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-2話 景況

「どこまで歩いても廃墟って話は?君はもっと早く目を覚ましてすでに探索したのか?」

「昨日今日で街中を歩き回ってみたけど見た限りではどこもかしこも廃墟でね。街の外に出ようにも、囲ってる城壁の門を開ける手段が見つからなかったんだよ。どこも魔法陣が描かれていたから何らかの魔術的な方法で開けられなくなってるんだと思うけど」

「魔術ね…異世界だとしたらやっぱりそういうのあるんだな…」

「君の世界は魔法使わないのかい?」

「まぁな。あったらぜひ使いたいもんだが、生憎俺のいた世界では物語の中だけのものだよ。それで他には何か見つけたりとかは?」

「城門以外にも何か所か外に出るための穴みたいなものが城壁に開けられてるのは見つけたんだよ。城門が使えないから代わりの出入り口を作ろうとした痕跡なのかな?でもその穴も向こう側は全て黒い壁のようなものに覆われていて外に出ることはできなさそうだった。あんなのは見たことないけど何らかの結界魔法なのかな?それでどこ行っても廃墟だし、人もいないし、街の外に出ることもできないしでどうしたものかと思っていたら東門の近くで君を見つけてね。今に至るってことさ。もしゃもしゃ」

 

 彼女の言葉通り自分が倒れていた路上の先を見ると遠くに城壁と城門が見える。

 遠くてよくは見えないがあの城門が東門のようで、赤い円状の何かが大きく描かれている。


「街中は君が歩き回った限りでは廃墟か…それならあの向こうに見える城みたいなのは行ってみたか?」

 自分は遠くに見えていた街の中心にそびえ立つ城を指差して尋ねる。

 この街の中で異様に目立つ建造物、ずっと気になっていたため聞いてみることにした。

「あのお城はここで目を覚ました後、一番最初に行こうとしたんだよ。だけどあそこも街を囲む城壁と同じで壁に囲まれていて入れる場所は見た限り見つけられなかった。仕方なく街中歩いたり、外壁に沿って歩いてたりしたの。もしゃもしゃ」

 彼女の言葉を信じるのであれば俺とこの子の二人は外側と内側の壁の間に閉じ込められているような状態らしい。


「私も質問していいかな?[世界]の魔女様の夢を見たらここにいたって話。他に何か言ってなかった?例えばこの場所のこととか」

「確かタロットカードを探せみたいなことを言ってたかな。そうすれば帰れるみたいなことも…この廃墟で探せってことなのか?」

「タロットカードねぇ…文字通りカードを探すのか、それとも…」

「それとも?」

「タロットカードを持つ他の魔女を探せってことかもね」

「あいつも言っていたそれぞれのカードに対応する魔女とやらか…カードでも魔女でもそれらしい何か見たりしなかった?」

「見てないなー。でも私は街中と城壁近くをぶらぶらしてただけで建物の中とかは見てないからもしかしたら屋内を探せば手掛かりとかあるかもね」

「建物の中か…あんまりぼろい家に入りたくはないけど。崩れたりしかねないし。それでも入るなら急いだ方がいいかもな」

「その口ぶりだと探すつもりなんだね」

「こんな訳の分からない場所から帰れるならな。日も少し傾いているしできることならさっさと済ませたいなって」

「さっさと済むかな?この街にどれだけの建物があるのか分からないけど全部探すことになるのだとしたら…」

「考えたくないな…。それでも何もしなくても暗くなるだろうしとりあえず何かしら行動は起こそう」

「そうだね。実は私はこの場所のことが何か分かるものを探そうと思っていたんだよ。私はお城に興味があって入る方法を探していたからね。だから建物の中を一緒に探してくれるなら嬉しいな」


 自分の言葉通り太陽はすでに近くの門に向かって傾き始めている。

 それから考えると現在時刻は午後四時といったところだろうか?

 こんな場所で夜を迎えた場合どうなるかなど想像もしたくない。

 そんなことを考えながら何か違和感を覚える。

 この思考をする中で何か重大な事を見落としているような…。


「…」

 自分が考え事をしている間にも彼女はポーチからお菓子や皮袋に入った飲み物を取り出すと(せわ)しなく口に運んでいく。

「もしゃもしゃもしゃ。ごくごくごく」

「…」

「もしゃもしゃもしゃ。ごくごくごく」

「ちょっと…気になるんだけどさっきから食べてるそれは?」


「おにーさん、もしかして欲しいの?あげないからね」

「気になるっていうか、気が散るっていうか…」

「このポーチすごいんだよ。私が目を覚ました場所に置いてあったんだけど魔石を入れるとお菓子になって出てくるの!それも私の大好物のココアクレーパイにね!」

 彼女はココアクリームでコーティングされた棒状のクッキーを自慢するように自分に見せつける。

「こんなすごいものがあるならもっと前から欲しかったよ。私が目を覚ました場所はこの街の中にあるお屋敷でね。そこも廃墟ではあるんだけど中は掃除がされてるように奇麗だった。そして目を覚ました私の枕元にはこのポーチとかいくつか使えそうなものが置いてあったの。魔石も置いてあったからポーチに入れて持っていこうとしたらお菓子になるのを見つけてね。すごいよねこれ」

「その水も屋敷に用意されてたとか?」

「私のいた屋敷だけは井戸も奇麗なままで普通に使えたんだよ。浄水装置も新品みたいだったし」

 それから考えられることは何も与えられず路上に放り出されていた自分と違って彼女には食料などのものが意図的に用意されてこの場所に呼ばれただろうということだ。

 まるで誰かの意志の下で…。


「暗くなる前に動くんじゃなかったの?」

「すまない、考え事をしてた。まずは俺自身も少しこの街を見てみたい。それでそこまで崩れていない丈夫そうな建物を見つけたら中も見てみるってことにするか。歩きながら君の知ってることが他にもあるなら教えてほしい」


ココアクレーパイ:ココアクリームでコーティングされたお菓子。中はクレープ生地を層状に焼き上げサクサクとした触感がする。コズモス嬢の大好物。

(元ネタは[世界]を意味する名を冠するお菓子である[ブ〇ボ〇]の[ル〇ン〇])

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