ラジオ・アクティブ・コントロール(夏のホラー2022企画)全文18000文字版
筆者はラジオ工作については全くと言って良いほど経験がありません。調べてはみましたが、間違いが多いとは思います。あらかじめ謝っておきます。すみません。
夏のホラー企画用に書き上げたは良いものの、余りにマニアックで長過ぎるので、ホラー企画には伏線部にあたる講座を削った短縮版のみを投稿したのでした。
今はほとんど死語となった『ラジコン』。ラジオに使われる波長の電波で遠隔からコントロールすることで、その自作は高度成長期の子供の夢だった。そんなラジコン世代をターゲットにしたと思われる『ラジオ講座』が始まった。
- - - - - 1 マイク - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
草取り作業のBGMとして付けっぱなしになっているラジオから、ノリの軽いアナウンサーの声が聞こえてきた。今週始まった新番組だ。
『この時間では、昔なつかしのハンダ付け工作を振り返りつつ、誰でも出来る最先端の工作を、わたくし、イロハ・アウオの説明でお送りします』
おお、確かに懐かしい。再雇用を辞退して田舎に籠ったような『ラジコン世代』には、ピンポイントな話題だ。アナウンサーは知らない人だけど、中二病的な覆面という意味で、AIをもじっただけかな?
『ハンダ付け工作といえば、ラジオとアンプ。ついでに盗聴器』
中学の技術家庭が男女に分かれていた頃は、ちょっと楽しく役に立つ木工、旋盤とか道具は揃っているけど結局その道に進む者しか使わない金工、昔のバイクや車のメンテに書かせない機械(女子の刺繍や編み物とどっこいどっこい)、と進んだあとにやって来る電気の話が「最先端」の花形だった。それは今にして思えば女子の保育並みに必須の知識で、その後は最優先の課題になったけど、今や電気の基礎知識がないと家電やパソコンは分からない。
『一番の基礎のアンプですが、そのアンプに入力するシグナルというのは、ラジオの世界では音声シグナルです。音声はマイクを通して音声シグナルという電気情報に変わりますが……』
中学の頃のラジオの話で一番不思議だったのが、真空管やトランジスタでなく、マイクによる電気信号への変換の部分だったんだよね。何故か授業じゃ早口で聞き取れなかったんだけど。スピーカーの方は、電気信号の振幅で膜を叩いて、そのまま空気振動として音にするっていう説明で分かったのに。
『……せっかくだから、このマイクも自作しちゃいましょう。原理は簡単で、振動板でコイルと心鉄の相対位置を物理的に動かして誘導電流を発生させるか、振動板でコンデンサの片側を物理的に動かして溜まる電荷を増減させて電流を発生させるかですが、コンデンサの自作は大変だから、コイルがおすすめです』
そうそう、原理は高校物理の話だし、中学の技術家庭科でも教えても良かったのに。というか、電流というか電圧の変化が音にあたるってことを丁寧に教えてもらいたかった。ドレミのドだと262Hzと523Hzってな具合で。
- - - - - 2 アンプ - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
先週は、結局草取り作業を中断して、聞き入ったものなあ。そのまま、マイク作りに2日潰したっけ。あれは丁度よい暇つぶしになった。おかげで農作業が遅れ気味だけど。
『先週は、アンプに入る前座として、マイクを自作してもらいました。今週はいよいよアンプです』
アンプを作るの中学の授業以来だなあ。
『マイクからの音声信号というか、音声電流ですが、これをつかって、バイアス電圧で流れる電流量をコントロールします。エミッタ接地方式って奴が分かりやすいので、それで作って行きましょう』
エミッタ接地方式? それ何? ああ、説明には関係ないのか。
バイアスって言葉は今は聞き慣れたけど、中学の頃は意味不明だったよなあ。
『バイアスってのは、要するに安定したエネルギー源です。閉じた電気回路では安定したエネルギー源のお陰で回路は一定の電流を流しますが、その回路に音声電流という外部情報の横やりが入ることで、その横やりの多寡によって流れる電流が大きく変わります。例えるなら、二酸化炭素による温室効果のようなものでしょうか?』
確かに太陽からのエネルギーが一定でも、二酸化炭素の量で温度が変わるんだよなあ。その意味では二酸化炭素量を調整する植物も横やりだな。これがなかったら、温度上昇で北極圏のメタンガスや二酸化炭素がますます増えて、さらに温室効果が強まるっていう話だし。植物さんよ、温暖化で頑張って繁茂してくれよ。いや、植物じゃなくて、植物性プランクトンだっけ?
『温室効果の代わりに、電気回路では3極真空管やトランジスターを使います。入力電流が二酸化炭素の代わりですね。こうして、バイアスというコンスタントな電圧電源にも関わらず、音声電流が、電源側の決める電流まで増幅されます』
トランジスターの原理は当時の中学生にはきつかったよなあ。だから、真空管で陰極線を見せながら説明していたけど、今の中学生なら、普通に理解してしまうのかな?
『入力側の音声電流は、電圧という形で横やりを入れることになるので、入力側に抵抗が必要となります。それは出力側も同じで、この時に重要なのが抵抗の値を入力側と出力側で同じにすることですが、面倒なことに入力側はマイクのところにも抵抗が入っているので、その辺りは適当に試行錯誤して下さい。出力側で可変抵抗を使うのはおススメです』
そういえば、インピーダンスマッチングって言葉があったよなあ。エネルギーという視点でみろと言われた気がするけど、まあ、原理なんて自作には関係ない。
参考サイト:
https://hayashimasaki.net/tubebook/tubebook11.html
- - - - - 3 スピーカー - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー。』
今週はスピーカーだったよな。
『マイクと同じ原理、と軽く思ってはいけません。マイクは小さな振動でもきちんと電気シグナルを出すようなコイルを使いましたが、スピーカーでは、電気信号で強い振動を起こさなければなりません。だからコイルに使う磁石の強さが変わってきます』
そのあとは、色々な失敗例や成功例の話が続いた。私も丸一日かけて、やっとスピーカーっぽいものを作った。やったぜ、これで有線放送が出来る。畑と台所を直通にすれば、ばあさんが献立を考えるのに役立ちそうだ。っていうか、これ置電話の原理だった。
- - - - - 4 AM波 - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
いよいよラジオ作製の時間だ、と思ったら、AMラジオの原理の話だった。
『電話が発明されてからラジオ放送が可能になるまで20年もかかりました、そのくらいラジオは難しいので、先ずはAMラジオの原理の部分を、有線で作ってみましょう』
なるほど、確かにAMの原理と、それを伝播にして飛ばす原理は違ったような気がする。
『AMとは音声の電気シグナル、要するに電圧の変動ですね、これに、この1000倍程度の振動を単純に足し合わせたものです。聞きやすい音の範囲が100Hzから10KHz程度なので、足し合わせる振動は1MHz程度になります』
これは知っている。結果、1MHz程度の電気振動の振幅が音声シグナルの形で変化するんだ。FMは周波数を変えるやり方だっけ? 音質は良くなるけど、回路が面倒だって話だよな。
『だからAM方式ではAMシグナルを作る部分に発振、AMシグナルから音声シグナルを取り出す部分にlow pass filterが必要になります。発振器はコンデンサとコイルで作れるし、low pass filterはコンデンサと抵抗で作れますから、作っちゃいましょう』
作ったは良いけど、AMだと線を曲げたら電波を出すよなあ。あ、絶縁ケーブルを使うから電波法には違反しないか。
- - - - - 5 アンテナ - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
今週はいよいよラジオ制作だ。
『送信について話すと電波法違反をそそのかす行為として共謀罪、あ、正式名称はテロ等準備罪でしたっけ、それでワタクシが捕まるので、今日は受信の部分だけをお話しします』
いやいやいや、それはないでしょ。受信アンテナと送信アンテナは同じだから。っていうか、家庭で作る程度の送信アンテナなら、出力が弱いから、電波法には引っかからない筈だし。
『電波法違反が気になる方は、ウィキペディアの「不法無線局」の記事がオススメです』
誰も読まない記事の名前を出して免罪符にするって、18禁向けサイトで年齢を尋ねるのと同じぐらいガバガバだよなあ。
- - - - - 6 鉱石ラジオ - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
受信機はもちろん作ったが、折角だから畑と家を結ぶ範囲内の送信機も作ってしまった。ちゃんと電波法の規制範囲以内だから大丈夫。
『受信部して聞くだけなら、増幅せずにイヤフォンのような小さなスピーカーで聞くのもありですね。こっそり聞くのであれば大音量は出せませんし』
ああ、鉱石ラジオか。子供の頃に知っていたら、オールナイトのラジオ番組を親に内緒で聞けたのになあ、と鉱石ラジオを初めて知った時には悔しく思ったものだ。
『……この鉱石ラジオですが、実際に戦場では使われていたそうです』
もしかして、戦場どころか都会の暗躍戦で使われていたりして。AMは盗聴されやすいけど、暗号や符丁でタイミングや成否の確認だけなら盗聴されても問題ないし、使い捨てできる値段だし、なにより携帯よりは盗聴されにくいし証拠も残らない。
『戦場はともかく、これでゾンビに街を占拠されても通信が受けられますね』
え、冗談のつもり? このアナウンサーはしらけた毎回ボケをかますからなあ。先週の共謀罪ネタもそうだったのか?
- - - - - 7 ダイナモ - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
結局、鉱石ラジオも作ってしまった。今週は何だろう?
『ここまで自力でやってしまうと、送信部も外部電源なしでやってしまいたくなるもの。そこで、昔ながらにダイナモ発電機を作ってみましょう。自転車のダイナモでもいいですけど、折角スピーカー作りで基礎はできているので、それをダイナモに改造しましょう』
運動して発電機を回して電気を付ける、ってのは中二病のロマンをかき立てるものがあったよなあ。秘密基地には必須のアイテムだけど、結局は自転車のダイナモで満足してたっけ。
『磁石を回転させる仕組みを作って、その回りにコイルを巻きます。具体的には……』
考えてみれば磁石がないと、発電も、その電気を使ってより強い磁石を作ることも出来ないんだなあ。ってことは、最近のラノベで人気の異世界転移で持って行くモノで一番重要なのは磁石ってことか。あ、電磁気学の法則が成り立つ世界じゃないと駄目だった。それに、魔法で大電流を流せるなら、鉄をキュリー点まで加熱した時に、加熱炉のコイルに大電流を流して磁石を作ることは出来るから、磁石は要らないのかもしれないけど。
『そういう訳で、無人島でケータイが水に浸かって壊れても、自力発電とラジオ送信で救出を求める信号を出すことができます』
いや、そこは自力発電よりソーラーパネルじゃないの? 自力発電は寧ろ夜や曇天時の電源って感じだし。
- - - - - 8 コンデンサ - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
ここまでくると、今週のトピックが何となく予想がつく
『先週はコイルの復習も兼ねてダイナモを作りましたが、こうなるとロー・パス・フィルターのもう一つの必須アイテムのコンデンサも自作したくなりますよね。というわけで、コンデンサを作りましょう』
誘電体に油やプラスチックを使う方法も面白かったけど、日本のあちこちにある花崗岩を使う話も中二病をそそられるなあ。
- - - - - 9 有線リモコン用スイッチ - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
山まで花崗岩を取りに行って、そこから取り出した雲母でコンデンサを作ってしまった。
『ラジオといえば、やっぱりラジオ・コントロール、いわゆるラジコンが行き着く先ですよね。皆さんも中学時代にラジコンに憧れませんでしたか?』
おお、これは懐かしい。確かに昔の中二病の世界だ。今は魔法だの特別な力だののファンタジー路線だけど、昔は電気技術の結晶とか、サバイバル技術とか、野山を駆け抜ける忍者だったっけ。
『今回は、その基礎となる、有線でのリモート・コントロールに挑戦しましょう。シグナルが一定電圧を超えたらON、その後一定電圧(より低い値)以下になった時にOFFにするというルールを加えることで、電気信号のみによるソフト制御が可能になります』
ついつい熱心に聞いてしまった。
- - - - - 10 電池 - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
先週は以外と悪戦苦闘したけど、なんとか有線リモコン・スイッチを作った。
『ここまで来ると、リモコン側の電源を有線経由でなく独立させたくなりますよね。電池を使うという安直な方法もありますが、折角ですから電池も自作してみましょう』
電池の自作までは考えてなかったな。まあ、ロマンはあるよなあ。磁石がなくても発電出来るわけだから。
『熱電対と同じ原理で、金属ごとに異なる「基礎電圧」があるので、いろいろな組み合わせで電池が出来ます。コインと食塩水でもできちゃうんですね』
面白いとは思ったけど、実用で言うと電圧がイマイチなんだよ。まあ、必要な時にってことで、取りあえず、自作出来ることで満足。
- - - - - 11 無線リモコン用スイッチ - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
頑張って、シグナルを受けてON-OFFを判断出来るレベルの電力を供給する電池を作った。
『先週、先々週のリモコンは有線でしたが、今週はいよいよラジオ波を使っての無線コントロールです。電波法以内の出力に抑えることを忘れないで下さいね。参考のために……』
この番組の良いところは、具体的な数字で、どの値の電源やコイル、コンデンサを使えば、法律以内で収まるかを教えてくれるところだ。実は自作で一番頭が痛いのがこれなんだよね。
- - - - - 12 無線マイク - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
番組のスポンサー、知らない名前の電器会社が入っていると思ったら、ネット専門で部品を多く取り扱っているらしい。スポンサーだけのことはあって、番組で紹介された数値の部品をセット価格で売ってくれる。なるほど、賢いやりかただ。そういえば小学校の頃、学習系雑誌の付録で実験・工作系の材料がついていたよなあ。
『先週はリモート側をコントロールすることに専念しましたか、リモート無人基地があれば、そこの情報を受信したいものですよね。というわけで、今週はボタン電池を使って、リモコン側にラジオ送信機能を付けましょう』
おうおう、これぞ盗聴器。中二病の夢の一つだ。昔はトランシーバーと言ったっけ。電波法が怖いけど、番組で最適に部品規格を教えてくれるし、面倒なら、スポンサーの組み立てセットで注文すればいい。
『これでゾンビ・パンデミックになっても敵の近づく足音もばっちり。サバイバルが楽になります』
ゾンビってのはネタだとわかるけど、確かに畑を害獣から守るには最適だよな。
- - - - - 13 モーター - - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
自作盗聴器、というか実質無線インターホンを畑の道路の間に設置してしまった。
『スイッチを作ったら、やっぱり何かを動かしたくなりますよね。ということで、今日はモーターを作りましょう。原理は発電機の反対なので、それほど難しくはありません』
そんなこんなでラジコン・カーとなった。なるほど、手順を踏めば中学生でも作れるのか。もっとも電源は流石に市販の電池だけど。
『これでゾンビや野犬に囲まれても、遠くから物を動かして、連中をそちらに引き付けているうちに脱出や反撃が出来ます』
ゾンビというとパニックものの定番だけど、昔は「野犬の群れ」という、より怖い連中がいたなあ。それに比べればゾンビは可愛いものだ。そういえば、ゴキブリ型のリモコン・カーで盗聴するっていうSFが21世紀に入ってすぐに流行ったっけ。
- - - - - 14,15,15 レーダー - - - - -
『ラジオ講座、って言うか、実質ラジコンのじかんですー』
ラジコン・カー、作ったは良いけど、視界から飛び出して物陰にでも隠れると、位置がわからなくなるのが欠点だよなあ。
『ラジコンの次は位置把握もやりたくなりますねー。そこで欲しいのがレーダー。リモコン・カーの方に発信器、いわゆるトランスポンダーのような機能を与えて、さらに受信側にレーダーを設置すれば相対位置が分かります。距離の方は精度というかパワーが大変なので置いておくとしてし、取りあえずは方位アンテナを、今週から3回に分けて自作しましょう』
パラボラを360°回転させて、シグナルの一番強い方向を決める奴だったかな? 反射方式だと大出力が必要で電波法に引っかかるから、発信器方式なのだろう。
『まずはアンテナ、次に受信アンプ、再来週がシグナルから位置を決める回路となります』
パラボラは傘の内側に銀紙でも貼るのかな、と思っていたら、それでは終わらず、銅棒を十字に組んだ八木アンテナを4本立てる、位相検出方式まで説明してきた。なんでも、複数のアンテナからの入力を足し算引き算することで、方向が分かるそうだけど、それって、確かタイミングが余程よく合わないと駄目だったんじゃないの?
『これで、GPS衛星が事故で故障した世界でも、ゾンビの足音の聞こえる方向がばっちり、守りは完璧です』
いや、だから、もうゾンビは要らないから。というか、GPSが使えない世界の方が怖いんだけど。
= = = = = 17 移動スピーカー = = = = =
『ラジオとラジコンの講座のじかんですー』
いやあ、まさか位相検出アンテナが出来るとは思わなかった。そういえば、パラボラは反射式に有利だけど、リモコン・カー側に送信機があれば、位相検出方式のほうが良いんだよなあ。
『ラジコンの次は、やっぱり、そこからの放送ですよねえ。というわけで、今日はラジコン・カーに拡声器を付けてみましょう。ラジオ送信機でもよいですけどね』
緊急時に仲間にラジコン・カー経由で知らせるって、スパイ作戦のようでワクワクする。
『これで、野犬をラジコンの方向に誘導するのが楽になります』
ゾンビネタは止めたのはいいけど、ここは野犬よりも熊でしょ、これが役立つのって。
- - - - - 18 ラジコン・グライダー - - - - -
『ラジオとラジコンの講座のじかんですー』
うちの畑にマーキングしようとした犬に向かってラジコン・カーを走らせて「こらっ」と言ったら、逆に追いかけられて、ラジコン・カーが壊れた。犬の飼い主から、お詫びのお菓子を貰った。
『ここ1カ月以上、ラジコン・カーの制作ばかりしてきましたが、ラジコンと言えば普通は飛行機ですよねえ。というわけで、今日はラジコン飛行機、今でいうドローンとなりますが……』
確かにラジオのロマンには電波が空を自由に飛ぶことも含まれるものな
『航空法によると、100グラム以上の総てのラジコン飛行機やドローンは、飛ばす前に総務省に登録しなければならなくなりました。なんでも2022年6月から登録が義務化されたそうです。というわけで、室内で試して飛びそうだったら、屋外で飛ばす前に登録をお願いします』
移動する翼の浮力を使うの飛行機で、プロペラの力で飛ぶのがヘリ。ドローンはその両方だっけ。ともかくも、法律が、というより法律を使った尋問とか、登録とか、登録で公安に監視リストに入れられれるのが怖いので、ちょっと二の足を踏む。
『ですが、ここでは諸々の面倒が苦手な方向けに、100g以下でモーター無しのグライダーで作ってみましょう』
へえ、モーターの段階で無理だと思ってたけど、グライダーの向きの制御だけなら可能なのか。僅かな電圧の違いで、静電気の力で角度を変えるって訳か。部品は例のスポンサーサイトで買えば問題ないから。作らない手はない。
『ちなみに、グライダーでも操縦が可能なものは航空法の範囲に入りますので、100グラム以下は守ってください』
でも、これって、雨天時とか雷のなっている日とか制御が危ない気がするけど。ああ、だから100グラム以下か。
- - - - - 19 ラジコン飛行機 - - - - -
『ラジオとラジコンの講座のじかんですー』
グライダーのリモコン操作って結構面白い。フリスビーと間違えた犬が追いかけるのが難だけど。
『今週は、より本格的なラジコン飛行機となります。先週作ったグライダーにプロペラを付けるだけですが、100グラムを超えるので、庭で飛ばす際も登録をお忘れなく』
先週は面倒だと思ったけど、室内で飛ばす分は問題ないので、作るだけ作ってみても良い気がする。
『これで無人島に漂着しても、材料さえあれば、手紙をラジコンに乗せれば助けが呼べますね』
法律は良いのか、と一瞬不安になったけど、無人島からの救難要請なら登録を後回しにしても構わないのか。というか無人島遭難って、そもそも日本じゃないだろうし。
- - - - - 20,21 水素分離 - - - - -
『ラジオとラジコンの講座のじかんですー』
作るだけは作ったけど、登録は面倒でまだ飛ばしていない。
『ラジオというと、ワタクシはラジコンだけでなく、ラジオゾンデを連想しちゃいますが、リスナーの皆さんどうですか? そこで今日はラジオゾンデ、と思ったのですが、水素もヘリウムも作るのが大変なのですよねえ。水素なんて塩酸があればって仰るかもしれませんあ、その塩酸を作るのが面倒です。なので、今日は塩酸を電気分解で作ってみましょう。来週は塩酸を金属に垂らして水素を作ります』
確かに水にせよ食塩水にせよ、電気分解は辛気くさい。というか、ガラス管が必要でしょ? そんなの、無人島にはないな、って、いつの間にかサバイバルネタに毒されてしまった。
= = = = = 22 気球 = = = = =
『ラジオ講座のじかんですー』
作ってしまった。塩酸と水酸化ナトリウム。どっちも劇薬だったよなあ、と思いつつも、塩酸は確かに役に立つから良いか。水素ガスのほうは爆発危険物。でも、百年前の飛行船チェッペリンを考えたら、ちゃんと作れば大丈夫だよね。きっと都市ガスやプロパンガスと同じ危険度だろうし。
『気球に入れるガスが水素ガスが出来たところで、今度はラジオゾンデの気球本体ですが、膜を普通の風船のように紙とかゴムのように非金属でつくると、分子半径の小さな水素は直ぐに膜を通過して抜けてしまうので、特別な材料を使うのが正式ですが、ヘリウムガス並みに入手が面倒なので、ここは身近な材料で作ります』
浮力って空気の分子量29から水素の分子量2を引いて、それを1モルの体積22.4リットルで割るから上空の薄い空気での膨張も考慮してざっくり1グラム/リットル、10cm立方の立体の表面積が600cm^2、とか考えている横から
『膜の重さ密度と、浮力を維持するのに必要な大きさとの関係は、直径10cmの気球で、1平方メートル当たり30グラム以下、この最大密度は直径に比例します』
と答えを言って来た。考える必要はなかったけど、老化防止には丁度よいね。他にもパラシュートの素材とか便利な情報があったけど、何より申請の必要の有無が役に立った。
- - - - - 23 ラジオゾンデ- - - - -
『ラジオ講座のじかんですー』
気球って結構難しいことが分かった。そういえば、ここ2〜3日、UFOの目撃例が増えているけど、これって……
『今日はいよいよラジオゾンデです。気球に気象測定をして、それを地上に通信するやつです。こちらは単なる気球と違ってどこで飛ばすにせよ許可が必要なので、実験だけなら実内でお願いしますね』
おお、いよいよラジオゾンデ。ラジコンと並んでオールドボーイの中二病のくすぐる奴だ。
『これで無人島に遭難しても、普通の船にありそうな材料さえあれば、気球から遠くまでSOSを出せますし、最悪、上空の寒気から夏場の雷予報が出来ますね』
- - - - - 24 RADIO ACTIVE MATERIAL - - - - -
『ラジオとラジコンの講座のじかんですー』
許可もちゃんと取って、ラジオゾンデを飛ばしてしまった。UFOの目撃数が増えているから、それを調べる為にラジオゾンデを上げて、それでUFO目撃が増えて……
『ラジオといって想像してしまうものには残念ながら悪いものあります。radioactive、日本語で放射性ってやつ。UFO目撃例も多いことですし、そのUFOが放射性物質で出来ていたら大変です。そこで今日は放射線量計、いわゆるガイガー・カウンターって奴を作ります』
そのUFOはこの番組のせいだと思うけど、ガイガー・カウンターはあの時に作っておきたかった奴だから、まあいいか。
『これで、無人島に遭難している時に、米ロが核戦争を始めても、それをモニターできます』
いやいや、そういう偶然は流石にないだろう。
ん? 遭難じゃなくて避難だったら、ありうるか?
そもそも、米ロが核戦争を始めそうになったら、とばっちりを恐れて、孫を連れて、標的にならなそうな土地に避難するつもりだったし。
- - - - - 25 ラドン抽出 - - - - -
『ラジオとラジコンの講座のじかんですー』
作ったガイガー・カウンターであちこち調べたけど、性能が悪いのか、ノイズとシグナルの区別がつかないんだよなあ。
『皆さん、ガイガー・カウンターは作られたでしょうか? 手作りのガイガー・カウンターは感度が悪いので、試料無しには、動くかどうか分からないという方も多いでしょう。一番手っ取り早いのは、原発事故で汚染された地域の土壌を「除染」、要するに汚染部位だけ濃縮して取り出して、それでガイガー・カウンターを試すことですが……』
流石に福島までは行けない、というか、除染すべき場所って、立ち入り禁止区域ぐらいしか残ってないはずだけど。まさか、これから事故が起こるかも知れないウクライナに行けとかは言わないよね。
『……ここは、そうでなければ身近な花崗岩からラドンを取り出し、じゃなかった、「除染」しましょう。あ、ラドンってのはウラン238が崩壊して出来る元素です』
後から調べてみたら、花崗岩はウランを含むのが普通なんだな。ウランからラドンが出来るってのも初めて認識した。もしかしたら昔聞いたり習ったりしていたかも知れないけど、それは置いといて。
『……気になるのが法律関係、正確には『放射性同位元素等の規制に関する法律』と呼ぶのですが、それに抵触しない範囲で「除染」を行ないましょう』
へえ、2019年の改正後は、素人の行楽で花崗岩から取り出した、という程度なら、目くじらを立てられなくなったのか。あ、でも、別件逮捕の口実ぐらいにはなるから、政治家と癒着したカルトに睨まれたら危ないな。
ともあれ、ラジオ講座を聞くような年代なら、自然放射能による被曝なんて、寿命にあまり影響しないし、家族等の他の人に渡したりしない限りは、規制する意味もないよなあ。と、ここまで考えてきて、なぜラドン抽出というヤバそうな話が放送出来ているのか理解出来てしまった。これを聞いているような世代なら、寿命が短くなった方が国家財政には有り難いのか。
『これで、ゾンビ・パンデミックで管理出来なくなった原発が暴走して放射能がバラまかれても、そのあと除染で土地を再生できます』
ゾンビは冗談としても、日本海の原発がテロリストに制圧された場合、管理不足による暴走や、テロリスト排除の為の砲撃で事故っても、放射能除染ができるよなあ。その時は、我々ラジオ講座世代の出番ってことになる。もしかして、その為のラジオ講座?
『最後にお知らせです。来週でラジオ講座も半年となり前期が終了しますが、後期からは周波数を短波に変えてお送りします。新しい周波数は**kHzとなります』
確かに今のチャンネル、正確には周波数だけど、それはメジャー枠だものな。新しい講座を半年ごとに入れる為には、継続番組はマイナーな周波数に移されるか。
- - - - - 26 リモート威嚇装置 - - - - -
『ラジオとラジコンの講座のじかんですー』
ラドンの抽出は大変だった。というか、花崗岩がむき出しになっている崖の近くでガイガー・カウンターの値が高くなっていたから、本来の目的からは十分なんだけど、抽出を頑張ってしまったのだ。
『今日でラジオ講座の前期が終了しますが、後期からはチェンネルを変えてお送りします。新しい周波数は**kHzとなります。お手持ちのラジオでの設定の仕方ですが……』
周波数は先週にメモした筈だけど、この際、ラジオの周波数の設定もしておこう。
『……と、なります。おすすめは、専用の受信機を自作して頂く事で、今週は、復習を兼ねて、それを作って行きましょう。その為のコンデンサやコイルの値は……』
ふと気になったのだけど、この周波数って短波だ。電離層を通って世界中に届くという。そんな周波数のチャンネルが、マイナーな番組続編に使われるって変な気がする。まあ、放送局のやる事だから間違いはないだろうけど。
- - - - - 27 遠隔威嚇装置 - - - - -
『ラジオ講座、後期の始まりですー』
新しい周波数に合わせて作ったラジオは、きちんとラジオ講座を受信してくれている。ちなみに先週作った威嚇装置ってのは、音を出しながら、唐辛子の粉を噴出する装置だった。
『ガイガー・カウンターと放射能とくれば、福島事故の前にラジオ世代が連想するものは、核戦争と荒廃世界でしょう。現代語だと、ポストアポカリプスと呼ぶのでしょうか? そんな世界でのサバイブにまず欲しいのが、蛇や猛獣などの危険動物を遠隔で追い払う手段です』
おうおう、ここまでやってくれるのか。中二病的には秘密基地に欲しいし、追い払うのではく、捕獲や殲滅をしたいところだけど、それだと、蛇はともかく、ネズミ以外の鳥獣類は狩猟法にひっかかるものなあ。公序良俗にも反するから放送じゃあ無理か。ともあれ、ラジオでやる範囲で作れるなら、法律にも触れないのは確かだよな。
『これで「寄付」や「霊感」で稼いだ金を外国に貢ぎ、しかも税金すら払わない、権力と癒着した組織から目を付けられても、人知れず山森の中に秘密基地を作って、他の危険動物から実を守るための夜間警報体制が整えられます』
え、この放送局って、例のカルトに汚染されてないの? あのカルトは政治家とか芸能人、マスコミなどをシンパにするために資金をふんだんに使っていたはずだけど。どちらかというと左よりの大新聞ですらも、例の事件直後は匿名だったし、今でも擁護的な記事を時々のせるし。ああ、だからこの番組はマイナーなチャンネルに追いやられたのか。
- - - - - 28 遠隔捕獲装置 - - - - -
『ラジオ講の時間ですー』
実際に作ったのは、カメラの画像の自動処理を元に警報を送り、それを受けてカメラで確認して、リモートコマンドで相手に向けて唐辛子を射出する装置だった。目で確認する必要があるのは、そうしないと狩猟法で制限されている「罠」に相当するからだそうだ。
訪問販売や宗教勧誘の連中を呼び鈴を鳴らされる前に気付けるので、唐辛子の代わりにレーザー光を当てる変更をして自宅に備えようかと思う。
ところで、これって唐辛子の代わりに、花崗岩から取り出した低濃度ラドンとか、塩酸とか、2種類の洗剤を速攻で混ぜて出すことが出来るんだよなあ。ヤバい技術かも。
『先週は撃退だけで済ませましたが、蛇やゴキブリは遠隔で駆除したいものです。そこで今回は、リモコンカーを使って、これらを仕留める装置を作ってみましょう』
ええ、ここまでやるの? 違法じゃないけど、かなりアングラ放送の内容だよな。いやあ、貴重だ。この番組は当たりだった。
『これでナノチップ等で野犬すら洗脳されてしまう時代が来ても、その野犬を移動型の装置で撃退できます』
ゾンビに飽きたらSFか。中二病的だけど、秘密基地の設定としては申し分ないな。
= = = = = 53 = = = = =
『ラジオ講の時間ですー』
1年で終わると思っていたラジオ講座は、人気を受けて後一カ月だけ延長するらしい。ゴールデンウイークに孫と一緒に卒業制作、というキャッチフレーズだ。前期のような古びた技術と違って、孫の世代にも尊敬を受けるだろうほどの高性能ラジコンの自作が後期のテーマだったからだ。
具体的には
*パソコン、
*自動検出回路、
*レーザー発振器、
*ピンホール型白黒画像検出器
*反射型レーダー、
*ラジコン型パラグライダー、
*ラジコン型飛行船、
*ラジコン型エンジン付ヨット、
*ラジコン型潜水艦、
*親機から子機へと命令が伝達し、逆に親機が子機の位置を把握する中継型ラジコン、
*昆虫型ラジコン盗聴器、
*鳥型ラジコン偵察機、
*気球式の空中移動放送局、
*リモコン発火器、
*飛んで火に入る夏の虫ならぬ、50-60Hzの電流を感知してそこに飛び込むラジコン飛行機、
*農薬や劇薬を頒布できるラジコン各種、
*粉剤・液剤などのリモコン混入装置、
*遠心分離機と、それを使った希少元素の低レベル精製
などだ。いずれも、無人島やジャングルでの現代的サバイバルに役に立ちそうだ。
そういえば、同級生に会った時にラジオ講座を宣伝したが『悪用したらヤバい内容だなあ、どうして放送できてるいるんだろう?』と怪訝な顔をされたなあ。そこ、気にする?
放送局のやっていることだし、内容はきちんと工学的・教育的なんだぞ。どこかの教祖様と教団幹部のいうことを鵜呑みにするのとは話が違う。しかも希少情報だぞ。そんな説明をしたら、同級生は『お前はもっと慎重な奴と思っていたけど、まあ、気をつけろよ』と返してきた。
もっとも同級生は懐疑的な奴ばかりではない。中には話に賛同して、ラジオ講の仲間に入ったやつもいる。
『この番組も、残すことエクストラタイム扱いの今月分、4回だけになりました……』
名残り惜しいけど、良い内容だから来年か再来年に再放送すると良いと思う。
『……そこで、集大成として、複数のラジコン装置、つまり飛行機とミニカーとボートと潜水艦を連動させてみましょう』
うんうん、一人で秘密基地を守るには、こういう連動は不可欠だよなあ。ドローンから車を操縦するってのはやってみたかった未来技術の一つだったし。
『せっかくですから、今年の講座の成果を試すべく、ゴールデンウイークの翌週の週末に、皆で作ったラジコンを同時に沢山動かしてみませんか』
それはグッドアイデアだ。さすがはラジオ講、やる事に間違いはない。
= = = = = 5月某日 = = = = =
『ラジオ講の特別企画の時間ですー』
待ちに待った日がやってきた。用意したラジコン飛行機は7機、他にラジコンカーが10台と、ボートが3艘、潜水艦も3艘、親機・子機含めての数だ。潜水艦以外はボタン電池の他に太陽電池を載せていて、昼間ならそれだけで飛行機すら6時間以上飛ぶ事が分かっている。
自宅は田舎だから山も川もある。なので、山が川近くまでせり出しているところまで行って、ついでにパラグラーダー3張も設置してきた。自宅ではないので、コントロール装置を運ぶのが大変だったが。
『皆さん、準備は良いですかあ? ドローンの登録は済んでますね? では5分後にカウントダウンをします……』
『……30秒前、20秒前、15秒前、10、9……3、2、1、スタート!』
まず、親子仕様にした飛行機とミニカーとボートと潜水艦の1セットを稼働させる。飛行機は、旋回を繰り返すことで、ラジコンカーからの電波強度の勾配方向を探知して、ラジコンカーから一定距離以内を保つように飛ぶし、船は川上に向かいつつも、ラジコンカーからの位置次第でモーターを止めたり起動させたりする。潜水艦はボートからの相対位置で動きを決める。ついでにマイクとカメラは本部でモニター出来る仕組みだ。
1組目が上手く言ったので、このセットにミニカーの子機を3台追加する。
それも上手く言ったので、第2組を稼働、続けて飛行機の子機も追加。再追加のミニカー2機を含めて、モニター画面は14面に増えた。
いよいよ最後の第3組を稼働。無事に動き始め、他の組のコントロールも上手く言っている。子機として残りの飛行機を飛ばし、モニター画面は21面とにらめっこする。
これは行ける。そう思ったので、ラジコンカー2台を同期させつつ稼働する。三角測量の基点の位置に既に配置している。そこでラジオ講へのサプライズとして、パラグライダーを3張同時に飛ばした。
成功だ! あとはパラグラーダーの着地まで破綻あせずコントロールするのみ。もっとも、飛行機は基本旋回だから、高度を少し変えれば衝突もなく放っておける。川の流れは安定しているので、こちらも問題ない。車は蛇などに出会わなければ大丈夫だろう。総てのリモコンカーに蛇退治機能を付けているので、車の制御がそれで壊れると困るのだ。それはカラスが飛行機と「遊ぶ」リスクと同じぐらい低いだろうが。
コントロールの様子はネットストリームで流している。実は同じように流している人が、県内はもとより県外にも沢山いるようで、他の人たちが成功している様子も伝わっているが、パラグライダーを含めてラジコン画面28機というのは現時点で5番目だ。
ともあれパラグライダーは上昇気流を受けつつも、次第に高度を下げて、コントロール本部に次々と着陸した。
「成功!」
最後のパラグライダーの着地を目にしてほっとしたのも束の間、ラジオから不穏な声が流れた
『ぎゃあ、助けてくれー』
続けてマイクが倒れる音。
そちらに気を取られるうちに、モニター画面もおかしくなっていた。ラジコン飛行機が旋回を止めて直線で飛びはじめたのだ。
慌てて外に出て上空を仰ぐと、飛行機が遠ざかって行く。ミニカーもだ。かなりのモーターを積んでいるので、小走りぐらいの速度はでる。それはボートや潜水艦もだ。いずれも川下に移動しはじめた。スイッチオフすら効かない。モニター画像だけが生き残っている。目を凝らすと、ラジコン飛行機の群体の少し上に、ちょっと大きめの有翼ドローンも見えた。
急いで追わなくっちゃと思ったけど、コントローラーを車から張り出すように展開しているので、撤収しないと車を動かせない。しかも、モニター画像を維持しながらの撤収だ。時間を食っているうちに、気付けば飛行機すら視界から消えていた。
下手に市街地や空港等の飛行禁止区域に入っては大変なことになる。
しかも、ラジコンカーのうちの3台には花崗岩から抽出して遠心分離したラドンを積んでいる。ラジオ講で
『放射能のソースまでの距離とガイガーカウンターの値の関係が地形や植生でどう変わるかを調べてはいかがでしょうか』
と提案されたからだ。
しかし、今のような事態で制御を失ったラジコンカーから、恐らくは法律にすらかからない程度の低濃度とはいえ、放射性物質が見つかるのは検察の心証的によくあるまい。ラジオ講座の言うとおりにしたで、地方の警察は納得してくれるだろうけど、不安が生まれるのは事実だ。
それ以上にヤバいのがラジコン飛行機だ。後期に作った飛行機のほとんどを投入したから、その中には
『飛んで火に入る夏の虫ならぬ、50-60Hzの電流に飛び込む飛行機』
や
『農薬や劇薬を散布出来る飛行機』
も今日のイベントには混ざっている。高圧送電線が密集している変電所は、格好の餌食だ。その変圧器に衝突した挙げ句、可燃性も劇薬とかが混ざったらどうなるか?
冷や汗が伝る。
慌ててチャットでモニターしている他の連中の情報を見ると、ほぼ同時に大多数が制御を失ったらしい。
寒気すら感じた。
= = = = = 同日 = = = = =
不安は最悪の形で的中した。約1時間後に停電となったのだ。
スマフォは充電してあるから、それでもネットには繋がる。だから、そこで今日のイベントがらみのチャットは繋がったままだ。暫くすると、変電所が炎上している画像が貼付けられていた。
チャットでの情報交換で、乗っ取られたリスナーと乗っ取られなかったリスナーの違いは直ぐに分かった。ラジオ講で紹介されたネット販売店から半導体を買っていたかどうかだった。半導体はブラックボックスだから、それが取り替えられていて、そこに余分な回路がこっそり付け加わっていたのではないか、というのがチャット上での意見だった。しかし、何の為に、攻撃を? 自己顕示欲的犯や愉快犯にしては手が込みすぎている。
事態は夜になってもっと悪くなった。スマフォでニュースサイトを覗くと、原発の二次冷却水の取り込み口が塞がれた上に、陸上と空からドローン類で予備電源が攻撃されたらしい。一次冷却水が沸騰して冷却効果を失い、原子炉が加熱中だそうだ。あと、変電所ではラジコンカーが消火の邪魔をしているらしい。
= = = = = 翌日 = = = = =
少し遠いところに住む連中のガイガーカウンターが異常な値を示しはじめた。異常値は次第に風下に広がっているらしい。5月の海風は強く、上空は西風で、これも海から陸に向かっている。
避難の準備を始めた。警察はまだ来ていない。ラジコン飛行機の回収もできてないかも知れないし、そもそも異常事態で、それどころはないのだろう。
そのうち、自宅のガイガーカウンターすら異常値を示しはじめた。避難を始めたが、ラジオ講座がらみの自作品は総て車に積んで行くことにした。そう、何となくサバイバルが始まるような予感がしたからだ。
= = = = = あるネット電気屋の話 = = = = =
「初めて営業に来た方で、コンポーネントや部品を各種置かせて下さいとのことでした。コンデンサー等の値を見るとワタクシどもの扱っているものとダブっている上に値段が高めなので、保管場所がないことを理由に断ったのですが、保管料を払うと言って来たので置かせてもらいました……」
「……結果的には非常に儲けさせてもらいました。昨年4月から少しずつ注文が出てと思ったら、5月以降はうなぎ上りで、この頃にやっとラジオで宣伝してもらっていると気付いたようなもので。下半期には主力商品にすらなっていました……」
「……営業の方は、2カ月にいちど、まとめて新しいコンポーネントを置いては、売れ残りを引き取って行かれました。支払いは現金で……」
「……最後に見えたのが1カ月前ですから、あと1カ月は連絡が取れないかと……」
「……領収書ですか? はいこれです……」
「……えっ? その会社は存在しない???」
= = = = = 1週間後 = = = = =
警察発表があった
『先日起きた、同時多発ドローンテロですが、隠れ蓑となるラジコン飛行機が大量に飛ぶ原因となった『ラジオ講座』というラジオ番組は、後期に関しては公海上空の気球から放送されていたことが判明しました……』
『……犯人グループが日本国外に拠点を持つ可能性が高いと思われるほか、ラジオを使った洗脳の一種ということで、こちら方面にも注意を喚起していきたく思います』
犯行声明は未だにない。何が不気味かって、動機も犯人像も全く見えないことだ。しかも詳しく調べると単独犯の可能性すらゼロではないのだ。電気屋に現れた営業は単なる運び屋で、ネット経由で依頼を受けただけ、アナウンサーも実在せず、放送局は運び屋が持ち込んだ録音済みのディスクを再生しただけだったとか。そして、一人で数百機以上のラジコン飛行機を動かし始めるのは大変だから、ここまで、手が込んでいたやり方になったと説明出来る。
しかし、一番戦慄させた可能性は、意思を得た人工知能の暴走だ。アナウンサーのイニシャルがA.I.で、他の手配はAIでも可能だからだ。乗っ取りの原因となった半導体部品の制作だけが、唯一人間の関与を必要とするが、これだってAIが工場での制作プログラムに介入できれば不可能ではない。要するに、今回の陰謀は人の手が全く入らくても不可能ではないのだ。
真相は闇の中だ。頭にふと
『AIに洗脳される日』
という言葉が浮かんだ。
AIを無理やり入れたのは蛇足かもしれませんが、たしかAI(コンピュータやアトム型ロボット)による人類支配の恐怖が煽られたのも半世紀前の筈で、ラジコン世代の筈だろうということで、付け加えてみました。
本題はどちらかというと、いつの間にか「信者」になってしまう恐怖と、犯罪に巻き込まれてしまう恐怖です。