あなたと付き合ってメリットなしってあんまりだ!?
「あなたと付き合って私にどんなメリットがあるの?」
某夢の国のアトラクションが終わった後に言われた衝撃的な一言。
…今でも忘れない。
……大好きだった彼女。
いや、今は元カノに言われたこの言葉になるのか。
元カノか。元カノ…
「聞いてくれよ。金太郎! いや、キンちゃん」
「なんだ」
扉を開けるなり、大声で叫ぶ俺に筋骨逞しいガタイのオカッパ頭の男が振り返る。こいつの名前は佐々木金太郎。
顔は九州が誇る美形と言っても差し支えがないような男児だ。
だが…
「なぜか一向に女性に好かれないんだよな」
「おい、人の家に来るなり、喧嘩を売ってんのか?」
「違うわ。彼女に振られたんだよ! 俺は傷心なの!!」
「ああ、綾奈ちゃんか。ご愁傷様。まぁ、女性は星の数だけいるしな。切り替えていけよ」
嫌だ、嫌だ。彼女が生まれてから一度もできたことない奴の言葉ってなんでこんなにも薄っぺらいの? そんな簡単に割り切れるかよ。
「そんな簡単に切り替えられるかよ。お前にとっては女性ってさ。星なのかもしれないけどよ。俺には違うんだよ。リアルなの。それに星には手が届かないこと知っている? どんだけ、伸ばしても手が届かないのがお星様なの!」
「お、おう」
「だがら、お前には彼女ができないんだよ。星には手が届かないんだからよ!」
「ふっ、ロマンチストみたいなこと言いやがって。全く、お前はアホか。工学系男子の周りにロクな女がいないのにさ。この金太郎がわざわざ手を伸ばすきも起きないだけだ」
「彼女ができないだけの癖に」
「なんだ、更田目が付き合っている花子がいいと思うのか? 彼女と付き合いたいのか?」
あのエイリアンか? 顔が瓢箪みたいな。やめろよ。いくら、俺が工学系男子で、工学部で目が腐っているからってないわ。
「工学部の女性は魔窟の住人だ。いや、花子は瓢箪みたいな顔をしているから異世界の住人かもしれないな。だが、あれが美女に見えてしまうのが工学部マジックだろ?」
「確かにな」
俺は頷かざるを得なかった。だってさ、工学部マジックって、ただ単に工学部の男子の周りに女性がいなさすぎてさ。工学系男子の女性を見る目が腐っているだけだしな。どんな女の子も美女に見えてしまう。工学部にいると、そんな呪いにかかってしまうのだ。工学部マジックは恐ろしい。それに引き換えて、俺の彩奈ちゃんは…
「そんな中、彼女は舞い降りた一人の天使。そう、彩奈はマイスイートハニーなマイエンジェルだ」
「お前も立派な工学系男子だぞ」
「失礼な奴だな」
俺は金太郎の言葉に目を細め、睨んだ。ふざけんなよという気持ちを込めてな。
「まぁ、どんなこと言っても彩菜さんは元カノ。今は俺もお前も彼女いないけどな」
傷心の俺を慰めてくれないのかもう、ダメだ。
「さっきから、俺の心をエグるような事ばかり言いやがって、しかも、お前、こっちも見ないで、なんの作業しているんだよ。作業しながら俺の話を聞くなよ」
「情報系男子の妻はP Cとスマホだ。常に触ってないとな」
ふざけるなよ。俺がこんなにも傷心なのにP C、スマホごときにかまけるとは…
「睨むなよ。冗談は置いておいて、某国銀行が大砲をぶっ放しそうなんだよ。100万くらいFXにぶっ込んだんだよ」
「F X? ギャンブルはお母さん許しませんよ」
おもむろにそう言って俺は金太郎のP Cを閉じた。いや、閉じてやったのだ。
「ああ、P Cを閉じるなよ!! って、いつから、お前は俺の母親になったんだよ。って、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ。2円も変動している。俺のポジションが!?」
俺がとじたP Cを急いで開けた金太郎はこの世の終わりみたいな顔をしてそんなことをのたまってきた。いや、世界が終わりそうなのは俺の方だろ!!
「2円くらいで、うるさいぞ。お前はP Cから離れろよ」
「2円くらいだと! ふざけるなよ。儲け損なった!! 貴様の所為で、数十万の利益が!! って、いきなり、下がってる!?」
うるさい。本当にうるさいわ。俺は金太郎からP Cを奪い取って、電源を消した。
「なぜ、PCの電源を消すんだ!? ああ、ヤバイ、やばいよ」
まるで生まれたての子猫のように震える声で喚いたと思ったら、金太郎が急に
「お前の所為で損切りができなかっただろう」
と俺を睨んで、そう言ってきた。
「貴様を友として持った方が損だったわ。損切りしてやる!!」
「何をくだらない悩みを聞いてあげているこの優しくて力持ちの金太郎さんに向かって吐く言葉か?」
こんな何気ないやりとりをしながら、俺たちは大学生活を満喫した。俺の4年間は、金太郎と共にあったと言っても過言ではなかった。
でも、俺には…
卒業式典が終わり、各学科で卒業証書の配布が行われた。やっと解放されたと、男子学生たちが、騒めく中、
「もう、卒業か。これからどうする? 帰るか?」
と横から普段の赤ジャージとは異なり、赤いネクタイにダークブルーのスーツを着た金太郎から考え深げな声が漏れ聞こえてきた。
「早かったな。まだ、帰るわけにはいかないよ。まだ俺にこの学校にいる間にやりたいことがるんだ。最後に…」
俺が奴の目を見て、そういうと、
「わかっている。ふっ、振られたら、いつもの俺の家で待っているぞ。今日が最後だしな」
と理解しているよって言わんばかりににっと笑って、
「思い残すことないようにしろよ。もしもの時は帰りに俺の家に寄れ」
じゃあなっと言った後にマサカリを担ぐが如く、花束を担いでのしのしと言わんばかりの足音をさせて去っていった。格好をつけやがって…
「さてと、ここからが本番だ」
頬を叩き、俺は駆け出す。まだ、帰ってないはずだ。卒業証書の配布が終わったばかりだし、探せばいるはず。
俺が当たりを見回していると、すぐに彼女は見つかった。それもそうか。男子ばかりの子の学校で女性の袴姿は目立つ。後ろ姿でも俺にはわかる。俺は彼女を見つけるなり、すぐに近寄った。
でも、なんて声をかければいいんだろう。
卒業おめでとうかな。その格好は可愛いね。それとも、より戻さない。俺は頭の中で、グルグルと言葉が出ては消えてを繰り返した。でも、
「もう一度、付き合わないか?」
と綺麗な彼女を見て、とっさに口が動いてしまった。
「会うなり、いきなり、いうことがそれ? もっということあるでしょ」
そう、屈託なく笑った後に彼女は、でも勘違いさせちゃうとまずいから先に言っておくわねと断りを入れて、
「あなたと付き合ってメリットなし」
と言ってきた。
「1年生の時に付き合ってくれてありがとう。でも、私、卒業して別の県に行くのよ」
楽しかったわとそう言って去っていく綾奈。
卒業おめでとう、卒業おめでとうと呪文のように聞こえる教室。もう、ここから離れたくて仕方がなくなり、走り出した。走った、走った。息が切れるくらいに早く、そして話したかった誰かと。俺は金太郎のいる家に向かった。
突然の訪問にいつも通り、家でP Cを触る金太郎に安堵しながら、
「って、わけだよ。金ちゃん」
と言って今までにあったことを話す俺。
「卒業式だ。泣けよ。ついでに腹っ減ったから、いつもみたいに飯を作ってくれよ」
「おい、おい、俺の悲しみの話を聞いてくれよ」
「腹が満たされたらいくらでも聞いてやるよ。ほら、ほら、そこに材料があるから」
「餃子の皮、鶏ガラスープっておい、料理のリクエストあるじゃねぇかよ。お前も手伝えよ」
小籠包か。めんどくさい料理を要求しやがってよ。
「複雑な料理を作っている方が気分は紛れるだろ? 金太郎様の優しい心遣いだ」
「ただ単に食べたいだけの癖に。この野郎」
異世界転生もない平凡な俺の人生。ただ、元カノにあなたと付き合ってメリットなしと言われた俺は…
悲しみを堪え、頬からつたわる滴。それでも、俺は淡々と小籠包を作る。
大学から入学して日常となったこの場所で、金ちゃんと共に…




