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犬鏡(いぬかがみ)と猫かがみ (ラジオ大賞3)

歴史書「大鏡」は数多くの異本があるらしい。それらは太陽(権力者)とは異なる幻日(脇役)を反映し、併せ読む事で時代が3次元的に浮き上がる。


なろうラジオ大賞3「鏡」参加作品(投稿は文字数の関係で最後の方を省略していました)


かがみシリーズは知ってよね? 千年前に書かれたいぬ鏡、合鏡、氷鏡、まず鏡などの歴史書シリーズ。


大鏡、今鏡、水鏡、増鏡の間違いじゃないかって?


いやだなあ、鏡の世界じゃ、王将と玉将のように「点」を加えて向かい合ってるだろ。余分な情報は鏡に着いたゴミだと判断して、人間の目が取り除く。だから、現実よりも透き通っているんだ。


反射が偏光を選んで色を鮮明にする事もある。西遊記に出てくる照妖鏡の原理だね。さすが、多くの神社でご神体になっているだけはあるよ。


光学的異性体? 確かに別物質だけど、今は平安時代の話なので、それは無視だよ。


この、鏡のフィルター越しで書かれたのが、犬鏡。陰謀の結果を道長マンセー視点で書いた大鏡と違って、陰謀そのものを書いたので原典・写本ともども燃やされたとか。


鏡は反射だけでなく表裏一体で屈折もするよね。


例えば太陽だって、霧の鏡で反射すると虹やかさになるし、氷塵ダイアモンドダストで屈折させると幻日げんじつの七色になる。どれも同じ太陽なのにね。それをうたのがこれ、いぬ鏡の冒頭さ。


『げんじつの 色もこころも 分け映す 氷霧の鏡 栄枯のごとく』


もっとも、幻の太陽のほうのゲンジツは、スマフォで撮影すると色が消えちゃうけど。写真ってのは、目に見た色とは違う色を強調するから禁物禁物。


ほら事実のみを報道しても、沢山ある事実のどれ選んで報道するかで印象変わるだろ。それと同じ。


だから大鏡も、文字の写しかた次第で、いぬ鏡、ふと鏡、あま鏡、たけ鏡、つま鏡、王鏡、農鏡、毛鏡、防鏡、盗鏡などの違いが出てくるんだ。


それぞれ、脇役、商売、天候、人の背丈、女性、天皇家、農民、頭髪、防人、盗人の視点だね。例えば農民にとっちゃ、税の納め先である地方官に、優秀な人が左遷されて赴任してくれる方が有難いし。農鏡はそんな視点さ。


そのいぬ鏡とやらを読んだかって?

僕が知っているのは「ねこかがみ(猫鏡?)」だけさ。


日本で知られているネコ科は猫と虎で、猫は教典と穀物をネズミから守り、虎は恐怖の象徴として活躍する。そういう活躍のうち、宮廷陰謀に関係する逸話を一つ一つ取り上げて、史実の裏を語るという幻の書だよ。


例えば、道長の飼い猫の活躍。肝試しの時は、その猫が先導したからネズミなどの不気味な音がしなかっし、弓比べの時は対戦相手の的の近くにその猫が潜んでいて、対戦相手を萎縮させたらしい。


ちなみに、裏の名前は「ネコ科=神」(ねこかがみ)


まだ一部しか編纂されていないそうけどね。


え、知りたい?

じゃあ、知っている話だけ。


その1:猫を近く農村の貸し出した寺が代わりに兵力を得て発展したとか、


その2:兼家が天皇の前で下着姿になったのは、ダブダブの服に猫が潜り込んで毛だらけになった緊急事態だった


その3:花山天皇が退位させられた時に何故嘆いたのか:「寺には猫がいるから失恋を癒してくれる」という兼家・道兼の甘言に乗った天皇は19歳で出家したのだけど、その肝心の猫がいない。話を聞くと兼家が猫を寺から内裏に移し、後任の一条天皇に与えたとのことで、一緒に出家する予定だった道兼も「猫が内裏にいるなら」と出家を取りやめたとか。この逸話がもとで「猫は3日で恩を忘れる」という諺がうまれたとか。


その4:菅原道真公に関する逸話。これ、長いんだよね。

まず、太宰府左遷の真相は、道真公が猫を「教典をネズミから守るもので愛玩動物ではない」と考えて、天皇だか藤原氏の娘にだったかに賄賂として差し出さなかったためらしい。


その後、天神様になって雷を京都に度々落としたのだけど、これの目的は、復讐ではなく、疫病防止の為にネズミを追い払う為だったとか。京都が好きで神様になったあとに京都に戻るぐらいだから、京都を破壊するのが目的ではないんで、こっちは納得。で、天神様は、最後に内裏の屋根裏を調査した時、そこに猫がいて、ネズミを駆逐していることを知ったから雷を落とす手を緩めたとか。


そんな訳で、猫が毛を逆立てるのも、じつは天神様の静電気を受け継いだに違いないと、猫鏡には語られているだよ。


もっとも猫鏡は、平安時代版の並行世界の書と言われているけどね。いわゆる異世界ってやつ。


by 猫鏡編纂委員のアシスタントの家族の勤め先のお得意様の同窓生

あとがき


つい最近、虹色の美しい幻日をスマホで撮ったら、変哲な「2個目の太陽」の写真になってがっくりしたせいでこんな話になりました。



偏光については高校物理の題目です。光が鏡に斜めに入ると鏡の厚さ等の条件で、光の性質(偏光)が少し変わります。類似のことは大気の光学現象でも起こっていて、その結果、例えば彩雲(絹雲が出ている時の太陽の回りの傘)は水たまりに斜めに映したり、バスのガラス越しに見たりすると、白い散乱光が消えて、奇麗な虹色になります。


光学的異性体(日本人のノーベル化学賞もこれで出た)で有名なのはオレンジの香りとレモンの香りの関係ですね。もっと深刻な違いに、サリドマイド(癌の特効薬)の左手型鏡像異性体(新生児に奇形を引き起こす)と左手型鏡像異性体(睡眠効果のみで奇形は起こさない)があります。


並行世界の猫鏡ですが、昔から、月だの黄泉の国だの井戸の底の世界だの、人々は異世界を想像していました。そして、その入り口として「大きな鏡」は昔から想定されていて、紅楼夢(=清朝の源氏物語とも呼ばれている)でも、市井の伝承として『鏡の前で子供が寝ると魂を鏡の世界に持っていかれる』という話が出て来るほどです。大きな鏡は、ちょっと高価で庶民には手に届かないけど、地主・長者なら持っていそうなものなので、異世界との入り口には丁度良い程度の珍しさだったのでしょう。竹取物語だって、当時、真竹(もしかしたら孟宗竹)が伝来したばかりで珍しいかったからこそ、異世界である月からのゲートの役割を果たせたわけです。


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蛇足ついでに、余りに「物理」マニアックでボツになった話「呪いの亀時計」


アキレスと亀の話は有名だが、亀の説得は、伝わっている話よりもっと複雑だ。

「確かに君の最高速度は僕の何十倍も速いよ。でも、君と僕に等しく重力加速度がかかっていることを忘れてはいないかい」

確かに進行方向に、たとえば自由落下のように加速度がかかってしまっては、亀に追いつく前にゴールになってしまう。だが、これは地上で行なう競技のはずだ。

『でも、重力は横にかかるんだろ、なら例え坂道で君が転げ落ちる状態でも勝てるよ』

だが、亀はその可能性を否定する。

「いやいや、ちゃん平地で競争するよ」

じゃあ大丈夫だ。

「君はスタート地点が何処だか分かっていないようだね」

スタート地点? まさか水の上とか? ならば、確かに亀の方が速いかもしれない。だが、

『陸地でのレースの筈だろうが』

念の為に確認する。

「もちろんさ。でも、中性子星だったらどうなると思う」

なるほど、高速回転星か。初速度がデカいから、追いつく前にゴール。って、違う違う

『おい、ゴールは地面に固定されているんだぞ、いくら早く自転していても、その速度は関係ないだろうが』

その手の誤摩化しには乗らないぞ。

「それがブラックホール寸前の重い星でもかい?」

アキレスは一瞬、亀が何を言っているのか分からなかった。

「ブラックホールでは時計はゆっくり進む。だから、君が生きているうちにゴールにたどり着くかどうかも分からないんだよ。君が頑張って僕のスタート地点に着いた頃は、君の人生の7割が過ぎているだろう。にもかかわらず僕は君の前にいる。そして、その時の僕の地点に君が着いた頃は、君は人生の9割が過ぎているだろう。その間に中性子星は物質を取り込んでますます重くなり、時間はますますゆっくりとなる。そうして、最後は君の足が重力に耐えきれず折れてしまう。僕は頑丈な甲羅があるから休み休みすすんでいつかゴールするけどね」

この詭弁を聞いたからこそアキレスは不戦敗を認めた。しかし代わりに亀に呪いが掛かった。

「それならば、詭弁の通りに、亀の体内時計がゆっくり進むだろう」

と。

だから亀は一見長生きに見えるが、亀の体感では非常に短い時間らしい。


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おまけにもひとつ「鏡の中の時計」


鏡の中のアナログ時計は逆向きに動く。デジタルでは駄目。

鏡の像が左右ひっくり返るのは、鏡によって三軸のどれかがひっくりかえらざるを得ない状況で、人間がそのひっくり返るべき軸を左右塾と認識するからだが、その認識の根底には人間が左右対称な存在だからというのがある。

だが、特殊相対性理論以来、世界は時間軸を含めた四次元と認識されている。そして鏡の中の時計を正常に、すなわち三次元的に正常に動かすには時間を逆行させる必要がある。


この時計と鏡の組み合わせは、それを実現する。片方だけでは普通の時計と普通の鏡だが、両方合わせると鏡の向こうで時間が逆に動きだす。そのタイミングで鏡に触れると、私も逆行を始め、失敗地点まで戻ることができる。


鏡と時計の組み合わせを発見して以来、私は過去の失敗を何度も修正して順当な生活を送って来た。

「失敗してもやり直せる」

これは大切なことだ。だから、これほど貴重なものの存在を知っていたのに、大学や研究所で調査してもらうという人類への貢献より、私自身の利益を優先した。


そんなある日、私は何度目かの、しかし人生最大の恋をした。ただし片恋慕。当時フリーだった相手は私がなんど挑戦しても、私になびかず、別の人と結婚した。私は「やりなおせる」ことに甘えすぎたのか?


何度の挑戦し、何度も失恋し、苦しい思いをする。そうして消耗した私は、甘言をろうして近寄る異性に騙されて、最悪の結婚をしてしまった。


結婚1年後、私は悟ったのだ。あの鏡と時計は呪いの道具だと。さっさと大学なり研究所なりに寄付すれば良かったと。時計は結婚早々、結婚相手に壊された。やり直す前提の人生設計で、離婚という選択も思いつかなかった私に、もやはやり直す気力はない。


残った鏡よ、私を助けておくれ。


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