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ハーブティーカフェは軌道にのる.2


 がっくりとうなだれるミオをジークは不思議そうに見る。

 ジークにすればミオは命の恩人で、決して酔いどれを救う女神ではない。


「ミオ、野菜の下ごしらえはできてあとは茹でるだけなんだけれど」

「あ、うん。ごめん、ちょっと意識がとんでいたわ。えーと。鍋にチーズと牛乳、白ワインを淹れて火にかけたいんだけれど、ジークごめん、上の棚から鍋を取ってくれない?」

「いいよ」


 ミオは決して小柄ではない。でも、踏み台なしでは届かないその場所に、ジークはあっさり手を伸ばす。しかも重い鍋を片手でひょいと持つと軽々とおろしてくれた。


「やっぱり男の子ね」

「……男の子?」


 心外だとばかりにジークの眉間に皺が入るも、ミオはそれに気づかない。

 鍋を受け取ると材料を火にかけ準備を進める。ジークは不満そうに唇を尖らせながらも野菜を茹で始めた。


 用意ができたところで四人掛けのテーブルに移動する。


「はい、どうぞ、ミオ」

「あ、ありがとう」


 なぜかジークが恭しくエスコートして椅子を引いてくれた。ミオは戸惑いつつもそこに腰をかける。

 向かいの席にジークが座ったところで二人は食事をすることに。


 ジークがフォークでジャガイモを挿し、それにたっぷりチーズに絡めて口へと運ぶ。


「熱っ。でもチーズがトロトロで美味しい!」

「でしょう? お昼の残りだけれどお肉もあるわよ」


 ミオもブロッコリーの茎にたっぷりのチーズを絡める。ふうふうと冷まし頬張れば、とろりとしたチーズの触感と、茹でて甘くなったブロッコリーが口の中に広がる。異世界のチーズはミオの知っているそれより味が濃くぎゅっと濃縮されていた。


「初めて食べたけれど、これは、はふっ、とっても美味しい」

「気に入ってくれてよかった。簡単だし今度は違う具材でしてみるのもいいかも」


 パンをフォークに刺しチーズの中にどっぷりとつけくるくると回し、掬い上げるようにすればチーズはどこまでも伸びる。それすら楽しいようで、ジークの手と口は止まらない。


「チーズはどうやって手にしているんだ?」

「リズに頼んで街で買って来て貰っているの。この辺りは辻馬車の停留所がない代わりに手を挙げれば止まってくれるらしいけれど、一人で乗る勇気がなかなかなくて」

「それなら、俺が一緒に街に行こうか? 一度行ってしまえば次からは一人で行けると思うよ」

「いいの!?」


 思わぬ申し出にミオが破顔する。そこまで喜んでもらえると思っていなかったジークは、そんなことならもっと早く言えば良かったと思う。


「ありがとう、そうしてもらえるととても助かる」

「いいよ、普段ただで食事をさせて貰ったり、ハーブティーを飲んでいるから」

「そんな、だって食材はジークが持ってきてくれたものだし、ハーブティは部屋を片付けてくれたお礼よ」


 その上、町を案内してもらえるなんて申し訳ないぐらいだ。


「俺こそ大したことしていないよ。そうだ、明日はどう? 俺休みなんだ」

「せっくの休みを私なんかに付き合ってもらっていいの?」

「もちろん。あっ、そうだ、ドイル隊長から聞いて来いって言われたことすっかり忘れていた!」


 焦ったのか喉にパンを詰まらせ、ケホケホと咳をするジークにミオは水を渡す。


「隊長がミオのヤロウティーを救護室に置けないかって言ってるんだけれど無理かな?」

「ヤロウティーを? 騎士団には薬があるんじゃないの?」


 騎士団は国直轄の部隊。だとすれば、こんな辺境の地でも平民が買えないレベルの薬が常備していそうなもの。

 しかし、ジークは首を振る。


「ポーションはあまり日持ちがしないんだ。薬草を育てることができる者も調薬できる薬師もそのほとんどは王都にいるから、こんな辺境の地だと国直轄の騎士団といえどそこまで効き目のある薬は手に入らない」


 回復魔法を使える者も国には数人いるらしいけれど、それこそ王都にいてこんな場所にくることはないという。

 事情を聞いて、ヤロウティが必要とされていることは理解した。でも、


「あれはあくまでハーブティだから日持ちしないわ。冷蔵庫に入れておけば二日ぐらいは持つと思うけれど、薬としてストックするには不向きだと思う」

「そうか。それだと使い勝手は悪いよな」


 がっくりと項垂れるジークを見て、ミオは何か案はないかと考える。だって、ヤロウティは傷を治す。ミオだって『神のきまぐれ』として酔いどれ以外も助けたい。


「確か、ヤロウと蜜蝋と混ぜて軟膏にすることができたかも。瓶や缶で密閉すれはそれなりに日持ちはすると思う」


 作ったことはないけれど、ハーブについては勉強して飲む以外の知識も持っている。固形にすれば持ち運びもできるし、騎士一人ひとりに携帯させることだってできる。考えれば考えるほど良い案に思えてきた。


「それなら、明日、蜜蝋と缶も買おう。資金は隊長からもらってくるよ」

「待って、まだ作れるって決まったわけじゃないしそれは受け取れないわ。そうだ、完成したら買い取ってもらえないか頼んでくれないかしら」

「分かった。こっちから頼んでるのだから買うに決まっているけど、隊長には伝えておく」


 騎士たちは皆、寮で寝泊まりしているので帰ったら話を通してくれるという。

 ちなみに、ヤロウはミオがベランダで栽培していた物を庭に移植したところ、元気に繁殖してくれている。


 そのあとも二人はたらふく食べ、しゃべり、時計が十時を指したころジークは帰っていった。


「ミオ、俺が帰ったら必ず鍵をしめるんだよ」


 帰り際必ずそう言うジークに(心配性ね)と思いながら、自分を気遣ってくれる人が一人増えたことを嬉しく思った。

お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 農作物の奇跡聞いた後だと真面目にバイオハザードシリーズのハーブ並みにそこいら中に常備される未来が見える…。(ついでにラクーンシティの人間は調合すぐ出来るように常にすり鉢持ち歩いてる公式設定あ…
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