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苦手な方はご注意ください。

力に代償は付きものだ

作者: ハマ

 中学2年の夏、14歳を迎える誕生日に超能力が使えるようになった。


「ふぅをーーー!?」


 超能力。

 超能力である。

 今では死語となった厨二病を加速させる剣、魔法、超能力、宇宙の4項目の中のひとつである超能力が使えるようになったのだ。


 それはもうテンションあげあげで使いまくった。

 朝から晩まで、自分の誕生日である事も忘れて使いまくった。

 自室にある全ての物を浮かして、自分も空中浮遊して遊んだ。

 それは晩御飯の誕生日祝いまで続いていた。



 そして次の日。


「うおーーーー!?!?」


 髪の毛が全て抜けていた。


 いや、おかしい。

 何で枕から髪が生えているんだ?

 まさか俺の超能力で生命が宿ってしまったのか?


 現実逃避をしつつも頭を触ると、そこには昨日までの大草原の姿は無く、代わりにスベスベした不毛の大地が広がっていた。


 鏡を見る。

 そこには、ハゲた少年の顔が映っていた。

 誰だコイツは?どこかで見た気がするな?誰かな?俺かな?


 そうか、俺か。


「お母ちゃーーーん!!!」


 叫んだ。

 心の奥底から。子供が泣き叫ぶように、恥も外聞もなく助けを求めた。


 その後、何故か母ではなく父が部屋に来て、なんじゃこりゃーと叫び、父の叫び声に驚いた母が来て、俺を見て笑っていた。


「朝からうるさい」


 妹は我関せずと文句を言っていた。




 母に連れられて病気に行くと、強いストレスによる脱毛症と診断された。どうしてか母からごめんねと謝られた。


「治るんですか!?また生えて来ますか!?」


「大丈夫、髪なんて人には必要ないものさ」


 ニッコリと笑う医者は、まるで悟りを開いたように頭が光っていた。


「えっ?どゆこと?」


 もしかして生えないってこと?

 まさか、まだ若いのに生えてこないとか、ねえ?


 医者は静かに目を伏せて首を振った。


 俺は絶望した。


「そんな、体はいたって健康なんですよ!ストレス性なら治療出来るんじゃないですか?」


 母の必死の訴えに医者は首を振って答え、母はそんなっと昼ドラのようなショックの受け方をして膝から崩れた。


 マジかよオイっ!

 俺、まだ14歳だよ。人生まだ長いんだよ。


「そう気を落とさないで下さい。今の時代、ウィッグという天の助けもありますから」


 まるで助けではなかった。

 先生、それは諦めろと言っているようなものですよ。


「確かにそうですね、本来ならストレスの原因を取り除けば治るはずでした。でもね、それも毛根があったらの話しです」


「えっ…まさか」


 嫌な汗が噴き出る。


「あなたの毛根、もう根絶しています。ブッファ!」


 自分の親父ギャグに笑い出す医者はヤブ医者かもしれない。


 医者の笑い声をBGMにして俺は絶望した。




 いくら絶望しても日常に変化があるはずもなく、午後から普通に学校に登校した。


 夏の日差しに照らされた頭は日焼けしそうなほど暑く、汗がダラダラと滴り落ちる。別に教室に入るのが怖いからじゃ決してない、暑いから髪がないから余計に汗が流れているだけだ。


 ガラガラと教室の扉を開けると、一斉に注目を浴びた。


 そして、唖然とした皆んなの表情。


 一拍おいてから爆笑。


 大丈夫。大丈夫。俺は怒っていない、悔しくなんてない、予想していた事だ。気にする必要もない。


 そして、俺は教室から逃亡した。




 いやいや、無理無理。

 こんなの虐められるって、若ハゲなんて最強のバッドステータスじゃん。カースト最下位確定ですやん。


 そこから挽回できるステータスを、俺は持ち合わせていない。

 身長こそ親譲りで高いが、他は普通かそれ以下である。


 そこであっと思い出した。


 俺、超能力使えるようになったじゃん。


 そして気付いてしまった。

 もしかして、超能力使えるようになったからハゲたんじゃないか?


 猫は住む環境が変わるとすごいストレスを感じると、前にテレビで見た事がある。じゃあ俺は、超能力という力がストレスでハゲたって事じゃないのか!?


 環境の変化、力の変化、何か似てる気がする。


 ちくしょ〜。


 悔しさのあまり手に力を込めると、手を置いていたブロック塀を破壊してしまう。無意識に超能力を使ってしまったのだ。


 そこで、またひとつ気付いてしまった。


 この力、思ったより危ないな。




 昨日は、厨二病全開で超能力を楽しんでいた。


 だが今は、自分の超能力の危険性について考えていた。

 そこで、先ずはどんな事が出来るのかを調べることから始めた。


 物を動かす念力。 サイコキネシス

 身体機能を操作する。 肉体操作


 一週間かけて調べたが、今できるのはこの二つだけだ。訓練次第ではまだ出来そうな気もするが、もう時間がない。


「コラッ英雄!いつまでもうじうじしてないで学校に行きなさい!」


 ドアを蹴破らんばかりの勢いで進入して来た母が、息子の気持ちも知らずに布団を引っぺがし、けつを蹴っ飛ばして外に放り出す。


「待って母ちゃん、今日まで休ませて今日までで良いからさー」


「あんた、それ昨日も言ってたでしょうがー!!」


 ブチギレたらマジで怖いうちの母に逆らえるはずもなく、準備をしてトボトボと学校に向かう。


「あんたウィッグはいいの?」


「いらない。もうバレてるから意味ないし」


 これで着けて行ったら、余計に何を言われるか分かったもんじゃない。

 大丈夫、学校の奴らは皆んないい奴さ。

 きっと皆んな優しくしてくれる。



「ププッ、おはようヒデ君。ウックッ、大変な病気らしいけど、元気に登校して来れて良かっブッハよ」


「ようヒデ!久しぶりだな。ウハッウケる〜!」


「この前は笑ってごめんね。ハハッ、アハハハハッ!?ごめんこっち見ないで、それツボだわ」


「頭触ってもいいか?スベスベしてんな、癖になりそうな肌触りだわ」


「期末テストの答案返って来てるよ、後で先生のところに取りに来いって言ってたよ」


「こっち見て話せよ。笑いたいんだろ、人の頭見て笑いたいんだろこの野郎」


 友達、いや元友達が何が楽しいのか笑いながら話しかけて来た。その内のひとりは、目も合わせないどころか明後日の方向を見て話している。お前は誰と会話してるんだ。


「お言葉に甘えグッフフハハハ! やっばやっばまじもんですやん!?」


「何がマジもんだ。これの何処に偽物の要素があるってんだ?」


 軽く流しているが、内心ではコイツらしばき倒したろかと思っている。

 元友達との会話を様子見していたクラスメイトは、今のやり取りの何が楽しかったのかクスクスと笑い出している。


 良いクラスだと思っていたのに、それは勘違いだったようだ。

 少し目頭が熱くなった。


「あのさ、もう生えてこないのか?」


「直球だなおい、ちゃんと生えて来るよ。いつになるかは分からないけどな」


「おお、それは良かったね」


 そう、きっと生えて来る。医者は何か言っていたが、ヤブ医者だから誤診をしたに違いない。セカンドオピニオンでも同様の診断となったが、ヤブ医者に続けて当たっただけだ。


 そんなやり取りをしていると、パチンッの音と共に後頭部に衝撃が走った。


「ンガッ!? なんじゃい!」


 背後を振り返ると小柄な女子が立っていた。

 女子は手をプラプラと振って、いかにも私が叩きましたよとアピールしている。そして、人の頭を叩いたにも関わらず俺を追い詰めるように口を開く。


「残念だけど、今後あなたの髪は生えて来ないわ」


 衝撃の一言に場が固まる。


 そしてクラス中が笑顔に包まれた。俺を除いて。


「ちょっと千由里!何やってんの!?ほらこっち来て、危ないよ」


 言葉を失っていると、小柄な女子を大き目な女子が連れて行った。

 いや、誰が危ないんだ。こっち見てるな、俺か?…俺かな?……俺か。


「いやいや失礼でしょうがあんたら!?」


 流石に怒った。いきなり叩かれて危ない奴認定されたらそりゃ怒るだろう。


 すると女子の輪に帰って行ったふたりは、他の女子に囲まれて姿を隠してしまった。この女子の群れを突破して、ふたりに問い詰めるのは自殺行為だろう。

 ただでさえマイナス要素が加わっているのに、更に変態扱いまでプラスされたら唯の変態ハゲ野郎になってしまう。


 もう学校に行けない。


 女子の前で手をこまねいていると、先生が入って来てホームルームが始まった。





 頭がハゲて、もとい超能力を使えるようになってから日常のルーティンが変化した。

 今までは、授業が終わったら美術部で絵を描いて家に帰ってゲームをしていたが、その中に超能力の訓練が加わったのだ。


 訓練は過酷を極めた。

 朝起きて瞑想、フルパワーで空中に浮かび高速回転を行う。

 登下校は基本ダッシュ、人目の無いところではパルクールを取り入れて屋根の上を行ったり、空を飛んだりした。

 夜は睡眠時間を削って、こっそりと山に行き滝に打たれたり、滝に向かって正拳突きを行ったりした。


 マジでハゲ上がるかと思った。


 そんな事をしていると、夜に怪しい人影が空を飛んでいるのを見たと都市伝説のように囁かれ始める。


 こりゃまずいと思った俺は、訓練をやめる……訳はなく、どうにか姿を隠す方法はないかと考えた。


 そして新たな力を目覚めさせる事に成功した。


 人の認識、機器類に異常を起こさせる。 ジャミング


 これにより俺という存在を認識できなくなった。


 マジ有能な俺は自画自賛した。


 誰にも言えないんだから仕方ないだろう?


 本当は誰かに相談するつもりだったが、この前見た海外映画では特殊な存在を人体実験する描写があり、もしかしたら俺も実験室送りになるかもしれない。

 人の口に戸は立てれぬ。他人に話すことによるリスクは、とても無視できるものではなかった。


 だから俺はひとり孤独に戦うのだ。


 敵はいないがな。




 そうこうしていると、あっという間に一年が過ぎた。


 俺ももう中学三年生、もう立派な大人だ。

 嘘です。唯の受験生です。


 そう、中学三年ともなれば、次のステップである高校を受験しなくてはならない。


 この一年で俺の成績はグングン伸びて、平均以下から平均位まで上昇した。

 これは快挙である。

 母は泣いて喜び、父は歓喜し、妹は褒め称えた。


 これも嘘です。

 特に何もなく、ああやっと人並みになれたのね、と今まで人外認定されていた事が判明した程度である。


 泣いていいんだよって? 舐めるな、俺が泣くのはベッドの中だけと決めている。


「ウッウッウエ〜ン」





 超能力の訓練は順調だ。


 元から持っていたサイコキネシス、肉体操作に加えて新たに手に入れた力がある。


 思念や感情を読み取る。 サイコメトリー

 怪我や病気を癒す。 ヒーリング

 自然現象に干渉する。 フェノメナキネシス


 新たな力ではあるが、実際に使えるのはヒーリングだけだ。

 サイコメトリーを使用すると、脳が焼き切れそうなほど痛みが走り動けなくなる。

 フェノメナキネシスはそもそも出力が弱くて使えない、これでやっているのは自分の体温調節くらいだ。夏は涼しく、冬は暖かい、その程度の能力だ。

 

 その点、ヒーリングは相性が良くて使いやすい。骨折くらいなら一瞬で治す事ができるし、風邪程度なら簡単に治療できる。

 ヒーリングの実験場所には困らなかった。

 少し行けば沢山のある施設があり、そこでなら幾らでも実験ができた。もうヒーリングを極めたと言っても過言ではない。

 これで、訓練中に怪我をしても安心だ。


「あー神様!」

「ありがとう先生!あなたのおかげだ!」

「お母さん!?」

「おお、歩ける歩けるぞ!」

「そんな、末期癌が治っている!?」


 少し五月蝿いが、それもいつものことだ。





 最近、仲間を見つけた。

 俺は一目見て彼等が仲間だと分かった。そして、それは向こうも同じだったらしく、こちらを見て優しい目を向けてくれた。

 言葉はいらなかった。

 目と目で通じ合う、そんな事できる訳ないと今までは思っていた。だが俺たちはその時、確かに通じ合っていた。


 お前も大変だな頑張れよ。


 はい、精進します。


 こんなやり取りしたはずだ。たぶん。


 きっと彼等はやり手の能力者に違いない。俺如きでは測れないような器の大きさを感じた。


 きっと立ち向かえば、俺は一瞬で散りとなるだろう。


 まさか、こんな偉大な方達が、こんな身近にいるとは思わなかった。俺は歓喜して、その日から更に訓練に励むようになっていく。


 彼等に近づけるようにと、彼等と肩を並べられるようにと、彼等を追い越せるようにと、ひたすらに訓練に没頭した。


「あの子、若いのにハゲて大変だな。何処か良いクリニック紹介してあげれないかな?」

「やめときましょう、もしかしたら自分で剃ってるかもしれませんから」


 どこかの通勤電車内で、頭が淋しくなったサラリーマン戦士達がこんな会話をしてたとか、してなかったとか。




 そういえば、学校でも小さな変化があった。

 中学二年の二学期、始業式の日に転校生が来たのだ。


 転校生と聞いて、それはもう皆んなのテンションは上がった。男子は美少女を想像し、女子はイケメンを待ち望んだ。


 きっと始まるんだ。転校生と俺(私)とのランデブーが!


 そんな皆んなの期待を勝手に背負わされた哀れな転校生は、先生の後を追って教室に入って来た。


 それは学ランを着た野郎だった。


 しかもイケメン。


 女子の勝利が確定した瞬間だった。


「先生、チェンジお願いします!」

「ねーよそんなもん!何だチェンジって、どこで知ったんだそのシステム!?」


 男子からの抗議は、先生からバッサリと切られて突っ込まれた。


 転校生は俺の隣の席になり、よろしく〜と挨拶するも返事が返って来る事はなかった。つまり無視である。


 俺はコイツの名前を覚える事を止めようと決心した。


 まあ、三年に上がった折にクラスが別になったので何の問題もないが。

 因みに、俺の頭を叩いた女子と危険認定した女子も別のクラスになった。どうでもいいがな。


 それ以外には特に変化はなく、平穏無事に学生生活を送っている。




 俺自身のことではないが、この一年間で変わった事はもう一つある。

 変わったというよりも、悪くなったと言った方が良いかもしれない。


 治安が悪化した。


 俺の住んでる地区はそこまでないが、全国的に犯罪が増加傾向にある。

 窃盗、強盗、暴行、暴走事故など他にも様々な犯罪が起こっている。中には犯人不明だったり、分かっていても手口が解らずに逮捕出来ない事案などもある。


 世は、荒廃した世紀末のような世界に突入しようとしていた。


 これも大嘘です。と言えたら良かったのだが、犯罪は本当に増えており、最近、更に拍車が掛かったように発生している。

 このまま行けば、本当に世紀末の世界に成りかねない。


 だから俺は立ち上がった。


 家族を守るため、友人を守るため、親愛なる隣人を守るため、善良な一般市民を守るために、俺は正義に目覚めたのだ。


 別にモテたいとか、楽しそうだとか、スパ○○ーマン見たとか、暇だからとか、そんな邪な気持ちは一切ない。


 実験室送りになっても良いのかって?

 もちろん良くない。

 だからそれなりの対策は取ってある。


 さあ、世界を守るために戦おうじゃないか!


「あー君、怪しいから同行願えるかな」


「僕は善良な一般市民です。やめて下さい、これから塾に行かないとママに叱られちゃいます」


「嘘はダメだよ、フード被って仮面付けた怪しい奴が塾なんて行く訳ないだろ?」


「偏見ですよ!僕の目を見て下さい、この澄んだ瞳の持ち主が犯罪なんて起こすわけないでしょ?」


「仮面で見えないよ。ほら来なさい、おい!抵抗するんじゃない!?」


 無理矢理にでも俺を連れて行こうとする公僕の犬を振り切って、俺は逃げ出した。


 何て奴だ。人畜無害の俺に向かって怪しいなどと言いやがって。


 世界平和のために立ち上がった俺は、犯罪といえば夜だろうと思い夜回りを始めた。

 まずは地元からと思いパトロールをしていると、本職の警察官に呼び止められたのだ。


 てっきり激励してくれるものだと思っていたのにコレである。

 地域の平和を守るのは、あなた達の仕事でしょ!

 仮面つけて少し怪しいからって………あっこれやばい奴だわ。


 ショーウィンドウに写る自分の姿は、かなり怪しかった。



 気を取り直して、別の場所の夜回りを開始した。

 今度は誰にも見つからないように、ジャミングを使ってのパトロールだ。


「ヘッキショインッ!?」


 夏は蒸し暑い季節だが夜は幾分涼しく、昼間の暑さと比べると肌寒く感じてしまう。


「ふっ、どこかで美女が噂しているな」


 夏の暑さは、人の頭をおかしくするのかもしれない。


 

 煌びやかなネオンが輝く夜の繁華街は普段知っている昼の賑わいとは違い、大人な世界が広がっていて何だかソワソワする。

 普段は光らない看板が煌びやかに彩られ、美味しそうな匂いがこちらに来いと誘惑する。酔いの回った大人達は次の店へと向かい、その大人達を迎え入れようと店先で店員が声を上げている。


 そんな道を歩いていると、自分も少し酔ったような気持ちになって来る。


「ヘイ大将ビール一杯!」


 たこ焼きを焼いている店員に向かって言ってみるが、もちろん無反応だ。

 だってジャミングしてるからね。


 これが聞こえてたら恥ずかしくて死んでしまうわ。


 そんな風に遊んでいると、道の先で悲鳴が聞こえて来た。


「キャーひったくりよ、捕まえてー!?」


 見えるのは、転倒した女性と二人乗りの原付バイク。

 女性は膝から血を流しており、転倒した際に頭をぶつけたのか額が赤くなっている。

 原付バイクの二人組は前方に座る男が運転をしており、後方にいる男の手には女性用の鞄が握られていた。


 急いで駆けつけると、女性は転倒した際に足を痛めたらしく、立つことが出来ないでいた。

 反対側の道の先には、車間を縫って走る原付バイクが見える。あと少しで視界に写らなくなるだろう。


「逃さん!」


 サイコキネシスで原付バイク捕まえ、動きを封じ込める。


 犯人の二人組は何が起こっているのか分からずに、焦ったようにアクセルを上げている。


 ふっ無駄だ。何故なら少しだけ浮かしているからな。


 マヌケな犯人が右往左往している間に、ひったくり犯を捕まえようと勇気ある一般の方々が追い着こうとしていた。

 それを見て焦ったのか、犯人は原付バイクを捨てて走って逃げ出した。


「だから逃さんと言っている!」


 今度は犯人の足を地面に縫い付けて動きを封じる。


 見よ!この訓練の成果を!

 以前の俺だったら足をサイコキネシスでペシャンコにしていただろうが、割れ物を扱うような絶妙な力加減で、足を傷付けずに済んでいる。


 これは確かな成長だ。


 足が動かなくなりパニックになる犯人達は、間もなく勇気ある人によって捕まるだろう。

 俺は振り向いて被害者である女性に手をかざす。


「ヒール」


 別に言葉にする必要はないが、口にした方がイメージしやすく効果が増す。という事もなく、ただ単にカッコいいから言っているだけだ。


 急に痛みが引き、傷が治るのを見て、女性は驚いた表情を浮かべる。そして、何事もなかったように立ち上がった女性を見て、周囲の人達が驚く。


 女性は周囲を気にした様子もなく、辺りをきょろきょろと見回しており、何かを探しているようだ。


 きっと俺だろう。


 いいんですよ、俺に惚れても。


 姿見えてないだろうけどね。


 ふふんと調子に乗っていると、被害者の女性から香水の匂いが漂って来る。子供にはない大人の匂いだ。

 姿が見えないのをいいことに、クンクンと香水の匂いを嗅いでいると、鼻腔がくすぐられて生理現象を起こってしまう。


「へ、へ、ヘッキショイン!?ーあっ?」


「ぎゃあーーー!?」


 後ろから汚い悲鳴が聞こえてくる。


 振り返った道の先、ひったくり犯の周りには人が集まっているのに、何故か両者の間には距離が出来ていた。


 ひったくり犯は座り込んで、上半身だけが暴れ回っている。周囲の人は何が起こったのか分からずに、ひったくり犯から距離を取って地面に広がる赤い液体を避けていた。



 ヘイ、君には何が起こったのか分かるかい?


 ヒャハッ!もちろん簡単なことさ、くしゃみでサイコキネシスの制御をミスしたんだろ、誰だって思いつくことさ!?


 ハハッ!ああ確かにその通りだ。おかげで犯人の足はすり潰されてるぜ!


 ハハハハハッ!!  ヒャハハハッ!!


「やっちまったー!?」


 頭の中大パニック。

 自分がしでかした事を理解すると、焦りからジャミングが解除される。だが、そんなこと気にする余裕はなく、空を飛んで犯人の元に駆けつける。


 被害者の女性は、突然現れた仮面の不審者に驚いているが、構っている暇はない。


 犯人達の元に到着すると一人は泣き叫び、一人は小刻みに痙攣していた。

 傷口を見ると、そこには本来あるべきものが無くなっており、身長がかなり低くなっているように見える。


「くっ!なんて酷い、誰がこんなことを!?」


 余りにも酷すぎる所業に強い怒りが込み上げてくる。


 まったく誰がやったんだ!?

 犯人にも人権があるんだぞ!

 えっ?お前がやったんだろって?知らないな〜彼らは事故に遭ってこうなったんだよ、事故だよ事ー故。


「待っていろ直ぐに治してやる。ヒール!」


 手をかざしてヒーリングで犯人達の傷を癒やしていく。まるで逆再生されているように元通りになる足を見て、ほっと息を吐き出す。


 治療は直ぐに終わったが、犯人の内の一人は気を失っている。もう一人の方は何が起こったのか理解出来ていないのか、自分の足と俺を交互に見て混乱している。


「安心しろ、怪我は既に治している」


 感謝しろよ馬鹿野郎。


「あ、ああ、あんたは誰だ?」


 おい、先にお礼を言いなさいよまったく〜。

 まあいい、こんなことする奴らに礼儀を求めるのは無駄なことだろう。


「ふっ俺か?俺に言っているのか?いいだろう、答えてやろう。 俺の名はスカーフェイス‼︎ 悪を滅ぼす正義の味方だ!!」


 きゃー言っちゃったーっ!?


 俺の名乗りを聞いて、ひったくり犯は驚いて呆然としている。それは周囲の人も同じようで、スマホを操作する指を止めて驚いていた。


 いいんだよ、シャッターチャンスだよ。SNSで呟いていいんだよ。拡散ヨロ。


「……ダッサ」


 ひとり気持ち良くなっていると、何処からか水を差す言葉が聞こえてきた。

 その言葉を発したのは目の前のひったくり犯で、それに呼応するように、周囲からも声が上がり出す。


「やばっダサすぎ」

「確かにダサいな」

「えっ何かの撮影?」

「スカーフェイスは無いわー。センスゼロ振り切ってマイナスじゃね」

「あの仮面ってド○キで売ってるやつだよね、斜めの傷って自分で入れたのか?厨二乙っ!?」

「あいたたたーっ、古傷が傷むよ」


 散々な言われようである。

 中には、古傷が抉られたような顔をしている人までいる。


 ……ふぅ、とりあえず。


「天誅!!卑劣な引ったくり犯め!このスカーフェイスの手から逃れることなど出来ん!?」


 助けてやったにも関わらず、俺の事をダッサと言うクソ野郎にチョップで制裁を下し、ジャミングを使い姿を認識出来ないようにすると、すかさずトウッと空を飛んでその場から離れた。


 あっ逃げた!

 スカーフェイスが逃げたぞ!

 ……やっぱり恥ずかしくかったんやな。


 下で野次馬が五月蝿いが相手なんてしていられない。だって俺は忙しいから!


 別に逃げた訳じゃない、恥ずかしかった訳でもない、ただシャイな俺の気持ちが耐えられなかっただけだ。


 きゃー恥ずかしいー!?


 仮面の下で赤面しながら、俺は夜の街を後にした。


 こうしてスカーフェイスのデビュー戦は幕を閉じたのだった。




 翌朝、テレビのニュース番組で怪しい仮面の変質者が現れたと報道されていた。


 変質者がこの街にもいるのか、夏だからな、暑さで頭をやられてしまったのかもしれないな。


「いやね、最近変なのばっかり増えているわ。この人、仮面なんて被って恥ずかしくないのかしら。あら英雄、そんなに汗かいてどうしたの?」


「何でもないよ、ちょっとテストが不安なだけさ」


「あんた大丈夫なの?最近成績上がって来たんだから頑張りなさいよ!」


「大丈夫さ母さん、俺の心は鋼で出来てるからね」


 母の心配に大丈夫だと告げると、母は何を言っているのか分からないといった顔をしていた。


 テレビは仮面を着けた変質者が現れたと報道しているが、超能力についての報道は一切されていなかった。あれだけの人の前で、怪我した足を治したにも関わらずだ。

 目撃者は何も語らないのだろうか、もしかしたらSNSで囁かれているかもしれないが、スマホを持っていない俺には分からなかった。


 学校では、テスト期間中だというのにスカーフェイス登場の話題で持ちきりとなっていた。


「かっこ悪」

「ダサいね」

「恥ずかしくないのかな」

「変質者らしいよ」

「厨二病ってここまできついんだな」

「街で見かけたら速攻で逃げ出すわ」


 などなど、スカーフェイスに対する賞賛の声が多数を占めていた。


「英雄どうしたの?お腹痛いの?」


「何でもないよ、少し情緒が不安定になってるだけさ」


「いや、全然大丈夫じゃないよ!?精神に異常きたしてんじゃん!?」


「大丈夫さ和希、俺の精神はすでに暴走寸前だ」


 友人である和希の心配に大丈夫と告げると、和希は何故か急いで先生を呼びに行った。そして周囲のクラスメイトは、俺から距離を取り出した。

 ふっ心配性な奴らだ。情緒が壊れたからって死ぬわけでもないのに。


 その後、俺は別の教室に連れて行かれて、ひとりでテストを受ける事になった。




 

 期末テストも終わり、中学最後の夏休みに突入してから数日が経った。


 俺は日々、受験生として勉強に励む傍ら、スカーフェイスという正義のヒーローを続けていた。勉強とヒーローの両立は中々に難しく、ヒーロー活動は一週間に七回と制限をかけている。


 そして今日は、地域振興の花火大会が開催される日である。


 花火大会は大々的に開催され、遠方からわざわざ来る人がいる程の規模となっている。

 俺もそれに参加するため、友達と待ち合わせして会場に向かった。道中にはカップルや男女のグループが沢山おり、野郎だけの俺達に殺意を抱かせた。


 やるな貴様ら、とりあえず殴らせろ!?


 震える拳を締まって会場に到着すると、そこには花火大会に参加するであろう大勢の客が人だかりを作っており、動くのも大変そうだった。


 今からこの人の波に加わるのかと思うと、少し気が滅入った。


 できるだけ女子率高めの所に入ろうとタイミングを計っていると、後ろからの人混みに押されて、ムキムキなお兄さん達のいる波に乗っかってしまった。


「まじかよおい!お前ら無事か?」

「俺は大丈夫だ。筋肉が押し寄せて来るが俺だって負けていない!」

「ちょっと無理ぽ、オエッ男臭い」

「待って、やり直させて!お姉さんのいる波に乗せてくれ!?」

「無理無理、気持ち悪い、筋肉気持ち悪い」

「オメーもマッチョだろうが!?我慢しろ!」

「ちょっ!俺の頭触ったの誰だ!?あっまた!やめ、やめて、触らないで!?」


 みんな大丈夫そうで良かった。

 因みに気分が悪くなっているのは、バリバリ運動部の二人だ。自分の体格を棚上げしての発言である。周囲もお前らの事をそう思っているぞと言ってあげたい。


 男の荒波に揉まれた俺達は、無事に会場である河川敷近くにたどり着いた。道には屋台が立ち並び、お祭り独特の活気が満ちていた。

 かき氷に綿飴、たこ焼きに焼きそば、当たりが入っているか怪しいクジなど様々な屋台が客が来るのを待っている。


 俺のお小遣いは月3000円、この日とために二か月間貯めていた。つまり、現在の軍資金は6000円である。


 今日は沢山食べるぞ!


「あれ?英雄の頭真っ赤じゃね?」

「日焼けでもしたの?」

「ばっか、さっき周りから触られてたんだよ。見て見ぬふりしてやれよ」


 横が五月蝿いが気にしない、ストレスは食べて発散するんだー。


 お祭り価格のお高めの商品を買い食いして、花火打ち上げまでの時間を潰していると、友達のひとりが同級生が近くにいることに気がついた。


「あれって火野じゃね?」

「あっ本当だ、小鳩さんと大空さんも一緒じゃん」

「おいおい火野って美玲さんと付き合ってるんじゃないのか?どうして二人といるんだよ」

「知らないよ、あれじゃないハーレム作ろうとしてるんじゃない」

「許せないな」「許せないね」「やろうか?」「やっちゃおう」


 いきなり殺気立つ友達に俺は困惑した。

 そして、俺はひとつ気になった事を質問してみた。


「ねえねえ、火野って誰?」


 小鳩さんと大空さんは知っている。俺の頭を叩いた女子と俺を危ない奴認定した女子だ。


「……はっ?」


「お前まじで言ってんの?面白くねーんだけど」


「待って、英雄の事だから本当に分かってないかもしれないよ」


「いやいや、二年で一緒のクラスだったんだから覚えてるでしょう!?……マジ?」


 真顔で頷くと、本当に覚えていない事が分かったのか、今度は友達が困惑した。


 曰く、火野勇輝は転校生で、中学二年の二学期に来たという。陰のあるイケメンで、勉強や運動もでき女子からすごくモテるらしい。

 ただ、本人は女子との会話が苦手らしく、あまり相手にはしていないらしいが、それでも男子からしたら面白くないわけで、仲の良い友達は少ないらしい。

 あと、噂では学年一の美少女である伊集院美玲と付き合っているらしい。


 その説明をふーんと聞いていると、転校して来たときは俺の隣の席だったんだよと言われて、俺は思い出した。

 そしてマジで驚いた。


 まさか、名前を覚えないって決めたが、存在そのものを忘れるとは思わなかった。


 俺の頭は大丈夫かと、自分で自分が心配になった。


 そうこう話しているうちに三人の姿は消えており、俺達は再び屋台巡りに戻って行った。


 命拾いしたな転校生、次はないからな!



 夜空に花が咲く、一瞬の煌めきで散る花は、人の目を楽しませては新たな花が咲き乱れる。


 ドンドンと音を立てながら打ち上げられる花火大会、夏の風物詩が始まった。


 会場の河川敷から少し離れた高台の絶景スポットは、人がごった返しており、その中で俺達は静かに花火を見ていた。

 普段は五月蝿い連中も、何か凄い物を見る時は大人しくなる。


 スマホがあれば記念撮影していたんだろうけど、俺達は全員、高校までは買わないと親から宣言された者同士である。

 思い出作りの花火大会は、記憶の中にしっかりと残しておこうと思う。


 そう思っていたのだが、目の端にいらんもんが写ってしまった。


 近くの道を走って行く転校生の火野と、俺を危ない認定した大空さんが見えたのだ。

 只事ではない何かが起きたのだろうか、ふたりは焦った表情をしている。


 そして気付いた。

 ひとり減っている事に。


 小鳩さんがいない、先に帰った可能性もあるが何か違う気がする。


 これは事件の臭いか。


「ごめんちょっとトイレ行って来る!食い過ぎて腹が痛いわ」


「おう早く戻ってこいよー」


 そう言って、トイレに行くふりをして会場を後にする。


 そしてジャミングを使い姿を認識できなくすると、懐からパーカーと仮面を取り出して装着する。


 さあ、正義のヒーローの出動だ。




 花火が遠くで上がるのが見える。

 さっきまでは目一杯に映るほど近かったのに、ここは花火上がっているなと分かる程度だ。


 場所は変わって廃墟となったボーリング場に来ていた。

 ここは数年前に経営不振に陥り、そのまま潰れたボーリング場だ。幼少期に家族で遊びに来たのを覚えている。その思い出の場所も、時代の流れと共に消えて行くのだと思うと哀愁が漂う。

 その廃墟も今では不良の溜まり場になっており、わざわざ照明器具まで持ち込まれている。


「来たか、お前ら準備しておけ」


 柄の悪い男が手下に指示を出す。

 男は線が細くとても強そうには見えないが、体格の良い半グレの手下を顎で使っている。

 夏だというのに革ジャンを羽織っており、薄暗いのにサングラスを掛けている。髪を金髪に染めているが、線の細さも相まってまったく似合っていない。


 手下の男達は不満そうな顔をするが、渋々といった感じで鉄パイプやバットなど手に武器を持つ。


 そしてボーリング場の片隅、俺が立っている足元に小鳩さんが口と手を縛られて転がされていた。


 直ぐに助けてやってもいいが、どうしてこうなっているのか状況が分からずに手を出すと、後々悪い方に影響する恐れがある。現状を把握してから対処すべきだ。助けるのは、それからでも遅くはないだろう。


 手下のひとりが小鳩さんを小脇に抱えて連れて行く。

 小鳩さんも足をバタつかせて抵抗するが、如何せん体格差があり過ぎてびくともしない。


 小鳩さんはこの集団のボスであろう柄の悪い男の元に連れ、猿轡を外されて喋れるようになった。


「どういうつもり?こんな事やっても、あなた達の仲間になんてならないわよ」


「ふん、仲間にならないなら潰すまでだ。まあ、そうはならないだろうがな」


「どういうこと?」


「何も手段はひとつじゃないってことさ、来たな」


 ボーリング場の入り口から火野と大空さんが入って来るのが見えた。


 案外遅かったな。


 俺はふたりの跡をつける途中で、走りながら会話をする内容を聞いて先回りしたのだが、ふたりの速さからするともう少し早く着いてもおかしくなかったはずだ。


「よく来たな火野、どうだ俺達の仲間になる気になったか?」


「ふざけるな!はやく千由里を解放しろ!」


「口の利き方がなってないな、こっちには人質がいるんだぞ、状況をわきまえろよ。やれ」


 柄の悪い男は手下に指示を出して、ふたりを襲わせる。


 ふたりの中学生に対して十人以上の半グレが武器を持って襲い掛かる。とてもではないが、ただの中学生が太刀打ち出来る相手ではない。


 ここは助けるべきだろう。そう思って力を行使しようとすると、ふたりが驚くべき行動を取った。


「邪魔するなら容赦しないぞ!?」


「覚悟することね!」


 半グレ集団に立ち向かったのだ。

 そして火野は拳を突き出すと炎が噴き出して、半グレ数人を巻き込んだ。


「…は?」


 大空さんは空中に浮かぶと、もの凄い勢いで加速して半グレを蹴り飛ばして行く。


「…え?」


 半グレの集団は瞬く間に数を減らしていき、最後には柄の悪い男と小鳩さんを捕まえているひとりを残して全滅した。


「お前ら俺の話聞いてたか!?人質取ってんだよ、何さも当然ですって反抗してんだよ!」


 柄の悪い男は焦ったようにふたりの行動を非難する。まさか、人質の安全を無視して反撃されるとは思っていなかったのだろう。


「なめるなよ、千由里はそんな簡単にやられる女じゃないぞ」


「何っ!?」


 火野の言葉に反応して、この場にいる皆が捕まっている小鳩さんに注目する。

 しかし、小鳩さんはフルフルと首を振って出来るわけないだろうがと主張した。


 どうやら彼女は、ふたりと違って非力なようだ。


「驚かせやがって。まあいい、雑魚が何人やられようが関係ない。今度は俺様が、風間風馬(かざまふうま)様が相手してやる」


 柄の悪い男である風間は前に出ると、室内だというのに風が流れ出すと徐々に勢いを増し、風間を中心につむじ風のように集まっていく。


 こいつも超能力者か。

 ボーリング場の隅で英雄は、憎しみのこもった目でこの場にいる超能力者を観察していた。


 火野の炎と大空さんの自由自在な肉弾戦、対するは風間の風。

 字面だけ見れば前者が圧倒的に有利に見えるが、現実はそうなってはいなかった。


「はははっどうしたどうした!?さっきまでの勢いはどこ行っちまったんだ〜!?」


 風間は巧みに風を操り、火野の炎を遮断し、大空さんをまったく寄せ付けずに吹き飛ばしていた。


「まだまだ!」


 火野は一点突破より手数で押す作戦に切り替えたのか、多くの炎球が作り出し、風間を囲うようにして一斉に襲わせる。

 着弾と同時に爆発が起こり、煙が立ち込めると互いの姿が見えなくなる。

 やったかと淡い期待を抱くが、これが死亡フラグだと気付いて、いつでも風間の攻撃に対処出来るように構える。


 そして予測していた通り、無傷の風間が風で煙を晴らして姿を現した。


 そこに背後に回っていた大空さんが奇襲の蹴りを放つが、それも読まれていたようで、掬い上げられるようにして天井に叩きつけられる。


「やるじゃないか、どうだ俺達の仲間になる気になったか?」


「ふざけるな、お前らのような犯罪者の仲間になんて誰がなるか!」


「おいおい酷いな、俺達は能力がある奴が社会の上に立つ世の中を目指しているだけだ。犯罪なんてやった覚えはないぜ」


「黙れ!千由里を誘拐してるだろうが、街で暴れている仮面の変質者も貴様らの仲間だろう!?」


「あいつはちげーよ、一緒にするな!?あいつに潰された凌ぎが幾つもあんだよ、邪魔する奴らは全員潰す。例えお前達でもなぁ!!」


 そう言ってヒートアップして行き、更に激しく激突していく。





 俺は考えていた。

 何故、奴らが超能力を使えるのかを。

 超能力を使えるようになるには、相応の対価が必要なはずだ。

 俺は何万、何十万という沢山のもの(髪の毛)を失って、この力を手にした。

 それがどうだ。奴らに何か代償を、あるいは対価を支払った形跡はあるか?


 いや無い。


 これはどういう事だ?


 俺はある意味、青春という名の人生で大事な時期を対価にしているのに、奴らは女を侍らせ、超能力を良いように使って良い思いをしているみたいじゃないか。


 こんな事、許せるのか?


 否


「誰が許すかボケがーーーーッ!?!?!?」


 俺は怒りのあまり、ジャミングを解除してしまい姿を表す。

 だが、そんな事はどうでもいい。

 奴らを潰すのが先だ。







 戦いは佳境を迎えており、風間がふたりの超能力者を相手に圧倒しており、火野と大空は絶体絶命のピンチになっていた。

 そこに突如として現れた仮面の男に、その場にいた全員が驚いた。


 戦いを繰り広げている中心地に、まるで初めからそこにいるように立っていたのだ。


 異様。

 その一言に尽きる仮面の男が、いま巷で話題になっているスカーフェイスだと最初に気付いたのは風間だった。


「テメーッ何しに来やがった!?」


 風間の問いを無視して、スカーフェイスは囚われの身となっている小鳩に向けて手を伸ばす。

 すると、小鳩を捕まえていた男の手が強制的に開けられ、もう片方のナイフを持っていた手は捻れて関節が決まり、持っていたナイフを落とす。


 そしてデコピンのように指を弾くと、男は吹き飛びそのまま気を失った。


「あっありがとう」


 小鳩からお礼を言われるが、スカーフェイスはそれも無視して今度は風間に向き直る。


「貴様はどうやって超能力が使えるようになった?」


「…は?」


「どうやって力が使えるようになったのかと聞いているんだ。痛い目みる前に答えろ」


「なんだよテメーは、いきなり乱入して来たかと思えば、勝手なこと言いやがってよ。聞きたい事があるなら力強くで来いや!テメーにできるならなぁ!?」


 風間が言い終わると同時に、無数の風の刃がスカーフェイス目掛けて飛来する。

 空間を切り裂いて迫る風の刃を受ければ、体は細切され原型を止める事はできないだろう。


 その風の刃を目の前にしてもスカーフェイスは動じることはなく、ただ手を振るだけだった。

 そして、それだけで十分であった。


「なにぃ!?」


 風の刃はスカーフェイスにたどり着く前に全て消えたのだ。


 今までにない現象に、風間は驚きを隠せなかった。

 自分が持つ攻撃手段の中でも、最速で威力も上位の攻撃が消えたのだ。自信があった。これで、簡単に奴を仕留める自信が。

 それが通じない。


 この時に風間は恐怖を覚えた。


「力強くで来いと言ったな?」


「っ!?」


「そうさせてもらおうか」


「うわぁぁぁーーー!?!?」


 スカーフェイスから発される圧力が死を連想させる。


 敵わない。


 そう本能で感じ取った風間は、スカーフェイスを少しでも遠ざけようと、全身全霊の力を込めて竜巻を作り出す。


 竜巻により照明は巻き込まれ、屋根は全て吹き飛び、倒れている半グレ達は、なす術もなく飲み込まれて行く。そしてそれはスカーフェイスと、その背後にいた火野、大空、小鳩の三人も同様だった。


 自然災害。

 人の力では抗うこと敵わず、只々、身を潜めて過ぎるのを待つしかない。生身で立ち向かえば、その命は容易く飲み込まれる。


 そんな竜巻を発生させた風間は、肩で息をして満身創痍になっていた。それでも、恐怖の根源が目の前から去った事に安堵する。


「はぁはぁはぁ…ははっなんだ大した事ないじゃん」


 照明が無くなり、月明かりだけが照らす廃墟でひとり呟く。

 誰もいない、全て風間の力で吹き飛ばしたのだ。

 いるはずがない。


 そう思っていた。


「もう終わりか、では次は俺が力を示そう」


「な!?」


 暗闇の中から聞こえてくる声に、咄嗟に反応するよりも前に風間は身動きが取れなくなった。

 指一本動かせない体、声も出せないが、唯一眼球だけが動かす事ができた。


 眼を動かして暗闇に向けると、そこにはスカーフェイスが無傷の状態で立っていた。

 それだけではない、スカーフェイスと一緒に吹き飛ばしたはずの三人、それに見捨てたはずの半グレ達もそこにいた。


 どうやって、そう疑問に思うが、腹部に走る衝撃に考えを強制的に中断させられた。


 いつの間にか接近していたスカーフェイスの拳が風間の腹に突き刺さっていた。


 強烈な痛みに身を埋めたいが、どういう力なのか少しも身動きが取れない。超能力を使おうにも、何かに邪魔されて発動しなくなっていた。


 何も出来ない恐怖と痛みに風間の心は折れかけていた。


 だが、それでもスカーフェイスの追撃は続く。


 腹部から始まった殴打は、一瞬で風間の全身を打ち抜き、骨を粉砕して瀕死の状態に追い込んだ。


「あっ、やりすぎた」


 遠ざかる意識の中で風間はそう聞こえた。と思えば全身を暖かい空間が包み込み、意識を急浮上させる。


「!?」


 緑の光に体の傷は全て治され、ついでに持病だった痔も治療されていた。

 治療が終わると頭だけが動かせるようになり、喉元から迫り上がってきた血を吐き出す。


「がっは、はぁはぁはぁ、どういう事だ。力はひとりにひとっ!?」


 言い終わるよりも早く、今度は地面に叩き付けられた。

 スカーフェイスは動いていない。だが、これもスカーフェイスの力であるのは間違いないだろう。


 攻撃は更に続く。

 風間の体が宙に浮かび、壁と地面に勢い良く叩きつけられる。何度も何度も執拗に続けられるそれは、治ったはずの体を更なる粉砕して行く。


 そして意識を失い死の一歩手前で治療を施されると、強制的に意識を戻された。


 恐怖に引き攣る顔でスカーフェイスに目を向けると、その反応が気に食わなかったのか、スカーフェイスはもう一度風間を痛めつけようとする。


「待て、待ってくれ!!何でもするからもう止めてくれ!?」


 必死の懇願にスカーフェイスも動きを止める。


「何だってする。金か!?金が欲しいなら幾らでも用意する!女だって連れて来る!そいつらからも手を引く!頼む見逃してくれ」


 チャンスと思ったのか、風間は一気に捲し立てる。

 だがそれは、スカーフェイスにとってどうでもいい事であり、興味を抱くものではなかった。


 更に言うと、風間に聞きたかった事は既に読み取っており、こいつには地獄を見せる必要があると判断したのだ。


「下らないな。貴様のような小物を相手をしていると思うと、自分が嫌になる。

 だが、それも次の一撃で終わりにしよう」


 掌に膨大なエネルギーが収束して行く。

 目に見えないはずのエネルギーは、その濃密さゆえに空間を歪め、バチバチと音を鳴らして今にも弾けようとしていた。


 その膨大なエネルギーを感じた風間は、あまりの恐ろしさに失神して意識を飛ばしそうになる。後方の三人も体の震えを止める事が出来なかった。


 ゆっくりとした動作で、膨大なエネルギーの塊である掌て風間に触れる。


 一拍の間を置いて、風間の体が強い光を放つと、少しづつ崩壊を始めた。


 指先から砂のようにポロポロと崩れ落ちていき、腕、足、頭、次々に部位を無くしてこぼれ落ちる。

 そして風間という存在が、この世から無くなろうとした時、まるで逆再生するかのように、風間の体が元に戻っていく。


 まるで現実感のない現象に三人は理解が追い付かず、呆然としていた。


 元に戻った風間は意識を失っており、拘束していた力が消え、その場に倒れる。


 風間の姿は、髪が無くなっているという一点を除いて、以前と変わりはなく無傷の状態になっていた。

 その一点に何かしらの意味がありそうだが、あれだけの力を受けたのだ副作用があっても仕方ない。命がある、それだけで良いじゃないか。


 深く突っ込んではいけない、命が欲しかったらな。


 スカーフェイスは風間への興味を無くし、火野達がいる方へ向き直ると、ゆっくりとした歩調で近付いて行く。



 火野達は判断出来ないでいた。

 スカーフェイスは敵なのか味方なのか。


 風間を倒したのだから味方だと思いたい、だが今向けられている敵意はそれを否定する。


 自分達がどれだけ頑張っても、傷一つ付けることの出来なかった風間を圧倒的な力で倒してしまう。それも、人の所業とは思えないほど残虐にだ。


 それが自分達に向けられると思うと、恐怖で発狂しそうになる。


 逃げるべきかと頭に浮かぶが、それを判断するには遅すぎた。


「次はお前達だ。俺の質問に答えろ」


 怒りの篭った言葉が空気を振るわせる。


 返答を間違えれば風間の二の舞になる恐怖に身がすくむ。

 だがそんな中で火野は別のことを考えていた。


 どうやったらこの危機から脱せるか。

 どうやったら友人二人を逃がせるか。

 どうしよもない俺を救ってくれた友人を救えるのか。

 ふたりが傷付くのは嫌だ。必ず無傷で家に帰す。


 スカーフェイスが次の言葉を発するまでの短い間で、火野は覚悟を決めた。


「お前らはどう「うおぉぉーー!!」を手に入れた?」


 火野はスカーフェイスを言葉を遮り、自分の限界を超えた力を行使しようとしていた。


 その影響で気温が一気に上昇し、ただでさえ暑い夏の夜を茹だるような暑さに変える。

 火野の前には炎球が生まれ、赤い炎は熱を上げて青へと変化して行く。


 蒼炎球。


 絶望的な状況から友人を救いたいという思いにより覚醒した力は、逆境を跳ね除け、絶望を焼き尽くす炎となってここに顕現した。


「くらえーーー!?」


 絶望の中に希望があるとすれば、それはこの炎のように全てを焼き尽くすように荒々しくも優しい力なのかもしれない。


 蒼炎球はスカーフェイスという名の絶望を焼き払うためにに放たれた。


 瞬きする間に目標へと到達した蒼炎球は、


 ペチンッという音と共に上空へと打ち上げられ、それはもう盛大に爆発した。


「……そんな」


 手をふるふると振っているスカーフェイスを見て、圧倒的な力差を理解する。

 限界を超えた力を使った火野はその場に倒れ込むと、動くこともままならなくなっていた。


 火野に向かって手が伸びる。

 風間の惨状を作り出したその手は、まるで死神の誘いのようにも見え、自らの死を連想する。


 全てを出し切り、動くこともできず、迫る脅威を目の前にして心に絶望が宿る。

 だがその絶望から救い出すように、小さな体で火野の前に立つ存在がいた。


「待って!」


 小鳩千由里。クラスの中でも一際小柄な少女が、友人を助けるために必死の思いでスカーフェイスの前に立っていた。


「私は…私は…私は…」


 仲間を思う気持ちに打たれたのか、スカーフェイスは動きを止める。

 小鳩が何を言うのか待っているようだ。

 だが小鳩の言葉は続かない、まるで次の言葉が痛みを伴うかのように苦しい表情をしている。必死なのだろう、唇を噛み苦しそうに言葉を紡いだ。


「私は身長を犠牲にしました」


 友人の突然の宣言に、火野と大空は急に何を言い出すのかと目を丸くした。


 だが、それを聞いたスカーフェイスから微かだが、動揺する気配があった。


「そうか…やはりお前も力が使えるのだな…。

 次だ、お前はどうだ?」


「えっ私?」「夏美はっ!夏美は胸を失いました!?」


「ちょっと何言っー!?」


 小鳩は大空夏美の代わりにスカーフェイスの質問に答えると、何か言いたそうな大空の口を手で押さえてしーっと黙るように促した。


 だが、そんなあからさまな挙動をスカーフェイスが見逃すはずも「胸か〜」あった。


 スカーフェイスにとって胸の大小は重要なものなようで、大切なものを失った大空のことを、可愛そうにと仮面の下で暖かい目を向けていた。


 その態度が伝わったのか、大空はイラついた。


「じゃあお前は?」


 最後に火野に問いかける。

 だが、スカーフェイスの邪魔をした火野には、質問の内容が分からなかった。

 だからか、再び小鳩が代わりに答える。


「勇輝は家と……家族を…」


「……そうか」


 小鳩の深刻そうな態度に加えて、家、家族と聞いたときの火野は苦しそうな表情は、その理由の真実味を増していた。


 三人の回答を聞いて、スカーフェイスは手を下ろす。

 スカーフェイスから発せられていた敵意が霧散し、張り詰めていた空気が弛緩する。

 危機を乗り越え安堵するが、目の前の絶対強者から視線を外せないでいた。


「…もしも、罪の無い人に悪意を持って力を使えば、俺はお前達を断罪するために現れる。

 忘れるな、常にお前達を見ているぞ」


 スカーフェイスが言い終わると、突然風が吹き荒れ視線を外してしまう。

 そして次に目を向けると、そこにはもう誰もいなかった。







 やる事を終えた英雄は上空に浮かんで、三人の様子を見ていた。


 小鳩がヒーリングの能力を使い、怪我をしているふたりの治療を行なっている。

 三人は何か話しているようだが、内容までは聞き取れない。


 ボーリング場に続く道の先から、沢山の赤く点滅する警察車両が向かって来る。廃墟の天井が吹き飛び、上空で大爆発したのだ。騒ぎになるのは当たり前だろう。


 今回は、自分の視野の狭さを痛感する出来事だった。


 これまでは、超能力の代償は髪の毛だと勝手に思い込んでいたが、三人の話を聞く限り人それぞれ違うようだ。


 身体的なものから周囲の存在まで様々である。


 身長や胸は本人のことだから仕方ないかもしれないが、火野のように家や家族を犠牲にしては、後悔してもしたりないだろう。


 罪深い力だが、超能力は突然使えるようになり、その代償も選ぶことは出来ない。

 それは俺が一番痛感しているし、もし選べるならもっと別のものにしていた。

 

 超能力に代償は付きもの。


 しかし、例外もいるようだ。


 風間だ。奴を殴ったついでにサイコメトリーして過去を覗き見たが、それはもう胸糞悪いものだった。


 奴は元々、半グレの下っ端でパシリ的ポジションだったが、超能力を手にしたことでトップまで上り詰めた。そこからあらゆる犯罪を行なっていたが、その手口が自分の手を汚さずに、全て手下にやらせるというクズっぷりだった。

 超能力も朝目が覚めると使えるようになっており、代償を支払った形跡はない。


 半年前に超能力者の犯罪者組織に勧誘されて入っており、ここには勢力拡大のために人員の勧誘に来たようだ。


 誘いに乗らない能力者は、拉致して仲間の洗脳系能力者の力によって強制的に仲間に加えるようだ。


 何とも恐ろしい犯罪組織である。


 風間に地獄を見せた後で、超能力をどうやって使えないようにするか考えた末に一つ手段を思いついた。

 失敗してもこいつの命が無いだけだから別にいっかと思いやってみたが、思いのほか上手くいって良かった。


 なんだかんだ言っても俺自身、人の命を奪う覚悟は出来ていない。

 例えそれがクソ野郎でもだ。


 俺が風間にやった事は、超能力が使える前の状態に戻すこと。そして、今後使えないようにする事だ。


 サイコメトリーで見た奴の姿を想像して、発も…修行で手に入れた新たな力、原子単位で物質を操るアトムコントロールで一度分解して、ヒーリングを使って再構築した。


 髪の毛喪失という副作用はあったが、概ね成功である。


 別に悪意はない。あくまで副作用だ。



 警察が廃墟に到着すると、火野達三人を保護し、風間以下半グレ集団は警察が逮捕し連行される。


 これで今回の出来事は終わり、俺も花火大会に戻る。


 遠くでは、一際大きな花火が上がり夏の夜空を彩っていた。

ONE先生の作品って面白いよね。

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