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量子力学の我流ネタ20例(9000文字)

「第4回なろうラジオ大賞」投稿作『量子力学に復讐を』のあとがきを移すついでに、マニアックな加筆を大量にいれて、いちおう読み物という形にしました。


内容は、量子力学で我流(?)で解説し(??)、ついでに超短編への応用可能性を羅列した(???)ものですが、非常にマニアックなので一般向けではありません。より分かりやすい「解説+応用例」は上記初出に残していますので、解説をお求めの方はそちらをご参考下さい。


以下、応用の「アイデア」自体は誰もが思いつくものなので(理系の馬鹿話の一つのレベル)、著作権も何もありません。気軽にお使いください。


なお、私は量子力学は(辛気くさくて)苦手で嫌いなので、勘違いはあるかも知れませんし、説明のために省略もしているので、下手をすると結果的に間違った知識を与えかねません。でも参考ぐらいにはなるかと思います。

とある学びの入学試験。

その最後の試験が始まった。科目は『応用量子力学』。


問題用紙を見ると、2つの計算問題の前に、妙な問題が書かれている。

『以下の設問文に相応しい量子力学用語を1つ以上、その用語を選んだ理由とともに記述せよ。設問は全部で20題あるが、全部答える必要はない』

えっと、これって、好きな問題だけを答えれば合格しうるってこと? あるいは計算問題に時間を残せってこと? 

ともかくも設問を見てみる。



第1問

『蟻を通さないほどの厳戒態勢だが、それでも風に乗って、民衆の怒りは大統領に届いた』。

とだけ書かれてある。


一読して問題の意図がつかめず、第2問に目を移すと

『光線銃はほぼ限界だ。エネルギーの残弾は3つ』

第3問

『その言葉は矢のように刺さった』


第4問以下も同じスタイルだ。

数問読んで、ようやく、この文章に隠された量子力学的な発想を見つけ出す問題だと理解した。同時に、この「大学」に語学の試験が無いことに納得した。

語学とは全体の文脈から相手の意図を理解することと、それに対して言葉で正しく答えることなのだから。


さて、第1問はどう答えよう? 

いくつか候補が上がるが、ここは第2問よりも古い概念を使うことにした。というのも、数学の定期試験など(易しい順の設問が並んでいる)と同じように、古い順に並んでいる気がしたからだ。答えも易しい順とか時代順・発見順に書くべきだろう。

となれば、第一問は前期量子論だ。


量子力学を頭の中で反芻する……。


分子や原子が発見される前は、物体(固体)とは連続(隙間が無い)と思われていた。

分子や原子や発見されたあとですら、エネルギーや現象(波とか)は連続的なもとの思われていた。

ところが、その連続と思われたエネルギーや現象すら、実は微小エネルギー・微細現象の塊で「エネルギーは飛び飛びの値しか取れない」、というのが始まだ。

それは、平安時代の階位や、冒険ゲームの「レベル」のように、1つ目の状態と2つ目の状態とで大きな差が出て来る、そんな世界。あるいは将棋の3段=奨励会と4段=プロの差とも言えるか。


ともあれ、第1問の答えは「蟻より小さいもの」という意味で「原子・素粒子」で良いだろう。原子自体は量子「力学」じゃないけど、量子ではあるし、なにより、そう答えることで、第2問の答え「光量子」に繋がる。


光とは、電磁波のうちの思い切り「波長」の短い成分で、障害物の裏側に回り込む「回折」という波特有の性質を持る。しかし、1個、2個と数えられる光量子フォトンという性質も持っていて、たとえばCCDカメラなんかは、この光量子の数を数える。だからこそ「デジタル」カメラって呼ばれるだよな。

で、可視光よりも波長の短い紫外線やX線だと、粒子的な振る舞いが強くなる。闘いに使えるような光線銃となると、X線やガンマ線だろうなあ。放射線なら、破壊はしなくとも、相手にダメージをあたえられそうだし。

ということは第2問の答えは『放射線」もアリか。よし、「光量子」と併せて両方書いておこう。


第3問は「波と粒子の二重性」を想起させる。

西暦1900年前後の前期量子論で重要なのは、『光量子』と『波と粒子の二重性』『ボーアの原子モデル』だ。そういう視点でみると、第3問は音波への応用だろう。

波が粒子のような性質を持つこと自体は『ソリトン』とか『衝撃波』という現象でも見られるから、それほど不思議ではない。そして、言葉ってのは、子音が衝撃波のように波の先頭にたって、その後ろに母音というエネルギー体を乗せた「塊」だ。そういう意味では粒子的だだろう。

これをファンタジーの世界に翻訳するとさしずめ

『風魔法で空気弾を作る』

といったところか。風の強弱変化を極限までコントロールすれば強烈な「弾」になるのだから。あ、ついでだから説明のところに書いておこう。こういう設問をする試験官なら、こういう答えを好むだろう。


第4問

『友達から恋人、恋人からから夫婦という段階を経ずとも、見合いでいきなり結婚することだってできる。ちょっと度胸はいるけど』

結婚=捕捉と考えれば、確かに原子モデルと一緒だ。ボーアモデルで言うところの、水素原子の一番安定した状態、要するに電子が取りうる軌道のうち、陽子に一番近いというか最も捕捉された「1s軌道」が夫婦で、次に近いというか、これもしっかり捕捉されている「2s,2p軌道」が恋人、その次の「3s,3p,3d軌道」が友達、そしてずっと遠い、というか自由気ままな独身貴族に必要なのがお見合い。

だから、恋人が結婚するのと、友達同士の電撃結婚と、見合い結婚では、周囲に与える『私も結婚したい』エネルギーが、本質的に違う……と思う。

ちなみに2p,3pのpってのはポーラパイス、つまり定期的に距離を置くって意味だけど、友達はプラトニックって揶揄してたなあ。


この捕捉関係、陽子と電子のどっちが男でどっちが女かについては、諸説があるらしいけど、きっと、後ろの設問で出て来るだろう。


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次からいよいよ「量子力学」の問題のようだ。3問目までは量子化の話、4問目はモデルの話であって、量子力学ではなかった。何が違うのか。それが次の設問だ。

第5問

『目で追っている自分に気付く。そっか、恋してしまったんだ。急に会話をするのが怖くなった』


量子力学が19世紀までの科学と異なる点は、量子ぐらいに小さな世界では、粒子の状態自体が確定していないこと。

何かが確かな状態で存在していたのを、観測によって確認するのではなく、始めから状態が決まっていなかったのが、観測されることで状態が決まる世界。

第5問は、それを恋愛になぞらえたものだ。だから答えは『観測しないと確定しない』だ。人口に膾炙している用語としては『シュレジンガーの猫』もあるのだが、それは次の設問の答えに取っておこう。


第6問

『崖から落ちた時、俺は途中にある木々や気流が確率的に変わるという点に働きかけ、結果的に確率的にゼロでない最小ダメージで地面に倒れ込んだ』

観測・シュレ猫の話って、恋愛ジャンルとか、ギャンブル性の強いジャンルで使いやすいネタだな。


第7問

『だるまさんがころんだ』

数秒おきの連続写真。近づく者たちの瞬間瞬間の場所は確定できるけど、その間の動きは尾日は分からない。

これって『二重スリット実験』の応用とも言えるかも。

一回一回の観測は、一点なのだから。それを複数比べることで波の性質が分かる。

『だるまさん』でも、鬼が2度の観察結果の違いから推測する。

でも二重スリット実験と答えてよいかどうか。というのも、二重スリット実験は電子の波動的性質を示す実験だから。

それは『だるまさん』からあまりに遠い。


ならば、と、二重スリットという答えと、理由を書いた最後に、保険として応用例を書くことにした。

『敵は隣の部屋だ。敵の銃弾から身を守れるも、こちらも攻撃できない。左右の小窓を通じて息づかいは伝わるが、それだけだ。その時私は閃いた。小窓の間の距離から、弾の最適サイズを割り出すと、壁の方向に向けてランダムに打ち出した。そう、敵のいる場所が波の重なりの山になるように。なぜなら、この空間は量子力学はマクロに支配しているから。こうして、私は難敵を倒すことに成功した』

長過ぎない……よね。


第8問

『侵略に反撃する代償に家を失うのと、今の生活を守る代わりに侵略者に表向き従うのと、どちらを選ぶか?』

選択の問題。ってことは、

『不確定性原理』

だろう。


粒子が何処にあるかが決まれば、その運動量は不明となり、運動量が決まれば場所が決まらない、という原理だ。要するに、観測しても、粒子の状態(位置と運動量の組み合わせだよな)は完全には確定できないって話。原子モデルの場合。軌道(運動量+エネルギー)が決まったら、その軌道のどこに存在する分からず、電子の軌道は雲のようになって示される。

これを設問にパラフレーズすると、家が位置で、運動量は侵略者への抵抗。そのどちらかが行方不明ってことだ。


『不確定性原理』は応用範囲が広い。設問の現代ドラマ以外にも、歴史アクション(分身の術)やファンジーでも行けそうだ。じゃあ、ついでに応用例を書いておこう。

『確実に安全な場所に転移する代わりにスキルをランダムにするか、好きなスキルを選ぶ代わりに転移先をランダムにするか?』

光線銃の設問があるから、大丈夫だよね?



不確定性原理とくれば、次は「揺らぎ」。そう思っていたら、出た出た、

第9問

『君の瞳は炎のようだ。きっとその心も。どうやったら、こちらに向けて確定できるのか』


恋愛系の定番ネタだ。恋愛未満の時の心は決して確定しない。常に揺らいでいる。それは測定誤差という生易しい者ではなく、心の本質だ。量子の状態も同じで、観測で確定するまでは、常に揺らいでいるし、観測後も、常に新しい体験や思考という影響を受けて、ふたたび揺らぎ始める。


ただし量子力学での揺らぎは、守備範囲が広い。例えばエネルギーの非常に高い世界では、運動エネルギーと、物質の存在エネルギー(アインシュタインのE=mc^2)との間ですら揺らいで、エネルギーから物質+反物質のペアが生まれたりする。

実験室だけではなく、地球を取り巻くバン・アレン帯でも観測されていると知った時はびっくりしたけど。電子の静止エネルギー(mc^2=約500keV)を超えると電子の反物質である「陽電子」が生まれて、バン・アレン帯の粒子数が急に増えるんだなあ。


第10問

『その国は、核兵器よりも強力な兵器を作る場所として、月の夜側に目をつけた。太陽系で最も真空度が高い場所だから』

そういえば、反物質を保持のに有利なのは、衝突=消滅相手の物質が無い場所だから、真空が有利なんだよなあ。ということは、この設問の答えは『反物質』だろうな。


反物質の設問は出る気がしたけど、正統SFで来るとは思わなかった。だって鏡の世界などのファンタジーだけでなく、ホラー

『あれは「本物」のドッペルゲンガーだ。本人と出会ったら、本人が死ぬどころか、回りに大きな影響を与えるだろう』

や、人間ドラマ

『画面の向こう側に見えた悪意は、こちらからも悪意をぶつけると当てると霧散し、私はようやく元気を取り戻した』

、密室もののコメディ

『密室から穀物が消えた。調べたら鶏の羽が見つかった。アレルギーだったのか鶏はくたばり、私は非常食を両方とも失った』

に向いているからな。


恋愛でも良いかも。

『シラノ・ド・ベルジュラック』

なんて、シラノが反物質=代筆代読専門で、物質として愛されるのはクリスチャンだものなあ。

ヒロインの中で両者が一致した時にシラノは死んでしまう訳だし。よし、こっちを答案に加えておこう。


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応用例が広いと言えば、ボーズ粒子のボゾンとフェルミー粒子のフェルミオン。ボウズという語感とフェの文字、そして代表的なフェルミオンが電子であることから、それぞれ男、女を想像させるが、話は簡単ではない。というのも、電子だけでなく、陽子や中性子のように「場所を占める物質」は全てフェルミオンだから。

だから、一つの状態には、一個しか存在し得ない。

例えば一夫一婦制の妻という立場。

例えばトーナメント式大会での勝ち上がりという名誉。

一方のボゾンは、「粒子」という名前こそあれ、その実体が「電磁力や核力などの力を伝える媒体」だ。量子力学特有の粒子という訳だ。

例えば、光量子。この数が光の強さを決めるから、同じ状態(即ち、同じ場所と同じ波長)に何個も同時に存在しうる。


第11問

『ニホンザルや鹿はメスが群れをつくる』

この場合、メスはボゾンだ。なんたって、オスから見ると同じ状態と同じ距離感なのだ。


もっとも人間では話は異なる。男女を問わずアイドルがフェルミオンで「ファン」がボゾンってとこか。今風では『モブ』もボゾン。当然ながら、主人公を取り合う異性同士はフェルミオン。



ボゾンの次はフェルミオン。そう思っていたら、

第12問

『こっそり愛人を作るなんて問題ないさ、と浮気男はうそぶいた』

ときた。


うむ? 。

これはフェルミオンに見せかけた引っかけかも。なんせ「こっそり」とながらも不安定にならないと豪語しているのだから、排他関係じゃ無い訳で。

むしろ、第4問の原子核回りの電子の軌道の話に近い。


水素原子は陽子と電子の一対で、男女のペアになぞらえられることが多い。

しかしだ、沢山の陽子と沢山の電子が水素原子に混在すると、水素原子が電子を2個引きつけて、マイナスイオンになることもある。というかこの確率が結構あるのが量子力学だ。

大抵は片方の電子が原子核に一番近い1s軌道で、もう一個はかなり遠いところを回るのだけど、これが夫婦と愛人の違いなのだろう。

ということは、答えは『負イオン』か『電子親和力』だろうか。ついでに

『結婚した夕霧』

と書いておく。3人目は無理って意味で。


設問が「愛人」ではなく「二股」だったら『スピン』も有りだったけど、スピンにはより相応しい例が次の設問にある。


第13問。

『古都のヒロイン』

双子。まさに双子。伝説のザ・ピーナッツから始まって、日本マラソン史に名を連ねる宗兄弟、そのあと色々いて、今はマラソンの設楽兄弟かな。その間の双子は数が多すぎて印象にないけど。ただ、長距離陸上に多いという印象はある。

なぜ長距離か? それは、ヘロヘロになる「不安定性」を防ぐんだろう。

だって、原子核の電子も、各軌道にスピン2個ずつ入るから、ヘリウム、ネオン、アルゴンが不活性だし。

そういえば宇治十帖の薫大将も、姉妹に影を追っていたなあ。


スピンが双子になぞらえられる理由は、実在物質であるフェルミー粒子は、本来なら一つの状態(位置+運動量の組み合わせ)に1個しか存在しえないってのが日常感覚だから。それが、2個ペアで存在するにだもの。

原子核の周りを1つの軌道に「2つ」の電子が回っているなんて、両者がぶつかりそうで気になってしまう。

実際には、量子力学では、ぶつかるかわりに

『分身の術』とか

『幽霊のすり抜け』

のように重なり合うわけで、そこが量子力学の不思議なところなのだけど、始めは馴染めなかった。


馴染めないといえば、スピンを単純にプラスとマイナスと呼ぶのも始めはピンとこなかった。

だって、スピンはミニ磁石のようなもので、磁場の無い場所だとランダムな向きのはずだから。なんだか、原子核は3次元でなく2次元世界が2枚重なっているような、いや線路のように2本の1次元世界で出来ているような、そんな錯覚を覚えるんだ。

『2人しかいない2年生部員だった僕と彼女は、時に反発し合い、時に引かれ合いながら、部活動に励んでいた』

解答の最後にはそういう創作も入れてしまった。


第14問。

『源氏物語の夕霧』

こっちも2人の話だけど双子じゃなくて、2人の妻に毎月15日づつ通っている「安心安定」の男だ。まるで水か二酸化炭素の酸素や炭素のよう。いや、まあ、ヘリウム原子の原子核でも良いのだけど。

量子力学の答えというのであれば、ヘリウムだよね。

で、3人目の女が衝突すると不安定になると。

ということで、答えはきっと『ヘリウム3原子核』だ。中性子が2個でなく1個のヘリウムで、核融合の材料。

そもそも、2人が収まりが良いのは、ラブコメ漫画50年の歴史が示している。

ラブコメで長編になっても人気が続く奴って、大抵、時間を切り取ると、大抵の瞬間で

『恋人2人の熾烈な争い、気安い友達8人のアドアイス、その間につけ込もうと狙っているモブ異性18人』

だし。


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ここまで、何故だか、波動方程式も行列力学も出ていない。いずれも重要な量子力学用語だ。でもよく考えたら、波動方程式って粒子と波の二重性を数式に表したものだし、行列力学は観測確率を数学的に表現した過ぎない。ただ、言葉遊びとして使われているだけだ。


となると、残る問題で予想されるのは、量子コンピューターがらみの「もつれ」、π(パイ)中間子、トンネル効果、もしかすると対称性の破れや、クオークもかな。


第15問

「調整役はいつものように各派閥を走り回った。だからこそ、信条も利害も対立関係にある派閥が寄り集まって、権力を維持しているのだ』

調整しなければ瓦解するチーム。うん、どこにでもある。権力を目指すものなんて、皆、お山の大将だから。

って、陽子もお山の大将だよなあ。ブラスの電荷を持つ陽子以外が原子核をつくるには、それをくっつける調整役が必要だ。

古典力学的には「核力」だけど、量子力学的には、それは粒子。それこそが湯川博士の予言したπ中間子だ。

やり取りは陽子間だけではなく、中性子との行き来もある。というかそっちが重要で、中性子を陽子入れ替えることが多いからだ。

こうして、ある案件では突出した意見を持った陽子であっても、次の案件ではどうでも良い中性子になったりする。

入れ替えない場合もスピンの向きを変えたりして、同じ陽子でも、反対派からいきなり賛成派になったりするのだ。


恋愛だって似たようなものかも知れない。常に片方が陽子のように積極的で、もう一方は 中性子のようにそれを受け止める。駆け引きってやつだ。

『昨日僕が出した彼女への好意が伝わったのか、今日は彼女から強い好意を感じて、かえって戸惑ってしまった』

いや、ファンタジー・コメディの定番のである「入れ替わりもの」のほうが合ってるかも。


第16問

『経営戦略の失敗で、自己資本率が下がり、一部上場の停止は時間の問題だったが、決算の直前に株価は乱高下して、社史最悪の危機を乗り越えたのである』

ええっと、点だった数字が波で変化して、壁を乗り越えたって奴だよね。それって、まさしくトンネル効果じゃん。江崎博士が日本人で3人目のノーベル物理学賞を取った話題。


そういえば昔のサーカスの定番で、シーソーに大人が飛び乗って子供が、より高いところに飛んで行くってのあったけど、これもある意味トンネル効果だよなあ。重さを「確率」に読み替えたら、確率の一部は身の丈よりも高い目標をクリアできる、って意味になるから。


実際のトンネル効果は、半導体の中で観測された現象で、本来なら移動するだけのエネルギーを持たないはずの電子が移動するという効果で表されて、「波のようなものだから」で説明することもあれば「エネルギーを真空からちょいと借り手、移動直後に返す」みたいな説明もあるけど。

野球やキーパーのトンネル?

いや、どちらかといえば、イレギュラーバウンドで取り損ねるっていうイメージのような。



第17問

『鏡に背中を向けて立つっていたら、鏡に映る「偽自分」に引き込まれた』

昔からあちこちで見られる怪談だ。有名どころではムーミンの異性の友達が引き込まれたのをムーミンが助け出す話がある。


鏡というのは、反物質とかスピンとかをイメージさせるけど、この段階での鏡はもっと複雑なはず。

それは非対称性。引き込むってのは、鏡の中の偽自分が向きを変えて対称性を破らなければならないから。

となれば、答えは「弱い相互作用」か「対称性の破れ」か。

後者は南部博士が提唱して、日本人3人でノーベル物理学賞を分け合ったトピック名だ。

内容は難しすぎて、科学の「光学的異性体」とはちょっと違うってことぐらいしか知らないけど、名前だけは覚えている。


そういえば、左右の違いを宇宙人に量子力学で説明して、右手で握手しようとしたときに相手が左手を出したら、それは反物質だから触ってはいけない、というネタもあったなあ。



第18問

『リア王』

3人の娘に等しく権力を与えようとしたけど、3人目に与えなかったから、崩壊したって話だよね。


これって、陽子や中性子が3つの素粒子で出来ているから、安定だって話だろうな。

まさしくクオーク理論。

2つだけだと不安定で直ぐに崩壊する。3つでも中性子のように、1個だけ取り出すと不安定になったりするけど。

っていうか、それぐらいしか知らないよ。クオーク? それ何? って今でも思っているもの。


それはともかく、これって

『3人寄れば文殊の知恵』

のほうが合ってない?



第19問

『今の君を見ていると、君が遠隔恋愛中の彼女のことすら分かってくる。君は否定してるけど、留学中の彼女は、魅力的で助けになる男の子に懐かれて、心が揺らいでいるよ。でも安心したまえ。君に出来ることは何も無い』

ながっい。


遠距離というキーワードと、それでも第3者に観測出来るという流れ。これは『量子もつれ』に違いない。


量子もつれとは何か。

例えば同じ状態の、でも(ヘリウム原子の基底状態のように)スピンだけが逆と分かっている電子を考える(あるいは偏光が異なると分かっている単色光)。「逆」という条件は、過去に両者が相互作用を起こしたことを意味するが、そのため片方を観測すると、もう一方の電子の状態も確定させる。それこそ光速を超えて。

過去に相互作用のあったからこそ、光速を超えないという相対論を守りつつ、情報を瞬時に送るという奇妙な結果を生みのだ。


これが「量子もつれ」

しかも、同じ状態が実は2に分かれてる、というデジタル向けの性質まで持っている。

実際、通信にも応用が効き、量子もつれを使った衛星間通信の基礎実験が成功しているらしい。


当然ながら、このネタは推理ジャンルと相性が良いし、

『子を見れば家庭が分かる』

って言う形の人情ものにも合う。アクションでも人質救出もの

『犯人が二ヶ所に監禁した人質のどちらかを確実に殺すように脅した話』

などで使えそうだ。

何より、宇宙ものでは必須だろう。通信が光速以下では連絡が大変だから。



さて、いよいよ最後の設問だ。

第20問。

『落語のオチ』

落語といえば、たいてい何かだ駄洒落。言葉遊びだ。

例えば『行列力学』を、何かの行列が起こす交通規制や渋滞になぞらえたり、波動方程式を波動ホウとか破防法とかで吹き替えるとか。

いやいや、それは『量子力学』では無いだろう。


ここで冒頭文を思い出した。そうだ全部を真面目に答える必要は無いんだ。

ならば、ここは行列力学の例がよいかも。

『右から車のパレードが、左から仮装行列が、真ん中から神輿がやってきた。概ねすり抜けたが、行列力学に忠実だった参加者の中には衝突事故を起こした者もいた』

駄洒落としてはちょっと物足りないけど、時間もないし、ここで妥協。


こうして試験は全問埋めて、無事におわった。


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試験結果が出た。その結果、希望の理学部ではなく、何故か経済学部に編入させられた。

なんでも『応用量子力学』の結果が良すぎたのが問題だったらしい。これだけ法螺話がかけて、しかも計算にも明るいならと、経済学部の教授が引き抜いたそうだ。

それは名誉だけど、理由が酷かった

『経済評論家とか株屋といった詐欺っぽい仕事が向いている』


(あとがき)


何が言いたいかというと、量子力学の作品ジャンルは多岐に渡り、

『観測=読むまで確率的にしか分からない』

ということでした、


ラジオ大賞の「量子力学」題で100作投稿されたうち、一番多いネタが「シュレジンガーの猫」(=主に確率を観測で収束させるという意味で特に恋愛もので使われていた)と「揺らぎ」(=だからこそ確率で語る)で、これと、二番手の二重スリット実験(波と粒子の二重性)が、三番手のスピン(まさに双子そのもの)を大きく引き離しています。


それに引き換え、理系の間では有名な湯川秀樹の中間子理論『力のやり取り=粒子のやりとり』や、

パウリの排他原理『普通に存在する粒子は、同じ状態(結婚とか)には1つしかはいらない』、

プランクの量子エネルギー論『(RPGのように)レベルは非連続的に上昇し、整数値しか取りえない』、

ボーアの前期量子論と『原子における電子は、特定の軌道しか原子核を回れない』、

フェルミオン『特定の相手=スピンの雄雌の差しか認めない』とボゾン『ハーレム、群れ』

は結局使われてません。


そういう訳で本文となりました。


中間子で陽子と中性子が入れかわる様子は、wikipedia英語版に説明動画があります。

https://en.wikipedia.org/wiki/Pion#/media/File:Nuclear_Force_anim_smaller.gif


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蛇足の裏設定らしいもの:最近出来た少数精鋭の3年履修型大学、文科省的には専門学校ですらないという曰く付きの学びが設立された。ただし注目度は高い。受験資格は中卒だが、入学年齢の下限が19歳、上限22歳で、入試科目も理系大学の専門を思わせるような科目から6科目選択するようになっていて、英語や国語が一切無いからだ。なんでも、技術立国の再生をうたった「大学」らしく、多くの寄付金が集まったお陰で、学費も安い。

私のように英語嫌いが祟ってランク落ちで「大学」という名の何かに滑り込んだ私にはぴったりで、入学している大学のキャンパスライフを楽しみつつも、この試験を受けることにした。


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