4-2
「元々私は、アルテノン共和国の警備員の責任者でした」
アルテノン共和国ですでに聞いていたので、そのまま話を促す。
「アルテノン共和国は共和制です、
王ではなく、選挙で選ばれた人が政治を行う」
「そうだね」
あっさり頷く俺に、セフィロスは怪訝な顔をする。
「王がいない事を不思議に思われないのですか?」
確かに、ディアール王国の人間からすると、
かなり不思議な制度だとは思う、
しかし、元日本人としては、むしろ馴染みのある制度だ。
「いい人が政治をするなら、
形は何でもいいんじゃないかな」
「私もそう思ってました」
セフィロスはお酒を見つめる。
「しかし、私の上司は・・・
私を買おうとした人物です・・・」
それで全てを察した。
選挙とは言え、ポスターや宣伝だけでは、
その人物の内面まで見えない、
中にはとんでもない人物が選ばれる事もあるだろう。
「最初は努力しました、成果をだせば認めてもらえると、
しかし、実際はずっと大変な所を押し付けられ、
その成果は横取りされる。
褒められた事などありません」
「仕事辞めようとは思わなかったのかい?」
「辞めれば、部下がもっとひどい目にあい、
どんどん辞めていくと、共和国の治安が悪くなる、
それは許せなかったのです」
責任感が強すぎる・・・
だから利用されてしまったのだろう・・・
「最終的には、ディアール王国との国境にいる、
フレイルドラゴンの討伐を命じられ・・・
どう考えても、多くの兵が死ぬだけだと感じました。
普段は命令されたままに動くのですが、
その時は上司に犬死にすると訴えました」
「そうか」
「しかし、上司は煩い、言われた通りにしろ、
しか言わず、取り合ってくれなかったのです、
なので、全財産をはたき、この剣を買い、
私1人でフレイルドラゴンの元に向かいました」
「ちょっと待て!多くの兵がいても死ぬかもしれないんだろう!
1人で行くなんて、死にに行くようなものじゃないか!」
「それでも、私は兵士に死ぬしかない所へ行けと、
命じる事はできなかったのです、
そして、危険に怯える住民を見捨てる事も・・・・」
俺は頭を抱えそうになる。
いくらなんでも抱え過ぎだ。
「結局、フレイルドラゴンは倒せたのですが、
ご存じの通り、視力を失ってしまいました」
結局フレイルドラゴンを倒したと聞いて、
さすがというか、呆れるというか、
言葉が出てこない気持ちになる。
「そして、視力を失った私は、
上司に討伐と視力を失った事を連絡してもらったのです」
当然の事だろうと思う。
「そして、上司からの言葉は、
『目が見えなくなったのなら、解雇する』でした」
俺は何と言葉をかけていいのか分からなくなる。
セフィロスは剣を撫でる。
「フレイルドラゴンの素材も、功績も、全て上司に奪われました、
私に残ったのはこの剣のみ」
無言でセフィロスを見つめる。
「この剣を売れば、しばらくは生活ができたかもしれません、
しかし、それもすぐに尽きる。
それに、命を共にしたこの剣を手放したくはなかったのです。
目が見えない私を雇ってくれる所などないでしょう。
私はそのまま奴隷となりました」
俺の目に涙が浮かぶ、
そのまま静かに頬を伝い、泣いている事に気づいた。
「今思えば、暗い底にいたのだと思います、
そこに光を下さったのはハルト様です」
涙を拭く俺に続ける。
「今まで、苦しい事ばかりでした、
いや苦しい事だとすら気づいていなかったんです。
しかし、今マチルダと共に生活をして、
やっと幸せを見つける事ができました、
今までの事は、全て今に繋がっていると思えば、全ては救われる」
微笑んだセフィロスが続ける。
「私を買って下さってありがとうございます、
ハルト様は私の全てです」
「セフィロス・・・君の幸せと、マチルダの幸せが、
俺の幸せだよ」
「そう言って下さるハルト様だこそ、
お仕えしたいと心から思えるのです。
ちなみに、私が抜けた後の共和国の警備員は、
3倍の人数に増やされ、上司もそのままでした、
私がした事はなんだったのか、
全て自己満足で、無駄だったのか、
多分1人だったら絶望していたと思います。
私なんかいなくても、結局何も変わらないと・・・」
「そんな事はない!セフィロスに代わりなんかいない!」
「ありがとうございます、ハルト様はいつも、
私が欲しい言葉を下さる」
「辛かったね」
「今、振り返れば・・・なので、
本当に愚かだったと思います」
「そんな事はない、沢山の人を救ったのは事実だ!」
「そうなんでしょうか」
「そうだ」
あの上司に、セフィロスを本当に売らなくて良かったと思う。
どうしてあの人物がのうのうとしていられるのか分からない、
しかし、選挙で選ぶのは共和国の制度だ、
きちんと選挙で選ばれた人物である以上、
俺が横から何かを言う事はできない。
「無力ですまない」
思わず口にする俺にセフィロスが驚く。
「どうしてですか?」
「何もしてあげられる事がない」
「もう十分にして頂いてます」
本当なのだろうか・・・
「今幸せかい?」
「はい」
めったに見る事のない、心からのセフィロスの笑顔に、
俺が救われた気持ちになった。




