ラジオ・アクティブ・コントロール(夏のホラー2022企画)短縮3500文字版
今はほとんど死語となった『ラジコン自作』。ラジオに使われる波長の電波で遠隔からコントロールすることで、その自作は高度成長期の子供の夢だった。そんなラジコン世代も半世紀を経て退職を迎えている。そんな彼らをターゲットに始まった『ラジオ講座』。持ち込み企画で、ラジオ局は電波を提供しただけだが、多くのリスナーを得て、自作を始めた者も少なく無かった。
誰もがウインウインと思われたこの企画、しかし、最後のリスナー参加型イベントで事件が起こる……
夏のホラー2022参加作品。ここには短縮版の3500文字程度ですが、その元となった詳細版(2万文字弱)は次話に載せています。
筆者はラジオ工作については全くと言って良いほど経験がありません。調べては見ましたが、間違いが多いとは思います。あらかじめ謝っておきます。すみません。
『ラジオ講座のじかんですー』
草取り作業のBGMとして付けっぱなしになっているラジオから、ノリの軽いアナウンサーの声が聞こえてきた。今週始まった新番組だ。
『この時間では、昔なつかしのハンダ付け工作を振り返りつつ、誰でも出来る最先端の工作を、わたくし、イロハ・アウオの説明でお送りします』
おお、確かに懐かしい。再雇用を辞退して田舎に籠ったような『ラジコン世代』には、ピンポイントな話題だ。アナウンサーは知らない人だけど、中二病的な覆面という意味で、AIをもじっただけかな?
『ハンダ付け工作といえば、ラジオとアンプ。ついでに盗聴器。一番の基礎のアンプですが、そのアンプに入力するシグナルというのは、ラジオの世界では音声シグナルです。音声はマイクを通して音声シグナルという電気情報に変わりますが、せっかくだから、このマイクも自作しちゃいましょう』
こうして始まったラジオ講座は、マイク、スピーカー、拡声器、有線インカムから、ラジオ制作まで1カ月以上かけ、その後、発電機や電池、モーターなどを経て、4カ月後には半世紀前の中二病をそそるレーダーやラジコン(ラジオ波を使っての遠隔コントロール)にまで進化した。
ラジコンの原理と応用、今でいうドローン。それは我々ラジコン世代を中二病の世界に引き戻した。その後、レーザーなども使うようになって『リモコン』という言葉に代わったが、それでもラジコン世代がラジコン世代であり、リモコン世代とは呼ばない。
そこからは応用とばかりにラジオゾンデと、その為の水素作り、ガイガーカウンター、その検証用試料の採取と進んだところで前期が終わった。
後期はより高度な内容ということで、一般向けというよりはコアなリスナー向けだったので、チャンネル(周波数)が変わった。ラジオでも複数のチャンネルを持てるのだな、と感心したものだ。
内容も、孫世代の中二病すらそそりそうなもので、同級生にラジオ講座を紹介したら、参加する者も出てきた。
もっとも、同級生の中には
『悪用したらヤバい内容だなあ、どうして放送できてるいるんだろう?』
と怪訝な顔をしたり、そういう懐疑に対して、ラジオ講座がいかに素晴らしいかを布教すると
『お前はもっと慎重な奴と思っていたけど、まあ、気をつけろよ』
と返してきた者もいたりしたが。
こうして、次第に実際に制作するような熱心なリスナーを増やしつつ、ラジオ講座は1年と1カ月続いた。最後の1カ月は好評に応えてのボーナスで親機を通して子機をコントロールするものだ。
そして、その集大成としてゴールデンウイーク後の週末に、皆で作ったラジコンを同時に沢山動かすイベントが発表された。
用意したラジコンは、飛行機(有翼ドローン)が7機、ミニカーが10台、ボートが3艘、潜水艦も3艘、パラグライダーが3張だ。チャットで中継されている情報だと、全参加者の中で5番目に多いラジコン機数らしい。
『……30秒前、20秒前、15秒前、10、9……3、2、1、スタート!』
まず、親子仕様にした飛行機とミニカーとボートと潜水艦の1セットを稼働させた。その後、次第に増やして、最終的には全部を飛ばした。手許のモニターには28の画面が並んでいる。
これらのうちパラグライダーだけは次第に高度を下げて着陸する。
最後のパラグライダーの着地を目にしてほっとしたのも束の間、ラジオから不穏な声が流れた
『ぎゃあ、助けてくれー』
続けてマイクが倒れる音。
そちらに気を取られるうちに、モニター画面もおかしくなっていた。ラジコン飛行機が旋回を止めて直線で飛びはじめたのだ。
慌てて外に出て上空を仰ぐと、飛行機が遠ざかって行く。ミニカーもだ。かなりのモーターを積んでいるので、小走りぐらいの速度はでる。それはボートや潜水艦もだ。いずれも川下に移動しはじめた。スイッチオフすら効かない。モニター画像だけが生き残っている。目を凝らすと、ラジコン飛行機の群体の少し上に、ちょっと大きめの有翼ドローンも見えた。
急いで追わなくっちゃと思ったけど、コントローラーを車から張り出すように展開しているので、撤収しないと車を動かせない。しかも、モニター画像を維持しながらの撤収だ。時間を食っているうちに、気付けば飛行機すら視界から消えていた。
下手に市街地や空港等の飛行禁止区域に入っては大変なことになる。
中でもヤバいのがラジコン飛行機だ。後期に作った飛行機のほとんどを投入したから、中には
『飛んで火に入る夏の虫ならぬ、50-60Hzの電流に飛び込む飛行機』
も今日のイベントには混ざっている。高圧送電線が密集している変電所は、格好の餌食だ。その変圧器に衝突した挙げ句、可燃性も劇薬とかが混ざったらどうなるか?
冷や汗が伝る。
慌ててチャットでモニターしている他の連中の情報を見ると、ほぼ同時に大多数が制御を失ったらしい。
寒気すら感じた。
= = = = = = = = = =
不安は最悪の形で的中した。約1時間後に停電となったのだ。
スマフォで今日のイベントがらみの実況チャットをチェックし続けているが、変電所が炎上している画像が貼付けられていた。
チャットでの情報交換で、乗っ取られたリスナーと乗っ取られなかったリスナーの違いは直ぐに分かった。ラジオ講で紹介されたネット販売店から半導体を買っていたかどうかだった。半導体はブラックボックスだから、それが取り替えられていて、そこに余分な回路がこっそり付け加わっていたのではないか、というのがチャット上での意見だった。しかし、何の為に、攻撃を? 自己顕示欲的犯や愉快犯にしては手が込みすぎている。
事態は夜になってもっと悪くなった。ニュースサイトを覗くと、原発の二次冷却水の取り込み口が塞がれた上に、陸上と空からドローン類で予備電源が攻撃されたらしい。一次冷却水が沸騰して冷却効果を失い、原子炉が加熱中だそうだ。あと、変電所ではラジコンカーが消火の邪魔をしているらしい。
翌日、少し遠いところに住む連中のガイガーカウンターが異常な値を示しはじめた。異常値は次第に風下に広がっているらしい。5月の海風は強く、上空は西風で、これも海から陸に向かっている。
そのうち、自宅のガイガーカウンターすら異常値を示しはじめた。避難を始めたが、ラジオ講座がらみの自作品は総て車に積んで行くことにした。そう、何となくサバイバルが始まるような予感がしたからだ。決して警察対策ではない。
= = = = = あるネット電気屋の話 = = = = =
「初めて営業に来た方で、コンポーネントや部品を各種置かせて下さいとのことでした。コンデンサー等の値を見るとワタクシどもの扱っているものとダブっている上に値段が高めなので、保管場所がないことを理由に断ったのですが、保管料を払うと言って来たので置かせてもらいました……」
「……結果的には非常に儲けさせてもらいました。昨年4月から少しずつ注文が出てと思ったら、5月以降はうなぎ上りで、この頃にやっとラジオで宣伝してもらっていると気付いたようなもので。下半期には主力商品にすらなっていました……」
「……営業の方は、2カ月にいちど、まとめて新しいコンポーネントを置いては、売れ残りを引き取って行かれました。支払いは現金で……」
「……最後に見えたのが1カ月前ですから、あと1カ月は連絡が取れないかと……」
「……領収書ですか? はいこれです……」
「……えっ? その会社は存在しない???」
= = = = = = = = = =
1週間後、警察発表があった
『先日起きた、同時多発ドローンテロですが、隠れ蓑となるラジコン飛行機が大量に飛ぶ原因となった『ラジオ講座』というラジオ番組は、後期に関しては公海上空の気球から放送されていたことが判明しました……』
『……犯人グループが日本国外に拠点を持つ可能性が高いと思われるほか、ラジオを使った洗脳の一種ということで、こちら方面にも注意を喚起していきたく思います』
犯行声明は未だにない。何が不気味かって、動機も犯人像も全く見えないことだ。しかも詳しく調べると単独犯の可能性すらゼロではないのだ。電気屋に現れた営業は単なる運び屋で、ネット経由で依頼を受けただけ、アナウンサーのイロハ・アウオは実在せず、放送局は運び屋が持ち込んだ録音済みのディスクを再生しただけだったとか。そして、一人で数百機以上のラジコン飛行機を動かし始めるのは大変だから、ここまで、手が込んでいたやり方になったと説明出来る。
しかし、一番戦慄させた可能性は、意思を得た人工知能の暴走だ。アナウンサーのイニシャルがA.I.で、他の手配はAIでも可能だからだ。乗っ取りの原因となった半導体部品の制作だけが、唯一人間の関与を必要とするが、これだってAIが工場での制作プログラムに介入できれば不可能ではない。要するに、今回の陰謀は人の手が全く入らくても不可能ではないのだ。
真相は闇の中だ。頭にふと
『AIに洗脳される日』
という言葉が浮かんだ。
最後にAIを無理やり入れたのは蛇足かもしれませんが、たしかAI(コンピュータやアトム型ロボット)による人類支配の恐怖が煽られたのも半世紀前の筈で、ラジコン世代の筈だろうということで、付け加えてみました。
次話に、元となった詳細版を載せています。ホラー企画のお祭り作としては余りに長くなったので、投稿前に講座の部分ほほとんどを削ったのでした。