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桜の木を巡る7つの陰謀論 (春の推理2022『桜の木』)前編

『桜の木は、人の寿命を縮める目的で植えられている?』

桜の木に関して、当たり前と思っていることが、実は誰かに誘導された思考結果だったとしたら? 

よくよく考えると奇妙に思えてくる事実の数々。そこには多くの陰謀が隠されている……はず。 / ミステリーではない推理ものです。


ミステリーではない推理ものです。春の推理2022『桜の木』企画参加。

『今日は桜の木に関する陰謀論についてお話ししたいと思います』


聴衆には私の「ファン」が数多く見受けられる。これは荒れるだろうな、と思いつつ、話しはじめた。



『桜といえば、その散り際の美しさが、武士精神と比較して語られます。他の花との比較としてだけでなく、他のモモ科の花との比較でも、散り際がいさぎよい』


そこでいきなり野次やじが飛んだ。

「バラ科のサクラ亜科だろうが、間違えんなボケ!」


見るといつもの過激な御方おかただ。どうやら、1990年代まで使われていた「モモ亜科」というのをご存知ないと見える。


『さっそくのご指摘をありがとうございます。確かに今ではサクラ亜科やサクラ属という呼び名が広まりましたが、これは近年のことで、元々の学術用語であるAmygdaloideaeというのは直訳するとモモとなり、モモ亜科モモ属というのが伝統的な呼び名でした。

 しかし、サクラがキクに代わって日本の象徴という地位を得たことと、モモは中国で大切にされているから避けるべきだという感情に押されまして、本邦では1992年にサクラ属をモモ属やスモモ属から独立させるべきだという意見が出され、その流れに乗って、Amygdaloideaeの翻訳もモモ亜科からサクラ亜科に変更になっております。

 この経緯から、名前の変更を右翼の方々による陰……』


そのとき、別のヤジが入った。

「右翼と決めつけるのは早いのではありませんか? モモは黄泉よもつ比良坂ひらさかや桃太郎に出て来るほどの日本の伝統ですよ」


スマした口調で響くような声で話を遮ったのは、人目をく服を着た女性だ。こちらも常連さんで、いつも「私は客観的ですよ」と言わんばかりの意見を言ってくるが、私は、単にイチャモンをつけるのを楽しみにしているだけだと踏んでいる。だけど、このヤジに関してはこちらの援護射撃となる。


『まさに仰る通りで、樹木としての桜の分類法やその呼び名ひとつをとっても、右と左の2つの陰謀論が存在するほどに、社会的に大きな影響を与えている事が見れとれます』


当初の予定とは順番が代わったが、取りあえず、言葉による陰謀論につなげる事ができた。


『同じ意味にどのような言葉を当てるか、という問題は、力による暴力が否定された代償だいしょうとして言葉で暴力を振るう現代では、陰謀に使えるほどに重要となっています。『ポリコレ』でタブーとなった言葉の中には、差別の事実を隠すためだけにタブー化しているものもあるのではないかと思われるほどです』


当然のごとく、会場から複数のブーイングがあがった。

「例をあげろ!」

「だからといって差別用語を使って良いのか!」

「バカ・カバ・○○○○ヤ・おまえの○○チャン○○○」


なんだか半世紀以上前の罵倒用語も出てきた。これって職業差別とか性差別、肉体差別とかの概念が無かったから生まれた用語だよなあ。 ヤジは気にしたら負けだ。というかヤジも出ない話は退屈だろう。


『話を桜に戻しまして、桜の美しさの一つとして、散り際が潔く、美しい期間が一年でも限られていることにあるでしょう』


ヤジはぐに消えた。皆さん、私の失言を聞き逃すまいと待ち構えているようだ。


『桜と対照的に、なかなか散らずにしおれていくのが菊や桃でしょう。しぶといと申しましょうか、菊に至っては、切り花ですら花が萎れたあとに地面に差すと、生き返って翌年花を咲かせます』


言い終わる前に

「え〜? うちで生けた菊はそんなことないよ〜」

といった声が複数あがってくる。常連さんではなさそうだ。


『最近の園芸種は枝挿えださし出来る時期が限られている菊も多いですが、大抵の菊はそういうしたたかさを持っています』


ここで『さすが、公家社会でも武家社会でも生き延びた天皇家の象徴だけはありますね』と言わなかった自分を褒めたい。


『ともあれ、菊や桃から桜へのシフトは、天皇から権威、公家社会から権力を奪った武家が、自分たちに権威と権力の両方が移ったことを国民の魂に植え付けるための策略だったという説もあるほどです』


ここで当然にように常連さん達から声があがる

「山桜は万葉の時代から愛されていますよ。古事記に出て来る桃はともかく、菊から桜へのシフトというのは無理がありません?」

「菊の天皇家はわかる。けど、公家が桃ってのは強引だろうが! 藤や橘じゃねえのか?」


当然の疑問だ。1つ目は知識の顕示けんじに過ぎないので、答えなくても良さそうだから、2つ目だけを答える。


『公家社会の成立期では遣隋使・遣唐使によって中国の文化が強く反映されましたが、実は大和朝廷の成立期ですら、中国の影響を受けており、その一つが仙桃の不老不死伝説です。西遊記にも出て来ますが、それが日本に渡って黄泉よもつ比良坂ひらさかの桃となりました』


ここでヤジを覚悟、例えば

「中国の回し者、さっさと帰れ!」とか「売国奴!」

とかを覚悟していたが、意外にも反応は鈍い。考えてみれば常連さんは内容にはケチをつけても、この手の『中国がらみは全て否定』というようなヤジはしないよな。というか、もしかして西遊記ファンとか?


『なので、桃を公家の象徴だと言い張ろうと思えば言い張れます。でも、まあ、これはあくまで公家から武家への権力移行という策略だったとする陰謀論を成り立たせるためのレトリックですので、事実かどうかはどうでも良いのです』


ここまで話してヤジが無いのを寂しく思っていたら

「さっきの言葉狩りより強引だぞ」

と待望のヤジが来た。おう、私が一番信頼している常連さんだ。言って欲しいコメントを返してくれる。


まことにそのとおりで、それが陰謀論の陰謀論たるところでしょう』

と強引にまとめる。


『さて、桜と言えば花だけでなく、桜の葉の寿命も短いですね。特にソメイヨシノは、南九州では7月には既に葉が傷んで、茶色くなったり落葉したりしています』


先生せんせー、哲学の道も、8月には茶色かったことがありますよ〜」

京都のアレか。夏に観光に行った時に、日陰も無くて熱中症になるところだったなあ。あれは桜の植え方を間違っている。


ともかく、新しいお客さんのようだから

『昔より温度が上がっているから、そうかもしれませんね、ありがとうございます』

と挨拶しておく。


『そういう訳で、寒かった明治時代はともかく、現代においてソメイヨシノは、夏の木陰を作るという、公園や街路樹における最も大切な役目を果たせません』


「えっ、木陰を作るのが街路樹の目的なの?」

「あれは排ガス対策だろ?」

「いや、単に西洋の真似をして見栄えを良くしただけじゃない」

というざわめきの中から

「街路樹は視界を遮るから、木陰を作らないぐらいの樹木が良いのですよ、せんせー、知らないんですか?」

という声が響いた。


ああ、この常連さんか。安定の『上から目線』だなあ。単に自己顕示欲の強いだけの人だというのが私の正直な感想だ。こういう手合いは真正面から反論しても水掛け論にしかならないから、反論の根拠だけ言って、相手を否定しないまま、ベクトルを変えるのが無難だ。


『西欧では夏の木陰は重要ですし、日本においても1960年代までは夏の木陰が重要な目的の一つでした。ただし、西洋と違って道路に土地を確保出来なかった日本では、交通量の増加を制限できなかったことなどから、視界の問題がクローズアップされ、枝をバサバサと切るという方向で落ち着きました。非常に嘆かわしいことです』


「答えてねーぞ」

はいはい、様式美のヤジをありがとう。次の下りは長過ぎるからカットしようと思っていたけど、ヤジのお陰で全部話せそうだ。


わたくしごとになりますが、子供の頃、重くて暑苦しいランドセルを背負って通学していたころは、夏の暑さに何度も街路樹の木陰で休んだ事があります。大人になっても自転車で外出する時は、信号待ちの際は少し手前の街路樹の陰で日ざしを避けるのが常でした。日陰だけならブロック壁でも作れますが、こちらは夏場は暖められて、熱気を出します。それに引き換え街路樹の木陰が風が通るので一番涼しいのです』


「アスファルトのほうが暑いですよ〜」

ヤジというより『合いの手』といったほうが相応しい声がかかる。うんうん、気持ちがよい。


『そういう訳で、外出の途中に適度な木陰があるかどうかは、車を使わない交通弱者にとっては、現代日本の夏では非常に重要な問題です』


「待って下さい、落ち葉の問題はどうするんですか? 滑りやすくて、老人の転倒の原因にもなりますよね。特に雨に濡れると自転車すら転倒しかねないですし」

今度は、年配の方の声だ。こちらも常連さんで、いつも厄介な案件を持ち込んで来る。


落ち葉は面倒なんだよなあ。アスファルトならともかくも、元々滑りやすいタイル歩道だと、特に滑りやすくなる。雨樋もつまるし。


『まったく仰る通りですが、落ち葉が問題になるのは、1年のうちでも2週間程度で、その間だけは毎朝自治体が清掃を行なうのが、最善の方法だと思います。落ち葉という欠点のみだけを理由に街路樹を止めるのは、それこそ木を見て森を見ない愚策ではないでしょうか? あとは、見た目を重視するばかりに年々滑りやすくなっている歩道タイルを、滑りにくさ優先の素材に代えるほうが先決だと私は考えております』


ここまで脱線したところで、一番はじめにヤジを放った常連さんから注文が入った

「おい、桜の話はどこに行った?」

さっきの年配さんが発言すると、必ず、この常連さんも対抗意識で発言する。感謝感謝。


『ご指摘有り難うございます。交通弱者に木陰を作ることが街路樹の重要な役割であることを考えると、桜の木は、これに相応しくないと言わざるを得ません』


「それは南九州の話だろ?」

「東北じゃあ、ちゃんと夏でも木陰を作りますよ」

ありゃ、不味った。ついさっき話したことを繰り返しただけなのに、聴衆が鋭くなっている。


『あっ、すみません。西日本では、です。毎年ではなくとも、夏に葉が落ちてしまうこともありますし、特に猛暑で日照りの続く夏ほど、肝心の木陰を作れないリスクがあります。半世紀前までの涼しかった時代ならともかく、いや、その頃でも南九州は駄目ですが、現代において西日本の街路樹に桜は相応しくありません』


「え〜? 夏どころか、哲学の道の桜なんて4月と5月以外はサイテーなんだけど」

さっきの新顔さんだ。この人、哲学の道に執着でもあるのだろうか?


『まったく仰る通りで。だからこそ、一世紀前までは、桜は普段人が訪れないような場所に植えることになっていたのです。半世紀前までに作られた公園を見ると、桜の木のは意外に少なく、木陰を作るための木が別にあることは見て取れます』


「確かに丸山まるやま公園も疎水そすい道も普段は行かないなあ」

はいはい、貴方は京都からわざわざ来て下さったんですね。新顔だけど、こりゃ、常連さん達と同じ扱いで良いか。


『にも関わらず、ここ数十年、桜並木を作ったり、公園に桜を植える動きは増えています。自治体によっては、高齢者がよく散歩する堤防の並木に桜を使ったり、市民霊園の並木に桜を植えたりしたところすらあります』

私の田舎がそうだったりする。


「市民霊園は、今仰った、滅多に行かない場所に当たりませんか?」

来た来た。これも常連さんで、直前だけのロジックだけをみて、全体の流れを無視した揚げ足取りのコメントをいつも出してくれる。始めは鬱陶うっとうしかったけど、今では結構楽しみにしていたりする。


『確かに滅多に行きませんが、行く時期が問題で、一番多いのがお盆ですよね。そのお盆にほとんど落葉しているような樹木は、霊園には向かないのではないでしょうか? 他に彼岸がありますが、彼岸桜や寒桜の除けば、春の彼岸にはつぼみです。見頃の4月に霊園で花見会を開くというのも、ちょっとはばかれますし』


すかさず

「先生、それ古いです」

「最近は春の彼岸が桜の季節ですよ」

という声があがった。ふふふ、誘導成功。


『はい、それがまさに次の陰謀論に繋がる話です。なぜ市民霊園の植樹を桜で固めたのか、という答えの一つですね』


会場は一瞬『なに言っているんだ?』という空気に満たされたが、その直後にヤジが次々に飛んだ。


「せんせー、梶井基次郎に習ったなんていうオチじゃないですよね?」

「桜を使う市民霊園なんて、霊園の一部に過ぎないぞ!」


梶井基次郎の有名な詩「桜の樹の下には」はあとで取り上げるから、ここはスルーだけど、幸いにして他にもヤジがあるから、そっちだけを答えて誤摩化そう。


『もちろん、多くの自治体はマトモですが、それでも戦後の霊園のほとんどは、お盆の季節に炎天下で、墓の近くに木陰を捜すのが困難ですよね。そんな中、休憩所や街路樹に当たる場所すら桜に覆われるような霊園を作るような自治体や業者が出て来たのは確かです。わたくしの郷里もそうですから。そういう非科学的な事業には陰謀論がついて回るものです』


会場が小声のざわめきに包まれた。

「陰謀も何も、単純に役人が桜が咲いているイメージだけで計画したからじゃねえ」

「地方の役人なら考えそうだなあ」

「いや、桜の樹を植える流行に乗っただけでしょ」


あくまで小声だから無視して話を続ける

『その背景には、桜の木を公園や街路樹に植えるという流行があったのかも知れませんが、それならば、その流行を生み出した何かが、実は陰謀だったと考えることも不可能ではありません』


「うん、そうだよな、不可能ではないよな」

「そういえば、陰謀じゃなく、陰謀論の話だったね」

どうやら、一部の方は、今日の話の趣旨を理解してくれたようだ。



ここまできたら、あとは一本道。桜の木が気候にあっているかどうか、目的に会っているかどうかを無視して全国で植樹されたきた理由を『実は深謀遠慮の企みがあった』と説明するだけだ。


『まずは高齢化対策として、桜を植えたという陰謀論があります。要するに、夏に熱射病で老人に早死にしてもらうという物騒なものです。この陰謀論の主体は一つではありません』

字面じずらだけを見れば確かに物騒で、実際、年金や高齢者医療を節約するためという財務省陰謀論もあるのだが、実は癌や体の衰えで苦しみの時間が来る前や、痴呆症になる前に、桜並木や、桜に囲まれた霊園へのお盆参りで、気持ち良く亡くなってもらおうという、安楽死視点での陰謀論もある。


『もっとも、同じ安楽死でも、深沢七郎の有名な『楢山節考ならやまぶしこう』にあるように、判断力のあるうちに安楽死を選ぶ者への賛美するあまり、それを強制しようとする過激派による陰謀という説もあります。このように、熱射病陰謀論だけを取っても多くの陰謀の可能性が秘められています』


聴衆がポカンとしている。あちこちから「無理筋だ」というささやきがあるが、大きな声にならない。常連さんたちは沈黙。さすが、どこでヤジを止めるかを分かっていらっしゃる。


『熱中症がらみでは、夏の木陰を無くすことで、高齢者の外出自粛を促すという陰謀論もあります』

こちらは、夏の外出をより過酷にすることで、高齢者の交通事故を減らすと共に、車が高齢者を気にしなくてすむ環境作りという陰謀だ。陰謀かどうかは知らないが、猛暑で外出が減っているのは事実で、その中に木陰が不十分だから、というのも事実なので、陰謀論としては成立する。


『外出自粛に関しては、高齢者が自宅にこもることによる冷房などで、夏の電力ピークを高めるという、陰謀論もあります』

電力ピークが高くなるということは、電源確保のために、原子力や石炭に頼らざるを得なくなるというもので、電力を食うタワービルに「格好良い」というステータスを与えるのと同根の陰謀だ。もちろん、陰謀論としては原発ムラや石炭火力ムラが主体で、とにかくピーク電力を高めるためにあの手この手を使っているというものだ。


話をしている私が空しくなるような無理筋だが、陰謀論として成立している以上、紹介しない訳にはいかない。常連さん達からの、あわれみの視線が痛い。


『もっとも、タワービルと違い、桜の植樹はさすがに『風が吹けば桶屋が儲かる』の論理であることは否めません』

流石にこのくらいの予防線は張らないと、常連さんがやる気を失うだろう。そう思っていたら


「タワービルの陰謀も電力会社の陰謀も、それだけではないですよね」

という声が上がって来た。良かった、ちゃんとこの質問が出て来た。


『はい、仰る通りです。電力会社の陰謀のうち化石燃料を生き延びさせる目的、つまり『温暖化は悪い事ばかりではない』という印象を与えるための陰謀に限っても、陰謀論がいくつかあって、その一つが、先ほど話題にあがった、春の彼岸の桜の開花です』

春の彼岸の墓参りで桜が咲いていたら、それは素晴らしいだろう。そう思わせること自体が罠だというのが、この陰謀説だ。陰謀の主体は石油メジャーというのがメジャーな説だが、実は温暖化によって耕作可能な温暖地が増えるロシアやカナダの陰謀と言う説もあるし、北極海の氷が溶けることで北極航路が使えるようになる船舶会社や中国の陰謀という説もある。


これらの国の名前を挙げた途端に

「ロシアに違いない」

「いや、中国だ」

「そこは、やっぱり石油メジャーじゃないんの」

「待った待った、これっていくら連中でも彼岸と桜を繋げるとは思えないんだけど」

というざわめきが会場に広がった。やっぱりだ。ここで30秒ぐらい中断するだろうことは予想はついていた。


『以上が木陰と温暖化がらみの陰謀論ですが、他にも、桜並木を作ることで、車の運転手の気を散らすという陰謀論もあります。交通事故を増やすためのでなく、自動運転を普及させるための布石だというものです』


そう説明したら

「せんせー、交通事故を増やそうとする陰謀論もあり得ると思うのですが」

という声があがった。この質問出るよなあ。答えは講演の最後にしたいので、ここは、お祓い関係者がらみの話にらして逃げよう。


『事故が増えればお祓いが増えるって奴ですね。それは、ファンタジー小説ではあり得ても、現実にお祓いで儲けるという陰謀論は、一般論としては厳しいでしょう。たとえば、特定の神社が特定の事故を起こしやすい場所に桜を植えるという陰謀をしたとすると、陰謀を起こした者が祟りを受けるのがお祓いの世界の論理だからです』

もちろん、代わりに、特定の神様が生贄代わりに事故を望むとことはあり得るかもしれないが、それはこの世のことわりを越える話で、この場で取り上げることではない。


『他にも桜の手入れに関する陰謀論があります』

桜伐る馬鹿・梅伐らぬ馬鹿という言葉があるように、数ある樹木の中で、桜だけは剪定しない口実がある。これが他の樹木なら、剪定しないと、視界や景観の問題から苦情が出るが、桜だけはそれを免れるのだ。これは赤字の地方自治体にとって非常に有り難く、自治省の音頭で桜を植えているという説だ。


『ここまで、学名陰謀論、象徴陰謀論、木陰陰謀論、温暖化陰謀論、運転妨害陰謀論、剪定陰謀論と6つ挙げてきました。それぞれの陰謀論の複数の説があり、それらを含めると膨大な数になります』



『最後の陰謀論に入る前に、ひとつ推理問題を紹介しましょう。それは、梶井基次郎が『 屍体 ( したい ) が埋まってゐる』と語った桜の樹の種類が何であるか、です』


梶井基次郎(1934年に31歳の若さで死去)の有名な『桜の樹の下には』(1928年の作品)の詩の全文は青空文庫(著作権の保護期間を過ぎた作品を載せるために作られた非営利サイト)で読むことができます

https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/427_19793.html

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