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四十五分

作者: シザキカノト

「お、おいッ!瀬名!ちょっと待てオマエ!ちょ、おい!聞いてん――!」

受話器の向こうで叫ぶ声が聞こえたが、構わず切った。

 ふぅ、と短い嘆息を吐いて、ふと時計を見ると、昼の十一時を少し過ぎた頃。

 ちょうどタイムリミットの四十五分前だ。


タイムリミットまで、あと四十五分。




 四十五分。

 人間はその短い時間で、いったい何が出来るだろう?

 いや、と言うよりも何をするだろう?

 本を一冊読むには時間が足りないし、僕の家にはテレビゲームなんかも無い。音楽でも聴こうにも今の僕には聴きたいCDもないのだ。

 こんな風に暇を持て余してしまうのは、僕が人生の選択を誤ったからなのかもしれない。

 誇れるものや、絶対に手にしたいものというのを望んだ事は無かったように思う。もしかしたらあったのだけど、生きている内に忘れてしまったのかもしれない。

 ただ忙しく自分を急かす事で、空白を埋めていた。

 例えば、そう、友人、知人と何処かへ行ったり、何かをしたりするのは楽しい事で、そうした時に身を投じる僕は心から笑っていたとは思う。

 けれど、きっとそれでは足りなかったんだ。

 今更ながら明確な趣味の一つでもあれば良かったと思う。けれど、それはやっぱり、今更でしか無かった。

 手持ち無沙汰に自宅を歩き回るのもどうしようもないように思えたので、白いソファに寝転がる事にする。

 思えば独り暮らしを始めて、このソファはずっと居る。

 僕と一緒に、時間的には僕以上長くこの家に居たソファ氏は、こうして何度も僕に居心地の良さを与えてくれていた。

 有難うソファくん、感謝してるよ。と心の中で呟く。

 ソファに背中を預けて寝転がると、薄汚れた天井と目が合った。

 元は真っ白だった天井は黄ばんでくすんだ色をしていた。最後に天井を大々的に掃除したのは去年の暮れだったから、もうしばらく掃除をしていない事になる。

 今度、またきちんと掃除しなければ、と思うけれど、結局、やりはしないんだろうな。

 自分の日頃の人格を考えると、それは自明の事だ。

 そう見られる事は少なかったけれど、僕は案外に物臭な人間なんだよ。

 寝転んだまま近くにあったテレビのリモコンに手を伸ばし、電源をオンにした。が、画面の方を見ないでいた。ただ単に音が欲しかったのだ。

 チャンネルを選ぶ事なくブラウン管に映る番組は、昼のニュース。

 世間では相変わらず、アナウンサーが暗い事件のニュース原稿を読んでいる。

 不謹慎かもしれないが、いい加減、この手の事件にも飽きてきた。「親が娘を殺す為に産むような時代では夢も希望もあったもんじゃねぇよなあ」

 ……と、これは先程の電話相手だった、県警に勤める友人・吉田くんの御言葉。

 真面目な彼はまさに正義の人、と言った感じなので、警察官になって正解だと思う。

 きっと不祥事なんかも起こさない。子供の頃に見た戦隊モノの「レッド」みたいな人だから。

 僕にそう思わせたのは、テレビに映った、赤いリンゴが特徴的なコマーシャル。

 そういえば、冷蔵庫にあったっけか。コレ。

 僕がソファーから起き上がり、キッチンに向かう途中に、目に入った時計は、先程からもう十分経っていると言っていた。


 タイムリミットまで、あと三十五分。




 ヨーグルトを持ってキッチンから戻った頃、また電話が鳴った。

 先程の電話の後、留守番電話にしておいたので、出る必要は無い。そのまま構わず、ソファーに座った。

 応答メッセージは冷淡に言う。

「ただ今電話に出る事が出来ません。発信音の後に、御名前とメッセージをお話下さい。ファックスの方は送信ボタンを押して下さい。」

 ピーッ。

『おいッ瀬名!お前、よくも切りやがったな!早まった事、しやがって!今、そっちに行くからな、馬鹿な事しないで待ってろよ!」』

 ガチャンと受話器が叩きつけられる事と無言の発信音が鳴った。

 ……早まった事ねぇ?

 ビックボイスなメッセージを反芻して、口元が歪む。

 確かに早まった事かもしれないね。吉田くん。自分でも、少しはそう思うよ。でもね、「レッド」な君には一生判らないだろう。判ってくれなくていいんだ。僕を理解して欲しいなんて言う台詞は用意してない。高校の頃からの付き合いなのだし、君は十分に僕と言う人間を知っているはずだ。

 ただ僕は君のような人の光属性を見て、自嘲しながら接するしか無いのも確かな事実だよ。


 タイムリミットまで、あと三十分。




 ヨーグルトを食べ切って容器をゴミ箱に投げ捨てた――が、見事にはずれた。容器はゴミ箱の淵に当たって跳ね返り、カーペットの床に転がった。

 仕方無く、ソファーを離れ、捨てに行った。面倒臭かったが、放置しておくとカーペットが汚れてしまうのだ。まあ、別に気にしなくても良い事なのだけれど、そうも出来ないのはきっと性格の所為だろう。変にな細かい処がある。

 再びソファーに戻って、ぐうたらとテレビを眺める事にした。この局のアナウンサーの顔も、そろそろ見飽きてきたのでチャンネルを変える。

 何処に行ってもあまり大差の無い、と言うよりも、面白くはない。

 テレビを止めて、他の何かでもしようかなと思ったが、その時丁度タイミングが良かった。

 アナウンサーがいたく慌てているのを隠しながら、お茶の間に緊急のニュースを伝える。

「ば、番組の途中ですが、ここでニュースです!」


 タイムリミットまで、あと二十五分。




『本日午前十時五十分頃、国会議事堂内に爆弾を仕掛けたという犯行声明がありました。えー、警察官数十名で捜索を行ったところ、不審物が発見されたとの事です。現場と中継が繋がっています。現場の、三嶋さーん。」「はい、議事堂前の三嶋です。えー、先程までは慌ただしかった現場ですが、現在は非常に静かです。中にいた人々はすでに全員避難しています。…あっ、えー、ただ今入った情報でですね、たった今、爆弾処理班が到着し、解体作業を行っているとの事です!』

 新たに発生した暗い事件を一生懸命に報道している女性アナウンサー――爆弾が送られてきた現場に、行くのなんか嫌だろうなぁ。

 ごめんね、アナウンサーのお姉さん。貴方の嫌な仕事を増やしてしまって。

 精密な鉄の力は時間を数えながら自分の役目を果たすのを待っている。それが実行されてしまったら、いつものように彼等は騒ぎ立てるのだ、哀しく悲惨な事件を。事実、人を殺す事は悲しい事だ。悲惨な事件を鎮痛な面持ちで持論を踏まえながらマスメディアは語る。

 けれども僕はとても偏っていて歪みある精神の人間だから、自分が信頼する正義しか信じない。大衆世論が決めた正義を鵜呑みにするような事はしない。

 子供の頃に見た戦隊ヒーローと、その主役「レッド」みたいな我が友人。

 その二つの正義しか、僕には信じられない。

 わずかな正義と、鉄で成り立った力。

 それこそが僕が信じられるものなのだから。

 それしか信じられないから、僕は自ら愚かな行動をしているのだ。

 爆弾を仕掛けるだなんて、とても愚かな事だよね。


 タイムリミットまで、あと二十分。




 テレビが事件をリアルタイムに報道している頃、僕は戸棚から或る物を取り出した。

 それは、漆黒の鉄の塊。僕が信じる鉄の力。ずっしりと重く、手の中の存在感は圧倒的だ。

 僕が世間にこっそりと入手した小型のピストル。弾は一発だけ、既に込められている。

 僕はそれをソファー前の硝子のテーブルの上にゴトリと置いた。

 準備は、事前にやってしておかないとね。アクシデントは唐突に起こるものだから。

 銃はそのままに、僕はまたキッチンへ行った。

 コーヒーを飲む為だ。


 タイムリミットまで、あと十五分。




 インスタントよりはコーヒーメーカーの方が尚良い。豆を挽く猶予があるなら尚更素晴らしいだろう。

 コーヒー粉は、スプーンにきっちり一杯。砂糖は、少量でグラニュー糖のスティックを八分の一だけ入れて、そこにヤカンで沸騰させたミネラルウォーターを注ぐ。湯気が立ち昇るカップの中にちょっと高いが品質の良い牛乳を、コーヒーに対して五分の一ほど注ぐ。

 これが僕が開発した、僕の味覚に最も合う自家製コーヒー。僕の最後の晩餐にしても構わないくらいの一品だ。

 昔は砂糖も乳成分も嫌い完全なブラック党だったけれど、そういうものを混ぜても良いかもしれないと思えるようになった。これは一種の成長だと思うし、或る種老化でもあるだろうと思う。僕がコーヒーを初めて自分の意思で飲んだ時からコーヒーの不純物を許せるようになるまで、長い年月をかけて作られた進行だ。

 ああ、もしかしてこれって趣味のひとつと言えるのかもしれない。こうした小さな拘りは、僕のような人間でも持っていたのだ。

 僕と言う生き物はとても偏平でよく判らないものだと思っていたが、案外そうでもないのかもしれない。

 今そう思えて良かったと思う。

 僕と一緒にコーヒーを飲んでくれた人が言っていた台詞を思い出す。自分達は人間なんだって言う台詞を。彼女の事を思い出す度に、僕は中学三年生だった当時に少しだけ還る事が出来る。あの時間はとても幸福だった。

 だから、そういう人の事をふと思い返しながら飲めるコーヒーと言うのは、とても最高だね。

 あのくたびれた馴染みのソファーで、最後の一服を楽しもう。

 でもやっぱりさ、こういう時に限ってアクシデントは起きるものなんだよね。


 タイムリミットまで、あと十分。




 世間のクロックは僕に優しく無い。それは周知の事実だ。

「おいコラ!瀬名ァ!!お前、いったいどういうつもりだあっ!」

そして、彼――吉田くんが凄い人で、常識を逸脱しているのも周りの人なら皆知っている事だ。

 僕は彼に電話をする前にきちんと下調べをして、彼が彼の職場から最短のルートでやって来た時でも間に合う事が無いように計算してからコールした。車でどんなに急いでも一時間は掛かる道のり、それをどうやったら彼は、三十分弱で来れるのだろう。流石に「レッド」、ヒーローは有限の向こうに存在出来る人なんだね、なんて思ってしまう。

 もしかしたら僕が何か凡ミスをしてしまったのかもしれないけれど。

 僕はコーヒーを片手に、テーブルの上に置かれていた銃を取り上げて、今にも吉田くんの強烈なノックで壊されそうな玄関を救う為、インターフォンに出た。

「お早い到着だね。吉田警部補」

「瀬名!ここ開けろ!連行すんぞ!開けないならぶち破るぞドア!」

「わぁ怖い。でも無理だよ。厳重なオートロックだし、かなり分厚いよ、このドア。」

「だろうな、さっき全力で蹴ったのにびくともし無ぇよ!」

「蹴ったんだ」

インターフォンを押しつつも蹴破る気満々の吉田くんは相変わらずのようだ。変に律儀で、それでいて自分の行動意識には素直だ。

「せめてアレ何とかしろよ!ば、く、だ、ん!」

彼はひたすらに一生懸命、自分が間違っていると思う事を訂正しようと躍起になっている。

「ほんと、相も変わらずだね吉田くん。君みたいに人ん家の前で無茶苦茶に騒ぎ立てる人なんて早々居ないよ」

「るせェよ!むちゃくちゃなのはお互い様だろ瀬名!」

「ま、僕、爆弾犯だしね」

 僕は笑った。こんな時でもとても日常的な僕等のそれと変わらない会話が面白かったのかもしれない。自分に対しての自嘲かもしれないし、とにかく吉田くんが楽しくて笑ってしまったのかもしれない。もう自分が何で笑っているのか何て考えるのは面倒だった。

「ふざけてんだろ、お前!」

 コーヒーを飲みながら吉田くんの声を聞く。声だけでその人の姿を思い出す事が出来るようなはっきりとした声だ。それに、インターフォン越しに会話する吉田くんは、やっぱり「~レッド」な人だった。絵に描いたように熱血で、僕の観点や常識を超えた何かを感じて行動する。当然のように信念を持っていて、それが間違っていない事を、誰よりも知っている。

 どうしてそんなに君は、真っ直ぐな人生を歩めたのだろうか。

「羨ましいよ、吉田くん。」

「あ?」

「僕が君のような人間だったら、きっと議事堂に爆弾を仕掛けない。仕掛けられない。」

「それって誉めてんのか、はぐらかしてんのか。」

「いや誉めているんだよ普通に。君は本当に、レッドのような人だもの。吉田くん」

「あ?」

「僕には君のような戦隊モノのレッドばりの正義の心や一直線に走ってゆける熱血漢な要素が無い。だからこそ君の持つ要素を理解出来ないし、君が僕ではないから君を知る事が出来る。君がそういう思考をする理由も何となく判る。でもそうすると、どうして僕は君のようになれなかったのだろうとも思ってしまうんだ。これ、ただの嫉みだけどね」

「またそんな事言ってんのかよお前!」

きっと吉田くんは今、頭を掻き毟ったと思う。後頭部を縦にがりがりと引っ掻くのは、彼が脳を働かせて考えている証拠だからだ。答えられない問いを向けられた時にもよくやっていた仕草だ。それから彼は困ったように口を開く。

「そりゃ俺はレッドが好きだけど、俺はレッドになりてぇけど、俺は変身出来無ぇんだよ。でも、お前が俺みたいになる事無ぇし、そんなん何かぞわぞわ気持ち悪いし、第一、そんなん、お前が俺じゃないから、お前が俺じゃないんだろ!それでいいじゃんか!」

開いた口からはとてもシンプルな回答がアウトプットされる。

 僕はコーヒーを摂取しながら彼の回答をインプットする。

「僕ね、吉田くん。君の正論は、僕は嫌いじゃないよ。理解も出来る。」

でも理解出来る事と実践出来る事は違う。

 彼のさらりと言ってくれる正論。彼のような考えを沢山の人がしてくれたなら、もうちょっと世界は住み易いかもしれないね。

 君等、ヒーローはそうやって悪を排除する。それが正解なんだよ、やっぱり。そうしてくれて構わないんだ。

「俺には、お前の時々こういう風にさ、よくわかんない事するのが理解出来ねぇよ瀬名。何で爆弾作れるのかもさっぱり判らねぇしさ。」

「理解出来なくて当然だし、意外と作れるもんだよ。君もやろうと思ったら出来るんじゃないかな」

「やらねぇよ。絶対に出来ない方だよ。止める方だよオレ」

「だろうね」

君は飛び切りの人間好きだから。


 タイムリミットは残り、三分だ。


「なぁ瀬名、どうやったら爆弾――」

 ピリリリリ、ピリリリリ、ピリリリリ…!

 インターフォンの向こうから携帯電話の着信音。

「くそ、何だよこんな時に!おい、瀬名!ちょっと待ってろよ!逃げんなよ!」

「大丈夫、判ってるよ」

逃げる訳ないよ。と言うより僕は逃げられないんだから。

 電話の向こうはきっと、吉田くんの後輩のあの刑事さんだろう。彼の携帯が事務的な音を立てる時は必ず仕事関係だからだ。僕の予想は当たっているらしい。インターフォン越しに会話は筒抜けだった。

「何だよ、上山!俺ぁ今、忙しいんだよ!」

あ、吉田先輩!何言ってるんですか!こっち大変なんですから爆弾が!

「知ってるよ!つーか、容疑者説得中なんだよ!」

えっ本当ですか!じゃあひとつ、訊いて下さいよ!定番なんですけど…。

 ……なんて、電話の向こうの上山くんはきっと言っているんだろうな。と考えてみたりする。僕も随分余裕があるものだ。僕の左手に存在している鉄の兵器を見て、今ドアを開けて吉田くんにこれを打てば、僕はこの場所からは一時的に逃げ出す事が出来るのだろうな、と薄情にも僕は考える。

 でも僕はそれを実行しないよ。したら、沢山の僕と吉田を知る人に怒られるから。それに、鉄の扉一枚向こうの暖かい世界は、もう僕の行く世界ではない。

「なぁ瀬名!」

吉田くんが電話を終えたらしい。「何だい?」と何でも無い事のように僕は答える。

「お前さァ、凄い定番だよな」

「だって、スタンダードに沿っていながらも、って言うのがこういう話のセオリーだろう?」

切るべきコードの色が赤か青か。それは、多くの事例でよく或る事じゃないか。

「阿呆!」


タイムリミットまで後、ニ分。




「ねぇ、吉田くん。君はどちらを切るべきか知りたいんだよね」

「おう、当たり前だろ!」

「君は、どっちだと思う?」

「判ってたら訊かねぇよこのヤロ!」

吉田くんて人は、本当に面白い人だ。普通、素直に答える犯人なんて、いるんだろうか?

 僕ならまず答えない。精々、長い付き合いのよしみでヒントをあげるくらいさ。

「吉田くん」

「あ?」

「僕ね、或る人にふられたんだ」

「あぁ?」

思っても見ない話だったんだろうね。吉田くんの声は大層驚いていた。構わず、僕は話し続ける。

「彼女はとてもきちんとした人だったから、わざわざ会ってお断りの返事をくれたんだ。昨今見かけない、律儀な人だろう?」

「だから何なん…」

「彼女、綺麗な薄い青色のスーツを着てたんだ。」

「それどういう…!」

「僕はきっと色んな人に怒られるから、代わりに謝っておいてね」

ガチャ。

僕はインターフォンを遮断する。

「てめ、おいコラ瀬名ァァァ!!」

ドアの向こうで吼える吉田くんの声は、家の中までよく響いた。


タイムリミットまで、あと一分。




 吉田くんが後ろで吼えているのを無視して、僕はまたソファーの所に戻った。テーブルにカップを置いて、時計を見るとタイムリミットの一分前を過ぎている。

 さて、どっちが早いかな。

 家の外では、吉田くんが叫んでいるのが聞こえる。やっぱり彼は常識外のレッドだなぁ。どんなに張り上げたらあんな声が出るのだろう。

 いつもそうやって吉田くんは、僕の計り知れない存在になっている。厳密には理解したくないと思っているから、それ以上僕の頭が知ろうとしないのかもしれない。

 どのみち判らないのだから、大差は無い。

「瀬名ァ!」

吉田くんは彼は正しい方の人だから大丈夫だよ。

「畜生!訳判らねぇんだよ、お前!そういう時に限って遠回しにモノ言うからよ!」

悪かったね、性分なんだよ。

「おい、上山!」

十五秒前だ。

「赤だ!たぶん!」

 吉田くん。

 当たりだよ。

 僕は心持ちゆっくりと、左手の銃をこめかみに当てた。

 僕では無いから、吉田くんは赤だと言う事が出来る。

 僕が吉田くんではないから、こうするのと同じだ。

 謝っておいてね。呆気の無い軽い音だろうから、きっと僕に似合いの終わりだろう。

「よっしゃあ当たりだな!今、容疑者宅に踏み込む!!」


 ぱ ん 。


 しばらく無言の後に、

「ちっくしょ……」

きっと吉田くんは、膝を突いている。




 ―――四十五分前。

『おう、瀬名。どしたよ、署に電話してくるなんぞ珍しいなぁ。』

「うん、ちょっとね、話があるんだ。」

『話?何だよ。』

「実はね、僕、国会議事堂に爆弾を送っておいたんだ。たぶん、バレずに届いたと思う。」

『…。はぁッ?』

「ごめんね吉田くん。じゃ、そういう事で。」

「お、おいッ!瀬名!ちょっと待てオマエ!ちょ、おい!聞いてん―――!」

 受話器の向こうで叫ぶ声が聞こえたが、構わず切った。







僕の命の終焉まで、あと、四十五分。

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