る。
何木は1球目からハリケーンを投げ、ストライクを取りガッツポーズする。
何木「よっしゃ!」
デュークチームはハリケーンに無意識に口を開けて仰天する。
マーカス「なんて独特な投げ方だ!」
デューク「アメリカでもあんな投げ方をする奴はいない、帰らない甲斐があった」期待する表情をする。
デュークは2球目では自分の切り札“ロフトボール”を投げストラ
イクを取る。
何木チームは1球目よりも脅威する。
何木「な、なんじゃー‼」
何木「ガータギリギリで思いがけない方向に曲がってストライクを取ったぞ」
根岸「ロフトボールよ!」
何木「ロフト?」
根岸「アナタのハリケーンと似てるわ、違うのは音ね、本来、ボウリングのロフト投げは床を傷つけるかもしれないから余りいい顔されないけど、ボウリングの上級者には彼の様に優しく鮮やかなロフト投げをする者もいる、天才故に出来る投げ方よ」
それから互いの接戦が続き、点数はデュークが僅かながら追い越している。
8フレーム目で何木は続いてハリケーンを投げるが、右肩に軽い肉離れを起こし、異変に気付いた根岸がタイムを掛ける。
根岸「この調子だと5点差は付いてるわ、次でストライクを決めないと厳しいわ」
何木「ハリケーンを投げるしかねーな」
根岸「・・・1フレーム目からハリケーンを投げっぱなしだけど、大丈夫?」
何木「ノープロ、ていうか、この技で勝たなきゃ意味ねーんです」
何木はハリケーンを投げるが、投げた瞬間に右の肩甲骨部分の肉が剥がれる感覚がするが、何とか球を放り出してストライクを取る。
観客は歓声を上げる。
爺さん「よっしゃ、追いついたわ!」
マーカス「やるな」
デューク「・・・」何木が肉離れを起こした事に気づく。
何木「・・・」痛みを隠す表情でベンチに戻る。
根岸「・・・へい!」ハイタッチする様に促す。
何木「・・・へい!」左手でハイタッチしようとする。
根岸「左手じゃなく、右手で」
何木「・・・ぐっ!・・・うあ‼」痛みに耐えながら何とか右手を上げる。
根岸「タイムをお願いします!」
場面が変わり、控室。
何木は右肩の肩甲骨を爺さんに見て貰い、軽い肉離れをしており速やかに試合を中断が、や無得なくなる。
爺さん「軽い肉離れだな、ハリケーンを投げすぎだ、何とかこの程度で済んだが、試合を続ければ危うい」
根岸「・・・審査員に棄権を報告してくるわ」
爺さん「うん」
何木「いいえ、続行を報告してください」立ち上がる。
根岸「ダメよ、今は何とか動かせるけど、肉離れはスポーツなら選手生命を奪う症状よ、下手したら永久だってなりかねない」
爺さん「ボインちゃんの言うとおりだ、このまま球を投げ続けたら、二度とボウリングは出来なくなるぞ」
何木「俺はいいんだよ、俺よりも大事なのがいるでしょ?」
爺さん「・・・緑か?」
何木「あの子の為にも俺みたいな先の無い選手より、可能性が数%の勝敗でも、この試合は勝たなくちゃいけない」
爺さん「・・・あの子はもう、」
何木「来る、あの子は絶対来る・・・だって師匠は誰よりもボウリングが好きなんだ、せめて最後までやらしてくれ」
根岸「・・・くだらないわね、いつの時代よ・・・でもまぁいいんじゃない、どうせアタシ達は子供達の夢の糧になるしか出来ないもんね」
何木「根岸さん」
爺さん「・・・スマホの使い方を教えてくれ」
場面が変わり、ボウリング場。
マーカス「一体、何があったんだ?」
デューク「・・・あんな投げ方するんだ、体のどこかを壊さない方がおかしいさ、あーあ、タイミングが悪すぎる、つまらない試合になっちまった」呆れる。
何木が戻ってきて観客達が拍手をしだす。
マーカス「戻って来たぞ!」笑顔。
デューク「・・・フッ、サムライ」期待する。
場面が変わり、黒の車の中で空港とは別の方向に向かってる事に青
子は気づく。
青子「・・・ねぇ、ちょっと・・・羽田方面じゃないわよ、道を間違
えてない?」
黒「いいや、合ってる、東京体育館に向かってるんだから」
青子「東京体育館⁉ 何でそっちに向かうの乗り遅れちゃうじゃない」
黒「さっきLINEが来た、東京体育館で世界一のボウラーと緑の弟
子が戦ってる」
緑「⁉」反応する。
青子「やめてよ、あのライターを近づけさせないで、この子にまたボウリングをさせる気なんだから!」怒声。
黒「違う!」大声。
青子「!」
黒「やらされるんじゃない、やるんだ・・・緑はお前じゃない!」
青子「・・・」唖然とする。
緑「どっちが・・・どっちが勝ってるの?」
黒「着いたぞ、自分の目で確かめてこい!」車を止める。
緑は降りて、ボウリング場に向かう。
青子「緑!」車を降りて追いかける。
黒「行かせてやれ、このまま行かせなかったら、お前も緑も一生後悔するぞ!」青子を抑える。
青子「・・・でも」迷いがある様な小声。
黒「・・・青子、お前は世界に行けなかった事を後悔はしてるんじゃないんだろ、ケガをして支えてくれた大人達の期待に応えられなかった事を後悔してるんだろ?」
青子「⁉」
黒「でも大丈夫だ、あの子は、今は師だ、そしてその弟子の戦いを見守るだけ、地球上で二人しかいない師弟がね」
場面が変わり、苦しい表情でフォームを取る何木、残り7フレーム。
ハリケーンを投げるのが困難になり、サムレス投法をするが外れる。
何木「(重い、投げれば投げる程、痛みが増してくる、アドレナリンはもう無いのか、畜生、精神が鈍る、妥協が浮かび上がる、ここは投げ方を変えてサムレスだ)」
サムレスを投げるがガター、観客達はざわめき出す。
観客達「全然入らなくなったな」「さっきまで調子よかったのに」「やっぱりアマチュアには勝てないんだよ」「負け戦だな」
観客達のマイナス発言が僅かに何木に聞こえ、ますます気力が下がっていく。
根岸や爺さんは不安になる。
そこに緑の大きな応援が観客席から聞こえ、何木は目で探すが姿が見えない。
緑「バカ野郎‼ 手だけで打つな、体全体を使うんだろが!」大声。
根岸・爺さん「⁉」
マーカス・デューク「⁉」
何木「・・・⁉・・・師匠?」
緑「あと7フレームだ、心配するな最後まで一緒に戦おう!」
何木「・・・おせんだよ・・・クソガキが!」目が生き返る。
何木はハリケーンに切り替え、痛みを耐えて勢いよく投げ続ける。
何木「ウオー!」ストライク。
何木「シャー!」ガッツポーズ。
観客達が歓声を上げる。
根岸「何木さん!」笑顔。
デューク「⁉ さっき球速が増した、バカな、投げるのがやっとのはず」
爺さん「捨て身戦法で行く気か」真剣な表情。
マーカス「来たな、この国の大和魂!」
デューク「・・・なるほど、そう来なくちゃな」立ち上がる。
デューク「徹底的に叩きのめしてやる」
デュークと何木は無我夢中で投げ続けるストライク接戦。
試合は盛り上がり、会場は歓声の声に埋まる
何木「おりゃー!」
デューク「わお!」
残り最後のフレームになり先行のデュークがストライクを取り勝利は確実となった。
デューク「おーりゃ!」ストライク。
マーカス「よし!」
デュークと何木は目が合う。
デューク「(楽しかったよ、サムライ、母国に帰り家族に誇って話を聞かせるよ、さぁ、最後の球を投げろ)」
根岸「・・・何木さん、ラスト1球・・・」腫れた右肩を触る。
何木「・・・最後か、結局、師匠はどこにいるんだか」
緑は後ろから何木の右肩を触り、優しい声で助言をする。
緑「・・・何も考えず、今までやって来た事を全力で出して・・・ゴメンね、不甲斐ない指導者で、もう逃げないから、最後まで」
何木「⁉」緑が後ろにいる事が分かる
何木は後ろを振り向かず、最後の投球をする。
何木「謝る事はありませんよ、言ったでしょ、何があってもボウリングは好きなんだから」
何木は思いっきりハリケーンを投げ、床にヒビが入る。
ピンは9本倒れるが、残りの一本が倒れそうで倒れずにストライクは取れずに試合終了となる。
何木「うーーーおーーーー!」投げる。
緑「倒れろ!」大声。
根岸・社長・爺さん「倒れろ!」
観客「倒れろ!」
デューク「・・・倒れろ!」小声。
何木「倒れてくれ!」
グラつくがピンは倒れずに、スペアになる。
何木は審判に棄権を宣告して試合終了となるが、観客席からは拍手の大喝采と歓声、緑達は飛びつく様に何木に抱きつく。
何木「・・・審判」
審判「はい?」
何木「棄権します、自分の負けです、もう動かないすわ」笑顔。
審判「・・・分かりました、試合終了、カレンダー・デュークの勝利です」試合終了のブザーを鳴らす。
何木は満足そうに目を閉じて天井を見上げた瞬間、緑が飛びつき左手のみで支える。
その瞬間に観客達は立ち上がって歓声を上げる。
何木チームは負けてた事を忘れるかのように喜び合い笑顔で抱き合う。
会場は、まるで試合に勝った雰囲気。
マーカス「全く、これじゃどっちが勝ったか分からんな」少し笑顔。
デューク「マーカス、来た甲斐があったよ、勝ち続けて忘れてた、ボウリングを楽しむ事をね、彼らを見て学べた」満足そうに微笑む。
観客の中から青子は遠くで緑と何木が抱きしめあって喜んでるのを過去の自分と重ねる。
過去のシーン。
ボウリングの大会で優勝した青子は父親に抱きかかえられる。
勝利に喜ぶ父親に世界一のボウラーになる事を伝える。
父親「青―、やったねー!」
青子「お父さん、いつかアタシ、世界一のボウリング選手になるから」
父親「お前は、お父さんの誇りだー!」
青子は過去に周りの期待に応えられなかった事を後悔し、涙を流しながら拍手で二人の活躍を喜ぶ。
黒は隣で青子を気遣う。
場面が変わり、オリンピックで金メダルを獲得した緑に記者達は一言、求める。
記者「深坂選手、今、一番この場で伝えたい事は何ですか?」
緑「・・・まず感謝の気持ちでいっぱいです、このメダルは自分だけの物じゃ無いと思ってます、応援してくれた人達、私にボウリングを教えてくれた母・・・喜んでくれた人生の先輩達、そして、・・・自分にボウリングの楽しさを教えてくれた、22歳も年下の弟子のおかげです」
記者「年下の弟子?」
緑「・・・ボウリング、好きです‼」胸を張る様な声で言う。
物語は幕を閉じる。