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ショートショート11月〜4回目

貧しいスーパー、斯く生まれ変われり

作者: たかさば

 近所にある、『スーパースズキ』が取り壊されるらしい。


 ……子供の頃足しげく通った場所がまた一つ、この町から消えてゆく。

 ここ20年ほどシャッターが閉まったままになっていたとはいえ、見慣れた景色が無くなるというのは…寂しいものだ。


『スーパースズキ』は、地域の住民に愛され、馴染んでいたお店だった。


 スーパーといってもコンビニ程度の大きさしかなく、食品や日用品などを過不足なく販売するような…昔ながらの店だった。空きっ放しになっている引き戸の向こうには手作りの蒸しパンやサンドイッチ、お弁当が並ぶチルドショーケースがあって、毎日おばあちゃんが穴だらけの椅子の上にちょこんと座って店番をしていたものだ。


 夏には凍らせた棒ジュースを一本10円で買って食べて、冬にはふかし過ぎたぶよぶよの肉まんを50円で買って食べて。遠足のおやつはいつもここで買ったし、牛乳瓶を持って行くと10円がもらえてお得で。

 うんと幼い時には、店の前の二車線道路を渡らせてもらった事もあった。昔はこの辺りには信号が無かったので、自宅に帰るためにはタイミングを見計らって道路を横断する必要があったのだ。5歳児と変わらない目の高さの、背中の曲がったおばあちゃんに手を引かれて向こう側に渡ったことを思い出す。


 昔はわりとお菓子や菓子パン、野菜なんかも並んでいて、おやつを買いに行くと店内に近所の人がいる事も多かったのだが、近所にコンビニができた頃からだんだんと…様子がおかしくなった。


 売っているものが少なくなって…空の棚が目立つようになり。肉まんの機械が無くなって、自動販売機が減って。店内の電気が点かなくなって、チルドのショーケースがただの棚になって。アイスケースが無くなって、お弁当もサンドイッチも売らなくなって。店の半分が倉庫のようになって、段ボールがたくさん積まれるようになって。


 子供でも何となく経営がうまくいっていないんだろうなと感じてしまうほどに、店が貧しくなっていった。


 割れっぱなしのガラスにガムテープで補強してある棚、新聞紙で作った買い物袋…、至る所に無駄遣いをしないという精神と努力と諦めのようなものが見受けられた。あらゆるところをケチって、最終的には売り物を仕入れることすらしなくなって、なんというか、はっきりといってしまえば、貧乏な店になってしまったのだ。


 少し離れた場所に品物がずらりと並ぶショッピングセンターができた事もあり…、中学生になる頃にはすっかり足が遠のくようになった。そしていつの間にか、ひっそりと閉店していたのだ。


『スーパースズキ』は家族経営で、敷地内に住宅が建っていた。店舗と住宅の間には花壇やプランターなどが並んでいて、奥の方にはカキの木、ミカンの木などもあった。繁盛していた頃は、花壇で咲いた花や収穫した果実、野菜なども販売していたものだ。

 しかし、閉店と共に手入れをするものがいなくなったらしく、花壇をはじめとする庭全体が荒れるようになり、木々がやけに伸びるようになって…森のようになってしまった。

 正直、ここ数年は台風の時期には伸びっぱなしになった木々が派手に揺れていて…怖かった。いつか甚大な被害が出るんじゃないかとヒヤヒヤしていたのだが…、今年からはあの恐怖が無くなるのかと、少しだけホッとした。




 『スーパースズキ』のあった場所に囲いができた。


 数日間、どたんばたん、ガシャンゴー、ゴリゴリガガガとウルサイ音をたてていたが、あっという間にあのうっそうとした雰囲気の区画は…、見通しの良い、気持ち良く風が流れる、明るい更地へと変化した。


「うわ…なに、これ…、スゴイ……」


 正直、かなり驚いた。

 めちゃめちゃ…広かったのである。


 小さな店だと思っていたが、裏側にも建物が広がっていたらしい。間口が狭いので小さい家かと思っていたが、奥行きがずいぶんあったようだ。大きく育った木々が相当圧迫していたのだろう、不要なものが、古いものが、邪魔なものがすべてなくなった土地は、思わず感嘆の声が出てしまうほどの広さだった。


 ……もしかしたら、広い駐車場付きのコンビニでも建てるつもりなんだろうか。

 

 そういえば、この店の衰退につながったコンビニがなくなって久しい。この辺りは地味に買い物できる店が無くて、自販機もあまりなくて不便といえば不便で…。大きな公園ができたから集客も見込めるだろうし、もしこの場所にコンビニができれば、おそらく繁盛するに違いない。


 いろいろケチって経営とかするのかな……。

 また貧乏丸出しのお店になったりして……。


 色々と、想像を巡らせていた私だったが。



 後日、看板が設置されたので、興味本位で近付いてみたところ……、うん?なんだ、家が建つのか。


 新築工事、区画数6、工期日程、建築会社…。

 発注者の名前は…鈴木さん……。

 もしかして、一族で住むのだろうか……。

 子供なんていたっけ?…記憶がない。



 さらに後日、土台工事が始まった区画に小さな看板が設置されたので、なんだろうと思って近づいてみると…、うん?なんだ、販売……?


 40坪の建売住宅、3800万!!!

 それが…6軒!!!


 ……めちゃめちゃ貧乏だと?!

 嘘をつけ、めちゃめちゃ金持ちではないか!!!


 今頃、スズキさんは黄金の風呂にでも入っているのではないあるまいか……、そんなこと思いながら、私はだだっ広い貧乏スーパーの跡地を後にしたのだった。


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