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騎士を拾ってみました.4


 ひとまず階段を降り、リズはカウンターの定位置に、ミオはキッチンへ向かう。

 湯を沸かし、リズが出勤前にいつも頼むアーティチョークティーを淹れる準備をしながら思い出した。


(そういえは、摘んだブルーベリー置いてきちゃた)


 外を見れば夕暮れが始まっているので、今からは取りに行けない。鳥が摘んでいないことを願おう。


「私、今日、バーを休みにしようかしら」

「どうして?」

「だってミオ一人よ。不安じゃない」

「確かに、容態が急変したらと思うと不安だけれども……」


 眉を下げ二階を見上げるミオに対し、リズは、はぁ、と息を吐いて首を振る。そういうことじゃないらしい。


「それもあるけれど、見知らぬ男と二人っきりなのよ。相手は騎士だからゴロツキなんかよりは信用できるけれど、周りに民家はないから何かあっても誰も助けに来てくれないわよ」

「あぁ、そういう心配ね。大丈夫じゃないかな? 子供を助けようとして溺れるような人よ」


 ミオとしては、善人の部類に入れて全く問題ないと思う。それに相手は見目麗しい二十代。アラサーなんて向こうからお断りでしょう。


 リズはうーん、と唸りながら最終的にはバーの帰りに寄る、ということで納得した。ジークの様子だとそれまで寝ているだろう、と考えてのこと。


「それで、あとで説明するって言っていたけれど、あの足の傷と、血に染まった服はどういうこと?」

「それね。えーと、私が初めに見た時は十五センチぐらい大きな切り傷だったの」


 ミオはこれぐらい、と左右の指でその大きさを説明する。


「それで、たまたま止血作用のあるハーブティーを持っていたから傷口にかけたところ、血が止まり傷口が少し塞がったの」

「そんな凄いハーブティーがあるの!? 再度確認するけど、これ、薬ではないのよね」


 目の前のティーポットをリズば指先で叩く。コンコンとガラスが鳴る音がする。


「あんなに即効性があるなんて普通なら考えられないわ。この世界の人達の体質に合うのか、他にも要因があるのか分からないんだけど」

「何か心当たりはないの?」


 そう聞かれ、ミオの頭に浮かんだのはあの金色の粉。ティーポットを揺するたびに光るので気になっていたけれど、異世界特有の何かだと受け流していた。おおらかにもほどがある。


 それを聞いたリズは、うーん、と腕組み口をへの字にして暫く宙を睨む。


「ミオ、ヤロウのハーブティー、私も作っていい?」

「リズが? いいわよ」

「ありがとう、ミオも一緒に作るのよ」

「私も?」


 リズの意図は分からないけれど、言われるがままティーポットを二つ用意し湯を沸かせティーポットに注ぐ。


 いつも作るのを見ているからか、リズの手際は初めてと思えないほど良い。ふんふんと、心なしか笑みを零しながら作っている。


「で、最後にティーポットを揺らすのよね?」

「そう、濃度が均一になるように」


 まずはリズがゆらりと揺らす。

 でも、何も起きない。


「ミオもしてみて」

「うん」


 ミオがいつものようにティーポットを揺らすと、金色の粉が浮かびあがりすぐに溶けていった。


「ね、金の粉が出たでしょ?」


 ティーポットを指差せば、リズが怪訝な表情を浮かべる。


「私には見えなかったわ」

「えっ? だってキラキラしていたわよ」


 こんな近くで見ていたのに、なんならもう一度淹れようか? でも、リズはその必要はないと首を振る。


「ミオの言うことを疑っているわけではないの。きっとそれはミオにしか見えないのよ」

「私にしか?」

「そう。だってミオは『神の気まぐれ』だもの」


 当然とばかりにリズは頷く。


(いやいや、その一言で片付けていいの?)


 「神の気まぐれ」は万能選手なのか。


(でも、もし本当にそうだとしたら、気まぐれすぎない?)


 方や異世界の生活習慣を劇的に向上させたのに対し、自分は二日酔いを回復させる、差があり過ぎではないか?


「でも、そのおかげであの騎士は助かったのよ」


 知らず声に出ていようだ。

 リズはキッチンをゴソゴソ漁ると、ぺティナイフを取り出した。


「ちょっとナイフ借りるわよ」

「うん?」


 あまりにもサラリと言われたので反射的にうなずいてしまった。何をするのかと首を傾げるミオの前で、リズは何の躊躇いもなく自分の腕を切った。しかも長さ八センチほどの深い傷。


「ひゃ!! ちょ、ちょっと、リズ、何してるの!? えーと、絆創膏、包帯!!」

「いいから、いいから。これぐらい傷のうちに入らないし」

「はい?」


 ダラダラと血がでてますが? 

 何故そんなにも平然としているのか。

 さらにリズは顔色を変えることなく、自分が淹れたティーポットを手にした。


「傷口にハーブティーをかけたのよね」

「う、うん」


 まさか、と思っていると、流しの上に手をやり躊躇うことなくハーブティーをかける。


 いやいや、それは淹れたてのハーブティー。

 今度は火傷をする気?


「ひゃ! リズ赤くなってる! 早く冷やさなきゃ」

「うーん、しみるだけで何も起こらないわね。じゃ、次はミオのハーブティーをっと」

「だから、どうしてまたかけようとするの!!」


 ミオの制止を無視すると、今度はミオが淹れたハーブティーを淡々とかけた。こいつ、痛覚がないのか?

 もはや呆然とするミオだけれど、さらに言葉を失うことが。


「「傷が塞がってきた!」」


 声が揃う。二人して目を合わせパチクリしてから再び傷を見ると、血は止まり傷は消えている。


「こんなことがあるなんて」


 リズは手のひらをグーパーさせたあと、ぶんぶんと腕を振ってみる。痛みも引き攣る感じも全くない。


「高級ポーション並よ」

「リズは高級ポーションを使ったことがあるの」


 確かこんな田舎にはロクな薬がないと言っていたような。


「あぁ、それは、……そうね、ちょっと、フフ」


 なんだか、いや、あからさまに歯切れが悪い。

 ミオとしてはもっと追求したいとこだけれど、そろそろリズの出勤時間だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 回復力がもはやラクーンシティはアークレイ山近隣に生えるハーブ並みである。
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