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求婚の返事

アレックス視点のお話です。短めです。

自分用にと用意された書斎で机に向かいながら俺は領地の運営に関する資料を見ていた。

今はまだ父上が健在だから直接的に決済などを行うことはない。しかしいずれは爵位を継いで領地を管理していかないといけないためいつまでも頼るわけにはいかない。


その時の為に幼いころから厳しい教育を受け必死に勉強してきたが、覚えることはまだまだある。まだまだあるというのに、今日は全然集中できず何度目かのため息を吐いた。

理由は明白。今日とうとう彼女に想いを打ち明けたからだ。彼女は魂の抜けたような顔をしていたが、あんぐりと口を開けてポカンとしている彼女の表情すら可愛いと思えてしまう俺は相当のものだろう。まあでも、ほとんど()()()()()()()()()()()()()()俺にパートナーに誘われた上求婚までされたのだ。あの表情も無理からぬことだろう。


それでもあのタイミングを逃すわけにはいかなかった。あらゆる名家から引く手あまたの彼女が、学園に在籍中は婚約者を作らないというのは有名な話だった。

その理由が自分の魔法を世のために役立てるため、治癒魔法を極めることに集中したいとは・・・優しい彼女らしいと思った。


何度も同じ資料を見ていることに気が付いて気分を変えようと立ち上がり身体を伸ばした。目を通さなければならない資料は山ほどあるのにまだ一割も終わっていない。自分はこんなに仕事ができない男だったかと思わず苦笑いがこぼれた。

ふと本棚に目をやると経営学や政治学などの難しい本の中に紛れた一冊の絵本。およそこの部屋に似つかわしくないその本を手に取るとそっと表紙を撫でた。


すり寄ってくる女は今までたくさんいたけれど、自分から想いを告げたのは初めてだった。外見や地位しか見ていない女たちなどに用はない。俺を俺として見てくれるのは彼女だけだ。

だからこそ俺も彼女の気持ちを尊重して卒業するまで待つことにした。父からは早く婚約しろとせっつかれ、望みもしない相手と婚約させられそうになった時には焦ったが。


ハルフウェート侯爵家のたしかナターシャといったか。確かに見目はいいかもしれないが気に入らない相手に対して陰で陰湿ないじめをすることで有名だった。全ての悪事は自分よりも身分の低い令嬢たちにさせ自らの手は決して汚さない。そのくせ猫なで声を出しながら純情そうな顔ですり寄ってくるその様は思い出しただけで吐き気がするほどだ。


嫌な記憶を振り払うように頭を振るとまた思考を彼女へと戻した。彼女は外面の美しさはさることながら内面はさらに美しい。それなのに周りの人間は彼女の外的価値(オプション)しか見ていない。

社交界デビューしてしまえば今の比ではないくらい、帝国とのつながりや彼女の才能に目が眩んだ輩が群がることだろう。もしかしたら他国からも望まない縁談が来ることもあるかもしれない。リンネイルに嫁いだ伯母上のように。


だからそうなる前に先手を打たなければと、彼女にとって断れない縁談であると知りながら求婚したのだ。それでも万が一にも断られることが無いよう考える時間を与えないために2日というあり得ないほど短い期限を設けた。


・・・・もしかしたら彼女にとって俺は欲に目が眩んだ他の男たちと同じように見えているかもしれない。でもそれでもかまわない、これからゆっくり如何に彼女を想っているかを伝えていけばいい。

1日が千年のように感じられ、落ち着かない気持ちのまま椅子に座り直し目の前の資料に目を通そうとした時、コンコンとノックの音がした。入室を許可すると執事がお手紙ですと何通かの手紙を差し出した。その中に何と彼女からの手紙があったのだ。


机の端に可愛らしい絵本が置いてあるのを見て執事は眉を上げていたが特に何も言ってくることは無かった。そんな執事の様子に気づきもしない俺は急いで手紙を広げた。

心臓が口から飛び出るのではないかと思うほど激しい動悸を感じながら内容を確認すると


『この度のお話、喜んでお受けいたします』


という内容のものが可愛らしい字で綴られており、天にも昇る気持ちになった。求婚したその日に了承の返事が来るということは彼女も少なからず俺に好意を持っていてくれるということだろうか。何より“喜んで”と書いてある。


「よしっっ!!!」


勝利を勝ち取ったスポーツ選手さながらに、手紙を握りしめたまま両手を天へと突きあげた。少しの間余韻に浸っていたがまだ大事な仕事が残っている。彼女の気持ちが変わらないうちにこの縁談をまとめてしまわなければ!そう思って書斎を飛び出し父のもとへと急いだ。


その様子に執事が変質者を見るような目で見つめていた。つい今しがたまで両手を挙げて喜びに浸っていた俺が突然部屋を飛び出して走り出したのだ、自分で考えても中々の奇行だと思う。でも今の俺はそんなことに気を取られている暇はない。


父の書斎のドアを慌ただしくノックし、ドアを開けるや否やモリスヴェイン伯爵家との縁談を至急進めて欲しいと願った。突然の話に父は困惑していたが必死に説き伏せると何とか了承してくれた。


了承の返事に舞い上がっていた俺は、彼女に伝えなければならない大事な話があるのをすっかり忘れてしまったのだった。

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