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ハーブティーカフェは軌道にのる.1


 異世界に来て一ヶ月。


 店に来るお客の紹介で、ミオはお肉や野菜の仕入れも始めた。お店は順調に固定客を増やし、今やランチどきには女性も訪れるように。


 初めて女性で店内が埋まったとき、ミオの胸に感慨深いものが。


(これよこれ、私が求めていたものは)


 楽しそうにおしゃべりに花を咲かせ、ハーブティーを飲む。店が一気に華やかになった気がする。


 少なくとも、どんよりとした顔色の悪い酔いどれがターゲットではなかったはず。


(でも、彼らがいたから軌道にのれたわけだし)


 結果よければ全てよし。今だって一番の売り上げはアーティチョークティーだ。


 リズの話では、「ミオの店で朝ハーブティーを飲めばいいから」と言って飲む酒の量が増えた客もいるとか。二人がかりでアルコール依存者を作っていたなら申し訳ないが、売上が伸びてウィンウィンともいえる。


(うん? いいのか? これで?)


 若干良心が痛む。


 開店時間は八時、これまでのハーブティーとパンのセットに小銀貨二枚でハムやソーセージを追加できるようにした。ランチは女性客に合わせ、野菜とお肉の香草焼きにパンとスープをつけたワンプレート、それに好みのハーブティーを選んで貰う。

 もちろんハーブティー単品での注文もできる。


 あれから色々試したところ、ミオが心で願うとハーブティーが輝くことが分かった。

 ハーブには様々な効能がある。むやみやたらに願って薬を越える効果を持ってしまったものを、健康な人に飲ませるのはそれはそれで問題。そこで、酔いどれに出すハーブ以外は、願うことなく淡々と作るように心掛けている。


 さて、そんな日々が続くとある夕方。

 リズを送り出して少しすると、カラリとドアベルが鳴りジークが入ってきた。


(あれから何故か懐かれているのよね)


 ジークの仕事は早朝、日勤、夜勤のローテーションで月に二、三回休みがある。早朝勤務の日は仕事が終わって一眠りした後は決まってミオのお店に来るように。


「じゃ、俺は二階に行ってくる」


 そして人懐っこい笑顔でお決まりのように二階へ。

 何をするかといえば、整理整頓、掃除、時には雑巾かけ。女子力、は語弊があるか。人としての生存活動力に極めて乏しいミオは、放っておけば平気で夕飯を抜くし、着た服はすぐに積み重なる。


 ジークは肉や野菜を持ってきては、ミオの身の回りの世話をしてくれるようになった。初めは遠慮していたけれど、その家事力の高さにすっかり心を奪われ、今はお任せすることに。

 ジーク曰く、命の恩人のあまりの生活力のなさに心配になったらしい。せめてものお礼にと、持ってきて貰った食材と店にあるもので夕食をご馳走することにしている。


 普段は、片付けやパンの仕込みをしながら余った食材を摘み、三食を終わらせることも珍しくない。ミオにとってもきちんとした食事を摂る良い機会でもある。


「今日持ってきてくれたのは、ブロッコリーにジャガイモ、ニンジン。冷蔵庫にはソーセージとお昼の残りの香草焼き」


 何を作ろうかな、と思っているとリズがくれた白ワインの瓶が目に入った。飲みかけだけれど美味しかったから、と分けてくれたお酒だ。


 ありがとうと受け取ったものの、ミオはお酒が殆ど飲めない。未成年(と思っている)のジークに飲ませるわけにもいかないし、ちょっと持て余していた。ちなみにこの世界の成人は十六歳だ。


「そうだ、チーズがあったはず」


 チーズはリズに頼んで町で買ってきて貰っている。本当は町まで出掛けてみたいのだけれど、一人で行く勇気はないし、リズとは生活リズムが合わない。


 ミオが夕食のメニューを決めると、丁度ジークが降りてきた。爽やかな笑顔で「今日は窓も拭いてみた」と言われると、恐縮するしかない。


(家事力の高いイケメン。どこに嫁に出しても恥ずかしくないわ)


 ジークはミオの隣に立つと、少しワクワクした表情で手元を覗いてくる。


「それで今日の夕飯は何?」


 腕まくりしながら話すので、今日も一緒に作るつもりのようだ。


「チーズフォンデュにしない? 持って来てくれた野菜が沢山あるし、チーズも数種類あるわ」

「チーズフォンデュ?」


 首を傾げるジーク、どうやらこの国にはないメニューらしい。


「溶かしたチーズに茹でた野菜やソーセージをディップして食べるの」

「初めて聞いた、俺チーズ好きなんだ。ワインに合うよね。それじゃ俺は野菜を茹でるよ」


 ワインに合う? 聞き捨てならない言葉にミオが僅かに反応する。

 しかしジークはそんな様子に気づくはずもなく、手早く鍋に湯を沸かすとブロッコリーを切っていく。子房に分けるとさらにその茎部分まで一口ほどの大きさに切る。


「ブロッコリーって茎まで食べれるの」

「そうだよ、根本の部分は固いから厚めに皮を向いたほうがいい」


 慣れた手つきを見ながら、ふと思う。


(そういえばこの世界にある野菜って私が知っているものばかり)

 

 村から町へ野菜を売りに行く荷車を止めて売ってもらっているけれど、そこに積まれている野菜はミオが慣れ親しんだもの。しかも季節感なくカボチャやトマトと大根や白菜が一緒に積まれている。どう考えてもおかしい。


「こっちの世界で手に入る野菜って私が知っているものばかりなのだけれど、これって偶然なのかな」

「まさか、これらは全て先々代の『神の気まぐれ』がこの世界に持ち込んだものだよ」


 その言葉にミオは目を丸くする。またしても出てきた、神のきまぐれ。


「ちなみに、その人は具体的に何をしたの?」

「野菜や草花の、種や苗と一緒に転生してきたらしい。当時この国は大規模な飢饉に襲われていたんだけれど、彼の功績であっという間に食糧が市場に出回ったて聞いている」

「あっという間?」


「うん。彼が植えた種は二時間で芽を出し、二日後には実を付けたらしいよ」

「……二日後」


「しかも季節関係なく花や実をつかせるから、それ以降この国は飢饉に陥ったことはない。まさしく救世主だよ」

「……!!!」


 何それ、もはや気まぐれではなく神レベル。


(それに対し、私は毎日酔いどれたちにハーブティーを作る日々)


 ミオだって感謝されている。しかしだ。片や国を救いもう片方は酔いどれを救う。

 神は気まぐれすぎないか。与える能力は均等にしてもらいたい、ミオは不貞腐れながら思った。

お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。


「無自覚な俺の婚約者」が第二回アイリス異世界ファンタジー大賞、審査員特別賞頂いきました。ありがとうございます。短編です。お時間ある方是非ご覧ください。


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